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シャーマンキング @

― 第一廻 幽霊と踊る男 ―


さまよえる死者の魂
大地の森に息衝く精霊
そして神仏―
これらと自由に交流し
人間ではなしえぬ力をこの世に行使する者達がいる

彼らは
シャーマンと呼ばれた



夜道を走る一人の少年…
幼稚園生ほどの身長の…オカッパ頭の…実は中学生。
タッタッタッタ…
「はっはっ…はあはあ…くそっ!!
塾のせいですっかり遅くなっちゃったじゃないか!
これじゃ終電に間に合わないよ、もう…」
腕時計に落とした目を、ふと横にやると、
墓地への入り口の封鎖された門がある。
「ん?そうだ!たしかこの墓…!
まっすぐ突き抜ければ駅まで近道だったはずだ!
ちょっとヤなカンジだけど、こうなったら行くしかないからな…!」
ガシャガシャと、門をよじ登る少年。
すると…
「そこのお前…何をそんなに急いでるんだ?」
ビクッ! 「!?…え?」
見ると、墓地の中にある、なんともおかしな高台に、
墓石に腰掛けて、ぼんやり空を見上げている少年が一人…!
(なんだアイツ…!?こんな時間にこんな場所で、一人ぽつんと
一体何をやってるんだ…!?
ま まさか 幽霊…!?)
「うわっと!そんなバカなこと考えてる場合じゃなかった!
今日は、録りたい番組もあるってのに…!」
再び、慌てて走り出すオカッパ頭の少年。
「待てっつってんだろ。今日はこんなに星がよく見えるんだ。
せっかくだから、お前もこっち来いよ。みんなで眺めようぜ。」
薄ら笑いを浮かべる、墓石に腰掛けた少年。
「(なんだコイツ?おかしな奴だな)
星!?星なんか見て何になるってんだ?それに君、文法が変だぞ、
二人じゃみんなって言わないよ。」
「いいや、みんなさ…この墓場のな!」
ドロン!
見ると、その少年のまわりには…年代様々、格好様々な幽霊の皆さんが!!
!?オカッパの少年の目がまん丸に…!
「おっと、そう驚くなよ、こいつらみんな友達なんだ。
いつまでたっても成仏できないろくでなしばっかだけどな。」
幽霊さんと肩を組む少年。
「ん?どした?」
オカッパの少年…カタマって…そして…
「ぎっ、ぎゃああぁぁぁぁ〜…」
こわれた…

次の日…
私立森羅学園 中等部 1年C組
「だから本当に見たんだってば!!あの墓地で!幽霊が!
星見ながらワイワイやってたんだよ!
そりゃぼくだってこの目を疑ったさ!!」
友だちの前で、目をくわっ!と開くオカッパの少年。
「オレは、お前の頭を疑うぜーまん太よー」
誰も、信用していないらしい…。
それでもって、オカッパの少年は、まん太という名前らしい…。
「うほっ!?」 まん太、ショック!
「幽霊なんてんなもん、いるわけねーだろ。」
「どうせ何かの見間違いだわ。」
「お前、勉強のしすぎで、頭、疲れちゃってんじゃねーの?」
「いや、つーか、こいつは霊に憑かれてるんだろ?」
勝手なことを言いながら、みんな大笑い!
「んだとコラ!!」
友だちの真ん中で、まん太が飛び上がった時、
「うるせェぞ、何さわいでんだ小山田!HR始めっから席に戻れコラ。」
先生が、教室に入ってきた。
ワイワイガヤガヤと、席に戻るみんな。
「…あー…つうわけで、今日はテメェらに突然の知らせがあるんだがー」
先生の話…だ〜れも聞いている様子はない。
(ったく!!じゃあ昨日のアレは一体なんだってんだ!?
夢でも見たってのか!?) まん太は、プンプン。
「転校生の…麻倉 葉(あさくら よう)くんだ。」
先生は、一人の少年を伴っていた。
「…あー、彼は家の事情で、単身出雲からやってきたそうだ。
っつうわけで、テメェらもいろいろ面倒見てやって欲しいって…
んん!?…なんだ小山田!?変なカオして。」
まん太…口、あんぐり!
そして、自分の身長と同じぐらいガバァッ!と口をもっと開いて
「ここここいつだあーっ!」
と、、転校生の葉を指差した!
「みんなッ!こいつだよ、こいつが例の幽霊男さ!」
「ゆ…ゆうれいおとこ…!?」 教室中ざわざわ…
しかし葉は…?
「幽霊なんているわけないだろ…っていうか、お前、誰?」
バンッ! 「んだとコラァーーー!?」 キレるまん太。

昼休み
「なあ、もういいだろ、まん太よー。
転校生もあー言ってるんだし、昨日のことはきっとなんかの…」
たこさんウィンナーの入ったお弁当を前に、
友だちに諭されているまん太。
「いや!!間違いない!アイツはシラをきってるんだ!
だから本人に問いただしてやろうと思ってんのに…!!
なんで…!
なんでアイツは転校初日から眠りっぱなしなんだああ!?
なめてんのかコラアアア!!」
ヘッドホンをつけ、机に伏して思いっきり寝ている葉。
「まあ、確かに見たカンジ、ヘンな奴ってのはよーくわかるけど…」
「別にそんなとりたててさわぐこともねーだろ。」
「それによまん太…あそこの墓場は悪名高い万象高校のワル共の溜まり場で
有名なんだぜ。状況から言って、奴が連中の仲間の可能性だってある。
よーするに、得体の知れねェ奴にかまうなっつってんだ。」
「そーそー」
「さーあたし今度のテストの勉強しなくちゃ。」
勝手なことを言いながら、行ってしまう友人達…。
しかし、まん太はおさまらない!
(くっそ〜このまま引き下がってたまるか!
こうなったら、意地でも奴の正体を暴いてやる!!)

放課後
ヘッドホンで耳をふさぎ、サンダル履きで下校する葉を尾行するまん太。
「ときたら、まずはやっぱ尾行だよね!後つけりゃきっと何かつかめるハズさ!
ククク…見てろよ〜!絶対そのとぼけたマヌケズラ、
ギャフンと言わせてやるからな〜!!
サンダルで学校通ってんじゃねーぞ。」
電信柱の影に隠れながら、尾行を続けるまん太。

三時間後…
サラサラ流れる川にかかる橋の上で、ボー…っとしている葉。
物陰に隠れて、イライラしまくりのまん太。
(…や…やろう…!!一体いつまで、あそこでボーッとしている
つもりなんだああああああッ!!
ああ!!時間がもったいない!奴は一体何が楽しくて
川なんか眺めてられんだ…!!イライラ…)
その時、にっこり笑って葉がこう言った。
「あーっ、自然と一体になるって、気持ちいーなーっ!」
「なんじゃそりゃあ!!」 思わずツッコんでしまうまん太。
「んあ?」 まん太に気付く葉。
「ああッ!しまった!つい、つっこみが!!」
ギャふん!と、今更顔を覆っても…

土手
「ふーん…そうかー、それでオイラの後をつけてたのか。
そりゃ悪いことしたなーはっはっはっ。」
葉の意外な反応に、ちょっと驚くまん太。
「…!?え…怒ってないのかい!?」
「なんで?お前、オイラが学校で知らんぷりしてたから
ついて来たんだろ?」
「…んなっ!?じゃっ、じゃ、やっぱり!」
まん太の顔が、一瞬砂かけババアみたいに変わる…。
「えっへっへっ、オイラ面倒くさがりだからさあ、
学校で秘密がばれて騒ぎになるわけにはいかんかったのよ。」
「ひ…秘密…!?」 まん太、瞳孔が開きかける。
すると葉は、あっさり…さわやかに…惜しげもなくこう言った。
「ああ、オイラ、実は修行のためにやって来た
シャーマンなんだ。」
「シャ…シャーマン…!?」
(シャーマンってなんだ!?っていうかコイツ…
それは、秘密なんじゃなかったのかーーーッ!?
?何故あっさり言う!?)
「うえっへっへっ、シャーマンは、あの世とこの世を結ぶ者、
困ったことがあったら、いつでも呼んでくれよ、力になるぞ。」
夕焼けに染まる空…土手に長い影を落としながら、
カラスを見ている葉…
その後姿を、無言で見つめるまん太。

小池塾
まん太は先生の話などそっちのけで、葉のことを考えている…
「万辞苑」という分厚い辞典をぺらぺら…
(ったく!結局なんだったんだ、あいつは?
シャーマン?あの世とこの世を結ぶ者?
なんだそりゃ!?
そもそも修行だなんて、今時そんな話…って)
…と、辞典に「シャーマン」の項目を発見!
ガン!
(うええっ!?シャーマンって辞典に載ってんのか!?
な…何何…?
『シャーマン(Shaman) 自らをトランス状態(忘我・恍惚)に導き―
神・精霊・死者の霊などと直接交流する者…
シャーマンは、それらの力を借りることで、病気の治療や政治、
死者の言葉をこの世に伝える“口寄せ”などを行う宗教的能力者
彼らは古代においては、人間社会の中心であり、
現代においてもなお、世界中に存在している』)
「……………」 パフン…万辞苑を閉じる。

うっさん くせえ〜

(ちっ!ようするに霊を使ってなんかする連中ってことだろ?
そもそも現代社会において霊なんて…)
するとまん太…すっかり自分の世界…
「ああああ…でも見ちゃってるからな〜
否定するにもなんとも…」 体全部で、悩んでしまっていた。
「…山田…小山田、小山田まん太アアア!!」
パコオン!…先生お決まりの黒板消し攻撃、炸裂っ!
「ったく貴様はァ〜やる気がないのなら帰ってはどうだ?
それにもう、来なくてもいいよ。
ウチはエリート専門の塾なんでねェェ!!」
薔薇の花柄のジャケットを着た先生が、
メガネの奥から、まん太を睨んだ。
「す…すみませんでした…」 まん太、泣く。

その帰り…
ふんばりが丘駅
ホームのベンチに一人座るまん太。
「くっそー、何もあそこまで言うことないじゃないか…!
これというのも、全部アイツのせいだ!!
ったくシャーマンだかなんだか知らないけど、いい気なもんだよな!
どうせいつも、あーやってのんびりやってんだろ!?
ロクに勉強もしないで!
好きな音楽聞いて、ボケーッと川眺めたり、星眺めたり…!!」
散々怒っておいて…
「……………」
いきなり落ち込むまん太。
そして、ホームに滑り込んできた電車の前に立つ。
「ぼくだって、本当はそうしたいさ……」
そうつぶやいて、ガラガラの最終電車に乗る。
「でも、この世の中で生きていくには、そんなヒマはないんだ。
あーあ、なんかムナしくなっちゃったな…」
『最終電車――ドア閉まりまァす』
タタンタターン…走り出す最終電車。
・・・・・・・・・・
「…星かぁ、あいつ今日もあの場所にいるのかな…」
結局、電車には乗らず、
…ふんばりが丘駅のホームに立たずみ、夜空を見上げるまん太。

例の墓場
ギャッハッハッ…!
いかにも悪そうな男達が、集まって酒盛りの真っ最中!
「…にしても、こんないい場所よく見つけたもんだよなー。」
「ああ、オレらの『竜さん』は、場所にこだわる男だからな。」
「なんてったって、ここは誰も来ねェし、コンビニ近えし、
さわいだって苦情が来ねー。」
「もう、好き放題だもんな!!」
「…でもよー、最近どっかのガキが出入りしてるらしいぜー。」
髑髏柄のシャツを着たその男の一言で、青くなるみんな。
「ゲ…オイオイ、マジかよ?もしそれが『竜さん』に知れたら…」
その時―
ガアン!墓石を蹴倒し、誰かがやって来た!
「オレの断りなしに、このベストプレイスに踏み込むガキがいるだと…?
どうやらそいつにゃあ…
この『木刀の竜』の恐ろしさを叩き込んでやる必要があるらしな!!」
鼻から、思い切りタバコの煙を吐き…倒した墓石に足をかけた男…
その男こそ、みんなの恐れる竜さんだった。
長〜いリーゼントが、揺れている…
「りゅ…竜さん!!来てたんスかあー!?」
手もみ、ペコペコ…のみんな。
「オウ…今しがたな。」
「あ…あ…あの!竜さん…?」
空き缶の灰皿を差し出しながら、まんまる頭の男が、汗びっしょりで言った。
「どうした、ボールボーイ?(あだ名)」
すると、ボールボーイはガタガタと震えだし…
「そ!その墓…阿弥陀丸の首塚っスよ…!」
と、竜さんの足の下を指差した。
「?アミダマル…?なんだ、それは?」
「何って!この町じゃ一番有名な伝説じゃないっスか!
その600年前のサムライの話は…!!
あまりに強く、あまりに人を斬りすぎたため、人々に恐れられ、
処刑されたサムライの恨みをしずめるための首塚…!!
もし踏んづけてタタリでもあった日にゃあ…!!」
熱弁をふるうボールボーイだったが…
「だから?」 と、動じる様子もない竜さん。
「へ?」
「うオぅりゃ!!」 ドゴォッ!!!!
竜さんは木刀で、その倒れた墓石を砕いてしまった!
!!!!!!
「ゲェーッ!」 「木刀で!!」 「墓石を破壊したァーッ!?」
さりげにギャグりながらも、吃驚業天のみんな。
「ケッ!タタリ?首塚?くだらねえ!!ありもしねえ霊なんざに
墓をやるほど、東京の住宅事情は甘かねえんだよ。
フッ!霊がいるってんなら、なんかやってみろってんだよ。
くやしかったらよ、どうせ手も足も出ねェんだろ?ククク…!
フハハハハハハハハハ!
ざまァねえなあ!!しょせんは死人に口なしってことだぜーっ!」
ゾーっとするみんなを尻目に、竜さんが高笑いをしたその時!
カラコロカラ〜ン…
「あ?なんだおめえは…」
竜さんたちの見たその先にいたのは、
物陰から這って逃げようとして、空き缶を蹴ってしまった、
なんとも情けない格好の、まん太だった。
(し…しまったああ!!こっそり逃げよーと思ってたのに!!)
青ざめるまん太…
「あ…い…いや、ぼくはただの通りすがりの者でして…」
「そうか!!てめえだな…その例のバカなガキってのは…」
に…と笑う竜さん。
「…ぼくじゃ…ないのに…」 まん太…一人ぼっち…。
ドカ!バキッ!ボス!どて!ポキ!ぐしゃ…
「いやああああああああ…」

次の日、学校…
「プッ!プワッハッハッハッハッハッ!!」
笑い転げる友だちの前に、包帯だらけで、右腕を吊ったまん太が!
「なんだよまん太、お前その顔!!」
「あーあ、だからあの墓に近づくなって言ったのによー。」
「あっはっはっ!まさか本当にあの転校生の後追っかけるなんて!」
「ププッ、あの勉強一筋だったおめーが、一体どうしちまったんだ?」
ぶわっはっはっは… みんなは笑が止まらない。
「ある日突然、霊とか言い出したら今度はこれだ!!」
「実は、バカだったんじゃねーのコイツ!?」
「くっ…!!」 まん太がどっぷり落ち込み、涙ぐんだ…その時、
「霊ならいるさ。」 いつの間にかやってきた葉。
「んてっ!転校生!な…何言ってんだコイツ…」
葉は、スッとまん太に近づいた。
「事情は…墓場の連中から聞いた。」
葉の言葉に振り向きもせず、まん太はうつむいてこう言った。
「…墓場の連中ってなんのことだい?ぼくは忙しいんでね。
きみには関係のないことだよ、ほっといてくれないか。」
「あんた…まん太とかいったな…さあ、仕返しに行くぞ、まん太!」
いきなりまん太の左腕をつかんで走り出す葉。
「ちょっと、待ってェーーーーッ!」 まん太、完全に宙に浮いている。
「誰が助けてくれなんて言った!?人の話聞いてんのか!?
そもそも君に助けてもらう筋合いなんか…!」
「友達だから、助けるんだろ。」
「は?」
「オイラのじいちゃんが言ってた。霊を見ることができる人間に悪い奴はいないって。
だからあの夜、霊を見たお前には、オイラの秘密を教えたんだ。
友達だからな!いいだろ!うえっへっへっ…」
まん太を、まるで風船のように引っ張りながら、とてもにこやかな葉。
「よ!よくないっ!!よくないぞ!!」 と、まん太は必死!
「誰が君みたいなユルイ奴と友達になるか!!
君だって、連中の恐ろしさを知ってんだろ!?
ただでさえ敵は人数が多いのに、あの木刀の男にケンカ売るなんて!
アイツはアブない奴だ!さからうなんてアホのすることだよ!
君のその体格じゃ勝てるわけないんだから!!」
すると、葉はピタッと止まって…
「ああ!確かにオイラは弱いぞ!」
「!だったらなおさら!!」
でも、またすぐに走り出した。
「でも、なんとかなるから。」
「なるのか!?」
「なるさ、どうせ相手は木刀使いなんだろ?
大丈夫!こっちにゃそれよか強い味方が憑いてるからな!」
ニッ!と笑う葉…そのヘンな自信に怯えるまん太。
「わっ!わからないッ!!たのむからこの手を離してくれエエエエッ!」
パタパタパタパタ…

と、思う間に、ここは墓場…
「ってもうスグ目の前にいるじゃないかッ!!
たのむから帰して!!いやだ!!」
葉の背中にくくりつけられ、プリプリお尻を振って泣き叫ぶまん太。
葉達の真正面には、竜さんはじめ、悪い男達がどっさり!
木刀を肩に担いで、リーゼントの竜さんが言った。
「あァ…!?テメェ…今オレらになんつった…?
こっから出て行け…!?
ブッ!殺されてあの世に行きてェのかコラァ。」
竜さんの顔は、かなりコワい!
(こっこわいいいッ!!) まん太、心の叫び!
しかし、葉はひるむどころか、逆に竜さん達をにらみ付けた。
「…っていうか…その、あの世の連中が、あんたらをメーワクだと言っとるんです。」
ぎゃはっはっ…!! 男達は、大笑い。
「プッ!ぶわーっ、はっはっ!また霊だとよ!!」
「バーカ!竜さんは霊なんかちっとも怖くねーんだぞ!」
竜さんは、おもむろに自慢のリーゼントをくしでなで付けながら、
「オゥよ!やれるもんなら…」 と、そこまで言ったが…
「やればいんだろ?」
!? 葉の言葉に驚く男達。
「さっきからもう、戦いたくてウズウズしてる奴がいるんだ、
そうだろ?阿弥陀丸!」
突然、葉の背後にドロンと現れたサムライの霊!
腰の両側に刀を下げた、鋭い目つきの若サムライだ。
「サッ、サムライの霊…!?」 霊の見える体質のまん太は、ただびっくり!
『この度は拙者の屈辱をはらす機会を与えて頂き
感謝いたすでござる!葉殿!!!』
サムライの霊の言葉を聞き、ますます驚くまん太。
「屈辱!?屈辱ってもしかしてこの幽霊…!
あの…!壊された首塚の主…!!!
阿弥陀丸!!!伝説の侍!!!
まん太は思わず、腰が抜けた…
(たっ…確かに本物のサムライなら木刀なんかメじゃないはず…!
でも…!!!)
「…オイオイオイ…いいかげんにしろよオイ!
また阿弥陀丸とかいう、クソの話か?」
霊の見えない竜さんは、目がイッてる…。
(ホラ、やっぱり奴らにその姿は見えてないし!
もちろん、触れることだって出来ないだろう!
しょせん霊だもの…!!) 恐れおののく、まん太。
「オイ…スペースショット(あだ名)、アパッチ(あだ名)」
竜さんのご指名を受けて前へ出る、スペースショットとアパッチ。
(一体どうするつもりなん…)
「奴らを…ブッ殺せエエ!!!」
竜さんの命令に、葉達に向かってくる二人!!
「だああああっ!!ききき来たよ!!どうすんだよ!!
せっかくのサムライも霊なんじゃ、意味ないじゃないかーッ!」
慌てふためく、まん太。
しかし、葉は…
「ハッハッハッ、うるせえなー。
そいじゃいっちょ、見せつけてやろうか、阿弥陀丸。
お前の剣技(わざ)とオイラの能力(わざ)があわされば、
無敵になれるってことを!!」
『ウムッ!』
阿弥陀丸は、姿をヒトダマに変え、葉の右手のヒラにくっ付いた!
― 阿弥陀丸ヒトダマモード ―
「ヒッ!?ヒトダマになったっ!?」
まん太は、これ以上ないというほど驚いた。
「言っただろう…あの世とこの世を結ぶ者―それが
シャーマンだってな!!」
「ああっ!?サーモン?食いてェのか!コラァ!?」
一瞬立ち止まるスペースショットとアパッチ。
葉は、ヒトダマになった阿弥陀丸を、自分の胸に押し付け、そして叫んだ。
「行くぞ!憑依合体!!」
「ああーっ、ヒトダマが体の中に入って行く!?」
次々に信じられないことを目の当たりにし、まん太は壊れる寸前っ!
「死ねェーッ!」 スペースショットとアパッチが、葉に襲い掛かった!
が、次の瞬間、卒塔婆で二人を一刀両断にした葉!
ゴッ!吹っ飛ぶスペースショットとアパッチ!
見ていた者全員が、言葉を失う…。
宙を舞った二人が、ドサッと地面に落ちて、初めて我に返るみんな。
「そっ!卒塔婆で…!?」
「あの二人がやられた!?どうなってんだ、こりゃあっ!!」
「………ひょ、ひょうい…?」
どこにあったのか、万辞苑をめくり出すまん太。
「憑依だって…!?憑依(ひょうい)――霊にとりつかれる現象…!!
ま…まさか!まさかあいつ!あの世とこの世を結ぶっていうのは…!!」
『ククク…近くに手頃な武器がなかったものでな…
だが、貴様ら如きはこれで充分…
さあ、次は己の番だが、覚悟はよいでござるか!?』
卒塔婆を構える葉の背後に、阿弥陀丸の姿がダブって見える!!
「なっ…!」 さすがの竜さんも、ひるんだ。
(なんだコイツッ…!?さっきとはまるで別人じゃねえか…
それに今の腕前…!ありゃシロウトなんてもんじゃ…!)
『どうした…本物の殺人剣を前に、己のままごと剣法が
恐れをなしたのか?小僧!』
葉は、もはや葉ではなく…阿弥陀丸そのものだった。
その一言で、竜さんがブチ切れた!
「こっ?コイツ!!なめんじゃねえぞ!!
このサムライ気取りがあ!!」
竜さんは、ものすごい形相で木刀を振りかざし、葉に向かってきた!
それを見て、まん太が叫ぶ。
「…はっ!いけない!!今の彼に刃を向けちゃだめだ!
殺されるぞ!!!何故なら今の彼は!!
本物のサムライに変心(へんしん)してしまったのだから!」
しかし、そんなまん太の叫びなど、竜さんに聞こえるわけもない。
卒塔婆をもった葉、木刀を構えた竜さん…
お互いに向かってゆく二人。
叫び続ける、まん太。
「今、全てがわかった!!!あの世とこの世を結ぶとは…
彼が自分の身体に霊を取り憑かせ!霊の動き!技!全てを!
全てをこの世にトレースしてしまうことだったんだ!!」
葉は、竜さんの木刀を卒塔婆で止め、その下にもぐるようにして…
「ああーッ、竜さん!あぶねェーッ!!」 怒鳴る男達。
目をむくまん太…
葉は、ビュッ!と、卒塔婆を竜さんの顔面に!!!!
卒塔婆を喰らって、カタマる竜さん。
『安心しろ、殺しはせん。お主の様な奴に我々の同類となられては
かなわんからな。』
葉が、そう言って卒塔婆をはずすと、竜さん自慢のリーゼントが、
スッパリ切れて卒塔婆にくっついていた。
ドスーン!カタマったまんまの形で、地面に倒れる竜さん。
「ああっ、竜さんが負けたーッ!?」 男達、お手上げ!
「ぎゃあああ、逃げろ〜」
逃げて行く男達…ポカーンとして、しばし無言のまん太。
・・・・・・・・・・
「そうか、彼がいつもボーッとしているわけがわかったぞ。
ボーッとするのは、自分の心を空にすること、
そして空にできるからこそ…霊の力を身にまとうことができるのか。
それが、あの世とこの世を結ぶ者…
シャーマン……麻倉…葉…」
いつの間にか、お出ましの幽霊の皆さんと、喜びを分かち合う葉。
その葉の笑顔は、いつも通りの少年の…あの屈託のない笑顔だった。

こうして――
僕と葉くんとの魂の世界を巡る冒険が
始まったのです。
まん太


― 第一廻 おわり ―

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