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時空警察ヴェッカーシグナの第1話


All questions rely on the present for their solution.
Time measures nothing but itself.
The word that is written may be postponed,
but not that on the lip.
If this is what the occasion says,
let the occasion say it.

Henry David Thoreau


海を見下ろす建物の屋上で睨み合う2人の男。 加藤洋輔、折尾光四郎。

光四郎「この時代、この瞬間……人々は今、泣いている!」

洋輔がせせら笑う。

光四郎「貴様がそれを、嘲り笑う!!」

激昂と共に光四郎が繰り出したパンチを、洋輔が受け止める。

光四郎「貴様がそれを踏みにじる!!」

光四郎の蹴りを洋輔が避け、逆に光四郎の鳩尾に蹴りを見舞う。

光四郎「俺はお前を許さない……絶対に許さない!!」

拳と蹴りが激しくぶつかり合う。
洋輔が光四郎の腕をねじり上げ、投げ飛ばす。
なおも光四郎は洋輔に立ち向かうが、洋輔は難なく彼を蹴り飛ばす。

光四郎が懐に手を伸ばす。

洋輔「抜くのか? 若造」
光四郎「あぁ! お前を倒し、未来を切り開くため!」
洋輔「未来か……いいだろう。受けて立とう!」


宙に舞い上がる2人の体が、光に包まれる──


時空警察ヴェッカーシグナ


青と赤の光が地上へ降り立つ。
2人の体が強化服に包まれ、洋輔は時空刑事エクスヴァーン、光四郎は時空刑事オリオンへと姿を変える。

再び2人の体が激しくぶつかり合う。
オリオンの繰り出す攻撃をエクスヴァーンが次々にかわす。
2人が剣を抜き、鍔迫り合いが繰り広げられる。
やがてエクスヴァーンの剣がうなり、オリオンががっくりと膝を突く。

エクスヴァーン「どうした、若造!」



Phase.1 Side:A


場面は変わって、ここは喫茶店ウッドストック。


光四郎「だぁーっ、参った、参りました! コロンビア・ベースで、ブラジル30%、モカ20%まではわかる。だけど、あと50%、あと50%がどうしてもわからない〜!」

カウンターに座り、コーヒーを前に唸る光四郎。優雅にコーヒーを入れるマスターの洋輔。

洋輔「甘いな、若造。これくらいのブレンドが見抜けんで、何がコーヒー通か!」

2人の親しげな様子からは、冒頭での死闘を演じていた表情など微塵も感じられない。
そこへ、玄関で植木に水をやっていた店員の秋葉えみりが店内に戻ってくる。

えみり「マスター、ちゃんとお仕事しましょうよぉ」
洋輔「してますよ? 常連さんに当店自慢のブレンドをお出ししている」
光四郎「お出しされてます」
洋輔「ね〜」
光四郎「はい!」
えみり「光四郎さんのお相手はお仕事にはなりません」
光四郎「わぁ〜えみりちゃん、それはひどい!」
えみり「だって光四郎さん、コーヒー1杯で2時間は居座るんですもん。それに目的はコーヒーじゃないですし」
洋輔「あぁそろそろ、るり香くんが来る頃だな」
光四郎「何っ!?」
えみり「もぅ……これだもん」
光四郎「あ、でもメイドさん目当ての喫茶店も流行ってることだし」
えみり「うちはそんなお店じゃありません!」
光四郎「えみりちゃんも可愛いよ!」
えみり「理由にも言い訳にもなってません!」
洋輔「ははっ、まぁいいじゃないか。どうせ他にお客さんもいないんだし」
えみり「でも……」

洋輔の言う通り客は光四郎だけで、あとの座席には閑古鳥が鳴いている。
そこへ扉が開き、アルバイトの夏沢るり香が現れる。

るり香「申し訳ありません、遅れました!」
光四郎「お──!」
るり香「いつも通りに学校を出たんですけど、予想外の事態に遭遇致しまして……」
洋輔「大丈夫だよ。ほら、見ての通り客はいないし。でも、予想外?」
るり香「はい。それで、思わぬ足止めを……」

るり香の横から顔を出す、冬木玲菜。

玲菜「ちょっと、私のせいだって言いたいの? るり香」
えみり「玲菜さん?」
洋輔「あ、こりゃまた珍しい」
玲菜「相談事があったのよ。そりゃバイトがあるのも知ってたけど、だからって下校のタイミング逃しちゃえば、それこそるり香は働きづめじゃない!」

るり香は店の奥へ。玲菜は尖った表情のまま、カウンターの席に座る。

玲菜「大体あの子、忙しすぎ。毎日学校とバイトの往復だけで、プライベートが1分たりともないなんて信じらんない。相談一つするのに何で私がこんな苦労しなきゃいけないのよ、もう!」
洋輔「ん──要するに、引き止めたのは悪いと思ってるけれども、相談事があったこちらの事情も認めてくれと、そういうことなんだね?」
玲菜「まぁ、そう」

玲菜のスカートから伸びた脚線美に、鼻の下を伸ばして見とれる光四郎。たちまち顔面に玲菜の蹴りが飛ぶ。

洋輔「ははっ! じゃあ、コーヒーでも出すよ。ゆっくり相談してくといいよ」

メイド姿に着替えたるり香が現れる。

るり香「マスターの許可も出たみたいですし、お客様が来るまではお話できそうですね」
玲菜「え、いいの?」
光四郎「遠慮することなんてないって。客はこの折尾光四郎ただ1人。それに、玲菜ちゃんみたいな美人がカウンターに座っててくれれば、この店のグレードもぐっとアップするってもんだよ。ま、優雅でお洒落なキャフェとは程遠いけどね!」

今度は洋輔が光四郎をひっぱたく。

光四郎「おりょ!?」
えみり「言いたいこと言われちゃってますね。本当のことですけど」
光四郎「いやぁ〜、この店ってば最高だよ! 最近流行りのツンデレ系、間違いのない癒し系、そしてヤバイくらいの純ロリ系!」

光四郎の指がツンデレの玲菜、癒し系のるり香、純ロリのえみりを指差す。

光四郎「ありとあらゆる属性がみんな揃ってる……!」
玲菜「属性とかって……そういうのが一番オタクっぽくて嫌いだ!」
るり香「コーヒーも味わって下さいね♪」
光四郎「そうそう、もう一つ、外しちゃいけない王道の属性があったよね。ずばり、元気一杯の天然系ドジっ子! これは狙いすぎるとハズす傾向にあるけど、彼女の場合は生まれ持っての天然系。そう、生まれながらにしてドジっ子……」
えみり「もう〜光四郎さんはこっちに来てちょっと黙ってて下さい!」
光四郎「そんなぁ、エミリン、僕はただ……」
えみり「エミリンとか言うな!」

光四郎がえみりに引っ張られて店の片隅へ。

玲菜「えみりが身を挺して私たちを守ってくれた、感謝感謝!」
るり香「本当にいい子ですよね」

るり香が玲菜の隣、光四郎の座っていた椅子に着く。

るり香「……どうかしました?」
玲菜「優しい顔してるけど……案外るり香って、人の屍踏み越えていくタイプよね」
るり香「はい?」
玲菜「いや、いい。忘れて」
るり香「そうですか。では改めて、ご相談の件についてなんでそけれど」
玲菜「あ、うん。相談は……その天然系ドジっ子についてなんだけど」


丁度その頃、その天然系ドジっ子こと物語の主人公・春日さりあは慌てた様子で下校路を駆けていた。
石段を踏み外して転びそうになるさりあ。
寸前、同級生の新末雪人がさりあを支える。

雪人「春日!」
さりあ「サンキュ……あ、新末くん!」
雪人「天然系ドジっ子って……」
さりあ「え?」
雪人「岸本たちがそう言ってた。本当だね」
さりあ「ドジって言われた〜」
雪人「え? あれ? あの……」
さりあ「運動神経足んないのは認めるけど、天然系って何? 生まれながらにしてドジってことなのかなぁ!?」
雪人「いや、そんな深い意味はないし……半分は愛情表現みたいなもんだよ」
さりあ「ドジっ子扱いのどこが愛情なんだよ!」

むくれ顔のさりあと共に歩き出す雪人。

雪人「だから、何でもかんでも心配しすぎなんだよ。春日は」
さりあ「だってぇ〜」
雪人「他人からどう見られるかより、まず気をつけなきゃいけないのは、自分の足元。だろ?」
さりあ「うん、確かにそうだ。まずは自分の足元、か。新末くん、何気にいつもいいこと言うよね。実は、学校の先生とかになりたい人?」
雪人「まさか! 考えたこともないよ」
さりあ「あ、そうじゃなくて占いの先生か。たった1人で同好会の会長だもんね」


ところ変わって、暗雲たちこめる海岸にそびえる建物の中。
怪しげな4人の男女が佇む。

「人は……流れに乗ればよい。我々が示す、輝かしい未来を目指して」

宙に「DS」の文字を象ったマークが浮かび、さらに鬼蜘蛛を象った紋章に変わり、声が響く。

「では船を出そう。今日この時こそが、記念すべき最初の舵を取る日となる」


再びウッドストック。玄関をくぐる、さりあと雪人。

さりあ「ただいまぁ!」
洋輔「お帰り!」
るり香「お帰りなさい」
玲菜「おい天然系ドジっ子、ちょっと話が……って、何!? 男連れ!?」
さりあ「え? いや……」
光四郎「そんな……何で? どぉ──してぇ!? 不器用なドジっ子が真っ先に相手決めちゃうなんて、それはハズしちゃいけないツボをハズしまくってるよ、さりあちゃぁん!」
さりあ「はい〜?」
洋輔「成長したな、さりあ。親代わりの身としては嬉しい限りだ!」
さりあ「はい〜? ちょ、ちょっと何よ、この雰囲気? 新末くんとは同級生で、ねぇ?」
雪人「え? あぁ、はい。今日はさりあさんに、僕のやっている同好会の説明をするために着いて来ちゃいました。……ここが春日の家?」
さりあ「うん、住み込みでバイトさせてもらってるの。マスターの洋輔さんと、その娘のえみりちゃん。で、常連客の光四郎さん」
光四郎「どうも……」
雪人「どうも!」
光四郎「で、何? 同好会の説明だって?」
雪人「あ、はい。占い同好会です。こういうの使ったりして」

雪人が取り出したタロットカードに、早速えみりが飛びつく。

えみり「すっごぉい! 占いできるんですか?」
光四郎「そんな、えみりちゃんまで? 僕という男がありながら、こんな他の男とぉ!?」
えみり「ご、誤解を受けるような言い方しないでくださぁい!」
光四郎「えみりちゃぁん……」

さりあ「玲菜がお店に来てるなんて珍しいね」
玲菜「そう?」
さりあ「そうだよ! この間来てくれたのは、確か……」
玲菜「今日はあんたに会いに来たのよ」
さりあ「え、私?」
玲菜「そ、あんた」
さりあ「わぁ〜モテモテだぁ〜どうしよ〜」
玲菜「……叩いていいかな」
るり香「私に許可を求めないで下さいね♪」
玲菜「あ〜もぅムカつくのよ、この天真爛漫な天然っぷりが!」
さりあ「じゃぁお仕事前にお茶でもしようか、玲菜ちゃん」
玲菜「違う! 今日来たのはあんたを一からビシッと鍛え直す相談のため! 遊ぶためじゃないの」
さりあ「鍛え直……す?」
るり香「玲菜さんはですね、さりあさんを心配してるんですよ」
さりあ「えぇ〜?」
玲菜「心当たりがまったくないって感じね」
るり香「さりあさん、あなた……自分の成績のこと、知ってます?」
さりあ「成績……?」
玲菜「学校の成績のことじゃなく、もっと大事な私たちチームの成績のこと!」
さりあ「え? ……あ、あぁ!」
玲菜「あんったのせいで私たちは今、評定ラインのギリッギリなの! わかる? ギリッギリよギリッギリ。だからその足手まといをどうやって一人前にするか、私たちはお悩み中なわけ!」
さりあ「あ、足手まとい……? なんか、それは言いすぎじゃないかな〜」

泣き真似を始めるさりあ。

玲菜「泣くなぁ、みっともない! そんなことだからあんたってばいつまで経っても一人前の時空刑……」
るり香「玲菜さん!?」

るり香が慌てて玲菜の口を塞ぎ、台詞を遮る。

雪人「どうしたんだ?」
えみり「ね、ね、雪人さん、もっと他の占いとかできませんか?」
るり香「まぁまぁ、落ち着いてお話しましょ」

えみりが雪人と光四郎を店の隅の席へ引っ張って行く。

光四郎「僕的には、ここにいるみ〜んなとの相性占いとか興味深いぞ」
えみり「1人に限定するんじゃなくてぇ、みんなとっていうのが光四郎さんらしいですよね」
雪人「あ、でも相性占いなら、僕なんかよりも確実に当る専門チャンネルがありますよ」

雪人が携帯を取り出す。

えみり「携帯で見れるんですかぁ?」
雪人「うん。占い一つで会社まで作り上げた、僕の憧れの人が出てるんだ」

雪人が携帯サイトにアクセス。
先の建物の「DS」のマーク、「Yusei Toking」のタイトルと英文が表示される。

光四郎「ほぉ……ユーセイ・トーキング?」
雪人「織田優生。現代最強の占い師です!」
えみり「でも……文字だけなんですかぁ? お金ないんですね」
雪人「優生は絶対に姿を見せない。いつもこうやって、占いの結果だけを流すんだ。みんなにも聞かせてあげよう、優生の声を!」
さりあ「何何?」

さりあたちも興味津々の様子で群がって来る。
携帯から織田優生なる人物の声が流れる。

『いつもフォーチュン・チャンネルをご覧頂き、ありがとうございます。脅威の的中率を誇る我がディザイン社の将来設計支援コンサルタンティングへのご支持、本日もたくさん寄せられております。ではまず最初に、先日の株価高騰による市場混乱の事前通知に関してですが……』

光四郎「ふーん……なんだか、普通の通販番組かニュースみたいだな」
雪人「でも伝えているところはまさしく未来予知の結果。的中率80%以上だっていうんですから、もうこれは立派な予言番組ですよ!」

『……さて本日は、ディザイン社から視聴者の皆様に向けて、新しい事業の紹介をさせて頂きます。我々が皆様に提供するのは、即ちコーディネイトされた未来。自らの運命を自在に操る……』

玲菜「コーディネイトされた……未来?」
雪人「すごぉい! それって占いの究極だよ!」

カウンターでグラスを磨いている洋輔の顔が、次第に険しくなる。

洋輔「早い……早すぎる……」

さりあ、るり香、玲菜が互いに顔を見合す。

洋輔「あ、そうだ! 今日はこれから、な……何かやることがあったんじゃなかったっけ? ね、ねぇ?」
るり香「え……そう言えば、お2人にやって頂きたいお仕事が……ねぇ、さりあさん?」
さりあ「え? ……えっと、隣町の……田中さん家に! ねぇ、玲菜?」
玲菜「え? あぁ……あの……ね、うん……い、芋掘りに行ってもらおうと思って!」
光四郎・雪人「……芋ぉ!?」
洋輔「とにかく今日は閉店!」
光四郎・雪人「えぇ──っ!?」
えみり「芋掘り芋掘り!」

たちまち光四郎と雪人が、店から締め出される。


さりあたちは店の地下の秘密基地へと移動。時空刑事候補生・ヴェッカーシグナとしての活動が開始される。
織田優生の会社、ディザイン社のホームページが表示される。

えみり「株式会社ディザイン。ここ数年で突然目立つようになってきた新鋭の会社ですね」
玲菜「はぁ……? 運命をコーディネイトぉ? ふざけてる!」
さりあ「これは、時空警察ヴェッカーの出番かな!?」
玲菜「当──然ね!」
えみり「でも、私たちはあくまでシグナ……候補生ですよ」
るり香「捜査するにしても、本部の承認が必要です」
玲菜「じゃ、承認取って! 今すぐ!」
えみり「簡単に言わないで下さいよぉ……研修中の私たちが動いていい事件なのかどうかもわからないのに」

そのとき、本部からの通信が入る。
前作『時空警察ヴェッカーD-02』の日向サキ。現在ではさりあたちの研修の教官である。

サキ「その件なら、わざわざ問い合わせる必要はないわ」
玲菜「教官!」
洋輔「サキ……」
サキ「ディザインについては既に担当が決定され、正式な時空刑事が派遣されているわ。あなたたちが関ることは許されません」
さりあ「でも研修中っていっても、先にこの時代に派遣されてたのは私たちです」
サキ「質問なら認めますが、上司に対しての反論はいかなる場合にも認められません。それともサリー、あなた、私を納得させることができる?」
さりあ「私がヴェッカーを目指すのは、今回みたいなことを許せないからです。運命をただ諦めるのも大っ嫌いだけど、人が未来を弄ぶのはもっと嫌いです!」
サキ「サリー! ……カナ」
玲菜「そうよ、承認なんか必要ない! 失敗しなきゃいいんでしょ?」
サキ「レナリー、あなたまで! ……メイ」

前作『時空刑事ヴェッカーD-02』での仲間たちの姿を、彼女らに重ねるサキ。
玲菜が席を立ち、立ち去る。

サキ「レナリー!」
さりあ「玲菜に賛成。私も!」

さりあが玲菜に続く。

サキ「サリー、待ちなさい! 勝手な行動は……」
洋輔「えみり、るり香、頼む!」
るり香・えみり「SIG!」
サキ「ルリー、エミリー!」
えみり「ごめんなさい、教官!」

るり香とえみりも、2人を追って立ち去る。

サキ「一体、何だって言うんですか?」
洋輔「……」
サキ「候補生の暴走を許して、あなたはじっとしたまま。どうして動かないんです!? 伝説とまで言われた、あの……」

台詞を遮り、洋輔が一方的に通信を切る。

こうして、時空犯罪に立ち向かう少女たちの戦いが始まった。


To be continued
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