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サ ザ エ さ ん

― 第1回 第1話 ―
〈昭和44年10月5日放送〉



画面下からサザエさん登場

「わたくし、サザエ〜でございます!」

オープニングテーマの流れた後、もう一度サザエさん登場。

「提供は東芝でございます。
カラーでおおくりいたします。」


『75点の天才!』


「♪トンチキトトチキ、トンチキチッ、ホッ!♪…」
鼻の頭に、棒状に丸めたテストを乗せ、
落ちないようにバランスを取りながら道を歩いてくる
学校帰りのカツオ。
「おーっとっとっとっと…」
それが落ちそうになり、右へ左へ…
通りがかった自転車に乗った酒屋さんも、
犬もびっくり大慌て!
カツオが画面右に消えた途端、
ガッシャーーーン!
…と!、倒れていたのは自転車の酒屋さんだった。
「あれ…どうしたの?」
まるで他人事のようなカツオ…その背中に、
飛んできたボールがぶつかった。
ドーン! カツオ、倒れる。
犬と酒屋さんは、カツオの下敷き。
「すいません…」
少年が、ボールをとりに来た。
「気をつけろよ!ケガでもしたらどうすんだっ!」
その少年を思いっきり怒鳴りつけるカツオの頭の上に、
さっきのテストがフワフワ落ちてきた。
カツオは、それをあらためて見て急に機嫌が直り、
「あ…、いいんだいいんだ。
返してあげるよ!ホラッ!!」
カツオは、ボールを差し出しニッコリ!
「ありがとう…。」
ボールを受け取り去ってゆく少年に向かって、
下敷きになっている犬の頭に手を付き、
「これから道路で遊んじゃダメですよ〜」
と、付け加えたカツオ。
『う〜〜〜』
うなりながら、カツオを持ち上げて起き上がる犬。
カツオの体がゆらゆら…
「な、な、なんだ??」
周りをキョロキョロ…
そして、やっと下敷きになって怒ってる酒屋さんと犬に気づき
「はっ!いけねー!!」
「こんにゃろ〜!」
こぶしを突き上げる酒屋さんと犬。

いその家の前
また性懲りもなく、鼻の頭にテストを乗せてやってくるカツオ。
さっきの犬にやられたのか、
服はボロボロ、顔は泥だらけ…
反対側から帰って来たのはサザエさん。
サロンエプロンに買い物カゴという出立ちだ。
「まあ、カツオどうしたの、その格好!?」
「ただいま〜お姉さん!!」
片手にテスト、そしてもう片方の手でサザエさんの手を取って、
クルクル回りだすカツオ。
サザエさんはびっくり!
「まあ…(セリフが消してある)かわいそうに…
きっと自動車にはねられて頭がおかしくなったんだわ…」
思わずカツオを抱きしめて泣き出すサザエさん。
「カツオ〜っ!!」
「姉さん、どうしたの?急に泣き出したりして??」
「だっておまえ、自動車にはねられて…(セリフが消してある)」
今度は、それを聞いたカツオがびっくり!
「えぇっ!!冗談じゃないよ!
ボ、ボクはこの通りピンピンしてるよ!
頭の方だって、この通り!!」
ピンピン跳ねて見せた後、
カツオは自慢げに、テストを差し出した。
「ほらっ!」
広げたテストには…
『いそのかつお 75点』!

茶の間
「へぇ〜、お兄ちゃんがテストで75点も取ったの?」
ワカメもびっくり!
カツオは、余裕の表情でお菓子をぱくぱく。
「大したもんじゃないか、カツオ。」
ニッコリ笑う、着物にカッポウ着姿のお母さん。
「そりゃぁなんてったって、アタシの弟だもの!チュッ!」
サザエさんは、カツオのオデコにチュッ!!
「んがっ!!」
カツオの持っていたお菓子が吹っ飛ぶ…。
「ねぇお兄ちゃん、嬉しいでしょう?」
「そりゃ嬉しいよね?カツオ。」
するとカツオは、
「いやぁ別に!ボクの実力だったら、
いつだって取れるさ、こんなもの!」
と言いながら、そのテストで紙ひこうきを折って、
「えいっ!」と、飛ばしてしまった。
「ああっ!…いいの?お兄ちゃん、あんなことしちゃって。」
「平気平気!、また取ってくるさ!」
そのテストは、ふわりと猫のタマの頭に…
『ニャオン?』
それを開いてみるタマも…あら、びっくり!
「それにしても大したもんだわ、75点とは。」
サザエさんは、自分のことのようにニコニコ。
「そう思ったら、ボクの小遣い増やしてよ!
そのぐらいのこと、してもらわなくちゃ。」
それを聞いたタマの頭に不安がよぎる…
案の定…
「調子に乗るんじゃないのっ!」
サザエさんの声と共に、タマの前を吹っ飛んでいくカツオ。
「すぐ調子に乗るんだからっ!」
這って戻っていくカツオ…
途中、タマの持っているテストをパッと取り上げて。

鏡に向かって怒るカツオのオデコには、
サザエさんの唇の形がくっきりと付いている。
「なんだい!調子がいいのは自分の方じゃないか!
(セリフが消されている)」
ティッシュで、オデコをゴシゴシ…。
「…いいよ、お父さん帰ってきたら、
絶対小遣い値上げを要求するんだ。」
そう言って、自分の指を舐めて、
アイロンの熱さを確かめるカツオ。
「このテストを見せて…こらしょっと、どっこらさっと。」
そして、畳の上で、テストにアイロンを掛ける。
ひこうきを折った線はすっかり元通り!
「これでよし!ん〜っ!」
テストに熱烈なチュウをするカツオ。
そこへ、ワカメがニコニコしながらやって来た。
「ふふふ…お兄ちゃん、よかったね!
世の中には奇跡ってあるんだねぇ。」
「な、なんだって!!」
カツオの振りかざしたゲンコツを、
そばにあった本でガードするワカメ。
「あ!それ、ボクの参考書だ!返せよ〜!」
カツオが無理やりそれを引っぱると、
中からたくさんのテストがパラパラパラ…。
「10点、5点、0点、8点!!」
ワカメは、嬉しそうにテストの点数を読み上げる。
慌てて、そのテストの山に覆いかぶさるカツオ。
「…せっかく隠しておいたのにぃ。」
「まだあるわよ、お兄ちゃん!」
1枚持ってピラピラ〜ッ。
「あ、返せったら返せよ!おい、こらっ!やいっ!」
「だ〜めっ!みんなに見せんだから〜!」
走ってゆくワカメ。
「あ〜やめてくれっ!ワカメ〜〜!」
「へへん、ふふっ!!」
逃げるワカメを、カツオは、投げ縄を持って追いかける。
(そんな物どこにあったのかは、定かではない…)
「待て〜!いやああああっ!たぁっ!」
カウボーイのように縄をクルクル回して、
玄関を飛び出したワカメに向かって投げるカツオ。
ガシィッ!
「ん?確かな手ごたえ…。」
クイックイッ!っと引っぱって手ごたえを確かめた後、
後ろ向きに縄を肩に担いで、
「えいこ〜ら、えいこ〜ら…」
と、引っぱるカツオ。
ワカメが、青くなって戻ってきて、カツオの前に立った。
「お兄ちゃん!アタシならここにいるぅ!」
「ええっ!!??」
振り向くと、そこに、首に縄を掛けられて真っ赤な顔になった
着物を着たハマコおばさんが!!
「ああ、ハマコおばさん!」
思わず縄を放すカツオ。
「ああああああ…!!」
ずっで〜ん!
ハマコおばさんは、玄関の壁に激突!

テストの山を前に、ワカメに手を合わせるカツオ。
「いそのカツオ一生のお願い!どうかこのことは内密に!
兄ちゃんを男にしてくれ!頼む!!
ワカメ、このとおりだ〜っ!」
畳にひれ伏すカツオの前に、そっと手を出すワカメ。
「え?」
背に腹は変えられない…
カツオは、後ろからゴソゴソ…
「このペン、外国モンなんだぞ…」
カツオの出したペンを、遠慮なく持ち去るワカメ。
「はっ、いけねぇ、これをどっかに隠さなくちゃ!」
カツオは、テストを抱えてキョロキョロ。
そして、天井を見上げて…
「あそこだ!」

一方、こちらは、屋根裏のネズミ。
いきなり自分の乗っていた板が、カツオの頭で持ち上がり、
「おーっとっとっと…」
そして、ドサッと目の前にテストが置かれたかと思うと、
カツオの頭は引っ込んだ。
「ふぅ…、おや?これは答案用紙だな?
ん?10点、5点、0点??
へぇ〜、ヒドイ頭だな、こりぁ…。」
と、その中に1枚、75点のテストが!
「ん??世の中には奇跡があるんだな。
まぁいいや、こんな紙で巣を作ったんじゃ教育上よくない…
しかたがない…」
そのいっぱいのテストを抱えて、どこかに持って行くネズミ。

茶の間
「言いたかないけど、カツオはデキが悪いねえ。
そこいくと家の子は…おっほっほっほ!」
赤く縄のあとのついた首をさすりながら、
ハマコおばさんは大笑い。
するとサザエさんは、血相を変えてハマコおばさんにくってかかった。
「あら、おばさん!そう言うけどねぇ、
カツオだって捨てたモンじゃないんですよ!
たまにはちゃんとした点を取るんですから!!」
「ま〜あ、信じられないわ!おっほっほっほ!」
涼しい顔でお茶をすするハマコおばさん。
と、サザエさんの顔が見る見る真っ赤に!
「よ〜し…!では、信じさせてあげましょう!!」
サザエさんは立ち上がって、
「カツオ〜!カツオ〜!」
怒鳴りながらカツオの部屋へ。

机の下にもぐりこんでカツオが何かを探している。
横に立つサザエさん…イライラした様子。
「早くしてよ!さっきの75点をハマコおばさんの前に、
たたきつけてやるんだから!!」

茶の間に戻ったサザエさんは、お母さんにそっと耳打ち。
「困ったわ、みつからないの。」
すると…
「いいのよサザエさん、ムリしなくても信用しておくわ!
うっふっふっふっふ…!」
とても性格の悪そうな笑い方をする、地獄耳のハマコおばさん。
ムカ〜〜っ!!
っと、ハマコおばさんを睨むサザエさんとお母さん。
「じゃあ、それにあたしそろそろおいとましなくちゃ。」
そう言って、立ち上がろうとしたハマコおばさんを、
サザエさんとお母さんは無理やり押さえつけ、
丸いちゃぶ台の上に乗っけてしまった!
「冗談じゃないわよ、おばさん!!」
サザエさんは、すごいケンマク!
「まだ帰さないわよ!」
お母さんも、ちょっと見たことないくらいの怒り方!
「何が何でも探しますからねっ!」
「それまでここに居てちょうだい!」
これには、さすがのハマコおばさんもタジタジ…
「は、はぁ、わかったわ…でも、早くしてね、
他に寄るとこがあるんだから…」
でも、サザエさんたちが部屋を出て行ってしまうと…
「ふっ!ムリしてるわ、どうせ出てこないくせに…」
ちゃぶ台に座ったまま、ニヤッと笑うハマコおばさん。

「フ〜ン、ッタッタッタ…」
すっかりご機嫌、真っ赤な顔で、
おみやげの包みをぶら下げて帰って来たマスオさん。
「ただいま!おみやげですよ…」
っと、部屋を覗いてびっくり!
「いややっ…どうしたんです?今頃大掃除ですか?」
サザエさんが、散らかった部屋の押し入れで、
なにやらゴソゴソ…
「違う違う!探し物…あら、こんな所に、
あなたのアルバムがあったわ。」
一冊のアルバムを引っ張り出すと、
「あ〜!!それ、触っちゃダメです!!」
妙に慌てふためくマスオさん。
そのアルバムを必死に奪い取ろうとするが、失敗!
「どうしたの?そんなに慌てて?」
「お願いです、返してくださいよ…ねぇ。」
すると、アルバムから一万円札が…パラリ!!
「ああ、もうダメだ…」
「へそくりっ!?」

「だぁ!落ち着きなさい、みっともない!」
帰るなり、あれこれ放り投げながらテスト探しをする
お母さんを怒鳴りつけるお父さん。
「たかが75点ぐらいでおまえまで…
歳を考えなさい!」
と、その時、お母さん、ハートマークの付いた封筒を発見!
「あなたっ!これは一体なんですか?!」
あっという間に着物に着替えて、
盆栽いじりをしていたお父さんに、それを見せるお母さん。
「ん?バカにいい匂いだね…うん、これはラブレターだぞ。
どれどれ…磯野波平様まいる、か…
わぁ〜!これはっ!!」
お母さんは、お父さんの持っていた剪定ばさみで、
そのラブレターをジョキン!と真っ二つ!
そして、はさみをチョキチョキ動かしながら、
お父さんを追いかける。
「お、お、おい!おまえ…毛は切るな!!」
家中逃げ回るお父さん、追いかけるお母さん。
「あなたっ!」
庭を逃げるマスオさん、ほうきを持って追いかけるサザエさん。
ちゃぶ台の上で、ハマコおばさんもキョロキョロ…
「い〜っひっひっひ!」
まさに、「他人のいざこざ、甘い蜜」状態だった。

マスオさんは、サザエさんに馬乗りになられ、
白いハンカチを振って…
「やはっ…無条件降伏です…」
おとうさんもまた、おかあさんに馬乗りになられ、
おかあさんがチョキチョキ動かすはさみから、
必死に頭のテッペンの大事な一本の髪を守ろうと…
「よ、よしてくれ、母さん!」
サザエさん家は、代々カカア殿下だったことがうかがえる…。

その頃、子供部屋では…
「どこいったのかなぁ…大事な大事な75点。」
「うん!わかった!!」
手をポン!とたたくワカメ。
「ええっ!本当か?」」
「お兄ちゃん、きっと75点、他の紙に混ぜたのよ!」
「他の紙ぃ??」
「ほら…あの、うんと…10点5点0点…」
「ん〜ストーーープッ!」
慌ててワカメの口を押さえるカツオ。
「そうだ、そうだ…天井裏に隠したんだ。」
カツオが、天井裏に顔を出すと、頭で持ち上げた板の上に、
例のネズミが乗っている。
「あれぇ…ないな。」
どっさり隠しておいたはずのテストが1枚もない!
その時、頭の上の板からネズミが…
「わっ!おまえだなぁ!!」
天井裏に飛び上がり、ネズミを追いかけるカツオ。
「待て〜っ!!」
と、行き止まりにテストの束が!
「あ!あったぞ!!」
急ブレーキをかけるカツオ。
しかし、勢いあまって柱にゴチン!
そのまま、真後ろにズデ〜ン!
カツオの頭は天井を突き破り、
その穴からネズミとテストが、下に落っこちてしまった。
「あ〜〜〜!!」
ネズミに驚いて、マスオさんに飛びつくサザエさん。
マスオさんの足元で、ネズミを追いかけぐるぐる回るタマ。
「助けてくれ〜っ!」
カツオは、片足を天井にかけてブラ〜ン!
「ギャア〜〜〜!!」
廊下では、ネズミを怖がるお父さんがお母さんに飛びついて…
「か、母さん、こ、怖い、怖い!!」

マスオさんに抱っこしたまま、しばし見つめ合うサザエさん。
「あっはっはっは…仲直りしましょう…」
これはチャンスとばかり、マスオさん。しかし…
天井から、カツオの持っていたネズミ捕りが落ちてきて、
マスオさんの頭にゴチン!
「あっはっはっは…あなたっ!!」
サザエさんの怒りは、まだ収まっていなかった。
そこへ…ドサッ!
テストの束の上に落ちるカツオ。
「こらっ!この答案はなによっ!!??」
「あの…その…」
カツオは急いでかき集めたが、時すでに遅し。
「あんた、今まで隠してたのね!
なっちょらんっ!今夜のご飯、抜きっ!」
「それは、あまりと言えばあんまりな…」
「…と言いたいとこだけど、今夜のとこは許してあげるわ。」
「だから姉さん、好きさ〜!」
サザエさんは、おもむろにマスオさんの方を向いて、
「あなた〜、このお金で食事に行きましょうよ。」
と、一万円札をヒラヒラ。
「ねぇ、待ってください…」
マスオさんは、一万円札に飛びついたが、
サザエさんは、パッとそれを持ち上げて、
「あなた、男はあきらめが肝心よ。」
…情け容赦のない、サザエさんであった。
「そうです、そうです。」
自分のことは棚に上げ、偉そうに相槌を打つカツオ。

外、おめかしをして勢ぞろいのサザエさん一家。
「さぁ〜、はり切って食うぞ〜〜ぃ!」
「コラ!カツオ!おまえは食べる事となると張り切るな。
わっはっはっは…」
お父さんの言葉に、みんなは大笑い。
真っ赤になるカツオ。
サザエさんは、玄関前でちょっと考え込んでいたが…
「なんだか忘れ物したようだけど、まぁいいや!」
それ以上気にすることもなく、
グリーンのワンピースで、いそいそお出かけ。

家の中では…
タマは、ナイフとフォークを手に、まだネズミを追いかけ回していたが、
ふと、足音を忍ばせて茶の間を覗くと…
ちゃぶ台の上で、すっかり忘れられたハマコおばさんが、
こっくりこっくりしながら鼻ボコチョウチン。
その鼻ボコチョウチンがパチン!と割れて目を覚ますと、
ちょうど肩に上がってきたネズミと目が合った…

「わぁ〜〜〜〜っっ!!」

バキン、ドカン、ガシャン!
(何の音かは不明…)


― サザエさん 第1話 おわり ―

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