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サラリーマン 金太郎

コミック @ 金太郎、入社する

― 第1話 金太郎、上京する ―


ひなびた漁港、漁師達が、集まっている。
「金太郎、おめえも、せっかくマジメになったんだべ。」
「東京へ行っても、ちゃんとやるんだぞ。サラリーマンになるんだろ…
短気だけは起こしちゃなんねえぞ。」
「ああ…」 
「何だったら、竜太は置いていけ。お前が一人前になるまで、
ワシが育ててやるがよ。」
「いや…明美と約束したんだ。竜は、俺が育てるから安心しろってな…」
漁船に足をかける 金太郎。
スーツを着ているが、額には鉢巻…
おまけに、おんぶ紐でくくりつけるようにして、赤ん坊を背負っている。
「行って来んからよ、明美の墓、よろしくたのむ!」

東京、夜の繁華街
「課長――っ、もう一軒行きましょうよ!」 「そうだっ、もう一軒!」 「課長――っ、日本一ィ!!」
「よし、行くぞォ―っ、パァ―っとなあ!!ただし、割カンだ…」
「そんなあ、パァ〜っとって、言ったでしょうがぁ…」
「バカモノっ、これ以上は、経費で落とすわけには いかん!」
人ごみの中、路上で騒いでいるサラリーマンの酔っ払い3人。
ドンッ!「わっ!」 メガネの課長に、派手なシャツを着た男が、ぶつかってきた。
「何だ、こらぁ――っ!」 酒の勢いも手伝ってか、課長は、思い切りすごんでみせる。
そのまま行こうとする派手なシャツの男の背中に向かって、
「おい!お前、ぶつかっといて知らんぷりか、何とか言わんか小僧――っ」
と、怒鳴る課長。
ギロッ!男は、立ち止まって、課長を睨みつけた。
ちょっとビビりながら、なおも続ける課長。
「まったく近頃のガキどもは、礼儀を知ら…」
バキッ!そこまで言った課長の顔面に、派手なシャツの男の拳が!!
「あっ…あっ…めっ…目が…」
バキッ!目を抑えてしゃがみこむ課長のあごを、今度は足で蹴り上げる男。
「やめろ!俺達は、天下のヤマト建設…」 「ばか!」
一人の部下が、もう一人の部下の口を手で抑える。
「会社の名前、出す奴があるか。街でケンカなんて、会社に知れてみろ!」
男は、課長のムナグラをつかんで
「ヨッパらって、甘ったれてんじゃねえよ。勝手にはしゃぎやがって。
何か、上役に気に入られるようなことでも、あったんかぁ?
関係ねえんだよ、俺らにゃあ!ヨッパらった時だけ、イキがりやがってぇ!」
と、殴り飛ばした。店の看板をなぎ倒して倒れこむ課長。
「警察だ石井君っ、けっ…警察を…」 「は、はい…」
その二人の部下に向かって、派手なシャツの男の連れが言った。
「呼べやぁ――っ!その前に、このおっさん、腕の一本は無くなんぜ。」
「かっ…勘弁してくれ…私が悪かった…こっ、この通りだ…」
そう言って、血だらけの顔で、よろよろと財布を出した課長の顔に、また!
ガキッ!!男の拳が入る。
「オッさんよぉ、おらぁ、でえっきれえなんだ。てめえらみてえなサラリーマンヤローがよっ。
ニオイかいだだけで、ヘドが出るぜっ」
男が、もう一発殴ろうとしたその時――
「いい加減にしろ…」
――金太郎だった。
赤ん坊を背負ったまま、しゃがんでこちらを見ている。
「しつけえんだテメエら…女のくさったヤローみてえなシメかたしやがって…」
「いいのか兄さん…クチバシつっ込んで?」
「やめろっつったんだよ…」
派手なシャツの男は、今度は金太郎の両襟をつかんで、
「こういう時は、シカトこいてる方がリコウだぜ、横から口出すのが、一番の大バカよ!」
と、金太郎を引き寄せた。
バキッ!!「上等だぁオラ――ッ!!」 金太郎の頭突きが、男の額に炸裂!!
「サラリーマンを…なめんじゃねえよ、ボケェ…」
男は、額から血を流し、頭を抑えて座り込んでしまった。
「てっ…てめえ…」 棒のような武器を取り出す男の連れ。
「なンだ、そりゃあ…」 金太郎に、棒で殴りかかるその男。
「わりゃぁ――っ!」 ドカッ!平気で、右肩でその棒を受ける金太郎、びくともしない。
「アキャア!!」 と、金太郎は、逆に、その男の股間を思い切り蹴り上げる。
そして、腹を押さえてうずくまるその男の顔を、踏みつけ、あごを蹴飛ばし…
近くにあったビール瓶の入ったケースを、高々と持ち上げ、
うつぶせに倒れた男の背中に、たたき付けた!!
めちゃめちゃになったビール瓶…そして、その男…。「たっ…助けて…」
原型をとどめないビールケースを持ち上げたまま、仁王立ちの金太郎に、
「すいませんでしたぁ!勘弁してやって下さい!!」
と、深々と頭を下げる派手なシャツの男。
「おう…」 金太郎は、さらりと言った。
男は、ビール瓶の破片まみれの男を支えて、立ち去ろうとした。
「素人じゃねぇ…ありゃあ、かなりナラした男だぜ…」
「矢島 金太郎。お前らも不良なら、聞いたことあんだう…」
いつの間にか来ていたパトカーの横に立っている、ひげ面の男がそう言った。
「関東全域に、強力なチームワークを誇り、メンバーの数は一万人とも言われた暴走族
八州連合…それを二年間たばねた矢島だ。」
立ち去ろうとした男たちは、それを聞いて足を止めた。
「ええっ!!あっ、あの…伝説の八州のヘッド、や…矢島の金ちゃん!?あの人が…」
「早いとこワビ入れて良かったぜ、もうちいっと血があがってりゃあ、
殺されてたよ、お前ら…見逃してやる…とっとと、散れ。」
「すいません!!」 慌てて逃げてゆく男たち。
「金太郎――っ!女房の実家で漁師やってんじゃなかったのか?
何を寝惚けて戻って来やがった。八州は、とっくに解散してんだ。
おめえが戻って来ても、やることはねえっ。関東の街道は、平和なもんだぜ!」
そう言ったひげの男に気づき、金太郎は、嬉しそうな顔を見せた。
「やっぱり明智さんか、マッポからデカに成り上がったか、
えれえ出世じゃんかよォ!」
「よく、戻って来たな…明美のことは聞いてるよ。これがお前達の子か…」
「ああ…竜太ってんだ。明美の奴、赤ん坊と入れかわりだった。」
「まァ乗れ…つもる話も、いっぺえあんべえ…」
そう言って、明智は、パトカーを指差した。
「いいよ…明日でもゆっくり遊びに行くから!」
「ばかやろ――っ、あんな派手なケンカやって帰れると思ってんのか。
一晩 泊まりだ、いいから乗れ…ほら…」
金太郎の背中を押して、パトカーに乗せる明智。
パトカーの周りにいた野次馬達が、散り始める。
すっかり忘れられている、血だらけの課長と、その部下。

ヤマト建設と書かれた 大きなビル
朝、たくさんの社員が、出社して来る。
人事課
「おはようございます。課長、今日ですよ、例の新入社員が来るのは…」
金太郎の履歴書を、人事課長に見せる社員。
「うむ…」
「一体どうなってるんですか?私には、さっぱりわかりません。
何かあるんですか?課長はご存知でしょう?」
「私にも、さっぱりわからん…九州支社採用で、本日より本社勤務ということだ…
支社採用なんてことも前例がないし、すぐに本社へ上がってくるなんてな…」
「見てください、この履歴書…江田川工業高校中退ですよ…
両親は不明…他は何もわかっていない…こんな人物が、なぜ、
前例のない中途採用になったのか…」
「私も、人事担当の神永専務に聞いてはみたが、はっきりせんのだ…
上の方が、何か煮えきらん。もっと上の方でワケありの人物かもしれんぞ、今井君…」
「もっと上って、社長…いや…会長…?」
「とにかく、しばらく様子を見よう、あまり詮索せんほうが無難かもしれん…」

窓の景色からみて、ビルのかなり上の方にあるとみられる広い部屋
ソファーで、話をしている2人の男。
「たしかに会長こそが、我社の創設者にまちがいありません。
しかし、ヤマト建設は、すでに住宅建設業界では、トップ3にランクされる一流企業です。
株主総会で取り上げられれば、会社の私物化とつつかれることにもなりかねないのではないかと…」
汗びっしょりで、一人の男が言った。
「フン…」 立派なひげをたくわえた、もう一方の男は、ヤマト建設の会長らしい。
「サラリーマンとは、何ぞ…?いつから大学を出なくてはならなくなった?
いつから背広姿と決められたのだ。
いつから減点法によってしか、勤務の評価をしない様になった。
なぜ、こんなにも周りを気にして不自由になった。
なぜ、つまらん規則で自分たちの首をしめ続けるのだ。」
「お言葉ですが、これをごらん下さい…」
汗びっしょりの男は、会長に、一枚の写真を見せた。
「矢島金太郎君の、三年前の写真です…」
特攻服、剃り込みの入ったリーゼント、細い眉に鋭い目…
いかにもワルですと、言わんばかりの写真だ。
「くれぐれも、今回のことは、会長の遊びということで…」
「わかっておる…どっちにしても、サラリーマンなぞ一ヶ月も、もちゃあせん…」

会社の玄関先、先ほどの三年前の金太郎の写真と同じような格好の男たちが、
集まっている。『八州連合』と書かれた大旗をはためかせ、どこから集まって来たのか、
その数は、並大抵の暴走族ではない。
そこへ、玄関から、さっそうと現れた一人の女性。
「どこかへ行きなさい!!ここは、あんた達みたいのが来る所じゃないわ。
すぐに車を動かしなさい!!私は、ヤマト建設秘書課、桜井京子!!
動かなければ、警察に電話します!」
「すまねえな姉さん…こっちも大事な取り込みなんだ、すぐ終わる…勘弁してくれ。」
その時、一台のパトカーが、やって来た。
「来たぁ――っ、金ちゃんだ!」 「まちがいねぇ――っ」
「金ちゃん!!」 「大将ォ!!」
全員が、嬉しそうにパトカーに走り寄って行く。
赤ん坊を背負った金太郎は、パトカーから降りると、やはり嬉しそうに男たちを見回した。
「いよ――っサブ!」 「オッス」 「光夫か、変わらねえな。」 「オッス!」
「松田もいるじゃねえか。」 「オッス!」
「しかし、おめえら、まだそんな格好してんのか?」
わっはははは…大笑いする男たち。
「とんでもねえ、わしら、もう引退したっスよ。でもね。」
「金ちゃん迎えるにゃ、やっぱこれっきゃないっしょ!」
その中の一人が、横に立っている明智に尋ねた。
「しっかし本当スか明智さん、何で金ちゃんが、こんな超一流会社の
サラリーマンになれんスか?」
「知らねえ…しかしよ、どうやらマジだぜ、こりゃあ…」

金太郎は、改めて男たちを見回すと、こう言った。
「よく来てくれた、俺らぁ一生マブダチだぁ――」
うお―――す!!
うれし泣きをしながら、頭を下げる男たち。
それを、黙って見ている桜井京子。


― 第1話 終わり ―


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