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幻想魔伝
最 遊 記


― TV 第一話 はるかなる西へ ―

天地乱(いりまじ)る混沌の時代
人と妖怪とが共存を果たす 平和の地が在った
文明と信仰の源  桃源郷
しかし 今 この世界をマイナスの波動が駆け抜け
妖怪たちは 暴走を開始した
桃源郷より はるか西域にある天竺では
そんな妖怪たちを掌握する者がいた…

長安

立派なお寺の庭園
一本の木の下に、たくさんの僧たちが集まって、木の上を見ている。
「こら、降りてきなさい!」
「その実は、お主のようなゲセンの者が、食ってはならん!」
木に登って、桃の実をほおばっている孫 悟空。
(しかし、絵本に出てくるような猿ではなく、人間の少年に近い風貌)
「うっせーなぁ、いいじゃん!たくさんなってんだから少しくらい!」
悟空は、種を、僧の足元にホキ出した。
「どうした?騒々しい…」
そこへやってきた玄奘 三蔵。
(こちらも、ありがたいお坊さんというより、金髪のロッカーが袈裟をまとっている感じ)
「三蔵様、何とかしてください。あなたのお連れが…」
「観世音菩薩様へのお供物であるバントウの実を!」
三蔵は、そう言った僧の襟をぐいっ!と掴み
「お連れだぁ?好きで連れてるわけじゃねえ!」
と、睨み付けた。
「し、しかし…」
「おい!悟空!食ったら行くぞ!」
「どこへ?」
悟空は、あっという間に木から飛び降り、歩き出した三蔵の背後についた。
「ね?どこへ連れてってくれるの?ね?レストラン?!」
後ろから、ちょこちょこと、右に左に顔を出す悟空。
三蔵は、振り向きざま、悟空の頭を、ハリ扇で思いっきり殴った。
「この!バカ猿がぁぁぁ!」
「いって〜、何しやがんだよ!」
「何じゃねえ!さっさと着替えて来い!!」
今度は、悟空の頭を踏みつける三蔵。
「四の五の言うなら、おいてくぞ!」
「わかったよぉ…」
それを見ていた僧たち
「毎度毎度、困ったものじゃ…三蔵様ともあろうお方が、なぜ、あのような無頼の者を
拾ってこられたのか…」
「まったくですなぁ…」
それを、横目で睨む三蔵、…カタマる僧たち。
「陰口なら、聞こえないように吐くんだな…何を拾おうが捨てようが、俺の勝手だ。」
悟空が、また、ちょこんと後ろから、覗き込んで言った。
「三蔵!何か拾ったのか?」
「うるさい!死にたいか?!」
(フン、なぜ拾ってきたかだと?そんなの俺が聞きてーよ。)

― 三蔵の回想 ―
岩山の牢の中で、鎖でつながれている悟空。
牢の外から、声をかける三蔵。
「おい!俺のこと、ずっと呼んでたのはお前か?」
「えっ?…オレ、誰も呼んでねぇけど…あんた、誰?」
「嘘だね、俺には、ずっと聞こえてたぜ…うるせえんだよ…いい加減にしろ。
来い…連れてってやるよ…しかたねぇから…」
三蔵が、牢の方へ手を差し伸べると、悟空の手首の鎖が、消えてゆく…。
― 回想 終わり ―

「待ってよぉ!」
歩く三蔵の後ろから、またちょこちょこ左右に顔を出してついて来る悟空。
「なぁ三蔵!どこへ行くんだよぉ?なぁ、三蔵!なぁなぁ!おい!三蔵ってばよ!」
「それ以上騒ぐと、ブッ殺すぞ!!」
「どこに行くかくらい、教えてくれたっていいじゃんか!」
「八戒と悟浄に会う…それから…」
「それから?」
夕陽に向かって立つ二人。

町の酒場
店内は、たくさんの客で賑わっている。
一つのテーブルで、ポーカーをやっている男二人。
一方の男の周りには、女たちが群がっている。
「頑張ってぇ〜悟浄!」
「また勝ってぇ〜!!」
女たちに囲まれている方が、沙 悟浄だ。
(言うまでもないが、河童ではなく、ワインレッドの長髪の暴走族といったところか)
「そうはいかねぇ!ツーペアだ!ジャックとキングのな。へっへっへっ…」
「偶然だなぁ、俺もツーペアだぜ…」
カードを、テーブルに広げる悟浄。
「クィーンのペアと…クィーンのペア…おっと、これってフォーカードっつうんだっけ?」
「…クソー!持ってけ泥棒!ちっしょー!!」
「わりぃな、蒼髭、俺は人一倍女運があって、クィーンがよく集まんだ…」
すると、相手の男の容姿が豹変し始め、恐ろしい妖怪となって悟浄に襲い掛かってきた。
「おい!よせ!」
(完全に正気を失っている…いったいどうしたってんだ?)
狂暴化した妖怪男は、今度は、女たちを襲い始める。
「やめろっつてんだろ!!」
悟浄のこぶしが炸裂、男は、窓を破って、店の外へ吹っ飛んだ。
ドアから、錫杖を持って悟浄が出てくる。
「まだやるのか?今度は、手加減しねーぞ。」
男に、やめる気配はない。
「そうか…しかたねぇなぁ…」
悟浄は、そう言ったかと思うと、一瞬で、男を錫杖で貫いた。
男は、影も形も無くなってしまった。
「あ〜ぁ、いいカモだったのになぁ…」

森の道
一台のジープが、走っている。
運転しているのは、猪 八戒。
(ご想像の通り、豚ではない。片目にレンズを付けた、実直そうな好青年)
「ひどい霧ですね…白竜!フォグランプ!」
「キュー…」
鳴き声と共に、ジープのフォグランプが点いた。
その時、突然、ジープの前に、子供が飛び出してきた。
慌てて急ブレーキをかける八戒。
「間に合わない!白竜!戻れ!!」
「キューーーーーウ!」
次の瞬間、ジープは消え、その代わりに、白い翼をもった竜が、八戒の横を飛んでいる。
「大丈夫ですか?…君は…」」
八戒が、子供の方を見ると、その子の耳と爪が、とがっていることがわかった。
つまり、妖怪だということ。
けれど、八戒は、にっこりと笑ってその子に言った。
「どうしました?親御さんと、離れてしまいましたか?僕は八戒、君は?」
「うぅぅぅぅ…!」
その子は、八戒を睨みつけてうなり声をあげている。
「どこか痛めましたか?大丈夫ですか?」
と、突然、その子が、八戒に襲い掛かってきて、腕に、思い切り噛み付いた。
しかし、痛みをこらえながら、八戒はやさしく笑った。
「怖がることはありませんよ…僕も君と同じ…ちょっと違うかもしれないけど、
まぁ、似たようなもんですから…」
それを聞いて、その子は、八戒の腕を放した。
「さぁ、もう遅いから、お家へお帰り…」
帰るのかと思われたその子だったが、今度は、ジャンプして、
八戒の頭上から襲ってきた。
それを、難なくよける八戒。
(これは、自分を無くしてしまっているようですね…)
「白竜!!」
白い小さな竜は、再びジープに姿を変えた。
それに乗って辺りを見てみると、いつの間にか、たくさんの子供の妖怪が集まっていて、
行く手をふさいでいるではないか。
「(にっこりして)今日は、学校はお休みなんですかね…(厳しい顔になって)
でも、残念ながらお兄さんは急いでるから、いっしょに遊んであげられないんですよ!」
八戒は、ジープをバックさせてUターンし、その場から走り去った。
(不吉な匂いがしますね。これが元凶ってやつですか…)
「厄介なことに、なりそうですよ。どうします、白竜?」
「キュウ…」

一夜明けて、森の中
三蔵と悟空が歩いている。
「あ〜腹減った…三蔵、まだ着かねーの?腹へって動けねーよー!」
どっかり地べたに座り込む悟空。
「なぁってばー!」
「やかましいわっ!」
三蔵のハリ扇が飛ぶ。
「もう少しで着くだろっ!歩け!バカ猿!!」
「やだ!オレ、もう一歩も歩けねぇ!飢え死にしちまうよ〜」
「ったく…普段は、殺しても死なねーくせに…」
「オレ、充電式なんだもんっ!」
「威張んな!」
「だからぁー、八戒に、白竜で迎えに来てもらえばよかったじゃんかよーっ!」
「うるせぇな、さっさと歩け!」
悟空の頭に、何発も蹴りがはいる…。
「だいたい、何で急に、悟浄と八戒に、会いにきたんだよー?」
「…確かめたいことが、あるんだ…」
「確かめたいこと?」
「昨日、俺は、長安の斜陽殿の三仏神に呼び出された…」

― 三蔵の回想 ―
長安 斜陽殿
「北方天帝使 玄奘三蔵 参上いたしました。」
巨大な水槽で出来ているスクリーンの前に、跪く三蔵。
その水槽に浮かび上がる、三つの大きな顔…。
それが、三仏神だ。
『よく参ったな、玄奘三蔵…事は一刻を争う…急いてすまんな。』
「…いえ…」
『既に知っておろう?この世界を侵食する異変について…
西方から東方へ…今や、その被害は桃源郷全土に渡る…
全ての妖怪における、突然の狂暴化…及び自我の喪失…』
「いかにも…今や人間は、妖怪に怯えながら、死と隣り合わせの恐怖の中で
日々を生きております…桃源郷とは名ばかり…さながら地獄絵図の様
一体、何が元凶にあるのでしょうか?」
『…そなた、牛魔王を知っておるか?』
「牛魔王!!人間との共存を拒み、欲望のままに人を喰らったという…
あの、大妖怪でございますか?」
『…さよう…』
「しかし、牛魔王は、はるか五百年の昔、闘神・ナタク太子により、西域の
天竺国・吠登城に葬られたと、聞き及んでおります。」
『…その牛魔王が、今、何者かによって蘇生されようとしている…
しかも、禁断の汚呪とされている化学と妖術の合成によって…』
― 回想 終わり ―

「禁断!?何で…?」
悟空が、三蔵に尋ねた。
「…何が起こるか、解らないからだ…」

― 再び 三蔵の回想 ―
三仏神は、続けた。
『元々、化学と妖術は、相入れぬもの…人間との交わりがタブーとされているように、
あらゆるバランスを崩す、マイナスの波動を発することになる…』
「それが此度の、妖怪たちの狂暴化の原因であると言うのですか?」
『…おそらく…』
うつむく三蔵に、三仏神は最後にこう言った。
『玄奘三蔵よ、そなたに命ずる!そなたが過去を共にした、悟空・悟浄・八戒を連れ、
全ての元凶である、西域、天竺国へ向かえ!!
そして、牛魔王蘇生実験は、何者によって、何のために行われているかをつきとめよ…
牛魔王蘇生を、阻止するのだ!
妖怪の自我を呼び戻す為に…
平和と安穏の地、桃源郷を取り戻す為に…!!』
「……御意!」
― 回想 終わり ―

「う〜〜ん…えぇーっと…つまりぃ…何でもいいから、オレ達が、その天竺って所へ行って、
牛魔王の実験を、止めさせりゃぁいいんだろ?楽勝じゃ〜ん!」
悟空は、能天気に笑って言った。
「ハ〜ァ…お前ねぇ…」
頭を抱える三蔵。
「楽勝!楽勝!だったら、早いとこ出かけようぜ!」
「あのなぁ…!」
「ンで、悟浄と八戒に、確かめたいことって?」
「それは…」
「カサッ」木の葉のかすかな音…!何者かの気配に、気づく二人。
すると、突然、二人の頭上から、狂暴化した妖怪が二匹襲いかかってきた。
「如意棒ーーーーっ!」
悟空は、如意棒を伸ばして振り回す。
「うりゃぁぁぁぁぁー!!」
一匹は、悟空の如意棒に突き飛ばされた。
三蔵は、妖怪の攻撃を難なくかわし、
「遅いな…」
と、つぶやき、妖怪の背後に、あっという間に回りこむと、背中から突き飛ばし、
倒れた妖怪に、拳銃を突きつけた。
「動くな!!」
「バカめ、我ら妖怪が、拳銃などで倒せると思っているのかぁ!」
「…バカはお前だ。これは、ただの拳銃じゃない。」
銃を構える三蔵。
「妖怪退治用の、昇霊銃だ…死ね!」
「まっ、待ってくれ!」
三蔵が、引き金を引くと、妖怪は、跡形も無く消え去った。
「…あの世で、修行し直してくることだな…」
「三蔵!」
悟空の声に、周りを見ると、おびただしい数の狂暴化した妖怪たちが、
三蔵と悟空を、取り囲んでいる。
「ま、まさか、こいつら全部…!?」
「牛魔王に寝返った、妖怪どもだ。」
妖怪たちは、口々に
「人間だぁ…」「喰え…」「喰ってしまえ!」
などと言いながら、迫ってくる。
「チッ!…油断したな…」
「目が、イッちゃってるよ…」
その時、鎖鎌が飛んできて、妖怪の一束を木っ端微塵にした。
「やっと見えてきたぜ…この世界に何が起こってンのかも、
何故、俺達じゃなきゃダメなのかもな!」
声の方を見ると、崖の上に悟浄と八戒が、立っている。
「悟浄!八戒!」
悟空が、うれしそうに叫んだ。
「お久しぶりです!」
にっこり微笑む八戒、そして、悟浄と共に、崖から飛び降りた。
「元気にしてたか?生臭ボーズにバカ猿!」
さっそく、憎まれ口をきく悟浄に、悟空が喰ってかかった。
「バカ猿って呼ぶなよ!この、エロ河童!」
「じゃあ、アホ猿か?あぁ?」
「アホ猿でもねぇ!」
「んだ?、ミニか?ミクロか?マクロか?」
「ハハハ…まぁまぁ…」
二人のやり取りを、笑って見ている八戒。
頭を抱えてうなだれる三蔵…そして、八戒に尋ねた。
「なぜ、ここが判った?」
「悪質な妖気を、大量に感じたもので…どうやら、今、この桃源郷で、
自我を保っている妖怪は、僕と、悟浄と、悟空だけのようですね…」
「ふい打ちィィィィ!!」
妖怪が、悟浄の後ろから襲ってきた。
「へぇ…」
悟浄は、ニヤッと笑うと、その妖怪の顔面をわしづかみにし、握りつぶした。
粉々に砕け散る妖怪。
「ぶわーか!二億年早ェよ。あ、もう、聞こえねぇか…」
今度は、八戒の背後から襲い掛かる妖怪二匹。
「白竜、ここは危ないからね…」
と、白竜に話しかけながら、八戒は、ジャンプ一番、空中回転でかわし、
逆に妖怪の後ろに回り、波動拳をお見舞いした。
妖怪は、あっという間に大破。
悟空が、その威力に驚いて言った。
「八戒!いつの間に、そんな技を?!」
「今、初めて使ってみたんです、見よう見まねで…。いやぁ、結構、出るもんですねぇ?」
「…出ねぇよ、普通…」
残っている妖怪たちは、様子をみていたが、その中に、八戒の耳や悟空の頭に
ある物を見つけた者がいた。
「見ろ!あのカフスと金環を!!」
「妖力制御装置…!」
「貴様ら三人は、妖怪だな?!」
「なぜ、我々に背くのだ!?」
「教えてあげようか?」
悟空の言葉に、三人は一斉に飛び上がり、声を合わせて、こう言った。
「生きてたらな!」
「うぎゃぁぁぁぁーーーー!!」
三蔵は、それを見ながら、三仏神の言葉を思い出していた。

―三蔵の回想―
「三仏神様、ひとつだけ、お聞きしたいことがございます。何故、妖怪である
あの三人を、ご任命なされたのですか?」
三蔵の問いに、三仏神は答えた。
『彼らは、確かに妖怪だ…しかし、人間でもある。だから、マイナスの波動を受けずに、
自我を保っていられるのだ。
それは、玄奘三蔵…全てを見てきた、そなたのよく知る処だろう。
…皮肉なものだ、己々の過去のキズ跡が、そなたらをつなぐ
蜘蛛の糸に、なろうとはな…
妖怪に拮抗しうる力と…そして精神力。彼らは、我々に残された
最後の切り札なのだ!』
「…確かに、彼らの実力は認めます。しかし、その体内に妖の血が流れる限り、
いつ何時、その血が勝り、我々に牙をむくやもしれません。そのような輩を
信頼することは、自殺行為と思われます。」
『…本音にせよ、建前にせよ、事実には変わりないな。
玄奘三蔵よ…実は、妖怪であるあの三人を、供として任命なされたのは、
天界におわす、観世音菩薩様なのだ!』
「観世音菩薩…」
三蔵の心の中によみがえる記憶…
幼い三蔵…その目の前に血だらけで横たわる僧の死体…
僧の手には、ちぎれた数珠が握られている…
三蔵は言った。
「畏れ多くも、私が、この世で信じられるものは、己のみでございます。
かけがえのない物を、失くしたあの時から…それは、変わっておりません!」
『…では、三蔵、そなたは、己が心の眼を信じれば良い。』
「…心の…眼?」
『今一度、彼らに会って、その眼で確かめるがいい。そなたに今、必要な物は…
信じるべき物は、なんなのかを―』
― 回想 終わり ―

「最強最強!!」
悟空と悟浄は、パチン!と、手を合わせた。
それを見ている三蔵。(信じるべき物…か…)
大方片がつき、立ち去ろうとする悟空の足を掴んで、まだかろうじて生きていた妖怪が言った。
「…まて…我らが同胞…無力で傲慢な人間の肩を持つ裏切り者どもよ…
貴様らの居場所は、そこではないはずだ…今一度、考え直すがいい…
我らとともに、となえようではないか…妖怪国家万歳ィィ!!」
「バーカ!!」
三人の一撃で、砕け散る妖怪。
煙草をくわえて、悟浄が、あきれたように言った。
「フンッ!つまんねェコトほざきやがるぜ…人間の味方だぁ?」
悟空が、続ける。
「ヘェッ!オレは、生まれてから死ぬまで、オレだけの味方なんだよっ!」
三蔵は、三人をじっと見つめている…(己が眼を信じよ…か)
「悟空!」
「んっ?」
「悟浄!」
「あン?」
「八戒!」
「…はい」
「…行こう!…西だ!」
三蔵の指差した西の空は、夕陽で、燃えるように赤く染まっていた。


― 第一話 終わり ―

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