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最  遊  記

コミック 壱

― 序章 Go to the West  ―


岩山に、封印の御札がびっしりと貼られた牢がある。
その中で、鎖につながれている 孫 悟空。
(外見――人間の、かわいらしい少年。猿ではない)
「…おい、俺のこと、ずっと呼んでたのは、お前か?」
牢の外から声をかける、玄奘 三蔵。
(外見――金髪のロッカー、袈裟を着ていなければ、僧には到底見えない)
「俺…誰も呼んでねェけど…あんた誰?」
「嘘だね、俺にはずっと聞こえてたぜ。うるせーんだよ、いい加減にしろ
…だから、連れてってやるよ…仕方ねーから」
三蔵が、手を差し伸べると、悟空の手首の鎖が、不思議と切れる。

天地乱(いりまじ)る混沌の時代――
人と妖怪が共存を果たす 平和の地が在った
そこはまさに 文明と信仰の源
『桃源郷』と 呼びなわされていた…

森の中
「…おい三蔵、まだ着かねーの?腹減って動けねーよーっ!!」
どっかりと座り込む、悟空。「なーってばあ」
その頭を、ハリ扇で張り飛ばす、三蔵。「やかましいわっ!!」
「いてっ」
「ったく…普段は殺しても死なねークセに」
「俺、充電式なんだもん」
「イバんなッ」
「やっぱ八戒のジープで、迎えに来てもらえば良かったじゃんかよ―!!」
「うるせーなッ、もう少しで着くだろ、歩けバカ猿!!」
ガンガン悟空の頭を、蹴りまくる三蔵。
「大体、なんで急に、悟浄と八戒に、会いに来たんだよ?」
「…確かめたいことがあるんだ…」

五日前―
長安・斜陽殿
「北方天帝使 玄奘三蔵 参上致しました。」
大きな水槽で出来たスクリーンのようなところに、三つの大きな顔が
映し出されている。その前に、跪く三蔵。
その巨大な顔が、静かに語り始める。
『よく参った 三蔵 事は一刻を争う 急いてすまんな』
「――いえ」
『既に知っておろう この世界を侵食する異変について
西方から東方へ…今やその被害は 桃源郷全土に渡る
全ての妖怪における突然の狂暴化…及び 自我の損失』
「いかにも、今や人間は、妖怪に怯えながら、死と隣り合わせの恐怖の中に
日々を生きております…桃源郷とは名ばかり…さながら地獄絵図の様
一体、何が元凶にあるのでしょうか?」
『そなた 牛魔王をしっておるか』
(牛魔王――五百年の昔、闘神・ナタク太子により、天竺国・吠登城に
葬られた大妖怪。人との共存を拒み、私欲のままに、人を喰らったという)
『――その牛魔王が 何者かによって、蘇生されようとしている
しかも 禁断の汚呪とされている 化学と妖術の合成によって―』

悟空「禁断?――なんで?」
三蔵「何が起こるか、解らないからだ」

巨大な顔―三仏神は、続けた。
『元々 化学と妖術は相入れぬもの――人間と妖怪の交わりがタブーとされているように
あらゆるバランスを崩す マイナスの波動を発することになる
玄奘三蔵よ そなたに命ずる そなたが過去を共にした
悟空・悟浄・八戒を連れ 西域・天竺国へ向かえ
牛魔王蘇生を阻止し…妖怪の自我を呼び戻すために
桃源郷を 取り戻す為に』
「御意…!!」

先ほどの森
「えーと…つ―ま―り―俺達でそこへ行って、実験止めさせりゃあイイんだろ?
楽勝じゃん!!」
悟空の言葉に、頭を抑える三蔵。
「はーっ…お前ね…いー性格…」
「――で、悟浄と八戒に、確かめたいことって?」
「…!それは…」
「ガサ」木の葉のかすかな音に、身構える二人。
突然、空から飛び降りてくる妖怪二匹。
「如意棒ッ!!」
悟空は、如意棒を伸ばし、妖怪の攻撃を受けると
「うらあぁぁ!!」
と、そいつを弾き飛ばした。
三蔵は、次々繰り出してくる妖怪の攻撃を難なくかわし、
さっと妖怪の後ろを取ると「遅いな」と、背中から打ちのめした。
しかし、三蔵と悟空は、いつの間にか、おびただしい数の妖怪達に
囲まれてしまっていた。
「ま…まさか、こいつら全部…!?」
「牛魔王に寝返った妖怪どもだ―― チ、油断したな…」
妖怪達は、ジュル…とよだれを啜っている。
「…人間だ」「人間だ!」「喰ってしまえ!!」
その時だった。
何かが飛んできて、妖怪達の体を、あっという間に切り刻んでしまった。
飛び散る、妖怪の首や、腕。
「!!??」
飛んできたのは、錫杖の先に仕込まれている鎖鎌――
「…やっと、見えてきたぜ。この世界に何が起こってンのかも、
何故俺達でなきゃ、ダメなのかもな!」
その声は、錫杖の持ち主 沙 悟浄だった。
(外見――ワインレッドの長髪のヤンキー。河童ではない)
「よっ!生臭ボーズにバカ猿っ」
そして、その隣には、白竜を肩に乗せた 猪 八戒。
(外見――片目にレンズをつけた優しいお兄さん。豚ではない)
「お久しぶりです!」
二人を見て、喜ぶ悟空 「悟浄!八戒!!」
しかし、すぐ、悟浄に食ってかかった。
「バカ猿って呼ぶなよ、このエロ河童!!」
「じゃ、チビ猿か?ああ!?」
「あははは…まあまあ」笑って見ている八戒。
頭を抱える三蔵…そして、八戒にたずねた。
「何故、ここが判った?」
「悪質な妖気を、大量に感じたもので――どうやら今、この桃源郷で自我を保っている妖怪は
僕と、悟浄と、悟空だけのようですね…」
突然、悟浄の後ろから「ふい打ちイイイ!!」と、襲い掛かる妖怪。
「へえ」悟浄は、ニイと笑うと、そいつの顔面を、右手一本で捻り潰した。
「ぶわーか、二億年早エよ。あ、もー聞こえないか…」
今度は、八戒の背後に、二匹の妖怪が忍び寄る。
「弱そうな奴から狙え!!(ちょっとセコイけど)」
その二匹を空中回転でかわし、「はッ!!」と、波動拳をぶつける八戒。
「うぎゃああああ…」
二匹の妖怪は、影も形も無くなった。
「いやぁ、見よう見まねで出るもんですね――波動拳」
頭をかく八戒の後ろから、「出ねーよ」とツッこむ悟空。
その妖怪の中に、あることに気付いた者がいた。
「――あのカフスや金環は…妖力制御装置!貴様ら三人は妖怪だな?」
八戒「…?」
悟空「べー」
悟浄「るせーよ」
「何故…何故我々に背くのだ!?」
「教えてあげよーか?」
悟空の一言で、一斉にジャンプする三人。
「生きてたらなッ!」
三人の攻撃が、炸裂!
「うぎゃぁぁぁぁ!!」
跡形もなく吹っ飛ぶ妖怪達。

五日前の斜陽殿
「――三仏神様、ひとつだけ、お聞きしたいことがございます。
何故、妖怪であるあの三人を御任命なされたのですか…?」
三蔵が、三仏神に尋ねた。
『彼らは確かに妖怪だ…しかし 人間でもある だから マイナスの波動を受けずにいられるのだ
彼ら三人だけが――…それは三蔵 全てを見てきた そなたの能く知る処だろう
…皮肉なものだ 己々の過去のキズ跡が そなたらをつなぐ 蜘蛛の糸になろうとはな
妖怪に拮抗しうる力と――そして精神力 
彼らは 我々に残された 最後の切り札なのだ』
「…確かに彼らの実力は認めます。しかしその体内に妖の血が流れる限り
いつ何時、その血が勝り、我々に牙をむくやもしれません。
そのような輩を信頼することは、自殺行為と思われます。」
『…本音にせよ建前にせよ 事実にかわりないな』
「――畏れ多くも、私がこの世で信じられるのは、己のみでございます。
仏道に帰依する者として、不徳のいたす処ではございましょうが…
かけがえのない物を、失くしたその時から――」
三蔵の心に、幼い頃の記憶がよみがえる…まだ幼い三蔵の目の前に、
ちぎれた数珠を握り締めた、ズタズタに切り裂かれた死体が横たわっている…
『――では三蔵 そなたは 己が心の眼を信じれば良い』
「心の眼…?」
『今一度 彼らに会って その眼で確かめるがいい
そなたに 今 必要なものは 信じるべきものはなんなのかを――』

三蔵は、今、目の前で、次々と妖怪達を倒している悟空・悟浄・八戒を
見ながら、五日前の 三仏神の言葉を思い出していた(信じるべきもの…?)
「最強最強――」
パン!と、手を合わせる悟空と悟浄。
「…待て…我らが同胞…」
倒れていた妖怪が、悟空の足をつかんで、三人に言った。
「無力で傲慢な人間の肩を持つ、裏切り者どもよ。
貴様らの居場所は、そこではないはずだ。今一度、考え直すがいい
我らとともに、となえようではないか――妖怪国家万歳ィィ!!
ぎゃはははは…!!」
が、立ち上がったと思ったのもつかの間、三人の一撃で、
グシャ!と、潰されてしまった。
悟浄が、八戒と悟空を引き寄せて、吐き捨てるように言った。
「…つまんねぇコトほざきやがるぜ。人間の味方だ?ハ!
――俺は、生まれて死ぬまで 俺だけの味方なんだよ」
それを見ている三蔵(己が眼を信じよ…か)
そして、夕陽の沈みかけた空を指差した。
「――行こう、西だ!!」

天竺国・吠登城
「――紅孩児様、東方で動きが…」
「――判っている 邪魔はさせんさ」
部下の言葉に、鋭い目つきで答える紅孩児。
「明朝までに足を用意しろ、東へ向かうぞ!ドクガクジ、ヤオネ、ついて来るか」
「御意!」
紅孩児は、封印の御札でがんじがらめの柱を見つめた。
その柱に、封印されている女が見て取れる。
「――母上、貴女の為に…!!」

西と東――
それぞれが動き出す
陽が出づる場所へ…
陽が沈む彼方へ…

山間の道
八戒の運転するジープに乗っている三蔵、悟浄、悟空。
三蔵「…おい…」
悟空「あっ、よっちゃんイカ当たった!」
悟浄「おっ、スゲェ!!悟空、ビールとって、ビール…」
三蔵「遠足じゃねーんだぞ、貴様らァ!!!」
八戒「あれ?そうでしたっけ?(ニコニコ)」
三蔵「…ま、似たようなモンか……」
ブロロロ……西に向かって走って行くジープ…


― 序章 終わり ―

 

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