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地獄先生 ぬ〜べ〜

第1巻

― #1 九十九(つくも)の足の蟲 の巻 ―


この世には 目には見えない闇の住人たちがいる
奴らは ときとして牙をむき 君達を襲ってくる
彼は…そんな奴から 君達を守るため 地獄の底からやってきた―
正義の使者 ―なのかもしれない…

ぬ〜べ〜、かっこよく水の中から登場!
― しかし、そこは水道工事中のドブだった…
情けない顔を、ドブから半分出して、「はじまるよー」 と、手を振るぬ〜べ〜。

童守小学校、校門
「それでは先生、息子をよろしくお願いします。」 校長先生に、頭を下げる父。
「んーここが、俺の通う学校なわけね。うん、なかなかのもんでないの!あんたが校長?俺、立野 広!よろしくな!」
校長先生の肩を、ポンポンたたき、「あはははは…」と、笑う広。
「こっ、こら、広!」 父はアセって、ペコペコ…。
(…しかし、信じられんな…こんな明るい子が…
超問題児だなんて…)
校長先生は、そう思いながら、広を連れて校舎に向かった。
「ねーねー、それでさー!俺の担任って、どんな先生?やっぱさー!どーせなら美人の女の先生がいいよねー!
やさしくてスタイルが良くて、水泳の時間なんかTバックの水着きたりして…」
― 広の頭に浮かぶ、Tバック水着の女の先生。
おや、校庭の一角が、なにやら騒がしい。
「何の騒ぎだね?」 校長先生が、回りを取り囲んでいる子供たちに尋ねた。
「あ、校長先生、ぬ〜べ〜が、除霊しているの。」
「いーぞー!ぬ〜べ〜!悪い霊なんか、やっつけろー!」
(じょ…除霊…?) 広が見ると、男の先生が、鉢巻にろうそくを立てて、数珠と経本を振り回している。
「南無大慈大悲救苦救難広大霊感!はァ――っ
悪霊退散――!」
(なっ、なんだ、この先生は〜〜っ!?) 広、びっくり!開いた口がふさがらない。
「きけ〜い!音楽室の肖像画にとりつきし悪霊よ!夜になると、ギョロギョロ目玉を動かし、低学年の子供たちを
びびらせているそーだな…この、ぬ〜べ〜先生が、退治してくれる!
てえーい、悪霊退散ーっ!出てけーっ!成仏しろーっ!」
音楽室から持ってきたらしいベートーベンの肖像画を、バシバシ経本でたたくぬ〜べ〜。
「むむ〜っ、なかなか手ごわい悪霊だ〜っ。かくなるうえは、我が家に三億年前から伝わるこの霊水晶で…」
ぬ〜べ〜は、水晶玉を肖像画の前にかざし、経文らしきものを唱えた。すると―!!
ベートーベンの目の辺りから、黒い影が立ち昇り始めた!「あっ!黒い影!あ…悪霊が!?」
と、思ったら… 「なんか、こげくさくねーか?」
タダ単に、水晶玉がレンズになって、黒い部分がコゲただけだった…。
「穴が開いてしまった…修正しよう…」 紙に、くりくりおめめの絵を描いて、肖像画に貼りつけ…
「フーッ…これで、二度と目が動くことはないっ!」 と、ぬ〜べ〜、やれやれ。
どっか〜ん! 吹っ飛ぶみんな――
「なんだーっ!インチキ!」 「待てーっ!こらー」
「あははは、すまんすまん!」 みんなに追いかけられて、逃げるぬ〜べ〜。
(あ…あれが、俺の担任なのか…あんなマヌケなのか…) 広、くらっ…

5−3の教室
「と、ゆーわけでー、転校生の立野 広くんだ!」 ぬ〜べ〜に紹介される広。
「広と呼んでくれ、よろしく!」 ピース!
「ちなみに俺は、ごぞんじ鵺野 鳴介、ぬ〜べ〜と呼んでくれ、よろしく!」 ぬ〜べ〜、ずずいっ!と、前へ出る。
「先生が、転校生より目立ってどーすんじゃい!」 広、ツッこむ。
「ときに先生、今朝のさわぎは、なんだったの?」 「あー、あれはな…」
「霊能力よ!」 ひとりの女の子が、立ち上がって言った。
「先生は、日本でただ一人の、霊能力教師なのよ!」 長い髪を二つにしばった、かわいい女の子だ。
「キミは?」 「稲葉 郷子!先生とは、昔、となり近所だったから、よく知ってるの!」 ぶいっ!
「先生んちはね、近所でも有名な霊能力一家でねー、悪霊にとりつかれた!なんて子供がいると、
すぐとんでいって、除霊してくれたのよ!子供たちを守るため、命がけで悪霊と戦う、
正義の霊能力教師…それが、ぬ〜べ〜先生なの!」 郷子、力説!
「………はっ!何を言うかと思ったら!だまそーたって、そーはいかないぜ。」 なんてこったい?ポーズの広。
「うそじゃないよ!その証拠にね、先生…いつも左手に黒い手袋はめているでしょう?あれはね、
昔『鬼』と戦ったのが原因で、左手が『鬼の手』になっちゃったからなのよ…」
「左手が…『鬼』?――あははははは…ばかばかしい!左手に手袋してれば霊能力者だってんなら、
ジャンボ尾崎や、岡本綾子も霊能力者かい!?」 広、笑いすぎ…
「本当よ!有名な話なんだから!」
「はははっ、まぁ、信じる信じないは、個人の自由だしー」 頭をかくぬ〜べ〜。
「よかないわよ!クラスに一人でも信じない人がいるなんて!それじゃあ、多数決で決めましょう!
先生の霊能力を信じる人はこっち、信じない人はあっち、さあ別れて!!」
―― 郷子以外、全員『あっち』に行く。 バキッ!床に突き刺さるぬ〜べ〜。
「あんたたち、それでも先生の生徒〜〜!?」
「つったってなあ、先生の除霊、成功したの見たことないし…」 「でも、面白いから好きよ!」
あれこれと、勝手なことを言っているみんな。
「あ〜え〜ま〜いーでしょう、私は心が広いから!」 ひくひくひく…ぬ〜べ〜、無理な笑みを浮かべる。
「ひきつってるぜ、先生…」 また、ツッこむ広。
「ま、俺のことはこのくらいにして、転校生の広くんに、いっちょ特技でも見せてもらいやしょー」
(ぬ〜べ〜の心の中―おまえも恥かけ!)
「いいぜ!」 広は、サッカーボールを持って、自由自在にリフティングし始めた。
ポケットに手を突っ込んで…かっこいいったら、ありゃしない!
クラス中の視線を集めながら、最後にバケツにシュート!…決まった〜。
「おおおおお〜〜〜〜っ!」
「はははっ!さあて、旧校舎に出るという、花子さんの霊でも除霊するかな?」 鉢巻にろうそくのぬ〜べ〜…
「負けてるわよ、完璧にー」 今度は、郷子にツッこまれる。
「すごい!天才じゃない?広くん」 「サッカー部に入りなよ!」 「即、キャプテンだぜ〜」
みんなに囲まれる広…「いや…俺、部に入るつもりはないんだ…」
「なんでだよ、そんなにうまいのに!」 「そうよ、もったいないわよ!」
「絶対入るべきだよ!入らなきゃダメだ!」 「そーよ、宝のもちぐされじゃない?」
…っせーな!俺の勝手だろーが!!」 ガーン!と、ロッカーをなぐる広。
アゼンとするみんな… ロッカーの扉が、ゆがんでいる。
「はっ…い、いやその…俺、実はヒザ痛めててさ…治ったら…入るつもりだから…うん…」
そう言って広は、あわてて頭をかいた。
♪キーンコーンカーンコーン♪ 「あ!休み時間だ。」
「よーし、じゃ今日は、広くんの歓迎ドッヂ大会と、いこーか!!」 郷子の先導で、出てゆくみんな。
「…………」 (なにか、あるな…)という表情で、広を見ているぬ〜べ〜。

校庭で、楽しそうにドッヂボールをしている広たち。

それを、窓から見ているぬ〜べ〜。
「鵺野先生…どうですか?立野 広は…」 校長先生が、声をかけた。
「校長…明るくていい子ですよ…普段はね…しかし…」

「ぐっ!」 突然、突き飛ばされる広。 「なにすんのよ、いきなり!」 郷子、怒る!
「ヘッヘッヘッ…この場所は、俺ら6年の指定席なんだよ!」 「5年はどっか、すみっこでやってな!」
やってきたのは、6年生…しかし、みんな、長年、工事現場で鍛え上げられた現場監督バリの容姿?
胸に名札がなければ、6年生と気づく人はいないと、断言できる。
「なによ!あたしたちが先にとったのよ!大体あんたたち、小学生に見えないわよ!」 よく言った!郷子!
「うるせえ!女が出しゃばんじゃねーよ!」 郷子を、みんなで殴りだす6年。
ドクン…ドクン…顔を抑えていた広…「くっ…!」 手をはずすと、ものすごい形相に変わっている。

校長とぬ〜べ〜
「そう…たしかに普段の広くんは、明るくてやさしい子だ。しかし…ひとたび感情がたかぶると…」
「先生〜〜っ!」 子供たちの声!!
校庭で、6年生が、全員ボコボコにされている。なおも、すさまじい顔で、殴り続けている広。
「なにが6年だ、ふざけやがって!たった1年早く生まれたのが、そんなにえらいのか!!
女を殴るような卑怯者は許せねえ!ぶっ殺してやる!」 ドカッ!バキッ!
「広!何をしてるんだ、やめろ!!」 駆けつけてきたぬ〜べ〜が、広を羽交い絞めにする。
「殺す気か!?」 「はなせーっ!こいつら地獄に落としてやる!」 「広!!」
はっ!と、我に返る広……… 「また…やっちまった…」

病院
ぬ〜べ〜と、広、郷子をはじめ、クラスのみんなが、待合室にいる。
「…で…6年生たちのケガは…?」 「重症です。全員入院が必要ですな…」
ぬ〜べ〜とお医者さんが話しているその脇に、広が一人で座っている。
ひそひそ…(あいつ、ほんとはすげー不良なんじゃねーか?)
ひそひそ…(まるで夜叉みたいな顔だったわ…)
ひそひそ…(かかわりあいにならねー方が、いいな…)
クラスメートの話を聞いて、傷だらけの郷子が怒鳴った。
「なんてこと言うのよ!広は、私達のために戦ってくれたんじゃない!それを…」
「おぎゃあ、おぎゃあ…」
突然泣き出した、おばあさんに抱かれた赤ちゃん。 「おぎゃあおぎゃあおぎゃあ…」
「よしよし、どうしたんだろうね、この子は…突然泣き出して…」 不安な様子のおばあさん。
その赤ちゃんに、ぬ〜べ〜が、やさしく声をかけた。 「坊や、お手々を出してごらん?」
赤ちゃんの手のひらに指を置いて、「九十九の足の蟲、封じ込めます。アビラウンケンソワカ…」
と、ぬ〜べ〜が唱えると、赤ちゃんの手のひらから、ミミズのような物が、出てきたではないか!
プツン!ぬ〜べ〜が、それを摘んで取る。 「ほーら、もう大丈夫。」 ぴたっと泣きやむ赤ちゃん。
「おやおや、今どきお若いのに珍しいね、蟲封じが出来るなんて。」 おばあさんも、ニッコリ。
「先生、なにそれ…虫なの?妖怪なの?!」 驚く子供たち。
「九十九の足の蟲…いわゆるカンの虫ってやつだ。赤ン坊なんかにとりついて、意味もなくイライラさせるんだ。
こいつがとりつくと、人はわけもなくイライラして暴力的になる。家庭内暴力やヒステリー性など、コイツが原因で
あることが多い。手のひらや指先から出てくる、白い虫の様だが…れっきとした悪霊の一種なんだ。」
「ちょーだい、ちょーだい!!」 「珍しい!」 「おれにくれ〜」 「みせてみせてー」
「ははは…」 (最近の子は、ものおじしないな…) 半分あきれるぬ〜べ〜…ふと、広を見る。
一人、沈み込んでいる広… 「先生…どうしたらいいんだ。俺、いつも…こうなんだ。
怒ると、みさかいがつかなくなっちまう…前の学校のサッカー部でも、ちょっとしたことで言い争いになって…
顧問の先生まで殴っちまって…逃げるように転校してきた。この学校ではうまくやろうと思って…
サッカー部にも入らないようにしたのに、初日から、こんなことになるなんて…
また、転校しなければならなく…」
ポン!と、広の肩に手をやるぬ〜べ〜… 「そんな悲観的になるのは、おまえらしくないな。
そういう悩みを解決するために、俺たち教師がいるんだぜ?逃げたって何も解決しないよ…
明日、サッカー部の先生に話してみよう。」
「ぬ〜べ〜先生…」

夜、広の家
広が、ふとんに入って、寝ようとしている。
(そうだよな…転校したって同じこと繰り返すだけだよな…自分を変える努力をしないと…)
その時、広の手のひらから、九十九の足の蟲が!!しかも、頭の部分が大きく、たくさんの目玉が付いている!
『怒れ…』 それは、瞬く間に伸びて、広の全身に巻きついてきた!
『ヒャハハ…おまえは、怒りに呑まれるのだ!』
「うわあ――っ」 がばっ! 起きてみると、何もいない… 「ゆ…夢か…」

次の日、校庭で、土下座しているぬ〜べ〜と、その横に立つ広。
「蒲田先生、お願いです。立野をサッカー部に入れてやって下さい!」
ちょっとカバに似たサッカー部の蒲田先生…「鵺野先生…そんな土下座までしなくとも…」
「たしかに、立野は問題の多い生徒です。すでに6年生数人にケガをさせる事件を起こしています。しかし!!
根はとてもいい子なんです。先生、どうか広を…お願いします!!」
広 「先生…」 

そして――
広が、童守小のサッカーのユニフォームを着ている。
「広〜!がんばれー!」 「おう!まかせとけ!」
ぬ〜べ〜とクラスのみんなが応援する中、嬉しそうに走り出す広。
郷子が、左腕をぬ〜べ〜に見せて、「見て見て!夕べ、九十九の蟲でミサンガつくったの!」と、得意げ!
ぬ〜べ〜、ビックリ!
「でも、良かったね、広、サッカー部に入れてさ。」
「あいつは決して、不良でも問題児でもない。ただ、感情のコントロールがヘタなだけさ。
好きなことに打ち込めば、すぐ治る…」
― キック オフ!
水を得た魚のように、イキイキと走り回る広。
「なるほど、いい動きしてますね、スジがいい!」 「こりゃ、掘り出しものだ!即、レギュラーになれるぞ!」
蒲田先生たちも、広のプレーに、すっかりほれ込んだ様子だ。
(ぬ〜べ〜先生か、ちょっと頼りない感じだけど、いい先生だな…あの先生のためにも、
問題を起こさないようにしなくちゃ…) ボールを追いかけながら、広は、そう思っていた。
「ちっ、あの野郎、新入りのくせに、いい気になりやがって…」
「せっかくつかんだレギュラーの座を、とられてたまるかってんだ!」
技術でかなわないと見るや、わざわざ後から横から、ぶつかったりひじ打ちをしてくるサッカー部員たち。
しまいには、広の股間を思い切り蹴り上げる奴…! 「ぐうぅぅ…」 うずくまる広。
「新入りが!!デカいつらすんじゃねーぞ!」 「てめーは、校庭の隅で、ボールふきでもやってな!」
それを見ていたぬ〜べ〜 「い…いかん、広!!」
次の瞬間、ものすごい形相で起き上がった広 「
やめろおおおおお!
「広!!!」
ぬ〜べ〜が止める間もなく、広は、部員全員を血だらけのボコボコにしてしまった…。
「広…」 やがて、我に返った広…ボー然としている。
「なんということをするんだ!サッカーはチームプレイなんだ、キミのような者をいれるわけにはいかん!
出て行きなさい!!」 蒲田先生の言葉に、「ちくしょーっ」と、叫びながら走り去る広…。
「広!!待て、広、おまえには…」 ぬ〜べ〜の言うのも聞かず、行ってしまう。

「ハアハアハア…ちくしょう、どうしてこうなんだ…一生懸命努力してるのに…頭に血がのぼると、
もう何もわからなくなって…」 広は、傍らにあった柄付きブラシを振り回し、窓を割ってしまう。
「どうにでもなれ!俺みたいな暴力男は、どうせその内、人を殺して刑務所で死刑になる運命なんだー」
「いや、そんなことは…俺がさせない。」 後に立っているぬ〜べ〜。
「な…なんだと…?」
「昨日は、その場に居合わせなくて気づかなかったが…さっき、おまえが怒るのを見てわかったよ。
おまえには悪霊がついている!そいつが感情のコントロールを、失わせているんだ!」
「ふ、ふざけるな!なにが悪霊だ!霊能力なんてインチキのくせに!」
心配してついて来た郷子…「うそじゃないよ!『鬼の手』の話したでしょ!?」
「うるさい、黙れ!何が『鬼の手』だ、そんなもの、作り話に決まってる!本当だってんなら、
今すぐここで、みせてみろってんだ!」
「いいだろう、見せてやる。」 そう言ってぬ〜べ〜は、おもむろに、左手の手袋を取った!
「!!」 手首から先が… 「この手は『鬼』と戦った霊障で、この世のものではなくなった…見えないんだよ。」
驚く広…(そ…そんな…?手袋の上からは、感触があったのに…!?)
「どうだ?とりあえず一回だけでも信じてみないか?損はさせないと思うぜ。」 ぬ〜べ〜、にっこり。

体育館
空は、厚い雲におおわれ、雷が鳴り始める。
ぬ〜べ〜と、広と郷子…3人。
ぬ〜べ〜の手には、霊水晶…「いいか、除霊するとき大切なのは、何より、悪霊に負けない強い意志だ。
どんなことがあっても、決して取り乱すんじゃないぞ。」
「先生…俺…まだ半信半疑なんだよ…そんな霊なんてものがいるなんて…」
不安でイッパイの様子の広。
そんな広を、元気付けようとする郷子…「あたしは、信じてるよ!」
「かまわない。戦う意志さえあればね…さあ、はじめるぞ。」
穏やかだったぬ〜べ〜の顔が、その言葉を境に一変した!
カッ!と目を見開き、数珠を、手袋に隠した左手に握りしめ、呪文を唱え始める…
「南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音…立野広にとりつきし悪霊よ、我が前に姿を見せよ。」
すると、すぐに広の右手に異変が…
「せっ…先生―っ!む…虫が!?」 広の手のひらから、ミミズのような虫が!!
「悪霊よ!その姿を、
見せよ――っ!
ぬ〜べ〜の叫ぶのと同時に、一気に広の手からあふれるように出る悪霊!
さっきとは、比べものにならない太さと、そして長さ…体育館が、そいつで一杯になろうかというほどの大きさだ。
「こ…こんな化け物が、俺の中に…?」
「衷妖(ちゅうよう)…九十九の蟲が成長し巨大化した姿だ。これほど巨大なものは、初めて見た!」
ぬ〜べ〜も、いささか驚いたよう…そのうしろで、広と郷子は、怯えている。
そいつが、ぬっ!と、頭をもたげると、無数の大きな目玉と、恐ろしい口が現れた。
『ククク、誰だ、誰だ…俺様を呼び出した奴は?身の程知らずの生臭坊主か?』
「霊能力者、鵺野鳴介!立野広の担任だ。きさまに命令する!広から離れて、
おとなしくあの世へ帰るんだ!!」
『ケケケ…冗談じゃない、誰が帰るものか…その子の体は住み心地がいい…
気が満ちあふれているからな。」
「ふん…ならば、力ずくで除霊してやろう。」
『ククク…除霊するだとォ?きさまのような青二才が…この衷妖さまを…ククク…ふざけるな!!』
バシッ!突然、ぬ〜べ〜に、体をたたき付けた衷妖。
「先生!!」 「大丈夫…かすり傷だ。」
『ククク…怒りの気(エナジー)を吸収し、極限まで巨大化した俺の力…見るがいいーっ!』
衷妖は、ますます巨大化した頭を、体育館の天井にぶつけ、破壊し始めた!
「きゃああ〜っ!先生ー!」 抱きつく郷子と広を両手にかかえるぬ〜べ〜。
「騒霊(ポルターガイスト)現象だ、うっ積した感情の力を、一気に放出させたんだ!」
『ヒャハハハハ、見ろ!見ろ!この破壊力!俺は強い!最強だ!!』
「…化け物め…」 「先生ーっ!」
『この力を使って、俺は人間どもを殺しまくってやるぞ。手始めに、この学校の生徒たちからな!
ひゃはっは…楽しい!楽しい!』
「に、逃げよう!あんな相手と戦えるわけないよ!」 「警察を!いや、自衛隊を呼ぼう!!」
広と郷子は、そう叫んだが、ぬ〜べ〜は、そっと2人をうしろへさげると
「さがっていろ…奴は、俺が倒す!!」 と、2人の前に立ちはだかった。
そして、左手をバッ!とのばすと、上下左右に動かし、呪文を唱え出す…
「南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音…」
『あー?なんだ、何を始める気だ?変身でもするつもりかー?』
「奥の手を出すのさ…きさまのような極悪非道な悪霊と戦うための…ただ一つの武器をな!」
―― ま、まさか!?
「我が左手に封じられし『鬼』よ、今こそ、その力を…示せ!」
―― あ…あれが!!昔…一人の生徒を除霊したとき、左手に封じ込めたという、あの噂の!
ぬ〜べ〜が手袋をとると、鋭い爪の魔物のような手が!
―― 
鬼の手!!
「この左手には、『鬼』の力が宿っている。『鬼』の力は、あらゆるものを切り開き、無に帰せしめることができる。
きさまら悪霊も、例外ではない!」
『こっ…こしゃくなあ〜っ!片手だけの鬼に、何が出来る!返り討ちにしてくれるわーっ』
ゴオオオオ…ぬ〜べ〜に襲い掛かってくる衷妖。
「先生ーっ!」 広が、叫ぶ。しかし、その横で、郷子がニッコリと笑って言った。
「大丈夫よ、先生は、必ず勝
つわ!普段は、その霊能力の30%も発揮できない先生だけど…
子供たちを守る戦いでは…120%の力を発揮する…」
ぬ〜べ〜は、迫り来る衷妖の、目玉のまん中に、左手を突き刺した! 『グエッ!』
―― それが!
そして、そいつを砕きつぶす! 『ギャアアアア』
―― 
鵺野鳴介の、本当の姿よ!!
粉々になり、やがて跡形もなく消え去った衷妖… シュウウウ…
「あ…あれが、ぬ〜べ〜先生の本当の…」
「そうよ、私たちの先生よ!!」

次の日…
「――と、いうわけで、広にとりついていた悪霊は、みごと消し去りました!サッカー部に、入れてやってください!」
ニッコリ笑うぬ〜べ〜と、ちょっとハズカシそうな広。
困った顔の蒲田先生…「悪霊ねえ…どうも信じられないねえ!」
「はっはっはっ、では、証拠を見せましょう!」
「証拠を見せる?どーやって?」 広が、尋ねると、
「ははは…なーに、すぐすむ。ちょっとのガマンだ。」 と、あくまでにこやかなぬ〜べ〜。
そこへやって来た郷子 「ぬ〜べ〜、連れてきたよ〜!」
「よーし、じゃあ始めてもらおーか!」
郷子の後から来たのは、この前、広にボコボコにされた6年生と、サッカー部のみなさん!
6年生は、相変わらず、工事現場で負傷した働き盛り?にしか見えない…
「よくも、ひどい目にあわせてくれたな!」 「たっぷりお礼してやるぜ!」
「本当に、何をやっても、怒らないんだな!?」
包帯や絆創膏は痛々しいものの、全員やる気マンマンのようだ。
「おう!思う存分やってくれい!」 と、とことんにこやかなぬ〜べ〜。
「ゲッ!」 広、ビビる…


「すばらしい!これなら大丈夫!」 と、蒲田先生。
「一件落着!」 と、ぬ〜べ〜。
「よかったね!広!」 と、郷子。
(う〜、あのヤロー、あとでブッ殺してやる、今度は本当にハラワタ煮えくりかえったぜ!)
3人の方を恨めしそうに見ながら、頭はタンコブだらけ、両方から鼻血…の広が、
ボールをけって走って行く。


― #1 終わり ―


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