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人造人間キカイダー THE ANIMATIONの第1回


夜。雨の降りしきる、古城のような建物。

中では様々な機器に囲まれた中央に、円筒形の容器があり、その中に人型の“何か”が立っている影が見える。
それを見つめる老人、光明寺博士。

光明寺「いよいよだ……この時をどれだけ待ったことか……!」

外では雷鳴が鳴り響いている。
光明寺博士がスイッチを入れる。
機器が次々に作動し始め、容器に満ちた薬液に泡が立つ。

光明寺「この実験が成功すれば……」



ある町に ジペットという人形作りのお爺さんがいました
ジペットお爺さんには 子供がいませんでした
そこで 子供の代りにピノキオという操り人形を作ったのです

その夜 女神様が現れて
ピノキオを 操り糸がなくても動けるようにしてくれました

女神様は言いました

「ピノキオ あなたがいい子でいたら いつか本当の子供にしてあげましょう
もの言うコオロギのジェミニィ あなたをピノキオの良心にします
ジェミニィの言うことをよく聞いて いい子になるのですよ
ピノキオ……」

そしてピノキオは……



光明寺の自宅。

ベッドに就いたマサルにピノキオの童話を読んで聞かせていた姉ミツコが、マサルが寝付いたのに気づく。

ミツコ「おやすみ、マサル」

外では雷雨が続いている。

ミツコ「怖い夜……お父さん、今日も帰らないつもりかしら?」


光明寺博士の研究が続く。
機器が光を放ち、容器の中の人型の“何か”が照らされる──それは全身を装甲に包まれたアンドロイド、人造人間である。

光明寺「フフフ……いいぞぉ……さぁ、目覚めるのだ!」

さらにスイッチを入れる光明寺。

雷鳴が轟く。

突如、機器の動きがやむ。
光明寺が人造人間の方を振り向く。

その姿は、左右が非対称となった歪な姿──

スクリーンに「ERROR」の文字が浮かび、警報が鳴り響く。

光明寺「失敗だ……! 何ということだ! ここまできて……くそぉ、時間がないというのに……」

そのとき、窓から光明寺博士を睨みつける異形の何者かの姿──


光明寺宅。

今でお茶を飲んでいたミツコ。茶碗が微かに揺れる。
ミツコがカーテンを開け、外を覗く。

ミツコ「父さん!?」


雨の中を必死に逃げ惑う光明寺博士。
その前方に立ちはだかったのは、カマキリ状とサイ状のロボット、そして杖を手にした老人。

光明寺「プロフェッサー……ギル! 私は、もうお前の思い通りにはならんぞ!」


レインコートに身を包んだミツコが、雨の中を夢中で走る。
ミツコの眼前、あの古城状の建物──光明寺の研究所が炎に包まれている……


ミツコ「父さん……!?」


人造人間
キカイダー
THE ANIMATION


孤 独 な 人 形


翌朝──

まだ朝もやの晴れきらない、池のほとり、1人の青年が地面に腰掛けている。
GジャンにGパン。背にはギターを背負い、頭の上はサングラス。主人公、ジローである。

目の前を蝶が舞い、今まで呆然としていたジローが、反射的に手を伸ばす。
ふと、自分の手を目にし、驚いたような目つき。まるで初めて自分の手を目にしたようである。

池で蛙が鳴いている。
ジローが蛙を追うが、つまづいて池の中に落ちてしまう。

ジロー「あ、あ……」

ふと、ジローが何かに気づき、自分の喉を手にする。

ジロー「声……? 僕の声……?」

やがて、水面にジローの姿が映る。

ジロー「これが……僕……?」

ふと我に返り、ジローが立ち上がる。

ジロー「僕は誰なんだ? ここはどこなんだ!? わからない……」


光明寺研究所。古城を思わせる外観は微塵もなく、既に廃墟同然と化している。
警官の1人が、ミツコとマサルに事情を徴収している。

警官「えぇと、あなたが光明寺博士の……」
ミツコ「娘の、ミツコです」
警官「火元は、1階の実験室だと思われます……恐らく、何らかの原因で機械から火が出て、薬品に燃え移ったんでしょう」
ミツコ「そうですか……」
警官「遺体は見つかってませんが……この状況じゃ、仕方ありませんよ。こう言っちゃなんだが、お父さんは得体の知れない実験をしていたそうじゃないですか……周りに人家がなかったのが不幸中の幸いってとこですなぁ」
ミツコ「……」
警官「まったく……ロボット工学の権威だが何だか知らないが、厄介なことをしてくれて……」

我慢しきれなくなったマサルが、警官の足を思い切り蹴りつける。

警官「痛ってぇ!」
ミツコ「マサル!?」
マサル「父さんは悪いことなんかしてない!! 父さんは偉い研究をしてたんだ! 人の役に立つ、いいことなんだから……」

涙ぐんでうつむくマサル。

警官「しかしね、坊や……」
マサル「父さんは……父さんは……!」

必死に涙を堪えるマサルを、ミツコが優しく抱く。

ミツコ「マサル……わかってる。わかってるから……」

マサルの泣き声がこだまする……


帰途につくミツコ、マサル。

マサル「ミツコ姉ちゃん……父さんは……死んでないよね?」
ミツコ「そ、それは……」
マサル「死んでないよね!?」

一瞬、目をそむけるミツコだが、無理に笑顔を作って返す。

ミツコ「えぇ、そうね……警察の調査が終わるまで、もう少し待ってみましょう」
マサル「父さんが死ぬわけないもん……」


一方のジロー。

両面を斜面に囲まれた1本道を歩いていると、後ろからやってきたトラックがクラクションを鳴らす。

運転手「おぉい、どいてくれよ! どけったら! 轢かれたいのか!?」

慌ててジローがどく。トラックが走り始める。

運転手「まったく、これだから若いもんは! ギターなんか背負って、格好つけてんじゃねぇぞ!」

背のギターを目にするジロー。ギターを目にするのも初めてのような目つきだ。
そのとき……衝撃音。
ふと見ると、先のトラックが立ち木に激突。斜面から滑り落ちようとしている。このままでは大惨事だ。

運転手「ひゃあ〜っ!? うぅぅっ……」

斜面を落ちかけていたトラックが、突如水平になり、元の道に戻る。
まるで、巨大な何者かの力が、トラックを道へ戻したかのようだ。

運転手が窓から顔を出す。そこには、道を立ち去るジローの姿のみ……。


光明寺宅。

マサルは疲れたのか、ソファで眠っている。
一方でミツコは、父・光明寺博士の自室で、父の研究資料を漁っている。

ミツコ「父さんは一体、何を研究していたの……? 父さんの専門はロボット工学。でも、どんなロボットを作っていたの? あそこで、一体何があったの……?」

机に向かい、父のパソコンを打つミツコ。

ミツコ「駄目ね……何も出てこない。やっぱり、データは研究所の方にしか置いてないのかしら。」

ふと、机の上に写真立てが伏せられているのに気づく。
表を見ると、両親、幼い頃のミツコ、まだ赤ん坊のマサルの姿を写した写真。

ミツコ (今さら父さんことを知って……どうなるっていうの? もう、遅い……)

何気なくミツコが写真立ての裏を外すと、そこへ「ミツコへ」と記された手紙が。
ミツコがその手紙を開くと、中からメモリースティックが出てくる。
メモリースティックをパソコンに装填し、中のデータの解析にかかるミツコ。
画面に表示されたのは──人造人間の設計図。

ミツコ「あぁっ……人型の……ロボット!?」


一方でジローは、とある草原へやって来た。
兄弟らしき2人の少年が、玩具の飛行機を飛ばして遊んでいる。

少年弟「兄ちゃん、そろそろ帰ろうよ。また雨が降りそうだよ」
少年兄「何だよ、雷が怖いのか?」
少年弟「違うもん!」
少年兄「わかったわかった、じゃあもう1回飛ばしたら帰ろう。それっ」

少年が飛行機を飛ばすが、手元が狂い、飛行機は高い木の枝に引っ掛かってしまう。
少年2人の背では到底届かない。

少年兄「わ……しまった!」
少年弟「あ〜ぁ、どうすんの? 兄ちゃん……」
少年兄「うーん、どうしよう……」

ふと、少年たちがジローの姿に気づく。

少年兄「お兄さん! 見てないで手伝ってくれてもいいだろう!?」
ジロー「……僕?」
少年兄「お兄さん、背が高いから届くかも!」
少年弟「取って、取ってぇ!」


光明寺宅。
ミツコが父の遺したデータを分析し続けている。

ミツコ「何? この構造体は……どうやったら、この重量でこの強度が出せるの!? 皮膚も関節も、信じられない……姿勢制御は、サブコンピューター!? 凄い、このプログラム……こんな物が、本当に造れるっていうの!? ……でも……!」


一方のジロー。

少年達が木に引っ掛けてしまった飛行機を見上げる。

ジロー「あれを、取ればいいんだね?」

木の幹に、ジローが手を当てる。
少年たちがその仕草に呆気に取られる中、メキメキと音が上がる。
そして──大木が根本から折れ、激音と共に地面に転がる。

地面に這った木の葉の中からジローが飛行機を拾い上げ、何事もなかったかのように差し出す。

ジロー「はい」

我に返った少年たちが、恐怖の余り、悲鳴をあげて逃げ出していく。

ジロー「あ!? お、おい!」

そのとき、地面に転がった木の茂みのもとへ、2羽の鳥が舞ってくる。
茂みの中に鳥の巣。中に卵があり、ヒビが入っている。

ジロー「あ……僕のせいで……? ごめん……」


そんなジローを、遠くの木陰から何者かが監視している……


光明寺宅。

ミツコ「どうして……なんでこんな出力が必要なの!? まるで、何かと戦うために造られたみたい……こんな力、危険過ぎる! 父さんは一体何を考えて、こんな……」

解析を続ける内、別の画像がPC画面に表示される。

ミツコ「あ!? これは……何!?」


砕けた卵の入った鳥の巣を、ジローが茂みから地面に下ろす。
2羽の鳥が悲しげに、それを見下ろす。

茂みの中に、置き去りにされた少年たちの飛行機。やるせない気持ちでジローがそれを見つめる。


そのとき── どこからともなく、ジロー目掛けて石つぶてが飛来。
反射的にジローが手刀でそれを砕く。
木陰から次々に石つぶてが飛来するが、ジローはことごとくそれをかわす。

ジロー「誰だ!?」

茂みのなかから、円盤らしきメカが出現。
マシンガンが連射され、少年たちの飛行機が砕ける。
さらに銃弾がジローを襲う。

ジロー「あ!?」


光明寺宅。

新たに表示されたデータに、ミツコの目が奪われる。

─ GEMINI ─
良心回路

ミツコ「良心……回路? ジェミニィ……? 何? 父さん、これは……」


銃撃で吹き飛ばされたジローが起き上がる。
敵メカがどこかへと飛んで行き、ジローがそれを追う。

ジロー「待てっ!」


光明寺宅。

ミツコ「このロボットは精巧すぎる……その上に良心回路、ジェミニィという名の心を持たせて、父さん、これじゃあまるで……人間じゃないの!」

ミツコ、ジローを頼む

ミツコ「ジロー……これは……? 私にこれを、どうしろって言うの!? 父さん……!」

眠っていたマサルが、物音で目を覚ます。
ドアを開けると、ミツコがコートを羽織って廊下を駆けている。

マサル「ミツコ姉ちゃん? どこ行くの? ま、待ってよぉ!」

マサルも上着を手に、ミツコを追いかける。


いつしかジローが辿り着いた場所は、光明寺博士の研究所跡。

ジロー「ここは……?」

様々な機器の残骸が、彼の視界に映る。

ジロー「僕は……ここを知っている……」

物音。

ジローが物音を振り向く。
雷鳴が轟く。
そこに現れたのは、昨日光明寺博士を襲ったサイ型ロボット──グレイサイボーグ。

グレイサイボーグがジロー目掛けて突進。
すかさずジローが交わす。
勢いあまってグレイサイボーグは柱に激突、柱が真っ二つに折れる。凄まじいパワーの持ち主ということは一目瞭然だ。
なおもグレイサイボーグがジローを襲う。火事跡が次々に荒され、もうもうと煙があがる。

そこへミツコが駆けつける。

ミツコ「何なの、これは!?」

煙がやみ、グレイサイボーグの姿が現れ、ミツコを睨み付ける……
そこへ追いついてくるマサル。

マサル「ミツコ姉ちゃん!」
ミツコ「マサル、逃げて!」

グレイサイボーグがミツコたち目掛けて突進。
咄嗟にマサルをかばうミツコ。2人とも恐怖の余り目をつぶる。

衝撃音。
恐る恐るミツコたちが目を開けると……ミツコたちの前にジローが立ちふさがり、両手でグレイサイボーグを押さえつけている。

マサル「何、あれ……?」
ミツコ「私たちを助けた……? そんな、人間の力であれを止めるなんて……あ!」

光明寺博士の残したデータが、ミツコの頭を過ぎる──

ミツコ「……ジロー?」

その言葉に反応したジローが、ミツコを振り返る。
ジローとミツコの目が合う。
このジローこそ、光明寺博士が開発した人造人間であった。

グレイサイボーグがジローを後ろへ放り投げる。
瓦礫の中から、苦痛の声と共に立ち上がるジロー。
グレイサイボーグの視線が、再びジローへと向けられる。

マサル「わ、わぁっ!?」
ミツコ「ジローは力を出し切れていないんだわ……ジロー、スイッチよ! 両肩にあるスイッチを押して!!」

グレイサイボーグがジローに迫る。

ミツコ「ジロー、スイッチを!!」
ジロー「スイッチ……?」

ジローが右肩を左拳で、左肩を右拳で叩く。
瞬間、全身から閃光が放たれる。

ミツコたちが目を見張る中、ジローの顔、体、胴、腕、足が次々に装甲に包まれた姿へと変形する。
これこそジローの戦闘形態、キカイダー……しかしその姿は右半身が青、左半身は赤で数箇所に機械回路が露出した、歪な姿である。

キカイダー目掛けてグレイサイボーグが突進。
しかしキカイダーは、それを軽々と片手で押さえつける。

マサル「凄い……!」

グレイサイボーグが再び突進。またもやキカイダーが、両手でガッシリと受け止める。
そして細身の自分に比べて数倍はあろうかという体格のグレイサイボーグを、持ち上げ、後ろへ放り投げる。
あまりの戦闘力に、ミツコとマサルが目を奪われ、言葉が出ない。

グレイサイボーグが瓦礫の中から起き上がり、額の角をドリルのように回転させ、渾身の力を込めて三たび突進。
キカイダーが手刀を構える。

激突──

グレイサイボーグの角がキカイダーの手刀で叩き折られ、地面に転がる。

そしてグレイサイボーグの半身の装甲がぼろぼろに砕け散る。

大爆発──


雨が降り始める。

ジローを襲っていた円盤状のメカが、どこかへと飛び去って行く。


炎の燃え上がる中に立ち尽くすキカイダーを、雨に打たれたまま、ミツコが呆然と見つめる……


(続く)
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