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地獄少女の第1回


人の世は えにしと申します

結んだ 糸が絡みつき 脆く哀れな彼岸花

怒り  悲しみ 涙に暮れて

午前零時のとばりの向こう

晴らせぬ 怨み 晴らします──



私立乃木塚女子中学校、2年B組。

黒板に「白羽共同募金 目標10万円」と書かれ、担任の加藤先生が見守る前で、クラス共同での募金結果を担当生徒が発表する。

生徒「加藤先生からの2万円で、募金総額は10万円になりました!」

教室中の生徒たちが拍手。

生徒「募金は、学級委員の橋本真由美さんに預かってもらうことにします」
真由美「はい……責任を持ってお預かりします!」

橋本真由美が、募金の入った封筒を手渡される。
再び生徒たちが拍手。
ところがその中に、1人だけ拍手せず、頬杖をついて真由美を見つめる生徒──黒田亜矢。


放課後、閑散とした教室。
真由美が1人、必死に自分の鞄の中を探る。

真由美「ない、ない……ない!? どうしてぇ……? ちゃんと鞄の中に入れておいたのに……どうしよう……」
亜矢「どうしたの? 橋本さん」

腕を組んで入口に立つ黒田亜矢と、取り巻きの女生徒たち。

真由美「く……黒田さん……」




夕 闇 の 彼 方 よ り


後日の教室。

真由美が黒板の上に、募金の表彰状の入った額を飾る。

級友たち「結構、見栄えいいんじゃん?」「そう? 十万だよぉ?」「何言ってんの、募金なんだからさぁ」

真由美が教室を出ようとする。

亜矢「真由美!」


亜矢が取り巻きたちと共に、真由美を校庭敷地の片隅に連れて行く。

亜矢「良かったわねぇ、何事もなく募金を届けることができて……誰のお陰か、わかってるわよね?」
真由美「え、えぇ……」

せせら笑う取り巻きたち。

亜矢「で、お金は? 持って来た?」
真由美「は、はい……」

真由美が差し出した封筒を、亜矢がひったくる。

真由美「これで……借りた分は全部よね」
亜矢「何それ? 今までのは利子よ、利子」
真由美「そんなぁ……?」
亜矢「文句あるわけぇ? 私が貸してあげなかったら、どうなってたの?」
真由美「……」
亜矢「嫌だったら皆に教えてあげればいいじゃない。『私は預かったお金を失くしちゃいました』って」

取り巻きたちは相変わらず、嘲笑い続ける。

亜矢「ふふ、なぁんか喉渇いちゃったなぁ……ジュース買って来て」
真由美「あ……は、はい」

とぼとぼ歩き出す真由美。

亜矢「早く!」

慌てて真由美が駆け出す。


自販機コーナーで人数分のジュースを買う真由美。
傍らで、生徒たちの噂声が聞こえてくる。

生徒たち「ね、『地獄通信』って知ってる?」「午前0時にホームページに書き込むと、どんな怨みでも晴らしてくれるって奴?」
真由美「……!?」
生徒たち「そうそう! 塾の友達の友達でね、実際にやった子がいるんだってぇ」「あれ、ヤバイらしいよ。頼むと自分も死んじゃうって。急にいなくなっちゃった子もいるとか聞くし……」「うっそぉ!」


真由美が亜矢たちのもとへ、紙コップのジュースを持ってくる。

亜矢「何これ?」
真由美「え……?」
亜矢「どうして炭酸じゃないわけ?」
真由美「だって……いつも『嫌いだ』って……」
亜矢「今日は炭酸が飲みたかったの。それくらいわからない? ほーんと、使えない子ねぇ」

亜矢がジュースを地面に捨て、紙コップを放り投げ、取り巻きたちと共に立ち去る。

真由美「ごめんなさい……」


後日の授業中。

真由美のノートのもとに、丸めた紙が放られる。
振り向くと、亜矢の視線がこちらに向けられている。
真由美が紙を開くと、「放課後 いつもの所」と書かれている。


放課後。

校庭敷地の片隅で、真由美が亜矢に封筒を差し出す。


夜、真由美の自宅。
母親が台所仕事をしており、真由美は居間でお茶を手にしたまま、膝を抱えている。

母「最近、ちょこちょこお金がなくなるのよねぇ」
真由美「……!」
母「金額は小さいんだけど、空き巣でも入ってるんじゃないかしら……最近は同じ家に何度も入るって言うでしょう? 何だか気味悪くって。お父さんが遅い日は女2人だし、やっぱり警察に……」

母が振り向くと、飲みかけのお茶を残し、真由美の姿は消えている。

母「……真由美ちゃん?」


真由美が自室でパソコンに向かっている。
時計が午前0時を指す。
それまで「Not Found」だった画面に突如、人魂のような光が点り、画面が写る。


あなたの怨み、晴らします。



送信


真由美「地獄通信……これが……!」

入力フィールドに「黒田亜矢」と入力。
マウスカーソルを送信ボタンへ運ぶ。

生徒たちの噂話が胸を過ぎる……

(頼むと自分も死んじゃうって)

どうしてもボタンを押せず、マウスから手を離してしまう。


真由美の携帯が鳴る。
送信者には「黒田亜矢」の表示。
窓のカーテンを開けると、真由美の家の前の道に亜矢が佇み、嘲笑を浮かべている。


後日の教室、休憩時間。

生徒たち「うっそぉ、橋本さんが!?」「夜の繁華街で見たって……」

真由美がその声に気づき、その生徒たちの方を見やる。

生徒たち「ね、喉乾かない?」「乾いた乾いた……」

噂話をしていた生徒たちが、真由美の視線から逃げるように、そそくさと教室を立ち去る。

生徒たち「真面目だと思ってたのにね」「人は見かけによらないよね……」

またもや別の生徒たちが噂話。真由美がそちらへ目を向ける。

生徒たち「やめなよ、聞こえてるじゃん」「だってぇ……」

教室入口で、生徒の1人が真由美を呼ぶ。

生徒「橋本さん。加藤先生カトセンが、職員室に来て欲しいってさ」


職員室。

加藤「ん……変な噂を耳にしてな……お前が夜遊びをしているっていうんだが、もちろん根も葉もない噂だと思ってる。お前がそんな奴じゃないってことは、俺が一番わかってるからなぁ」
真由美「……」


職員室を出る真由美。 そこには亜矢と取り巻きたちが、嘲笑を浮かべて待ち構えている……


家へ帰宅する真由美。

母「お帰りなさい。……どうしたの、顔!?」

真由美の左頬は真っ赤に腫れている。

母「真由美ちゃん、どうして何も言ってくれないの? 最近、変よ……あなた。まさかと思うけど、うちの無くなったお金……」

真由美が自室へ駆け込む。

母「あっ、お母さん、信じてるからね!」


午前0時。
真由美が地獄通信のホームページにアクセスする。
入力フィールドに「黒田亜矢」と入力。
マウスカーソルを送信ボタンへ運び、息を切らしつつ、目を閉じ、意を決してマウスボタンを押す──。

携帯が鳴る。メール受信のマーク。
送信者の名は「地獄通信」。

恐怖におののいた真由美が、携帯を取り落とす。
その文面は──


受け取りました。

地獄少女


翌日。

学校の廊下を歩く真由美。

級友「真由美? どうしたの、その目……」

慌てて真由美が駆け出す。

級友「あ、ちょっ……」

廊下の角を曲がったところ、亜矢と取り巻きたちに捕まってしまう。

亜矢「今夜8時、忘れないでね」


真由美 (あれから……何も起こらない……結局、地獄通信なんて、ただの噂……?)


夜の繁華街。
私服姿の亜矢たちと、真由美。

真由美「ナンパ!? ……私が?」
亜矢「狙いはご飯を奢ってくれそうな人。おじさんでもいいからね」
真由美「でも……」
亜矢「お金持って来れなかったあなたが悪いんでしょう?」


ふと真由美が路地裏に目をやる。
そこにいたのは、長い黒髪に赤い瞳、セーラー服姿の謎めいた少女……


亜矢「何ボサッとしてんの!? アレがいいわ。多分いける」
真由美「で、でも……」

取り巻きの1人が、サラリーマン風の酔った男を目掛け、真由美を突き飛ばす。

男「ん?」
真由美「あ、あの……」
男「何?」
真由美「私……その……」
男「もしかして逆ナン? 可愛いね君……いくつ? OK、OK! いいよ、君1人?」

男が真由美の肩を抱く。
真由美が亜矢たちの方を見やるが、既に彼女らの姿はない。

男「どこ行こっかぁ……何食べる?」
真由美「い、嫌ぁっ!!」
男「あ!? お、おい!」

必死に逃げ出す真由美。


路地裏のゴミバケツとビールケースの間で、真由美が泣きじゃくる。
そこへ現れる亜矢たち。

亜矢「何、逃げてんのよ!」
真由美「どうしてぇ……」

亜矢が携帯を見せ付ける。
そこには、先ほどの男が真由美の肩を抱いた写真が。

亜矢「次にお金忘れたら、この2ショット写真ばら撒くからね」

亜矢たちが立ち去る。
真由美の目から、次から次へと涙の雫が零れ落ちる……。


真由美がビルの屋上に立つ。
既に脱いだ靴が、鞄と共に傍らに置かれている。

真由美が繁華街の空へ身を投げる。


真由美の体が宙を落ちてゆく。
その隣に突如、あのセーラー服の少女が現れる。


次の瞬間──


いつの間にか真由美は、どこかの河原に佇んでいる。
空は血の色のように真っ赤な夕焼け。

真由美「ここは……?」

真由美の前に、あのセーラー服の少女が現れる。

真由美「あなたが……地獄少女……?」
少女「私は閻魔あい」
真由美「……あい」

あいと名乗ったその少女に、真由美が歩み寄る。

あい「あなたが呼んだのよ」
真由美「怨みを晴らして……」

あいの右手には、黒い藁人形が握られている。

あい「受け取りなさい」

真由美が藁人形を受け取る。その首には、赤い糸が巻かれている。

あい「あなたが本当に怨みを晴らしたいと思うなら、その赤い糸を解けばいい。糸を解けば、私と正式に契約を交わしたことになる。怨みの相手は、速やかに地獄に流されるわ」
真由美「地獄へ……」

赤い糸に手をかける真由美。

あい「但し」

真由美の手がピタリと止まる。

あい「怨みを晴らしたら、あなた自身にも代償を支払ってもらう」
真由美「代償?」
あい「人を呪わば穴二つ。あなたが死んだら、その魂は地獄に堕ちる」
真由美「!?」
あい「極楽浄土へは行けず、あなたの魂は、痛みと苦しみを味わいながら、永遠に彷徨うことになるわ」

死後の苦痛を体現するかのように、真由美の周囲に突如、青い炎が燃え上がり、真由美を包み込む──

真由美「きゃああぁぁ──っっ!!」


気がつくと──

そこは元の繁華街。自分が飛び降りたビルの真下に真由美が座り込んでいる。
しかし真由美の手には、あの藁人形がしっかりと握られている。

どこからともなく、あいの声が響く。

あい「あとは、あなたが決めることよ……」


後日、学校の教室。

席についている真由美。手にはあの藁人形。
そんな真由美を、亜矢が肩を叩いて呼び止める。

亜矢「真由美! 聞いてんの、真由美?」

真由美が慌てて、教室を駆け出す。

亜矢「あいつ……!」

真由美がトイレで、鏡を見つめる。
隣の鏡には、あいの姿が映っている。

あい「人を呪わば穴二つ。あなたが死んだら、その魂は地獄に堕ちる」


結局は糸を解けず、真由美は藁人形をポケットに収め、トイレを出る。
そこに加藤先生が。

加藤「橋本、ちょっといいか」


職員室。

加藤「ついさっき、学校宛にメールで送られてきたんだ」

加藤先生がパソコンを見せる。そのメールには、あのとき亜矢が写した2ショット写真が。

真由美「あっ! ……ち、違います! これは……」
加藤「弁解するな! 写ってるのは確かにお前だろう。恥しいと思わないのか? 中学生の癖にこんな……信じていたのに、残念だ」
真由美「先生!」
加藤「とにかく、明日にはご両親にも来てもらう。これじゃあ来年の高校受験の推薦も難しくなったな……」

職員室を出る真由美。
亜矢たちがせせら笑っている。


屋上。

意を決した真由美が、藁人形の赤い糸を解く。
突如、暴風が吹き起こり、藁人形が吹き飛び、虚空へと消え去る。

どこからともなく、声が響く。


「怨み……聞き届けたり」


閻魔あいの自宅。
夕焼けの空の下の、藁葺きの古びた家。

あいが黒地に花柄をあしらった着物に身を包む。
そして使いの妖怪・輪入道が姿を変えた牛車に乗り、空を駆けてゆく──


夜。

ファストフードで食事中の亜矢に、真由美からのメールが届く。
10時に校門前へ、との文面。


校門前。

亜矢「あいつ……何やってんのよ? 本当、グズなんだから」

校門がひとりで開き、そこには真由美の姿が。

亜矢「……真由美?」

真由美が校舎へ入っていく。
亜矢が不審に思いつつ、後を追う。

亜矢「真由美ぃ、どこにいるの?」

階段を駆け登る真由美。
亜矢も後を追う。

亜矢「真由美!」

2年B組の教室の扉を開く亜矢。
ところがそこは、夜にも関わらず、昼間の授業中のように教師が黒板に向かい、生徒たちが机に向かっている。

亜矢「何してるの……みんな? ちょっとぉ!」

教師が亜矢の方を振り向き、「静かに」の合図で口に指を当てる。
その顔には──目も鼻も口も無い。
そして、振り向いた生徒たちの顔も皆、同様……

亜矢「わああぁぁ──っ!?」

慌てて扉を閉じる亜矢。

亜矢「何なの? 何なのよ……これ?」

その背後を、真由美が静かに通り過ぎる。

亜矢「真由美! あんたまさか……待ちなさい!」

静かに歩く真由美を、亜矢が追う。

亜矢「待ちなよぉ! あんた、何したの!?」

ところが真由美は普通に歩いており、亜矢は走っているにも関わらず、その距離はどんどん遠くなる。
遂には、真由美の姿が暗がりの中に掻き消えてしまう。

亜矢「畜生……どうなってんのよ」


校舎内を探し回る亜矢。

亜矢「真由美! 隠れても無駄よ!」

校庭へ通じる扉を開く。
そこは──今は夜10時過ぎのはずが、陽が差して明るく、多くの生徒たちが遊び回っている。
後ろを振り向くと、真っ暗だったはずの校舎内も昼間同様で、生徒たちが歩き回っている。
まるで、ごく普通の日中の学校の風景だ。

亜矢「私……寝ぼけてんの?」

校庭から亜矢のもとへ、バレーボールが転がってくる。

生徒「ねぇ、ボール取って!」
亜矢「あ、うん……」

亜矢が拾い上げると、なんとそれは頭蓋骨。

亜矢「わあぁ──っ!?」

慌てて頭蓋骨を取り落とす亜矢。
そんな亜矢たちに、険悪な表情で生徒たちが群がって来る。

生徒たち「本当、使えない子ね……」「おしおきしなくちゃ……」
亜矢「嫌ぁぁ──っ!」

扉を閉める亜矢。
再び校舎内は真っ暗となる。

亜矢「わけわかんない……」

真由美「ふふふふ……」
亜矢「真由美、あんた!?」

目の前には、加藤先生が。
微笑を浮かべ、手招きをしている。

亜矢「先生……なんか、学校がおかしいんです!」
加藤「あぁ、わかってる。こっちだ」

亜矢を連れ、加藤がどこかへと歩いていく。
安心しきった様子の亜矢。

亜矢「あのぉ、先生……どこへ?」
加藤「心配するな、友達も待ってる」
亜矢「え?」

加藤が前方の壁を指差す。
亜矢の取り巻きの女生徒たちが、壁に飲み込まれている。

取り巻き「亜矢、助けてぇ!!」「亜矢、亜矢ぁっ!!」
亜矢「きゃあぁ──っ!!」

慌てて逃げ出す亜矢。

振り向く加藤が、帽子をかぶった好々爺の姿に変わる。
輪入道の人間体である。


逃走の末、亜矢は2年B組教室へ駆け込む。

亜矢「こ、これは……?」

夕暮れの閑散とした教室。真由美が募金の封筒を鞄に収め、教室を去る。
亜矢の視界の中、無人となった教室にもう1人の亜矢がやって来て、真由美の鞄から封筒を抜き取る。
まるで、あのときの真相を再現しているかのように──


真由美「あなただったのね……」

窓際に現れる真由美。

真由美「あなたが盗んだんだ……」
亜矢「な……何よ、こんなの嘘っぱちよ! 何か証拠でもあるのぉ!? 誰か見てたわけ!?」

「見ていたぜ」

天井に巨大な一つ目。あいの使いの妖怪、一目連だ。

亜矢「わあぁ──っ!?」

頭を抱えてしゃがみこむ亜矢。
同じくあいの使いの妖怪、着物姿の女・骨女が現れる。

骨女「どう? 少しは身に染みた?」
亜矢「誰よ……あんた」

骨女、輪入道、そして青年風に姿を変えた一目連が亜矢を取り囲む。あいの使いの妖怪たち、通称・三藁だ。

亜矢「あんたたち……真由美の仲間ね? よくもこんな酷い真似を!」
骨女「酷い真似とはよく言ったもんだねぇ」
一目連「まぁだ自分の罪を認めないのか……」
輪入道「嬢ちゃん、そう強情になるもんじゃねぇよ」
亜矢「冗談じゃないわよぉ! からかっただけじゃん! 遊びよ、遊び! 私は何も悪いことしてない!」
一目連「……だってさ、お嬢」

一目連が差した先、着物を纏った閻魔あいが立っている。

あい「闇に惑いし哀れな影よ……人を傷つけ貶めて、罪に溺れしごうたま……」

赤い瞳が、冷ややかに亜矢を見つめる。


あい「イッペン、死ンデミル?」


あいが右腕をかざす。手首にかけた数珠の鈴がチリンと鳴る。
着物の花柄模様が、無数の花が虚空へ咲き誇るが如く、亜矢の視界を包み込む──


やがて、亜矢が気づく。
霧が立ち込める中、川を行く木船の上に自分が乗っている。

亜矢「こ、ここは……?」

周囲の川面を、無数の灯篭が流れている。
そして、あいが船の櫂を漕いでいる。

亜矢「ちょ、ちょっとどこよ? どこへ連れて行く気!?」

暴れ出しそうになる亜矢。木船の船底から無数の手が飛び出し、亜矢の手足を捕える。

あい「この怨み……地獄へ流します……」


船の先には、巨大な鳥居。そこは地獄へと流れる三途の川だった──


後日、乃木塚女子中。

級友「真由美ぃ、加藤先生が呼んでるよ! 『体育祭の準備で相談したい』って」
真由美「うん、わかった!」
級友「……?」
真由美「何?」
級友「随分元気になったよね。一時期、こーんな目ぇしてたから」

虐待されていた頃の真由美の目つきを、級友が真似てからかう。

真由美「あはは! ごめんね、心配かけて」
級友「その調子で、実行委員頑張ってよね!」
真由美「うん、ありがとう! じゃ」


階段を駆け降りる真由美。
ふと、壁に架かっている鏡に気づき、制服の胸元をはだける。
地獄行きの証としての「地獄の刻印」が、自分の首元に浮かび上がっている……。

(あい『死んだら、その魂は地獄に堕ちる……』)


どこかの真っ暗な世界。

無数の蝋燭が灯されている。

その中に「橋本真由美」と書かれた蝋燭が、新たに加わる──


あなたの怨み……晴らします……


(続く)
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