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地獄少女 二籠ふたこもりの第1話


ゆらりゆらりとごうの影

哀れな定め  迷い道

憎み憎まれ  ひび割れた

合わせ鏡の 二籠ふたこもり

 の交わる闇より来たりて

あなたの怨み  晴らします──



四百年前──


あいが六道郷を焼き滅ぼし、炎に包まれた家々の中を彷徨う。
いつしか、自分が両親共々生き埋めにされた神木のもとへ訪れる。
我に返ったように、あいが跪いて泣き崩れる。

「気ガ済ンダカ? アイ」

目の前の鳥居から、人面蜘蛛がぶら下がっている。


次の瞬間。

そこは水の中のような世界。
あいの目の前に大樹の根が突き出し、その根の間に、骨だけと化した骸たちが絡み付いている。
それは紛れもなく、炎と消えた六道郷と運命を共にした、あいの両親と仙太郎の父親の亡骸。

人面蜘蛛「アイ……オ前ハ己ノ怨ミヲ解キ放チ、新タナ怨ミヲ生ミ出シタ。ソノ罪ハ重イ」
あい「私は悪くない……悪いことなんてしてない! 悪いのはあいつらよ!」
人面蜘蛛「オ前ハ地獄ヘ下ルコトハ許サレヌ。現世ニ留マリ己ノ罪ヲ身ヲモッテ知ルノダ。モシ抗エバ、愛スル者タチノ魂ハ永遠ニ彷徨ウコトニナルダロウ……」


暴風が吹き荒れる──

気がつくとあいは、花柄をあしらった黒地の着物に身を包み、川岸に佇んでいる。
目の前には木の小船。そこは三途の川だった。

人面蜘蛛「今ヨリオ前ハ『閻魔あい』……『地獄少女』ダ」

あい「地獄……少女……?」


ふたこもり


闇 の 中 の 少 女


現在。とある高校。

用務員に姿を変えた輪入道が、花壇の手入れをしている。
校舎の窓から女生徒たちが、彼を呼ぶ。

生徒たち「おっじさ〜ん」
輪入道「ん? よぉ、こんにちは」
生徒「ねぇ、今日は日差しが強いから、あんまり無理しちゃ駄目だよ」
輪入道「あぁ、ありがとうよ」
生徒「後でまた、相談に乗ってね」
輪入道「ありゃ、また好きな人ができたのか?」
生徒たち「えへ、まただって」「もう、またって言わないでよぉ」
輪入道「ははははは!」

別の窓際に輪入道が目をやる。地味な女生徒の横顔。

その女生徒──恩田麻紀が、机の引き出しからノートを取り出す。
ノートはカッターで切り刻まれ、「来るな」「自殺しろ」「バカ」等と書かれている。
教科書を取り出す。同様、カッターで切り刻まれた上、あちこち破り取られている。
足に履いている上履きも「クズ」「死ね」「悪臭」「害虫」「バカ」等と書かれている。
あからさまな苛めだが、麻紀は暗い表情ながらも平然としている。

椅子に掛けておいた、制服の上着に袖を通す。

麻紀「う……?」

袖口に無数のホチキスの針が刺さっており、これが彼女の指を刺したのだ。

麻紀 (もう慣れた……)


そんな様子を、天井から一目連の一つ目が覗いている。



回想──


午前0時、麻紀の自室。

麻紀がパソコンで「地獄通信」にアクセスし、名前を入力しては消し、別の名前を入力しては消す。
その様子を、背後から閻魔あいが密かに見つめている……。


あいの家の縁側に佇む輪入道、骨女、一目連の三藁たち。

骨女「憎む相手が、わからないんだねぇ……」
一目連「毎晩アクセスして来ちゃ、クラスメイトの名前を打ち込んでは、消す……」
輪入道「正式な依頼には至っちゃいねぇが、お嬢は気にしてるみてぇだ……」
骨女「ここんとこ色々あったからねぇ……お嬢も」
一目連「嫌な思いはさせたくねぇし、下調べといくか? 俺たちで」
輪入道「あぁ……そうしよう」



学校。
校庭の木陰で、輪入道が煙草をふかしつつ、窓ガラス越しに麻紀を見守っている。


麻紀が引き出しから筆箱を取り出す。
引き出しの中の教科書には、どれも「バーカ」「ウザイ」「アホ」「死ね」等と落書きされている。
筆箱を開く。

麻紀「はっ!?」

思わず筆箱を落とす麻紀。
筆箱の中から何匹もの毛虫が這い出す。

生徒たち「うわぁ!? け、毛虫よ! 毛虫!」「やだぁ!」

そこへ、担任にして理科教師の神代先生が、教室を訪れる。

神代「どうかしたの? ……クラス委員!」

クラス委員の中瀬が歩み出る。

中瀬「あ、はい」
神代「何事?」
中瀬「はい、実は、筆箱の中に、毛虫が……」
神代「毛虫……?」

麻紀はボールペンを箸のように、ノートを皿のように使って毛虫を回収している。

神代「これ、修学旅行の日程。みんなに配っといて」
中瀬「はい……」

麻紀が毛虫を窓から捨てる。
神代はプリントの束を中瀬に預けると、麻紀のもとへ向かう。

神代「ちょっと来てくれる? 恩田さん」
麻紀「先生には関係ありません」
神代「関係あるかどうかは私が決めます。いいから一緒に来なさい」


天井から、一目連の一つ目が麻紀を見守っている。


職員室。

神代が麻紀の指に絆創膏を貼る。
骨女も女教師に扮し、潜入している。

神代「そう、始業式の日からなの……」
麻紀「はい」
神代「心当たりはないのね?」

机の上には制服に刺さっていた無数のホチキスの針、落書きだらけのノート。

神代「他にはどんなことされたの?」
麻紀「……」
神代「嫌なら言わなくてもいいけど……」


輪入道が生徒たちに事情を尋ねている。

生徒たち「うーん、別に目立つことしたとかじゃないしね」「つぅか、めっちゃ地味な子だもんね、麻紀って」
輪入道「そうかい……しかし俺が言うのも何だが、あの子が苛められてるのを知ってて、何でお前さんたちゃ助けてやらねぇんでぃ?」
生徒たち「え? だって……ねぇ?」「うん。そこまで友達ってわけじゃないんだし」
輪入道「あぁ、なるほどなぁ……」


放課後、帰宅しようとする麻紀に神代が声をかける。

神代「恩田さん、何かあったら連絡しなさい」
麻紀「……連絡したら」
神代「ん?」
麻紀「連絡したら、助けに来てくれるんですか? 何されるかわかりませんよ」
神代「え……」
麻紀「できないこと言わないで下さい」

麻紀は振り返りもせず、帰ってしまう。

そこへ教師に扮した骨女、一目連が現れる。

骨女「大変ですね、神代先生」
神代「あ……」
一目連「恩田麻紀ですか」
神代「お恥しいところを……」
骨女「素直に『助けてくれ』って言えないんですかねぇ、今の子は」
一目連「教師に信用がないんですよ、曽根先生」
骨女「石本先生!」
神代「ふふ……何とかしてやりたいですね……担任として、人生の先輩として」
骨女「何かお手伝いできることがあったら、言って下さい」
一目連「俺も」
神代「……ありがとうございます」


その晩も麻紀は、毎晩の如く地獄通信へのアクセスを繰り返す。
彼女の自宅の屋根の上に、あいが佇んでいる。


ある日の授業中。

麻紀の携帯にメールが届く。

麻紀 (『私は麻紀の味方 いたずらの犯人を知ってる 昼休みに更衣室に来て 待ってる』……?)


昼休み、更衣室。

誰の姿もない。

麻紀「やっぱりいたずらか……」

奥の方で物音が響く。
麻紀が更衣室奥のシャワー室へ入る。
どの個室も扉が開け放たれ、やはり誰もいない──と思いきや、一室だけ扉が閉じられ、頭と脚が覗いている。

麻紀「あなたなの? メールくれたの」

返事はない。

麻紀「開けるね?」

扉を開く。
女生徒らしき後ろ姿。

麻紀「誰? 本当に犯人知ってるの? ちょっと……」

その肩に、麻紀が手をやる。
途端、首がもげ、頭が床に転げ落ちる。

麻紀「わあぁっ!?」

よく見ると、それは人間ではなく、作り物の人形である。

麻紀「に、人形……?」

途端、開け放してあった更衣室への扉が閉じ、シャワーが一斉に吹き出す。

麻紀「きゃあっ!?」

麻紀が扉に駆け寄り、開けようとするが、一向に扉が開かない。

麻紀「開けて! 開けてよぉ! このままじゃ……開けてぇ!! お願い……開け……」

麻紀が倒れる──


やがて麻紀が気がつく。
そこは保健室のベッド。傍らに神代先生が座っている。

神代「大丈夫?」
麻紀「私……?」
神代「更衣室から悲鳴が聞こえたから、飛び込んでみたら、あなたが」
麻紀「……」
神代「怪我してなくて良かった……本当に」

熱をみようと、神代が麻紀の額に手を当てる。

神代「あら? 髪、柔らかいのねぇ。セット大変でしょ? 私もほら、癖っ毛だから毎朝、鏡の前で大騒ぎ! ふふっ」

おどけて笑う神代。
麻紀の瞳に涙が浮かび、それを隠すように顔を背け、毛布で顔を隠す。

神代「どうしたの? どこか痛い?」


夕暮れ。校庭の花壇の花を見つめる麻紀。

輪入道「綺麗に咲いてるだろう? 花は頑張り屋なんだなぁ。雨に晒されようが、お日様が照りつけようがちゃぁんと咲く」
麻紀「見ていてくれる人がいるからね」
輪入道「え?」
麻紀「ちゃんと見ていてくれる人がいるから……だから、頑張れる」
輪入道「なるほど……お前さんは頑張れるのかい?」
麻紀「うん……今はもう大丈夫」
輪入道「そうかぁ……」

麻紀が、自分の指を見つめて微笑む。神代先生が貼ってくれた絆創膏……


麻紀の自宅。
台所で、麻紀が手作りのクッキーを焼いている。
出来上がったクッキーのひとつを、試食する。

麻紀「うん! 喜んでくれるといいな、先生……」


翌朝。

登校した麻紀が、靴箱を開ける。
上履きには落書きに加え、中に無数の画鋲が。

麻紀「……大丈夫」

麻紀の手にはいつもの鞄に加え、クッキーを収めた紙袋が握られている。


教室へ向かおうとする麻紀を、中瀬が呼び止める。

中瀬「恩田さん!」
麻紀「中瀬さん……?」
中瀬「ちょっと、一緒に来てくれる?」
麻紀「……?」


麻紀を連れ、中瀬は理科準備室の鍵を開ける。

麻紀「神代先生に、何か頼まれたの?」
中瀬「こっそり借りてきたのよ」
麻紀「え?」

中瀬が麻紀を連れ、室内に入る。

麻紀「何なの? 勝手に入ったら神代先生に怒られるよ?」

中瀬が扉を閉め、真剣な目つきで麻紀を見る。

麻紀「な、何?」

中瀬が麻紀の腕を引っ張り、準備室の奥へ連れて行く。

麻紀「あ……! な、中瀬さん?」
中瀬「見つけたの」

傍らには、布で覆われた水槽。
中瀬が布をはがす。
そこには……無数の毛虫が飼われている。あのとき筆箱に入っていた毛虫と同じものだ。

麻紀「こ……これ……」
中瀬「私、見ちゃったのよ。あなたの筆箱に入れてるとこ。こないだの放課後、神代先生が」
麻紀「……!?」
中瀬「関るの嫌だから黙ってようと思ってたんだけど、あなたのこと、見てられなくなって……」
麻紀「そんな……嘘……」

後ずさりする麻紀が、背後にある何物かの、布を踏みつける。
布が落ちる。

麻紀「あぁっ!?」

ショックのあまり、麻紀がクッキーの紙袋を落とす。
そこにあったのは、あのシャワー室にあった人形──!

中瀬「私が教えたってことは内緒にしてね、巻き込まれたくないから。約束よ……」

麻紀が準備室を飛び出す。

中瀬「恩田さん!?」

そのまま麻紀が校門を飛び出す。
その様子を、窓から神代が冷ややかに見つめている。


午前0時。

麻紀が「地獄通信」にアクセスし、神代の名を入力し、送信ボタンを押す。
いつしか麻紀の背後に、あいが天井から逆さまにぶら下がっている。

あい「呼んだ?」
麻紀「はっ……!」


次の瞬間──


いつの間にか麻紀は、あいと共に夕暮れの里に佇んでいる。
空は血の色のように真っ赤な夕焼け。
近くの大木には、骨女が佇んでいる。

麻紀「地獄……少女?」
あい「骨女」
骨女「あいよ、お嬢」

骨女が赤い帯を首にかけると、その姿が赤い藁人形へ変わり、あいの手に収まる。
人形の首には赤い糸が巻かれている。

あい「受け取りなさい」

あいの差し出した藁人形を、麻紀が受け取る。

麻紀「これは……?」
あい「あなたが本当に怨みを晴らしたいと思うなら、その赤い糸を解けばいい。糸を解けば、私と正式に契約を交わしたことになる……怨みの相手は、速やかに地獄へ流されるわ……」
麻紀「地獄……?」
あい「但し、怨みを晴らしたら、あなた自身にも代償を支払ってもらう」
麻紀「え?」
あい「人を呪わば穴二つ……契約を交わしたら、あなたの魂も地獄に堕ちる……」
麻紀「私も……地獄へ?」
あい「死んだ後の話だけど」
麻紀「そんな……そんなの!? どうして私も地獄へ行かなくちゃならないの!? 悪いのは向こうなのに、だからお願いしてるのに! おかしい! おかしいよ、そんなの!」
あい「やめる? それなら人形を返して」

あいが両手を差し出す。
麻紀が藁人形を返しかけ──手を引っ込める。

麻紀「ごめんなさい……考えてみます」


気がつくと、そこはもとの麻紀の自室。
手にはしっかりと藁人形が握られている。

家の屋根の上に佇む輪入道と一目連。

一目連「残念だったな、輪入道?」
輪入道「ま、仕方がねぇさ……」


翌朝。

登校した麻紀が、靴箱に手をかける。
靴箱の扉の隙間から、何匹もの毛虫が顔を覗かせている。

麻紀「わあぁぁっ!?」

弾みで扉が開き、無数の毛虫がこぼれ落ちる。
そして、麻紀がポケットに収めていた藁人形も床に落ちる。

そんな麻紀を冷ややかに見つめる神代。


神代が麻紀を理科準備室へ閉じ込める。

神代「面白い物持ってるじゃない。これで私を呪うつもりだったの? くだらない……」

神代が麻紀から奪った藁人形を白衣のポケットに収め、麻紀に詰め寄る。

麻紀「信じてたのに……」
神代「ふふっ、そう言えば、クッキー美味しかったわ。床に落ちてた奴。お礼をしなくっちゃねぇ」

塩酸の瓶を取り出す神代。

麻紀「嫌ぁっ!」

神代が麻紀をうつぶせに取り押さえ、塩酸の雫を彼女の背に垂らす。
白煙が上がる。

麻紀「あぁぁ──っ!」
神代「しっ! 静かに」
麻紀「ど、どうしてこんなこと……!? 何で私を……!?」
神代「さぁ、何でかねぇ……ふふ、面白い実験だったわ。ありがとう」
麻紀「嫌ぁっ!」
神代「黙ってればこれ以上何もしないわ。それよりも、これからは私と一緒に実験しよ、ね? 自分がやられたら嫌だと思うことをやればいいの。面白いわよぉ、凄く」
麻紀「そ、そんなこと、私……」
神代「次は、そうねぇ……正義ぶってあなたに余計なこと教えたあの子、中瀬さん。あの子はどう? ちょろちょろ目障りだし」

麻紀の髪を神代が引っ張り、恐怖におののく顔を自分へ向けさせる。

神代「いい顔よ……ね、手伝う? 手伝わない?」

塩酸の瓶が麻紀の顔に迫る。
咄嗟に麻紀が瓶を払いのけ、藁人形を奪い返す。

神代「この……!」

麻紀が神代を睨みつけ、藁人形を突きつける。

神代「フン! 何よ、そんなもの」
麻紀「さよなら、先生……!」

赤い糸が解かれる。

藁人形が虚空の彼方へと飛んで行き、姿を消す。


骨女「怨み……聞き届けたり……」


あいの家。

裏の清流で、肌襦袢姿のあいが沐浴で身を清めている。

祖母「あい……長襦袢を置いておくよ」
あい「うん、ありがとう」


輪入道が姿を変えた牛車があいを乗せ、宙を駆ける──


神代が気がつくと、そこは何もない空間。
目の前に、あいと三藁たちが、白衣姿で立っている。

あい「それでは、理科の実験を始めましょう」
三藁「はい、先生」
神代「実験? 何なの? あんたたち……」

あいたちに詰め寄ろうとする神代。目に見えない壁に頭をぶつける。
いつしか、周囲に巨大な理科の実験道具が並び、自分は三角フラスコに閉じ込められている。
痛む頭を手で押さえる神代。

神代「何なのよ、一体……?」
輪入道「おぉっと、いけねぇ。頭痛がするらしい」
一目連「酸素が足りないようですねぇ」
骨女「では作りましょう」
輪入道「まずは、二酸化マンガン」
一目連「続いて、過酸化水素水を注入」
骨女「酸素発生!」

彼らが各器具で調合した気体が、チューブを通じて三角フラスコへ送られる。

神代「そんなことより、早く、ここから出して……う……うぅっ……」

苦しみ始める神代。

輪入道「おや? ちょっと待て、ありゃ二酸化マンガンじゃねぇぞ」
骨女「あら本当。これ石灰石じゃない」
一目連「で、注入してるのは希塩酸だったよ」
輪入道「あぁ、いけねぇ……二酸化炭素を作っちまったぃ」
神代「どうして……? こんな……」
一目連「面白いからさ」
骨女「自分がやられたら嫌だと思うことをやると楽しいのよねぇ」
神代「ふざけ……ないでよ……」

周囲の光景が、ガラスの如く砕け散る。

そこはもとの、何もない空間。
着物姿の閻魔あいが1人、佇んでいる。


あい「闇に惑いし哀れな影よ……人を傷つけ貶めて、罪に溺れし業のたま……」


真っ赤な瞳が神城を捉える。


あい「イッペン、死ンデミル?」


あいが両腕を広げる。
手首にかけた数珠の鈴がチリンと鳴り、着物の花模様が虚空へと無数に咲き誇る──


やがて、神代が気づく。
霧が立ち込める三途の川の上、あいが櫂を漕ぐ木船の上に、自分が乗っている。

神代「こ、ここは……どこへ行くの!? 船を戻して!」

あいが無表情で櫂を漕ぎ続ける。
突如、神代の服の袖から、首元から無数の毛虫が這い出す。
そして彼女の口から、鼻から、耳からも……全身が毛虫にまみれる。

神代「あ!? あぁ!? あ……」


あい「この怨み……地獄へ流します……」


船の先には、巨大な鳥居──


後日の学校。

麻紀が校庭の花壇を見つめている。
首元には、死後の地獄行きの証である地獄の刻印が浮かび上がっている。

そんな麻紀を、あいと三藁たちが、校外から金網越しに見守る。
麻紀が花壇のもとから立ち去る。

骨女「ま、一件落着ってとこかね」
一目連「一応な」

雨が降り出す。

輪入道「降ってきた……さ、行こう」


あいたちが立ち去った後、花壇の上に着物姿の幼い少女が現れ、花を踏み潰す。顔は見えない。

少女「きゃはっ!」


放課後。

皆が帰った後、中瀬と麻紀が教室に残り、修学旅行のしおりの製作に勤しんでいる。

中瀬「振り分け、完了ぉっ! 手伝ってくれてありがとう、麻紀。後は留めるだけだね。その前に……ちょっとトイレ!」
麻紀「うん」

中瀬が去る。
麻紀が中瀬のホチキスを借り、日程表を留める。

麻紀「え……これ?」

そのホチキスの針の色には、見覚えがある。
確かにあのとき、制服の袖に刺さっていた針と同じもの。
まさか、犯人は──!?

そんな麻紀の後ろ姿を、教室の入口で中瀬が冷ややかに見つめている……


どこかの真っ暗な世界に、無数の蝋燭が灯されている。

その中に「恩田麻紀」と書かれた蝋燭が、新たに加わる──


あなたの怨み……晴らします


(続く)
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