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時空警察ヴェッカーD-02の第1回 (前編)


AD2002


都会の雑踏の中を、1人歩くセーラー服姿の少女──後藤カナ。
その前方には、季節には不釣合いな黒のロングコートに身を包んだ男が歩いている。
カナの視線が厳しく、黒コートの男を見つめ、追い続ける。


突如、黒コートの男が足を止める。
カナも足を止める。

黒コートの男がカナの方を振り向く。

カナが首から提げているペンダントを掴む。
携帯用時空操作ツール、クロノクリスタルだ。

クロノクリスタルが起動──
周囲の雑踏や一切の動きが超スローモーションとなり、カナの黒コートの男が周囲の時間流から切り離される。

黒コートの男が剣を抜き、カナに突進。
カナが再びクロノクリスタルに手を伸ばすと、全身が白い制服──ヴェックフォームに包まれ、手に剣が現れる。

カナと黒コートの男の鍔迫り合い。
突如、男がカナの目の前から姿を消す。
次の瞬間、男はカナの背後に出現し、腕でカナを羽交い絞めにする。

カナがクロノクリスタルを外し、頭上に放り投げ、自らは姿を消す。
クロノクリスタルから角錐状のフィールドが形成され、男を取り囲む。
そして、フィールドごと男が虚空に消え去る。ディメンジョンプリズン──時空刑務所へ転送されたのだ。

再び姿を現したカナ。周囲の風景も元通り動き出す。
元のセーラー服姿となったカナが、地面からクロノクリスタルを拾い上げる。


雑踏が街を歩き続ける。何事も起きなかったかのように……


「我々の意識が未来を変える。
なぜなら、我々が未来をどう見るかは我々の意識次第だからだ」

ユージン・ウィグナー博士 (Eugene Wigner 1902-1995)



時空警察ヴェッカー
D−02
ディーオーツー


PHASE−1


物語の始まりは、先のカナの戦いから、およそ3ヶ月前にさかのぼる……。


夕暮れの、とあるマンション。
ベッドに横たわった女性が、息絶える──


ところ変わって、とある高校の1クラス。
朝礼で、転入生として後藤カナが紹介される。

担任「転入生の、後藤カナくんだ」
カナ「よろしくお願いします!」

黒板に名前を書き始めるカナ。
ところが「後藤」の「後」の字は左右が逆になった珍妙な形。
生徒たちがクスクス笑う。

担任「君? よく……うちの編入試験、受かったな」
カナ「そりゃ、試験問題さえわかってれば」

……と言いかけ、慌ててカナが口をつぐむ。

担任「試験問題が何だ?」
カナ「いえ……過去の試験問題の、傾向を調べてですね……」
担任「まぁとにかく、非常に個性的な友達が1人入ったわけだけど、何分初めてだから、何もわからないこと多いと思うんで、みんな親切に教えてあげて」

窓際の席の女生徒、榊 明(メイ)が、興味なさげに窓の外を見つめる。
彼女の首にも、カナと同じクロノクリスタルが。


先のマンションへ、警視庁の刑事・木場健人(ケント)と、先輩の田中守が突入する。

ケント「こっちです」
田中「おぅ!」

ケントが一室のドアを激しくノックする。

ケント「すいません、すいません!」


とある豪邸の大広間を拭き掃除しているメイド、村田アミ(アム)。

アム「おなか減ったぁ〜」

彼女の首にも、カナたちと同じクロノクリスタルが。


高校で授業中のカナ。退屈そうにあくびをする。
ふと見ると、メイの席が空いている。
窓から校庭を覗くと、メイがエスケープしてどこかへと立ち去ってゆく。
慌ててカナが席を立ち、教室を飛び出す。

教師「どうした? 後藤!?」


学校を去ってゆくメイを、カナが追って歩く。


先のマンション。
管理人に鍵を開けてもらい、ケントたちが中に入る。

ケント「どうも……」

そこにあったのは、ミイラ化した死体……


時空警察D-02本部。
ヴェックフォームに身を包んだ少女、エリーがピクリとも動かずに佇んでいる。
彼女の首にも、やはりクロノクリスタルが下げられている。


街角に停められた車の中。
ニュースキャスター、日向サキがパソコンで英文チャットをしている。

サキ「どういうことですか? もっと詳しく教えて下さい」
返答「君は命令に従えばいい」
サキ「確かに事件は増えています。しかしこれほどの人員が必要とは思えません」
返答「No answer」
サキ「何か重要な事態が? 答えてデビッド!」
返答「No answer」

そこへ、テレビ局のスタッフが顔を出す。

スタッフ「サキさん、お願いします」
サキ「はい、すぐ行きます!」

サキが車を出る。彼女の首にも、やはりクロノクリスタルが。


アムが豪邸の飼い犬にドッグフードを食べさせている。

アム「お前、本当にいい物食ってるにゃ」

あまり美味しそうなのか、ドッグフードの皿を取り上げるアム。

アム「アムちゃんね、いっぱいお掃除したからぁ、疲れておなかがペコペコさんなの。だからぁ、ケチケチしないで、一口ちょうだい」

ドッグフードを口にし、ポリポリと噛む。

アム「ん──! おいにぃ! うまじうまじぃ!」


警察病院。

「よろしくお願いします」「はい……」

ケントに看護師の望見ハルカ(ハル)が寄り添う。

ハル「どうだった……?」
ケント「……ハルはまだ、現物を見たことがないんだったね」
ハル「えぇ」
ケント「だったら、その目で確認しておいた方がいい」

ハルの首にも、やはりクロノクリスタルが。


遺体の保管されている部屋に入る2人。
意を決し、遺体を包んでいる布を開く。
そのあまりの惨状に、ハルは動揺を隠せず、目を覆う。

ケント「済まない。ハルにも知っておいてほしかったんだ」
ハル「まさか……こんな……」
ケント「殺されたのはこれで8人目だ……許せない。一刻も早く犯人を逮捕しないと……!」


街頭でサキがTVレポーターとしてニュースを伝える。

サキ「今回も、被害者は女性。過去8人の犠牲者は、いずれも全身の血液を抜かれてミイラ化しているという、極めて無惨な状態で発見されています」

街角を歩くメイを、依然カナが追う。
ビルにかけられた大スクリーンに、サキがニュースを伝える様子が映し出されている。

サキ「依然、犯人の手掛かりはありません。警察は、何らかの事故の可能性もあるとして、事件性を否定していますが、迅速な対応が待たれます。現場より、日向がお伝えしました」


街外れの教会。

メイが祈りを捧げている。

神父が歩み寄る。

神父「こんにちは。今日はどなたにお祈りを?」
メイ「……亡くなった……女性たちに」
神父「あぁ……悲しい事件です」

神父が十字を切る。

メイ「神父様? 人は……なぜ、罪を犯すのですか?」
神父「……人は皆、産まれながらに罪を持っています。あなたも、そしてこの私も」
メイ「神父様も……?」

神父が頷く。

神父「罪を犯さない人はいません。しかし、私たちは人の罪を許すことはできます」

神父が去り、入れ替わりにカナがやって来る。

カナ「あなたが榊 明?」
メイ「……」
カナ「教会でお祈りなんて、可愛いところもあるのね」
メイ「つけて来たの?」
カナ「仕方がないでしょ? 無視するんだから」

メイが立ち去ろうとする。

カナ「あなた、クラスメイトに嫌われてるよ? もうちょっとうまくやったらどうなの?」
メイ「余計なお世話よ。私に仲間なんていらない」
カナ「でも、わざわざ反感買って目立たなくても……」

メイが教会を出る。カナも追う。

カナ「どこ行くの!? 仕事は!?」
メイ「私は私でやる。あんたもそうすれば?」
カナ「ちょっと待ってぇ、ねぇ!」


夜の繁華街。
人混みの中に、機械仕掛けの奇怪なゴーグルをつけた男が紛れている。
そのゴーグルの視界が、仕事帰りのOL風の女性・まりを捉える──


警察病院。

ハル「被害者は、これで8人か」
ケント「全員が若い女性という以外……何も共通点が見つかってないんだ」
ハル「事件が起きたのは、どこも密室だったんでしょ?」
ケント「そうなんだ。一番新しい事件では、犯人は高層マンションの12階から、玄関を通らずに消えている」
ハル「その前の事件では、二重ロックを外さずに、中に侵入されたのよね」
ケント「もっと不思議なことがある。部屋の中からも、それに被害者の傷口からもルミノール反応が出ない。犯人はどこにも触れずに、被害者の体の中から血液だけを運び去った」
ハル「不可能だわ……」
ケント「そう、不可能だ……この時代の技術では」

ハル「やはり……時空犯罪」
ケント「時空犯罪」

サキ「時空犯罪」

メイ「時空犯罪」
カナ「時空犯罪」

アム「時空犯罪……」


D-02本部。

サキ「また時空犯罪が……いくら何でも多すぎる。一体、何が起きてるっていうの? エリー、起動して」

それまでぴくりとも動かなかったエリーが目覚め、キーボードを打ち始める。

サキ「メイ、カナと一緒に調査に向かって」

クロノクリスタルによる通信で、声が届けられる。
無表情に駆け出すメイ。

カナ「初めての事件です……よし、頑張るぞっ!」

カナもメイを追って駆け出す。


先のゴーグルの男に狙われた女性、まりが地下道を歩く。
ふと、視線を感じたように後ろを振り向くが、誰もいない。
気のせいか……といった面持ちで、また歩き出す。


豪邸。

トイレにこもっているアム。

アム「駄目です〜チーフ〜! アムちゃん、なんかおなかが痛いんです〜!」
サキ「ったくしょうがないわねぇ、この緊急時に……また変な物でも食べたんでしょう!」


まりが自宅へ帰宅。
着替えにかかる。
その背後、虚空に時空の出入口──ローレンツ・ホールが形成され、あのゴーグルの男が出現する。


夜の繁華街。

カナ「ったく、どこ行ったんだよメイは……」


とある橋を歩くメイ。

サキ「メイ、その近くで時空の歪みを感じたわ」

メイのクロノクリスタルが、近くの廃ビルの方に反応を示す。
ビルに入り込み、反応を追った末、屋上へと辿り着く。
屋上から見下ろす光景。真下の空中にローレンツ・ホールが形成されている。

サキ「メイ、カナと別行動をとってるの!? 単独じゃ危険よ、カナと合流しなさい! 命令に従わないと、ヴェックフォームは送らないわ!」
メイ「残念ですけどそんな暇ありません。今こうしてる間にも、次の犠牲者が出るかもしれないんです」

メイが屋上の防護柵を越える。

サキ「待ちなさい、メイ! 生身でローレンツホーツに飛び込むなんて、何考えてるの!? メイ!!」

メイが屋上から身を投げ、ローレンツホーツに飛び込む──


先のマンション。

まりが、襲い来るゴーグルの男に気付く。

まり「嫌っ!? あなた、誰!?」

男の手首から、長い2本の爪が伸びる。

まり「嫌ぁっ! やめて……嫌ぁ──!」

争いの末、まりは部屋の隅へ追い詰められてしまう。
男の爪が、まりの首下に迫る……

メイ「やめて!」

室内にローレンツ・ホールから飛び出すメイ。
ローレンツ・ホールを生身で通り抜けたダメージで、息が切れ、顔は汗で滲んでいる。


D-02本部。

サキ「まったくメイは、いつもいつも……」
ハル「犯人が特定できたわ!」
エリー「テツ・カシワバ、A級時空犯罪者。2197年、ディメンションプリズンより移送中に、時空捜査官2名を殺害し脱走。20世紀のどこかに潜伏している可能性ありとして、指名手配中」
サキ「情報を、カナとメイの端末に送って」
エリー「はい」


メイが身を投げたビルの屋上へ、カナも追いつく。

カナ「ヴェックフォームを送って下さい!」
エリー「ヴェックフォーム、トランスファーします」

カナがビルから身を投げる。
その身がヴェックフォームに包まれ、ローレンツ・ホールへと飛び込んでいく──


まりのマンション。

メイ「早く逃げて!」

メイが犯人の男──テツ・カシワバに挑むが、何の装備もなしでは到底歯が立たない。
テツがメイを叩き飛ばし、再びまりに爪を立てる。
爪がまりの首に刺さり、爪を伝って血が吸い取られてゆく。
やがてまりがミイラと化し、崩れ落ちる。

それを目の当たりにしたメイの脳裏に、かつての記憶が甦る。
小学生頃の自分。
目の前で、母親がミイラとなって倒れている──

忌まわしい記憶に茫然自失となったメイに、テツが迫る。
そこへカナがローレンツ・ホールを通り抜けて到着。時空警察のレーザー銃・クロノガンを突きつける。
咄嗟にテツが逃げ出す。

カナ「大丈夫!?」
メイ「私はいい、早く奴を追って!」
カナ「でも……」
メイ「早く……犯人を、早く!」


D-02本部。

サキ「その男の行動には、腑に落ちない点がある。聞きだしたいことがあるから、すぐにはディメンションプリズンには送らないで。カナ、聞こえてるの!? メイ!?」


テツが、とある路地裏を逃げる。
その前方を、クロノガンを構えたカナが塞ぐ。
後ろを振り向くと、そこにはメイが。

メイ「ヴェックフォームを送って下さい」

メイの体もまたヴェックフォームに包まれる。
テツの振るう爪をメイが受け止め、パンチ、キックがテツに炸裂。
顔を覆っていたゴーグルが飛び、地面に転がる。

クロノガンを構えたカナとメイがテツを囲む。

メイ「なぜ何人もの人を殺したの!? お前の目的は!?」
テツ「俺は何も知らない! あいつに命令されてやったんだ……」
メイ「あいつ……誰なの、それは!?」
カナ「メイ、油断しちゃ駄目!」
メイ「本当なんだ! あいつに俺の正体を感づかれた……そのために脅されていたんだ……言うことを聞けば、安全な時代に送ってやると言われたんだ」

隙をついてテツがカナのクロノガンを跳ね飛ばし、メイを羽交い絞めにして爪を突きつける。
咄嗟にカナがクロノクリスタルを頭上に放り上げ、テツのもとからメイを救い、逃げ出す。
テツが角錐状のフィールドに包まれる。

テツ「やめろぉ……」

テツの姿が虚空へ消え去る。ディメンションプリズンへ転送されたのだ。

メイ「……何をするの? まだ聞き出すことがあったのに!」
カナ「やらなきゃ、あなたがやられてたわ」


2人が立ち去った後。

あの路地裏に何者かが現れ、ゴーグルを拾い上げる……。


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