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RozenMaiden(ローゼンメイデン)
序章・前篇
 
 「まきますか まきませんか」と書かれた紙。
 主人公・ジュンはしばし迷うも、「まきますか」の所に丸をつける。
 
 チャイムの音。
宅配便のおじさん「桜田さーん、ちわーす、お届けものでーす。桜田さーん」
少女「は……い……」
 おどおどと扉を開け出てきたのはジュンの姉・のりだった。
おじさん「あれ?エーっと、お母さんいるかな」
のり「………」
 無言で首を横に振るのり。
おじさん「じゃあお父さんは」
のり「誰もいません…だからソレいりません…」
おじさん「え?」
のり「あ…朝から他にも怪しいお届け物がこんなに沢山…!わ…私、怖くて開けられなくってえぇ……」
 玄関にはその他にも多くの怪しげな荷物が山積みにされていた。
のり「お…おじさん、お願いです!一緒に開けて下さいぃ」
おじさん「こ…困っちゃったなあ……」
 
 一方ジュンの部屋。
 先ほどの紙をうっとりしながら見ているジュン。
ジュン「チェックをしたら返信用封筒に入れ、貴方の机の二番目の引き出しに保管して下さい。人工精霊ホーリエが異次元より貴方の手紙を回収に参ります(注:決して覗かないで下さい!)…ああっ…これは久々に大物の予感、楽しませてくれそうな気が…」
のり「ジュンくーん」
 階段を駆け上りジュンの部屋に入ってくるのり。
のり「ま…またヘンな荷物届いてぇぇ、今日はもう9個目なのぅ」
ジュン「ノックして入れ、ブス。全部僕が通販したんだ、勝手に開けるなブス」
のり「ジュンくんもうやめてぇぇ、こんな事ぉ…欲しいものがあるならお姉ちゃんが買ってあげるからぁ…」
ジュン「やなこった」
 そういって先ほどの封筒を引き出しに入れるジュン。
ジュン「僕の唯一の楽しみを他人にとやかく言われたくないね」
のり「他人じゃないわよぅ、お姉ちゃんだものぅ」
 一枚の怪しげなチラシを手にとって、
のり「こんな胡散臭い物ばかり買ってぇ…」
ジュン「あっ、また勝手に」
のり「しかもどれも明らかにぼったくりよぅ…」
ジュン「インチキ商売なんて百も承知なの。手元に届いてひと通り笑ったら、期限ギリギリに返品してクーリングオフすんの。そんなつまんねーモンを一歩間違えば本当に買わされちゃうかも……そのギリギリのスリルがたまんないワケよ。ああ…絶対いらないのに…」
 のりは呆れたような目でジュンを見るが、ジュンはのりを蹴飛ばしながら、
ジュン「お前、今暗いなーコイツとか思っただろ。え?よ?」
のり「そ…そんな事ないわ、ちょっとバチアタリな子と思っただけで…」
ジュン「出てけ」
のり「それより!もっと明るい趣味を見つけてみようよっ、ジュンくん!ラクロスなんてどうかなぁ?ホラ、これ、お姉ちゃんとお揃いのサオ買って…」
 のりを部屋から追い出すジュン。
のり「あぁーん」
 ジュン、不機嫌そうにパソコンの前に戻る。
のり「ジュンくん…せめて…また一緒に御飯食べて、楽しく…お話しましょうよぉ…」
 のりは涙声で扉の外から話し掛ける。
のり「もっと沢山聞きたいなぁ…ジュンくんの今の趣味の事とか…そうしたらきっと…また学校にだって…」
 ジュン、苛立たしげに扉に向かってボールを投げつける。大きな音が響き、
のり「ご…ごめんなさい…ごめんね…」
 ジュンは相変わらず不機嫌そうにパソコンをいじっていた。
ジュン「…フン、すっかり気分が害されたじゃないか…………」
 ジュン、ふと思い立って、
ジュン「…精霊ホーリエはそろそろ御降臨あそばしたかな?なんつって」
 引き出しを開けるもさっき入れたはずの封筒は消え失せていた。
ジュン「無い…?」
 
 翌日。
のり「ジュンくん、ジュンくーん」
 またものりがジュンの部屋に駆け込んでくる。
のり「新聞取りに行ったら玄関の前にこれが置いてあって…こ…これもジュンくんの通販?」
 ジュンは不思議がる。何かのケースと思しき鞄がそこにはあったからだ。
 中を開けてみると人形とゼンマイが入っていた。
のり「きれーい…」
ジュン「人形…だよな。こんなの買ったっけ…」
 キラキラと眼を輝かすのりを見て、ジュン、
ジュン「…何だよ」
のり「ジュンくん、これアレよねぇ。部分的に精巧にできてるって言う…あのダッチ」
ジュン「死ね!!」
のり「良かったぁ…ジュンくんお年頃になっても、ちっともお姉ちゃんのパンツ盗んだりしないから心配で…早速パパとママにコレクトコールで電話しなきゃ」
 勝手に勘違いしたのり、部屋から去っていく。
ジュン「くそ…何考えてんだアイツ…」
 トランクの方を振り返るジュン、
ジュン「…………こんな乙女な人形(モノ)、僕が買うもんか…何なんだ全く。保証書か何か入ってないのか?すぐ送り返して…」
 とりあえず抱き上げてみると、
ジュン「うわ、でか…」
 しかし人形の眼は閉じたままである。
ジュン「そーっと…」
 鞄に戻そうとするが髪に触れてしまう。
ジュン「……よく出来てるなあ。やわらかいや…目とか開かないかな。うーん……」
 人形のまぶたを開けようとするが開かない。
ジュン「逆さにするとか…………」
 とりあえず人形を逆さにしてみる。しかし、
ジュン「………はいてるんだ、やっぱり……なっ、何してんだ僕は」
 首を振り邪念を払うが、その時にゼンマイに気づく。
ジュン「ゼンマイ…?」
 人形の背中にゼンマイ穴と思しき物を見つけ、
ジュン「……いいよな、ちょっとぐらいなら、動かしても…」
 そしてゼンマイをゼンマイ穴に差し込んだ途端。
ジュン「え…」
 勝手にゼンマイは巻かれ、人形の眼が開かれていく。
ジュン「な…?………」
 降り立った人形、独りでにジュンの方へ歩き出す。
ジュン「あ…あわ……」
 怯えるジュンを人形は強気な眼で見て、左手で彼の頬を叩いた!
ジュン「……ギ……ギ………ギイャアアアア」
 その悲鳴にのりが慌てて入ってくる。
のり「どどどどうしたのジュンくん、ドドドロボウかぁ」
ジュン「ギャ――――」
 ジュン、のりの姿に驚くもドアを閉める。そして振り返ってみると、
ジュン「あ…あれ?」
 人形は動いていなかった。
ジュン「う…動いてない…?や…やっぱり何かの見間違い…」
人形「なんて声出すのよ、気絶しちゃったワ」
ジュン「ッ…」
 人形はいきなり起き出した!
人形「全く…いきなりレディの身体を触れまわすなんて…人間のオスは想像以上に下劣ね」
ジュン「…すご…時代はここまで進化を…」
 人形はジュンの方を見据え、
人形「おまえ、名は?」
ジュン「ジ…ジュン…桜田ジュン…」
人形「そう、美しくない名前ね。私の名は<真紅>、薔薇乙女(ローゼンメイデン)の第5ドール」
 「真紅」と名乗った人形はさらに告げる。
真紅「そしてジュン、おまえはこれより真紅の下僕となる」
ジュン「し…しもべ…だぁ!?こいつ―――どういう会話を入力(プログラム)されてんだ」
真紅「さあ、その左手の指輪にキスをしなさい」
ジュン「あぁん!?何が左手の…指…」
 ジュンが自分の左手を見ると、いつの間にか指輪が嵌っていた。
ジュン「なっなっ、何コレェ、いつの間にィー!?ぬっ、抜け…」
真紅「無理に抜くと肉が削げるわよ。不本意なのは私も同じだわ。でもネジを巻かれてしまったんだもの。人工精霊ホーリエの問いにおまえは確かに応えたはず」
ジュン「人工精霊…まさかあのインチキ通販のことか?あのダイレクトメールが…まさか…あっ、そうか。さては新たの霊感商法だな、そうに決まってる。手の込んだことしやがって…きっとこの人形もどこかに仕掛けが」
真紅「触れるな」
 触ろうとしたジュンを叩く真紅。
ジュン「あっつ、くそぅ…騙されないぞ…そんなこと……そんなこ…」
 何かに気づいたジュン、
ジュン「…呪いだ。きっと僕が呪いグッズをバカにして、イタズラ通販ばかりしてたからバチが当たったんだ…どうしよう…パパ…ママ…」
 勝手に落ち込んでいるジュンを無視して真紅、
真紅「それにしても粗末な部屋だこと……あら?」
 何かに気づいた真紅、
真紅「ちょっと、あの棚の上が見たいわ。抱っこして頂戴」
ジュン「………」
 ジュン、「なんで僕が…」とつぶやきながら横から抱きかかえるが、
真紅「………抱き方が違う!」
 真紅はジュンを叩く。
ジュン「あぅ、スミマセン」
 まるで腹話術の人形のような抱き方で、
真紅「そうよ、これでいいの」
ジュン(うるさいなあ、もう…)
真紅「ジュン、あれは何?」
ジュン「……呪いのブードゥー人形だけど…」
真紅「…ちょっと!届かないわ、取って頂戴」
 人形を抱えた真紅、
真紅「おまえ人間にしては、なかなか良いドールを持っているわ」
ジュン「はあ……ありがとうございます」
 その時、真紅が何かに気づいたらしい。
真紅「……もう来たのね」
ジュン「え…」
真紅「全くお茶を楽しむ時間もないわ」
 その刹那、部屋のガラスが割れる!
ジュン「わっ」
 ふと足元を見ると、包丁が2本突き刺さっていた。
ジュン「な…何、なんっ…」
真紅「ねえ人間、残念だけど、おまえはここで死ぬわ。それが嫌なら誓いなさい。薔薇の指輪にかけて、私のローザミスティカを護ると」
 
(RozenMaiden 序章・前篇 Fin)
 
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