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  (宇宙空間のような幻想的な空間。龍に乗った男が彗星を眺めている)

  (男は額を隠し、古代中国の官服を着ている)

男「・・・・・・計都星が現れたか・・・」
 「急がねばならぬ・・・」





●第一話 黄金都市(エルドラド)







?「・・・徐・・・・・・・・・福・・・・・・・・・様・・・・・・」

  (いずこからか男に呼びかける声。幽霊のような実体の無い姿で二人の人物が現れる)

  (彼らもまた官服を着て額を隠している)

徐福「韓終・・・・・・石生か」
  「拡大した意識に合わせ自我を希薄にせよ」
  「どこにでも自然の気の流れがある それに同調せよ」

  (徐福の言葉を受けた二人の姿が安定し、徐福の乗る龍の上に立つ)

徐福「観えたか?」
韓終「は・・・・・・いささか安定しましてございます」
徐福「では・・・・・・東海の彼方へ意識を広げてみるがよい」

  (徐福の言葉に従い意識を集中する韓終と石生)

徐福「あれがエイ州ぞ」

  (朝鮮半島をしめす徐福)

石生「方丈は何処に?」
徐福「さらに南だ いささか遠い」「ワシにもまだ見えぬ」

  (やがて龍はひとつの群島を見下ろす位置にきた)

石生「おお 長大な群島が・・・・・・」
徐福「あれこそ蓬莱よ」

  (日本列島を眼下に眺める三人。彼らの正体とは・・・・・?)




「西暦1606年 ハレー彗星地球に最接近」



「さらに6年後ーーーーー1612年(慶長十七年)」






  (ここは泉州・堺)




?「御前・・・・・・そう言わはるが・・・・・・」
 「関東と大阪の実力を平明にハカリにかければやはり大阪に分が悪い・・・・・・」

  (大屋敷にて集まっているのは堺衆の実力者たち。四人の男と対峙し、茶を点てているのは”御前”と呼ばれる女性)

堺衆「う・・・うむ」
  「徳川様にお身方せねば」「あとの祟りが恐ろしいで・・・」
御前「・・・やれやれ かつては信長公にすらてむかった堺商人の骨はのうなりましたかえ?」
堺衆「あれは・・・昔の夢や」
御前「公儀はただ徳川のお家のみを守ろうとする政権。海外からの新たな文物 技術 思想の流入を厭います」
  「切支丹禁令や海外貿易へのしめつけがよい例・・・・・・」
  「もし徳川様が天下を取れば遠からず国を閉めることになりましょう」
堺衆「さ・・・・・・鎖国政策を取ると!?」
  「もしそうなれば我ら堺衆は生きてゆけぬが・・・・・・」
御前「この日本国は世界の流れから二百年・・・・・・いえ三百年は立ち遅れましょう」
堺衆「三百年後より・・・・・・明日を生きねばならぬて・・・」

  カン!(どこまでも気弱な男たちに業を煮やしたか、茶杓で台を叩く御前)

御前「貉の影に怯えて刃を振り回すような肝のすわらぬお人は、明日の朝日すら拝めぬようになりますえ!!」

  (御前の剣幕に震え上がる堺衆。特に二人は抱き合うほどの怯えようだ)




  (若い女性ながら年配の堺衆を圧倒する御前。その様子を天井裏から眺めている影があった)

影「ははあ・・・・・・」
 「あの女が堺衆の領袖 和泉御前か・・・・・・」
 「商人が支配するこの境は、日本で唯一の中立地帯かと思ったが・・・・・・なかなかもめてるようだな・・・」
 「面白え・・・・・・」

  (影の主は青年らしく、修験者の格好をして口には鳥の嘴のようなマスクをしている)





  (部屋を出て廊下を歩いている和泉御前)

御前「ちっ・・・」
  「・・・・・・明 琉球 呂宋(ルソン) 安南 シャム ジャガタラ スペイン ポルトガル イギリス オランダ・・・・・・」
  「パシフィックオーシャンの彼方の新大陸まで商いに出かけた堺商人ともあろうもんが・・・・・・」
  「どいつもこいつも浮き足立ちやがって・・・・・・」
老人「・・・・・・先日の刺客 やはり池永様 芝辻様のさしがねで?」

  (いきなり和泉御前の背後から老人が現れる)

御前「うお!」「神出鬼没だね東方翁(トンファンウォン)」
  「二人とも青くなって縮こまってやがったよ」
  「おおかた関東の本多佐渡あたりが黒幕さ」

  (二人とは、会議で抱き合うまで怯えていた二人の堺衆のことらしい)

東方翁「さてその刺客・・・・・・」
御前「何か吐いたかいあの女?」
東方翁「いやさ・・・・・・牢から消えましたわい」
御前「逃げたのかい?」
東方翁「不是(いいえ)・・・・・・」
   「錠前が外から引きちぎられておりましたわ。おそらくこの一時ほどの間ですわい」
   「人の力ではありませぬなあ」
御前「・・・・・・曼陀蛮(アンガマン)の奴らか!」
  「つけ上がりやがって!」

  (東方翁の報告に怒りを隠さない和泉御前)





  (一方、天井裏に潜入していた修験者姿の青年は・・・・)

青年「さて・・・・・・行きがけの駄賃だ」
   「黄金都市と何し負う堺の富・・・・・少々布施してもらおうかい」

  (天井裏を風のように走る青年。と、その前に・・・)

?「刺客かい 盗賊かい?」
青年「!」
?「ま どっちでもええがな」

  (現われたのは全身にネズミをたからせた男。肌が浅黒く、あきらかに日本人ではない)

青年「・・・・・・!」
異国人「ナマステー」
   「・・・・・・あ これな。ワイの故国のあいさつで『あんたを敬う』いう意味や」
   「ええ言葉やろ覚えとき」
青年「・・・・・・」
  「怪しい奴! 何者だおまえ!!」
異国人「おいおいワイのセリフやろ!」
青年「俺は少々強引に喜捨をさせるただの験者だ!」
  「怪しくない!!」
異国人「無理やろその理屈」

  (堂々と無理な理屈を主張する青年に呆れた様子の異国人)

異国人「兄ちゃん 忍び込むんやったら、もちっと気配を消さなあかんで」
青年「商人の館と思ってちと甘くみちまったな・・・・・・」
異国人「Ham」

  パパパパ(突然気合の声を上げる異国人。全身にたかっていたネズミを手で払い飛ばす)

  パパパパ(飛んできたネズミの大群をやはり手ではじく青年)

青年「!」

  ヒュッ(いつの間にか青年に接近していた異国人。体を低くして足元をねらった蹴りを繰り出す)

  タン(飛び上がって別の柱に移る青年)

  ピッ(蹴りで青年の顔を狙う異国人。青年が口元につけていたマスクが飛んだ)

異国人「ほっ!」

  タン(さらに体を沈め、その反動でジャンプする異国人)

青年「唐土の拳法か!」

  (腕を組んで攻撃に備えると同時に、鉤付きの縄を用意する青年)

異国人「ジーナヒーン(ちゃうわい)!」
   「カラリや!!」

  (青年の防御をものともせず蹴りで吹き飛ばす異国人)

  バキ(窓を破って吹き飛ばされる青年。屋根の置き物のひとつに降り立つ)

異国人「中華(チーナ)の拳法(クンフー)がカラリのパクリや!!」
   「間違えんとき!!」



青年「異人の用心棒か」
  「さすが堺だな」



  (青年の言葉を示すように、眼下には様々な異国文化が渾然一体となった堺の町並みが見える)

  ザザザザザザザ(青年と異国人の闘気に反応したか、多くの鳥が飛び立つ)

異国人「天竺からの流れ者・・・・・・天下の遊行者(サンニャーシー)シーラバドラ!」
   「ちなみにメッチャ強いでェ!!」

  ボリボリ(体を掻きながら名乗る天竺人シーラバドラ)

青年「そいつは奇遇だ」
  「俺も強いぜ!!」

  ピュッ(指笛を吹く青年)


  (どこかの木の上。狼のような犬が寝ている。その隣には錫杖が)

  ガキ、ブオ!(と・・・・突然目をあけた犬は錫杖を咥え、思いっきり放り投げた)

  ゴオオオ、ズヴオオン(投げられた錫杖はすごい勢いで青年のいる屋根につきささる)

  (唖然とその光景を眺めるシーラバドラ)

青年「摩利王〜・・・・・・持ってこいよ・・・・・・」
  「法具を投げるな!」

  (青年の苦情を意に介さずまた眠り始める摩利王)




青年「冥土の土産に名乗ってやる!!」

  シャイイイン(錫杖から仕込み刀を取り出す青年)

青年「葛城独角坊 俗名・九曜羅喉丸!!」
  「見参!!」



  ズガッ(名乗りと同時に仕込み刀を振るう羅喉丸。置き物を切り裂く)

  ズズズ(切られて落ちていく置き物。と、そこに縄がかけられている)

シーラバドラ「え?」
      「イヤキヤーハエ(なんやこれ)!」
      「いつの間に!」

  (狼狽するシーラバドラ。彼の服には置き物から伸びた鉤付きの縄がかかっている。戦いの最中に羅喉丸がひっかけたらしい)

  (落下していく置き物。その重みで引きずられるシーラバドラ)

シーラバドラ「ま 待てやこら!」「こんなんありかい!!」
      「あららららららら」
      「アッチャ〜〜〜〜〜!!」



  ザパーン(母国語で絶叫しながら落ちていくシーラバドラ。池にでも落ちたらしく水音が聞こえる)



羅喉丸「さて 障碍を折伏したところで・・・・・・」
   「騒ぎが大きくなる前に浄財いただいてズラかるか!」



  (再び屋敷の中。褐色の肌の美女が床の隠し扉から地下へ入っていく)

  ギギギギ(音を立てて閉じられる扉。その様子を天井裏から観察していた羅喉丸)

羅喉丸「なんだありゃ・・・・・・地下蔵か?」

  (興味を覚えた様子の羅喉丸。天井裏から飛び降りる)

羅喉丸「一言主め」
   「『堺の情勢を探って来い』なんて」
   「つまらんことをぬかすと思ったが・・・・・・」


  ガゴン(しばし考え、レバーを動かす羅喉丸)

  ギギギギ(音を立てて開かれる扉)

羅喉丸「お? 血の匂い・・・・・・」


  ぶわ!(地下蔵より得体の知れない気配が立ち上る)


羅喉丸「いろいろと隠し事がありそうじゃねえか」
   「お宝より面白そうだ!!」


  (不敵な笑みを浮かべる羅喉丸)





  (果たして、彼が地下で見るものとはいったいなにか・・・・・・?)








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