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ラーゼフォン 多元変奏曲のオープニング


西暦2012年12月27日


不思議なる国を彷徨い
永き日を夢見て暮す
束の間の夏は果てるまで
金色の夕映えの中
どこまでもたゆたえゆかん
人の世は 夢に非ずや


夕暮れ。東京、とある中学校の教室。

窓際に佇む3年生の2人。主人公・神名綾人と、美嶋遙。

綾人「来年で、この校舎も取り壊しかぁ……」
遙「卒業したら、想い出の場所がなくなっちゃうね」
綾人「寂しい?」
遙「うぅん。でも……」
綾人「でも?」
遙「でも、後輩くんたちには悪いけど、2人の想い出の場所が、記憶の中だけになっちゃうのもいいかな、なんて」

頬を赤く染める遙。綾人も頬を赤く染めて微笑み、遙の隣りに並ぶ。
綾人がためらいながら、遙の手を握る。
2人が見つめ合う。綾人が顔を遙に近づけてゆく。
遙が何かに気付き、綾人を小突く。

綾人「ん? 何だよ?」

遥が教室の入口を指す。級友の朝比奈浩子がいる。

浩子「あ……あたし、何も見てないから。誰にも言わないから。その……」
綾人「朝比奈……」

綾人が浩子の方へ駆け寄ろうとするが、遥が綾人の袖を掴んで引き止めている。
浩子が瞳に涙を浮かべ、隠し持っていた封筒を握り潰す。

浩子「ごめん!」

駆け去る浩子。


帰り道。

遙「怒ってる?」
綾人「怒ってない」
遙「怒ってる……」
綾人「怒ってないよ」

綾人が手に吐息を吐きかける。

遙「寒い?」
綾人「寒くない」
遙「ごめんね……」
綾人「何が?」
遙「クリスマスプレゼント、もうすぐできるから。その……私、どんくさくって」

ふと、綾人が足を止める。

綾人「あのさ……」
遙「何?」

綾人「……うち、寄ってかない?」

思いがけない言葉に、しばし呆然となる遥。

遙「……うん! うん!」


綾人の家。

紅茶を前にした遙。隣りにはむくれ顔の綾人。
そしてその向かいには、綾人の母・麻弥。

麻弥「そう。お正月は名古屋に行かれるのね」
遙「はい、明日から。母の実家がありますので」
麻弥「そう、そうなさいな」
遙「は?」
麻弥「それがいい。そうするといいわ」
遙「はぁ……?」
綾人「じゃあ母さん、僕、美嶋のこと送って来るから」
遙「あ、おばさま、長居してすみませんでした。失礼します」
麻弥「遥ちゃん」
遥「はい?」
麻弥「これからも、綾人のことをよろしくね」
遥「……はい! 失礼します」


夜の帰り道。

遥「ここでいいよ」
綾人「ごめんな。今日に限って、まさかこんなに早く帰って来てるなんて思わなかったから……変な人だったろ? うちの母さん」
遥「そんなことない、そんなことないよ。お母さんは関係ない。だって……神名くんは、神名くんなんだから。私、その……」
綾人「いつ戻って来るんだ?」
遥「3日」
綾人「そっか。じゃあ4日に、初詣行こうぜ」
遥「……うん! うん!」

雪が降り始める。

遥「はっ……わぁ、雪だぁ!」


そして年が明けたある日。

上空を何機もの戦闘機が行き交う。

防衛軍本部。

「FS-SO6、戦闘空域に入りました」「24の回線、復旧できません」
「何だ……? 何が起こってるんだ、東京で!?」
「まさか!?」「バカなことを考えるな!」
「FS-SO6、通信拒絶」「何!?」
「敵の機動性が……ダメです、追随不能! このままでは全機、撃墜されてしまいます!」

東京の上空を奇妙な形の飛行体が舞い、光線を放ち、次々に戦闘機を撃墜してゆく。
苦戦する戦闘機パイロットたち。

「ダメだ……振り切れない! 何だ……何なんだ、これは!?」

戦闘機群が一掃された後、空中には巨大な城砦が出現する。


東京へと続く道路。車が渋滞している。
ドライブインでテレビに見入る群集。

「未だ通信の拒絶した首都圏との連絡は、いつ頃復旧するかについては、一切見通しが立っていないとのことです」
「道路交通情報センターより、交通規制のお知らせ……」

1台の車から遥が飛び出し、無我夢中で走り出す。

「遥、危ないから戻って来なさい! 遥、遥!」


目の前で、首都圏から巨大な光球が発生している。
光球が際限なく巨大化し、次第に東京を飲み込んでゆく。
綾人のいる東京を……


遥「神名……くん……? 神名くん、神名くん、神名くん、神名くん……神名くううぅぅ──んっっ!!」


ラーゼフォン
多元変奏曲
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