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忍ペンまん丸 @

〜 巻の一 新入りが来た! 〜


「ふう〜重い重い…よいしょっと!…もう少しだからね、デイジーちゃん。」
とってもカワイらしいおじいちゃんが、リュックサックに、まあるい頭の何かを詰めて(?)
年賀山の山道を、登っている。
実は、この山…ズバリ忍者の山なのである。
伊賀でも甲賀でもない、『念雅(年賀)流』忍者の山なのだ。
「きっと、み〜んな、待ってるよ。」
おじいちゃんは、山の修練場へと急いだ。

修練場
木の切り株に、一人ぽつねんとすわっているキツネのツネ次郎。
キツネとはいっても、立派な(?)忍者だ。刀をちゃんと背負っている。
「なんだよ、誰もいないじゃん…お昼食べたら、この修練場で待ってろって、ネンガ様が言ってたのに…」
ツネ次郎は、「ふわ〜あ」と、大きなあくび…
「タヌ太郎はともかく、ネンガ様まで、いったい何してるんだ?じいやさんが、新入り連れて来るんだろ
…………………………ヒマだなあ、シリトリでもやろうかな?え〜と、…くも!」
そう言ったきり、カタまるツネ次郎…………やがて、おでこから汗…
その時、しゅっ! 後から手裏剣が飛んできて、ツネ次郎の後頭部に命中〜!
「自分ではじめたしりとりに、自分で負けてどうするっ!」 木の上から飛び降りるタヌ太郎。
いうまでもないが、こちらはタヌキ忍者。
「あっ、タヌ太郎!手裏剣なんか投げて、あぶないだろ!」
「うはははは、よく見ろよ。伊賀流の訓練用ゴム手裏剣だ。」
たしかに、ベコベコしている…「敵の訓練場まで行って、拾ってくるなよ…」
「しかし、自分ではじめたシリトリに自分で負けるとはな、ツネ次郎、おまえって情けねえぞ、うははは!」
「なにぃ〜じゃあ、おまえやってみろ!」
「おう、やってやらあ、オイラはな、シリトリなんて、いつまでも続けられるんだよ!」
「やってみろよ!」 「よ〜し、まず…『き』」 「き」 「き」 「き」…
だんだん、タヌ太郎からも汗が…「き…き…き、き!き!き!…どうだ、いつまでも続くだろっ!」
「いつまでも、やってろぉ、はてしなく!」 ツネ次郎、逆襲〜!どへっ!と、ぶっ飛ばされるタヌ太郎。

途中の山道
さっきの二人とは、比べものにならないほど威厳のある忍者が歩いている。
とはいっても、クマだけど…しかも、目、細っ!
このクマ忍者が、ピタッと、足を止めて言った。
「甲賀のガン吉だな、あとをつけたりせずに、いっしょに歩いてはどうだ。」
木の上で、はっとするガン吉…って、こいつは、サル。
「いっしょに歩くわけねえだろ、オレはおまえたちの遠目役(スパイみたいなもの)だぞ。」
「ふむ、ならば…」 懐に、手をいれるネンガ。 「ぬっ!」 背中の刀に手をかけるガン吉。
ネンガは、懐からナント!『つぶつぶポッキー』みたいなお菓子を出した…
「お菓子を、食べぬか。」
ガン吉の頭に浮かぶ、「わーい、おじちゃん、ありがとう」と言いながら泣きじゃくるガン吉と、
その頭を、「うむ、良い子になるのだぞ」と、なぜなぜするネンガ…の図。
それを振り払い、ガン吉は、目を血走らせて 「いらんわい!」 血管、ブチブチ…
「今どき、お菓子もらっただけで喜ぶガキがいると思ってんのかっ。
それより、おまえらみんな集まって、何するつもりだっ!」
「じいやが来るのだ。新しき者を連れてな。」 歩き出すネンガ。
「なにっ?年賀に、新しいヤツが入るのかっ。」
「年賀ではない、我らの流派は 『念雅』 である。念雅とは念じること正しき者のことを言う。
新しき者を見たくば、修練場に来るがよい。甲賀者にも伊賀者にも、かくしだてはせぬ。」
そう言ってネンガは、先ほどの、つぶつぶポッキーみたいなのを一本、ぷわっ!と、
木の上のガン吉めがけて、弾き飛ばした。
「!」 何の抵抗も出来ないまま、それはガン吉の口へすぽっと…
「くそぉ、ネンガめ、バカにしやがって…ぽりぽり…!しまった、喰っちまった…」
ガン吉の頭に浮かぶ、「おじちゃん、おいしいお菓子ありがとう!うっきー、きゃっきゃっ」と、
泣いて喜ぶガン吉…の図。

修練場
リュックを背負ったおじいちゃんが、息を切らして到着。
「やれやれ、ようやく着いたぞ、デイジーちゃん。」
それに、気づいたタヌ太郎とツネ次郎。 「あっ、じいやさんだ」 「こんにちは、じいやさん」
「やあ、タヌ太郎ちゃん、ツネ次郎ちゃん、元気だった?おやおや、ネンガはまだ、来ていないのかな?」
「ネンガ様は、まだだよ。」 「じいやさん、この前たのんだ、マヨネーズと入浴剤持って来てくれた?」
そこへ、現れたネンガ。 「来たか、じいや。」
「やあ、ネンガ!」 手を振るおじいちゃん。
「来たかじゃないよ。自分だけ遅れてズルイぞ!」
そう言ったタヌ太郎の頭に、ネンガのでっかいゲンコツが…
「おまえは、遊び半分にゴム手裏剣など投げておったな。そういうことは、やめろと言っておるはずだ。」
ずこっ!と、ほとんど半分くらいにつぶれるタヌ太郎の頭。
「な…なんで、知ってるの…?」 ツネ次郎、たら〜ん…
「さて、新しき者に、会わせてもらおう。」 ネンガは、おじいちゃんの方を見て言った。
「今度は、いいよ〜〜すっごくいいんだよ〜〜〜」 しわだらけの顔で、上目遣いはやめてっ!
「よいしょ、さあ、みんなにあいさつしてね。」 切り株の上に、リュックを下ろすと…
出てきたのは、まんまる頭の、ペンギンの坊や!
「これが、デイジーちゃんでえす!」 思いっきり紹介するおじいちゃん。
「みなさん、こんにちは、ボク、ペンギンのデイジーです。」 デイジーちゃんは、ぺこりと頭をさげた。
「ペ…ペンギン?」 「デ…デイジー?」 タヌ太郎、ツネ次郎も、ア然!
タヌ太郎が、ネンガの袖を引っ張ってみる、ツンツン…ピクリとも動かないネンガ。
「あ〜カタまってるわ、コレ…」
と、思ったら、いきなり…ばっごっ!と、とばっちりのゲンコツを喰らうタヌ太郎…頭頂部、噴火〜。
ネンガは、顔中ブチブチだらけにして、怒鳴った。
ペンギンなどつれてきて、どうしようというのだぁ!
「だ…だって…だって、かわいかったんだもの〜〜」 ますます顔をしわだらけにして泣き出すおじいちゃん。
その様子を、ガン吉が、離れた木の上から見ている。
「くっくっくっ、役立たずのタヌキとキツネの次は、ペンギンか…
とんでもねえヤツばっかり押し付けられて、ネンガも大変だぜ。」
一方、こちらはデイジーちゃん…ちょこちょこと、おじいちゃんのそばへ行って
「おじいちゃん、おこられちゃったね。じゃあボク、動物園に帰ろうか…」
と、まあるいおめめで、おじいちゃんを見上げる…
「いい子だなぁ…ほんとにいい子だなぁ〜〜〜」 おじいちゃんは、余計ぼろぼろ泣き出した…アップはやめて!
泣くな!」 ネンガは、おじいちゃんに怒鳴り…切り株に隠れて震えているデイジーちゃんを見た。
「怖がらせてしまったようだの。」 と、懐に手を…
「あ…あのバカ、またやるつもりだ。」 木の上で、頭を抱えるガン吉。
案の定、つぶつぶポッキーみたいなのを出して、「お菓子を食べぬか。」と、デイジーちゃんに差し出す。
「また、はじまった。」 「お菓子をやれば、子供は喜ぶと思ってんだよ。」
タヌ太郎もツネ次郎も、あきれ顔……。ところが…
「わ〜〜〜い、おじちゃん、ありがとう!」と、ぴーぴー喜んで、ぽりぽり食べるデイジーちゃん…!
「うむ、うむ、よい子じゃ、よい子じゃ。」 これにはネンガも、大満足。
「まだいたのね、ああいうやつ…」 「ふびんな子やなぁ」 タヌ太郎、ツネ次郎…泣く。
無心で、お菓子を食べるデイジーちゃんをじっと見ながら、ネンガはおじいちゃんに尋ねた。
「動物園から、連れてきたのか?」
「ああ、かわいくてかわいくてなぁ。罪もない動物たちを、忍者なんかにしたのは、私のご先祖様だけど、
私はね、伊賀だの甲賀だの言って戦うのは、もうやめてほしいんだよ…。
それで、デイジーちゃんをはじめて見た時に、私は思ったんだよ、この子を見たら、
みんなの気持ちがなごんで、この山も平和になるんじゃないかって…」
ぽりぽりぽり……夢中でお菓子を食べ続けるデイジーちゃん…
みんなが、それを見つめている…………
うははははは、そんなことありっこないよ!ちゃんちゃらおかしいぜー」 タヌ太郎、大笑い!
せっかくのイイ雰囲気、台無し…に、コケるおじいちゃん。
「だまれ!」 ずごっ!!タヌ太郎は、ネンガから、今日3発めのゲンコツを喰らった。
「子よ、動物園を出て、なぜ、この山に来る気になった。」
ネンガが、デイジーちゃんに尋ねると、
デイジーちゃんは大きなネンガを見上げて、こう答えた…「おじいちゃんが、かわいかったから。」
ぽっと頬を赤らめて、はにかむおじいちゃん…全員、たら〜ん…
「顔を赤らめるなよ、顔を!」
木の上では、ガン吉が…「ばかばかしい、帰ろうかな、オレ…」
「もうひとつだけ聞こう。何か、得意なものはあるか?」
ネンガの問いに、デイジーちゃんは、にっこりと答えた。
「うん、ある。…ボク、算数ができます。」
おじいちゃんの脳裏によみがえる、動物園の『ペンギンショー』の一場面…
2+1=のボードに、3のパネルをくわえてヨチヨチ歩くデイジーちゃんの姿…
「うんうん、あれは、かわいかったねぇ…」
ネンガ、一言…「そうか」…………
「あと、サッカーもできます。」
今度は、ペンギンたちのサッカーショーを思い出すおじいちゃん…
「あ〜あれも、かわいかったなぁ…」
木の上のガン吉…「はははは…オレ、もう帰ろ…」 よろよろ…
「ネンガッ!この子をここにおいてあげてっ!おいてあげるだけでいいから、ねっ、ねっ!」
ネンガの手を握り、ぶんぶんゆすりながら、懇願するおじいちゃん。
ネンガは、そっとその手を放し、ゆっくりと歩き出す…固唾をのんでそれを見ているみんな。
やがて、ネンガは、切り株にどっかと腰を下ろし、こう言った。「名は、なんとする。」
それを聞いて喜ぶみんな。
「よかったな、おまえ。オイラ、タヌ太郎っていうんだ。」 デイジーちゃんの頭を、なぜなぜ…。
「オレは、ツネ次郎、よろしく。」 2人の間で、うれしそうなデイジーちゃん。
おじいちゃんは、思わず、ネンガと握手!
「じゃあ、いいんだね?名前はデイジーちゃんだよ、かわいいでしょっ。」
「名は、ワシがつける。」 「え?なんで?デイジーちゃんでいいじゃない。」
呼ぶ方の身にもなってみろ、名前はワシがつけるっ!」 ネンガ、怒鳴る。
「あ…もうだめだ。」 「あ〜〜あ。」 と、タヌ太郎とツネ次郎…『?』のデイジーちゃん。
「すんげえ、わかりやすい名前をつけられるぞ。」
「オレが、タヌキだからタヌ太郎だろ。」 「オレ、キツネだからツネ次郎。」
「おまえはペンギンだから…」 「ペン三郎だな…」 
「ペ…ペンさぶろう…?」 だんだん青くなるデイジーちゃん…じゃなく、もしかするとペン三郎。
「ギン三郎かもよ。」 「ペギー三郎かもな…」
その時、ネンガが…!「ふむ、よい名を考えついたぞ…『まん丸』!」と、にっこり。
「どうして?どうしてまん丸なの?」 おじいちゃんは、納得がいかないらしい。
「わかりやすいからだ。」 ネンガ、きっぱり! 「今日から、おまえの名は、まん丸とする。」
「は…はい」 このようにして、デイジーちゃんは、はれて(?)まん丸となった。
「そうと決まったら、山を案内してやるよ、さあ、行こ!」
「まあ、よかったじゃん、ペギー南極とかじゃなくて…」
タヌ太郎、ツネ次郎といっしょに歩き出すまん丸…しかし、すってんころりんのぱっ!と、転ぶ。
「そうか…ペンギンだから、うまく歩けないんだ。」
「ほらほら、転ばないように、ゆっくり歩いて…」
2人にはさまれて、よちよち進むまん丸。
よちよち…ぺたぺた…とてとて…おたおた…
「あぶないあぶない…」 「ゆっくりゆっくり…」
それを見ている、ネンガとおじいちゃん。
「どうだい、気持ちがなごむだろ。まん丸ちゃんを見たら、
きっとみんな戦うのなんか、やめるようになるよ。」
ネンガの後ろ頭には、汗…
まだいたガン吉…「なるわけねーだろ、…結局、最後までいたな、オレ…」


〜 巻の一 おわり 〜

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