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N A R U T O
−ナルト−


第1話 「参上!うずまきナルト」



〜 昔 妖狐ありけり
その狐 九つの尾あり
その尾 一度振らば山崩れ 津波立つ
これに人ども 忍(しのび)の輩集めける
わずか一人が忍の者 生死を賭け これを封印せしめるなり
その者死にけり
その忍の者 名を四代目 火影と申す 〜



一人の、ヘソにうずまきの紋様のある男の赤ん坊が
泣いている。
これが、NARUTO(ナルト)である。


それから12年後
「ひゃーっはっはっは…、へーっへっへっへ!!」
ペンキの入ったバケツを持って逃げるナルト。
「こらーナルト!なんちゅう罰当たりなことをしたんだ!!」
「今日という今日は、絶対許さんぞー!」
追いかける大人たち。
しかし、なかなか捕まらない。
見ると、里を囲むように切り立つ高い崖の部分に、
巨大な顔のレリーフが四つ、里を見下ろすように彫られているのだが、
その、恐れ多いお顔に、ペンキで落書きが…。
どうやら、ペンキのバケツを持って逃げるナルトが
追いかけられている理由は、これのようだ。
「はーっはっはっは!うっせぇんだってばよ!
おまえらさ、おまえらさあ、あーんなまね、できねぇだろ!
だけどオレにはできる!
オレは、すごいんだってばよ!!」

「大変です!三代目!」 「火影(ほかげ)様!!」
書をしたためていた老人は、
「なに?またナルトのヤツが、何かしでかしでもしたか?」
筆を止め、鋭い眼差しで振り返った。
「はい、でっかい火影様たちの顔岩に…」
「恐れ多くも落書きを!」
「ふぅ…」
パイプをくわえて煙を吐く老人。

屋根から屋根へと逃げ回るナルト。
もちろん、追いかける大人たちも忍なので、負けずに追いかけてはいるが、
仕舞いには、壁と同系の柄の布で身を隠したナルトに、
まんまと巻かれてしまった。
「はーっはっはっは。わけないってばよ!」
と、ナルトが布から出てきたその時…
「こら、ナルトーーーーーっ!!!」
耳元で響いたデカい声に、
「うわーーーーっったったった!」
びっくりして飛び上がってしりもちをつくナルト。
「…ってってって。突然、なにすんだってばよ!イルカ先生っ!!」
それは、ナルトの通う『忍者アカデミー』のイルカ先生だった。
「おまえこそ授業中に、なにやってんだ!」


場所は変わって、ここは『忍者アカデミー』
立派な忍者を育てるための学校である。
「いいか、ナルト。おまえは、前回も前々回も卒業試験に落ちてるんだ。
いたずらしてる場合じゃないだろっ、バカヤロウっ!!」
クラスメートの見ている中、
教壇の前で、体を縄でぐるぐる巻きにされ、
イルカ先生にお説教をくらうナルト。
「ふんっ。」
顔をそむけるナルト…、それを見たイルカ先生はブチッ。
「今日の授業は、変化(へんげ)の術の復習テストだ!
すでに合格している者も並べ!!」
「え〜〜〜っ?!」
しぶしぶ前に出るクラスメートたち。
「春野サクラ、いっきまーす!」
サクラ色の髪をしたサクラが、胸の前で、立てた左手の人差し指と中指を、
右手で握るようにして組み、
(忍者が忍術を使う時によくやるポーズね、これを『印を組む』という)
「変化!」
と唱えると、サクラはイルカ先生そっくりに!!
「よぅし!」
「やったーーっ!!」
ちょっとカワイ子ぶって喜ぶサクラから…??
白黒の『内なるサクラ』が出てきて、
(っっしゃーーーっんなろぅっ!!)
と、こぶしを握ってガッツポーズ。
…が、これは誰にも見えていないらしい。
あくまで『内なるサクラ』ね、『内なる』。
「サスケくん!見てくれたぁ??」
サクラは、次に登場するクールなサスケが大好きなのだ♪
「次!うちはサスケ。」
「…はい。」
クールなサスケは、「変化!」と唱える必要などないのか、
あっという間にイルカ先生に変化!
先生も、ちょっとびっくり。
「!!よ、よし…。次!うずまきナルト!」
すると、ナルトの横にいたシカマル(男)とイノ(女)はブツブツ。
「…ったく、しちめんどくせぇ。」
「みんなアンタのせいよ。」
「知るかよ…」
前に出るナルト。
みんな嫌々並んで順番を待っている中、ただ一人、
頬を赤らめてナルトを見守っている女の子がいる。
ヒナタだ。
(ナルトくん…頑張って…)
ナルトは、気合をこめて印を組み叫んだ!
「変化っ!!」
ボヨ〜ン!!
まぁ、確かに変化はしたものの、課題のイルカ先生には程遠い、
全裸の金髪ギャルにっ!!
「うっふ〜ん♪」
「うぎゃーーっ!」
鼻血を撒き散らしながら吹っ飛ぶイルカ先生。
「だーっひゃひゃひゃひゃ!!!!!
どうだ!名づけて『お色気の術』!!」
腹を抱えて大笑いするナルトに、先生は五倍くらいのデカイ顔になって怒鳴った。
「この大バカ者!!くだらん術を使うなっ!!!」


放課後、崖の顔(火影岩という)のペンキ落としをしているナルトと、
上から監視しているイルカ先生。
「くそぅ…くっそぅ…」
ブツブツ言いながら、ペンキをゴシゴシこするナルト。
ちなみに、ビルの窓拭き屋さんが使っているような、
ゴンドラに乗っている。…が、どこから吊っているのかは不明。
「きれーにするまで、家には帰さんからな!」
「別にいいよっ!家に帰ったってどーせ誰もいねーしよ!ふんっ。」
そんなナルトをじっと見下ろすイルカ先生…。
青い空に、遠くトンビの鳴き声が聞こえる。
「…ナルト。」
「今度はなにっ??」
すっごい憎たらしい顔で先生を見上げたナルトだったが、
「まぁ、なんだ…。それ全部きれいにしたら、
今晩…ラーメンおごってやる…。」
それを聞いて一転、ナルトの顔が輝きだす!!
「うわっ!!!よーーーーーーっし!頑張っちゃおっ!!」


ラーメン一楽
カウンターに座るイルカ先生と、
テーブルの上に、トレードマークのゴーグルを外して置いて、
おいしそうにラーメンをすするナルト。
「ナルト?」
「ん??」
「なんで、あんなところに落書きした?
火影様がどういう人たちか、わかってんだろ。」
「あったりまえじゃん!」
そしてナルトは、ラーメンの汁を飲み干して続けた。
「よーするに、火影の名前を受け継いだ人ってのは、
里一番の忍者だったってことだろ?
特に四代目って、里を化け狐から守った英雄らしいし…。」
「じゃあ、なんで…」
「このオレは、いずれ火影の名を受け継いで…、
んでよ、先代のどの火影をも越えてやるんだっ!!
んで、そんでさ、里のみんなに、オレの力を認めさせてやんだよ。」
思いがけないナルトの言葉に、
イルカ先生はちょっと戸惑い気味にラーメンを飲み込んだ。
「ところでさ、先生!お願いあんだけど…」
「おかわりか?」
「んーーにゃ!『木の葉の額あて』ちっとやらして!」
ニコッと笑って手を合わせるナルト。
すると先生は、額のハチマキ状の額あてに手をやって答えた。
「あーこれか?ダメダメっ!これは学校を卒業して、
一人前と認められた証だからな。
おまえは、明日!」
「んーー、ケチっ!!」
「はっはっは…、あ〜、だからゴーグル外してたな?」
「…おかわりっ!!!」
「あーーーーっ!!」


そして、次の日
今日は、アカデミーの卒業試験の日だ。
「では、これより卒業試験を始める。
呼ばれた者は、隣の教室に来るように。
なお、課題は『分身の術』とする。」
イルカ先生の言葉に、頭を抱えるナルト。
(がーーーーーん!!
よりによって、オレの一番苦手な術じゃねーか…)

隣の教室には、イルカ先生と、やさしそうな微笑みを浮かべたミズキ先生(男)。
そして…、机の上には、
合格者に与えられる『木の葉の額あて』が!!
二人の先生の見つめる中、ナルトは気合を込めた。
(でもさ、でもさ、やってやるってばよ!)
印を組んで目を閉じ、ナルトは叫んだ。
「分身の術っ!!!」
ぼわーーーーん!!
…と、ナルトの横に、もう一人のナルトが!!と言っても、
やられまくって、戦い疲れて、ノビてるーみたいな?
こんなのいくら出てきても、敵は大笑いするだけーみたいな?
と、とにかく、やっちまった状態のナルト。
それを見たイルカ先生の顔面が、ヒクヒク…。
「しっかーーーーーーく!!」
すると、ミズキ先生がやさしい声で言った。
「イルカ先生!彼は、身のこなしやスタミナは優秀ですし、
これでも、一応分身の術は出来てます。合格にしてあげても…」
ミズキ先生の言葉を聞いて、ナルトはニッコリ笑った!…が、
「ミズキ先生、みんな、最低でも三人には分身してるんです。
でも、ナルトはたった一人…
しかもこれは、足手まといになるだけです。
合格とは認められません。」
厳しいイルカ先生を、悔しそうににらむナルト。

アカデミーの外は、『木の葉の額あて』を付けた子供たちと、
迎えにきた親たちであふれ返っていた。
「一人前だね!」 「よくやった!流石俺の子だ!!」
「卒業おめでとう!!今夜はママがごちそう作るわ!」
みんな、卒業の喜びを分かち合っているが、
ナルトだけは一人、離れたブランコにまたがってうつむいていた。
そんなナルトに気づいた親たちは…
「ね、あの子。」
「例の子よ。一人だけ落ちたらしいわ。」
「ふん、いい気味よ!」
「あんなのが忍になったら大変よ。だって、本当はあの子…」
「ちょっと!それより先は禁句よ。」
そんな話が聞こえているのかいないのか、
ゴーグルの位置をちょっと直したナルトの横に、
木の上からそっと飛び降りて、ナルトに微笑むミズキ先生。

アカデミーの前で、卒業生たちを見送っているイルカ先生に、
横に立っていた三代目火影が言った。
「イルカよ、後で話がある。」
「…は、はい。」

ブランコに、ナルトの姿はもうない。


夕日の沈みかけた空を一望できる高台の家のベランダで、
座って話をしているナルトとミズキ先生。
「イルカ先生は、決して意地悪してるわけじゃないよ。」
「じゃあ、なんでオレばっかり…?」
「ナルトくんには、本当の意味で強くなって欲しいって思ってるんだよ、
…親のいない者同士。」
「…でも、卒業…したかったんだ。」
「はっは…。仕方がないな。」
「え?」
「君に、とっておきの秘密を教えよう。」
「…秘密??」
風に、銀色のサラサラヘアーをなびかせて微笑むミズキ先生と、
きょとーん!とした顔いっぱいに夕日を浴びているナルト。


その夜
ベッドで、火影の言葉を思い出しているイルカ先生。

〜 「イルカよ。」
「なんです?火影様…」
「おまえの気持ちもわからんでもない。
だが…ナルトも同じ…
親の愛情を知らずに育ってきたんじゃ。」 〜

イルカ先生の脳裏に焼きついて離れないあの出来事。
12年前の、九つの尾を持つ化け狐が里を襲ったあの日、
イルカ先生の両親は、その化け狐に挑み、命を落としたのだった。
忘れようにも忘れられない、あの化け狐の鋭い瞳…。
そこへ、
「イルカ先生!!起きてください!!」
外から呼ぶ声に、ハッと我に返るイルカ先生。
ドアを開けるとそこに、血相を変えたミズキ先生が!
「どうしたんです?」
「火影様のところへ集まってください!!
どうやらナルトくんが…、封印の書を持ち出したらしく…」
「!!!!!ふ、封印の書ですって!!」


森の中
ナルトが、地べたに座り込んで、
自分の上半身ほどの大きさもあろうかという巻物を開いている。
これが例の『封印の書』らしい。
「えーと、最初の術は…多重影分身…??
なんだよぉ〜、いきなり苦手な術かよぉ。」


火影の家
大勢の忍が集まっている。
「火影様、今度ばかりは、いたずらでは済まされません。」
「封印の書は、初代火影様が封印した危険なモノ。
使い方によっては…」
「もし、里の外に持ち出されたら、それこそ一大事!!」
必死に訴える忍たちに、火影は言った。
「うむ、ナルトを連れ戻すのじゃ。」
「ははっ!」
風を残して、一斉に飛ぶように散る忍たち。

イルカ先生は一人、みんなに見つかる前になんとかナルトを見つけ出そうと、
必死に里中を飛び回っていた。
(どこへ行った?ナルト…)

ここにも、一人でナルトのところへ急いでいる者がいた。
ミズキ先生だ。
(この事件[こと]を里に広めしのち、ナルトを始末する…。
そうすれば封印の書は、オレのものだっ!!)
…何を隠そうミズキ先生は、実は悪いヤツだった!!
イイ男なのに……。


再び森
「はぁはぁはぁ…」
封印の書を背負い、ドロドロボロボロの傷だらけで座っているナルト。
そこへ近づく一つの影…。
ナルトが顔を上げると、それは…!!!!!
「こぉら、ナルト!!」
それは、イルカ先生だった。
「えっへっへっへっへ…」
頭をかきかき立ち上がるナルト。
(…ん?)
その、汚れた傷だらけの体を見てイルカ先生はちょっと首をかしげた。
「見つかっちまったかぁ。まだ、術一個しか覚えてねーのに。」
(!!ここで術の練習を?…こんなになるまで??)
「あのさあのさー、これからすっげー術見せっからさー、
それ出来たら卒業させてくれよな!!
この巻物の術を見せれば、卒業まちがえねーんだろっ?」
「だ、誰がそんなことを?」
「ミズキ先生だってばよ!巻物のことも、この場所も、
ミズキ先生…が…。」
それを聞いて愕然とするイルカ先生。
(…!!ミ、ミズキだと?)
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ…!!!!
突然、イルカ先生の背後から『くない』(忍者の飛び道具)が飛んできた!
ナルトを突き飛ばし、それを一手に受けるかたちになったイルカ先生は、
まるでナイフ投げのマジックの的のような状態で、
小屋の壁にはり付いた。
体の形通りに、まわりに突き刺さるくない。
その内の1本は、イルカ先生の右足の太ももに突き刺さってしまった。
「よくここがわかったな。」
そう声のする高い木の枝を、痛みをこらえながら見上げるイルカ先生。
「…なるほど、そういうことか…」
そこには、巨大手裏剣を背負ったミズキが!!
「ナルト!巻物を渡せ。」
木の枝のミズキと、小屋にはり付け状態のイルカ先生と、
二人を交互に見ながら、まだわけのわからないナルト。
「あのさ、あのさ…、どうなってんの?これ…」
すると、イルカ先生は、太ももに刺さったくないを抜き、投げ捨ててこう言った。
「ナルト、巻物は死んでも渡すな!
それは、禁じ手の忍術を記して封印した危険なものだっ!
ミズキは、それを手に入れるため、おまえを利用したんだ!」
それを聞いたナルトは、ミズキに向かって身構える。
「ナルト、イルカは、おまえがそれを持つことを恐れているんだ。」
「えっ?!」
今度は、そのミズキの言葉に、イルカ先生の方を見るナルト。
「何を言っている、ミズキっ!…だまされるな、ナルト!!」
「ハッハッハッハ、本当のことを教えてやるよ。」
「バ、バカ!よせっ!!!!!」
ミズキが何か言おうとするのを、必死で止めるイルカ先生だったが…
「12年前の事件以来、里にはある掟が作られた。」
「…ある掟??」
「それはナルト!おまえにだけは決して知らされることのない掟だった。」
「!!オレにだけ?何なんだ?その掟って?」
「やめろ!!ミズキ!!」
なおも止めようとするイルカ先生。
しかし、ミズキは先を続けた。
「ナルトの正体が、化け狐だと口にしない掟だ。」
「…え……」
「つまり、おまえが!!イルカの両親を殺し、里を壊滅させた…
九尾の妖狐なんだよ!」
「やめろーーーーっ!!!!!」
叫ぶイルカ先生と、ただボー然と立ち尽くすナルト…。
「おまえは里のみんなに、ずーっとだまされていたんだよっ。
おかしいとは思わなかったか?あんなに毛嫌いされて。」
「…ちくしょー…、ちくしょうちくしょうちくしょーーーっ!!!」
泣き叫ぶナルトのまわりから、妖煙が立ち昇り始める。
「おまえなんか、誰も認めやしない!
イルカだって、おまえが憎いんだ!」
ミズキの、その言葉を聞いたとたん、イルカ先生の右の太ももが痛み出し、
それと同時に、イルカ先生は思い出していた…、火影の言葉を。

『イルカよ、ナルトは親の愛情を知らず、里の者には、
あの事件のことで煙たがられ…
だから、気を引くためにいたずらをするしかなかったのじゃ。
どんな形であれ、自分の存在価値を認めて欲しかったんじゃよ。
強がってはいるが、つらいのはナルトの方じゃ。』

その時!!
「死ねー、ナルト!!!」
ミズキが、背負っていたドでかい手裏剣を飛ばした!
それは、さながら電動ノコギリのような威力で、
ナルトに向かって一直線!
驚いて、這うように逃げるナルト。
「ナルト!伏せろーーーーっ!」
ナルトは、イルカ先生の声に、頭を抱えて地面に伏せたが!
シャキーン!!
何かに手裏剣が刺さった音がっ!!
ナルトが見上げると、なんと!!
ナルトをかばって上に覆いかぶさったイルカ先生の背中に、手裏剣が…!
「な、なんで…?」
ナルトの頬に、イルカ先生の口から血が流れて滴った。
「…同じだからさ。
両親が死んでから、誰もオレのことをほめたり、認めてくれる人は、
いなくなっちまった…。
デキの悪かったオレは、クラスでよくバカをやった。
人の気を引き付けたかったから、
優秀な方で、気が引けなかったから、
…ずっとバカやってたんだ。
苦しかった…、そうだよなぁ?ナルト…。
さみしかったんだよなぁ…、
苦しかったんだよなぁ…、ごめんな、ナルト。
オレがもっとしっかりしてりゃあ、
こんな思い、させずにすんだのに…」
ナルトの顔に、イルカ先生の涙が、後から後からあふれては落ちた。
「…っはっは、笑わせるぜ!!
イルカは、自分の両親を殺したおまえを、ずっと憎んでいたんだ!!
なんだかんだ言って、巻物を取り戻したいだけなんだ!」
負けずに怒鳴るミズキ。
ナルトは…心の中がめちゃくちゃだったに違いない。
何も言わず、巻物を背負ったまま走り去るナルト。
「ナルト!!ナルトーーーーーーーーッ!!!!!」
手を差し伸べて叫ぶイルカ先生の横に飛び降りるミズキ。
「はっはっは、ナルトは心変わりするようなヤツじゃねぇ。
あの巻物で、この里に復讐するぞ!
さっきのアイツの目見たろ?…化け狐の目だ。」
イルカ先生はよろよろと立ち上がり、背中のデカ手裏剣を抜き取ると、
「…ナルトは、そんなヤツじゃない!!!」
思い切りその手裏剣を、ミズキに向かって投げ返した。
ミズキは難なくそれを避け、
「ふんっ、ナルトを始末して、あの巻物さえ手に入れりゃそれでいいんだ。
おまえは、後回しだっ!」
そう言い残すと、ナルトを追って飛び去った。
ガクッと膝をつくイルカ先生。
「…させるか。」


里、火影の家
火影が、水晶玉をじっと見ている。
そこに映し出されているのは、
巻物を背負い、四つんばいで森を走るナルトの姿。
「やれやれ、ミズキの奴、しゃべりよって。
ナルトは今までになく不安定じゃな。
術で抑えられていた力は、開放するやもしれん…。
その上、封印の書も手の内にあるとすると、
自力で封印を破り、九尾の狐が現れる可能性も、万に一つだが考えられる。
その時は……」



「見つけた!!」
枝から枝へ、四つんばいで飛ぶように走るナルトを見つけたイルカ先生。
自分もスピードを上げ、すぐさまナルトと並走する。
「ナルト!!さっきミズキが言った事はデタラメだ!
早く巻物をこっちへ渡すんだぁ!!
ミズキが、巻物を狙ってる!!」
ナルトは、一瞬枝の上で立ち止まり、
チラッとイルカ先生に目をやったかと思うと、
こちらに向かってジャンプしたイルカ先生に体当たりをかました!
ちょうど、背負っていた巻物がイルカ先生のあご下にぶち当たり、
カウンターを食らったイルカ先生は、そのまま地面にたたきつけられてしまった!!
足ブレーキをかけながら、その近くに降り立つナルト。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
そして、背負っていた巻物を抱き、木の根元にへたり込む。
「そ、そんな…、どうして…だ…ナルト……どうして……」
イルカ先生は、体を半分起こし、歯を食いしばってナルトを睨みつけたかと思うと…!
その姿を、ミズキ自身に戻した。
そう、それは、イルカ先生に変化したミズキだったのだ。
「どうして、イルカじゃないとわかった…?」
すると、ナルトもまた、
「…えっへっへ……イルカはオレだ。」
姿を、イルカ先生に戻し、ニヤリと笑った。
その様子を、巻物を抱きかかえ、木の陰に隠れて見ている本物のナルト。
イルカ先生もミズキも、ナルトが近くにいることには気づいていない。
ミズキは、すぐに立ち上がり、
かなりの痛手を負っている上、今の変化で力を使い果たし、
木の根元に座り込んだままのイルカ先生に近づいた。
「なるほど…、親の敵に化けてまでアイツをかばって何になる?」
「おまえみたいなバカヤローに、巻物は渡さない…」
「バカはおまえだ。ナルトもオレと同じなんだよ!」
「…同じ?」
「あの巻物の術を使えば、何だって思いのままだ!
ナルトが…あの化け狐が、巻物の力を利用しないわけがない!!」
「…そうだな。」
!!!!!
イルカ先生が、否定しなかったことにショックを受ける木の陰のナルト。
(…ケっ…やっぱそうだってばよ!ほらな…、
イルカ先生も本心では、オレのこと…認めてねーんだっ!!!!!)
「…化け狐ならな。」
?????
イルカ先生の言葉は、そう続けられた。
(…?)
もう一度顔を上げるナルト。
イルカ先生は続けた。
「…けど、ナルトは違う。アイツは…
アイツは、このオレが認めた優秀な生徒だ。
努力家で…一途で…そのくせ不器用で…
誰からも認めてもらえなくて…。
アイツは、人の心の苦しみを知っている。
…アイツは化け狐なんかじゃないっ!
木の葉の里の、うずまきナルトだっ!!!!!」
…ナルトの顔は、もう涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
「ケッ!めでてぇヤローだな。
イルカ!おまえを後回しにするっつったがやめた!
さっさと死ねーーーーーーっ!!」
ミズキは、背負っていた巨大手裏剣を手元でビュンビュン回し、
イルカ先生に向かって突進!!
もう死力を使い果たしたイルカ先生は、動くことすらできない。
(…これまでか)
イルカ先生が、死を覚悟したその時だった。
「どぅおっ!!!」
木の陰から飛び出してきたナルトが、ミズキに体当たりをかました!!
不意をくらい、吹っ飛ぶミズキと巨大手裏剣。
(…!!!!!ナルト!)
驚くイルカ先生。
「…やってくれるじゃねーか!」
立ち上がるミズキを、ナルトは今まで見せたことのない厳しい目で、
グッとにらみ付ける。
「イルカ先生に…手ェ出すな…、殺すぞ!!」
「ほざくな!オメーみたいなガキ、一発でケリつけてやるよ!」
「やってみろよ、カス!千倍にして返してやっから。」
そう言って、ナルトは、指を握る普通の印とは違う、
右手の指と左手の指で、十字を形どるようにして印を結んだ。
「てめー小僧!やれるもんならやってみろー!化け狐っ!!」
ナルトに襲い掛かるミズキ!
そこでナルトが叫んだ!
「影分身の術!!!!!」
すると、な、な、なんとっ!!!!!
一人、二人、なんてもんじゃない…
森中を埋め尽くそうかという数のナルトが、
ミズキの周りを取り囲んだではないか!!
予想外のナルトの術の威力に驚き、慌てて足を止めるミズキ。
しかし、驚いたのはミズキばかりではなかった。
ナルトが、どれほど分身の術が苦手だったか一番よく知っている…
イルカ先生だ。
(…ナルト!おまえ…影分身の術を?!
自分そのものを作り出す高等忍術だ!)
「べろべろべろ〜!」 「こいってばよ!」 「ほら、こっちこっち!」
千人はいようかと思われるナルトたちに、
もうミズキは、しりもちをついてキョロキョロするばかり。
「それじゃあ、こっちからいくぜー!」
「…うわぁ〜っ!!」
ドス!ボカ!バキ!ドン!ボキ!ボコ!ガギ!…
ミズキの悲鳴と、すごい数の殴蹴音だけが、
薄っすらと明けかかった空に響き渡った…。

ボッコボコにされ、イイ男の見る影もなくなったミズキが、
ヒクヒクしながらノビている。
横に立って、頭をかくナルト。
「えっへっへっへ…、ちっとやりすぎちゃったぁ。
イルカ先生、大丈夫かぁ?」
木にもたれかかったままのイルカ先生を気遣うナルト。
「…ん?あ、ああ…」
(大したもんだ…、こいつ、ひょっとすると本当に、どの火影をも…)
「…ナルト、ちょっとこっちに来い!
おまえに渡したいもんがある。」


里、火影の家の前
忍たちが、ナルト探しから戻っている。
「ナルトのヤツ、見つかったか?」
「だめだ…」
「くそう、えらいことになったぞ。」
そこへ、パイプをくわえて出てきた火影。
「もう心配することはない。」
「火影様!」
「…もうじき、帰ってくるじゃろう。」


そして、森
「先生…?まだぁ??」
目を閉じているナルト。
「よぉし!もう目開けていいぞ!」
ナルトがゆっくり目を開くと、目の前にニッコリ笑ったイルカ先生が…?
だが、ちょっと印象が違うし、ナルトのゴーグルを持っているし…と、思ったら!
そうだ、イルカ先生の額にあった『木の葉の額あて』は今、
ナルトの額に、しっかりあてられていたのだった。
「卒業…おめでとう…」
イルカ先生の言葉に、声も出ないナルト。
ちょうど差し込んできた朝のまぶしい光が、ナルトの額でキラキラ反射した。
「よぉし!卒業祝いだ!ラーメンおごってやるぞ!」
でも…
「うわぁ〜!」どころか、逆に唇をキュッとかみしめるナルト。
「ん?」
いつもと違うナルトの態度に、イルカ先生が首をかしげると…?
「…イルカせんせーーーーぇ!!」
ナルトが、思いっきりイルカ先生に飛びついた!
どーーん!
背中を木の幹にぶつけるイルカ先生。
「おい!いてぇよぉ!」
「うわぁ〜〜〜ん…」
イルカ先生の胸で、わんわん泣き続けるナルトだった。

(ナルト…、忍にとって本当に大変なのはこれからだって、
説教するつもりだったのに…
まっ、それはラーメン屋まで我慢しといてやるか…)


― 第1話 終 ―

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