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まもって 守護月天!

第1話 守護月天 招来



むかしむかしから 中国奥地に伝わる伝説じゃ
いくつも山を越えた小さな国に
「支天輪(してんりん)」という名の
不思議な輪っかがあるそうな

支天輪の中を覗けし者
あらゆる災難をはねのける
「守護月天」の守りを得よう

その国ではそんなふうに
語り継がれておったそうじゃ




夕方、一人家に帰ってくる少年。

― 今 はるかな年月を経て その支天輪は ―

郵便受けを見ると 「あれ?小包来てる。」

― 小さな頃よりこの家で一人暮らしを続けている 七梨太助(しちりたすけ) ―

「父さんからだ。」

― 寂しい思いを抱えたこの少年のもとに
流れついたようじゃ ―

『ニィハオ!!太助
父さんは今、中国の奥地を旅している。
やはり中国はすごい!!
四千年の歴史は伊達ではないぞ!!』

父からの手紙を読みながら、ソファーにどっかと腰を下ろす太助。
「あーああ、あいかわらず熱いねぇ…」
そして、同封されていた八角形の腕輪状の飾りを手に取った。

『この間も骨董品屋で「支天輪」とかいう
すごい物をみつけたので送ってやろう。』

「この輪の中に光を見いだせる心の清い者には、
天の守りが授かるそうだ…?」

『父さんも覗いてみたが、何も見えなかった。
太助、父さんはすっかり汚れているよ、はっはっはっ。』

「…はっはっはっじゃねーよ。
そりゃ、14歳の息子一人置いて、世界中旅しているような親父は、
清らかじゃないよな。
その輪が、おまえを幸せに導いてくれる物であることを
父さんは願っている…か。」
(幸せ願うくらいなら、帰ってこいよな、まったく…)
太助は、その支天輪なる輪っかをそれとなく見てみた。
「しかし、中国四千年ねぇ…
はぁ?真っ暗でなんも見えないじゃん。
…ん?まっくら??
なんで輪っかなのに、向こう側が見えないんだよ!?
げっ!!なんか光ってる…
げげっ!!こっちに来る!!」
カッ!! まばゆい光!!
「なんだーー!!」
突然、太助の目の前に現れたのは…!
かわいいオンナの子〜!(ちょっと変わった格好だが…)
太助、汗…
そのまま、さささささ…っと後ずさり。
そして、ローボードにどんっ!
当然、飾ってあったフォトフレームが、頭にごんっ!
「始めまして御主…あ…、
大丈夫ですか?御主人様。」
ものすごく心配そうに太助に近づくオンナの子。
「だ…だだだだ…はい。」
オンナの子はニコッと微笑むと、太助の前にちょこん!と座った。
「はじめまして。私は、守護月天シャオリンと申します。」
「しゅ…しゅごげってん?」
「はい!天に浮かぶ月のように、主から離れることなく、
守り続ける者、という意味です。
名前はシャオリン…。シャオとお呼びください。
御主人様、あなたのお名前は?」
「し…七梨太助…です…ケド…」
「――――――」 ←シャオ、しばし太助の名をかみしめる…
・・・間・・・
「素敵なお名前ですね。」
ぐらぁ…とくる太助。
「…はぁ、な、なんかテンポが…」
「七梨太助様、これからは、敵国の襲来や刺客など…
あらゆるものから、私があなたをお守りします。
それにしても、この館はずいぶん警備が手薄のようですね。」
「敵国…?警備…?」
「玄関は、あちらですね。」
シャオは立ち上がり、さっさと玄関に向かっていく。
(なんなんだ、あの娘は!?)
汗…かきどうしの太助。
(待てぇ、落ち着いて考えろよぉ太助。
あの子はさっき、確かにあの変な輪っかから出てきた。
しかも『守る』とかなんとか…
ひょっとして、父さんの手紙にあった伝説みたいなものは、
本当だったのか!?)
その時、にっこり笑いながら、シャオが戻ってきた。
「太助様、もう安心です!!
玄関に罠を仕掛けましたから。」
「…わ…罠?」
♪ピンポ〜ン♪
玄関のチャイム…そして間髪を入れず…
ドン! 「ギャアアアアア…」
太助は…??(ドン?)
「さっそく何者か罠に掛かりましたわ!!」
シャオは、なぜかとても勇ましく言った。
太助が玄関に行ってみると…!!
小型の大砲と、その横には小さな兵隊さんが、
ドアに向かって発砲しているところだった。
「…あれ…は?」
あっけにとられる太助。
「車騎ですわ。私、支天輪から中国に伝わる星座を呼び出せるんです。
家人以外の人間を侵入させないよう命じておきました。」
(車騎〈しゃき〉…中国の星座、おおかみ座の一部のあたる)
えっへん!と、言わんばかりににこやかに答えるシャオ。
「………………(汗・・・」 の、太助。
塀のむこうで、近所のおばちゃんが、
『七梨さん、回覧板ここ置くわね〜』と、叫んでいる…
「これで、どんな手強い敵が来ても大丈夫ですわ!!」
がくん… 「消してくれぇ!!」
頭をかかえる太助。

リビング
太助は、ソファーでどんより落ち込んでいた。
(はぁ…、あーあ、あんなの見られちゃって、
後で町内の人にフォローすんの大変だなぁ…
あのおばちゃん、おしゃべりだし…)
「太助様、これはなんですか?」
シャオが、テレビを指差して太助に尋ねた。
「ああ、テレビだよ。」
リモコンで、テレビのスイッチを入れてやる太助。
パッと映った画面を真剣にみつめるシャオ。
「まあ!!………(しばし画面に見入る)………
あら、犬がいますわ。まあ、人まで!!
人と犬と一緒に、こんな小さな箱に入って
狭くはないのかしら。」
シャオ、とっても心配そう…。
「……………」 ただただ呆れる太助。

『おいスティーブ、あの犬はどこにいるんだ?』
『ああ、サンディーなら、庭で遊んでるけど。』
『フフフ、そうか…そいつは好都合だ…』


画面の中の男が、ニヤッと笑ったその瞬間!!
「太助様!!この人、悪い人ですわ!!」
シャオが、ばっと立ち上がった。

『ランス、冗談はよせよ…』
『GOOD LUCK スティーブ。』
銃口をスティーブに向けるランス。

「あれは転射だわ!!」
(転射〈てんしゃ〉…銃に似た武器)
そしてシャオは、必死に叫んだ!
「太助様、逃げてください!!こんな小さな箱の中で
転射なんて撃たれたら太助様も危険です!!」

『サンディー、助けてくれー!!』
バキューーーン!!!

「危ない、太助様ぁ!!」
太助をかばおうと、太助に飛びつくシャオ。
その勢いでソファーが倒れ、二人は重なるように床に落ちた。
どきどきどき… 高鳴る太助の胸。
「大丈夫ですか?」
どアップで尋ねるシャオ…
「…はい。」
顔を真っ赤にして答える太助…
「ん?」
シャオが、ふとテレビに目をやると、

『ありがとう、サンディー!!』
サンディーをひしと抱きしめるスティーブ。

「サンディー!!
太助様!!サンディーが悪い人をやっつけてくれましたわ。
サンディーに、ごほうびあげなくちゃ。」
シャオ、大喜び!
太助、………。
(…めちゃくちゃズレてるけど、
でも、なんか、やさしい子かも…)
「そこのお菓子をいただいてもいいですか?」
「…別にいいけど。(あげられないと思うよ)」
少しして…
「変ね、サンディーったら、どこに行っちゃったのかしら。」
シャオの前に散乱する、分解バラバラのテレビ…。
「ちょっ、ちょっとお!!…(汗!」

お風呂
バスタブにつかりながら、太助は、シャオについて考えていた。
(まったく…父さんも、とんでもないもの送ってくれたよなぁ。
でもまー、結構かわいいし、いや…すごくかな。
それに…)
シャオと重なって倒れた時のことを思い出して赤くなる太助。
その時…
「太助様…」
シャオの声だ。ドキッとする太助。
「お一人で入浴されるなんて、危険ですわ。」
ガララララ… 風呂場の戸の開く音と共に、
湯気の向こうにシャオの足がっ!!
「なな!!」
(なに〜〜!!はっ裸だ!!そうに違いない!!)
思わず太助は、お湯にすっぽりもぐった。
(なんて大胆な!!今出たら…
〜太助の頭に浮かぶ、
『太助様、お背中お流しいたしますわ』
シャオ、全裸で恥らう―の図〜
いや、いかん!!)
「入浴中は無防備だから、刺客に狙われやすいんですよ!!
私がそばで、お守りします。」
…ちゃんと水着らしきものを着てるシャオ。
ブクブクブク…太助はもぐったまま。
「………太助様?
太助様、どうしたんですか?
まさかもう敵の手に!?」
シャオは、必死に太助を引きずり出そうと、
バスタブに手を入れたが…
じたばたじたばた…抵抗しまくる太助。
(い、いやだ〜出たくないぃ!!
俺はまだ、子供でいたいんだぁ〜)
そしてついに、のぼせてグッタリ、ギブアーップ。
「太助様、しっかり!!」


ソファーに横たわる太助と、それを心配そうに見ているシャオ。
(たう〜〜…このままでは身がもたない…
どうやら俺を敵(?)から守ろうとしてくれてるみたいだけど…
俺の命を狙う敵なんていないし…
なんか残念な気もするけど、しょうがないよな…)
太助はムクッと起き上がると、シャオに向かってこう言った。
「…あのさ、ここって君が思ってるような危険なところじゃないし、
俺は、誰かに命を狙われたりもしてないんだよ。
何かあっても、自分のことくらい自分で守れるしさ。
だから…その…。」
「……………そう…だったんですか。
それじゃ私は、太助様に迷惑をかけてしまっただけだったのですね。」
ズキン! 太助の心が痛んだ。
「いや…別に、そういう…」
「わかりました。数々のご無礼、お許しください。
私は支天輪に帰ります。
いつかまた、心の清い方に巡りあえる日もありましょう。」
シャオは、ちょっと哀しそうに微笑むと、
あっという間に、支天輪の中へ消えてしまった…。
太助は、あっけなくシャオが行ってしまったことで
ちょっと切ない気持ちになったが、
床に転がった支天輪を拾い上げ、テーブルにそっと乗せた。
(世の中には不思議なこともあるもんだな…ぐらいにしとくか。
いろいろ考えると、なんかむなしくなりそうだし…)
「でも、夕食くらいは一緒に食べてもよかったかもな…」

星の瞬く夜空を眺めながら、窓際に座って、
一人コンビニのおにぎりとジュースの夕食をとる太助。
「……………はあ…」
出るのは、ため息ばっかり。
その様子を、支天輪の中からシャオが見ている。
(確かに危険な目には遭っていらっしゃらないみたい…
…だけど、寂しそう。
出てはいけないかしら――迷惑かしら。
……でも私、やっぱり)
シュウウ… 支天輪からそっと出て、
太助の後ろに立つシャオ。
「太助様…」
「…え……」
ビックリして太助が振り向くと、シャオがほほえんで太助を見ていた。
「もし迷惑でなければ、あなたの中にある『孤独』や『寂しさ』から
あなたを守ってさしあげたいのですが、
それでは、いけませんか?」
初めて会った時のように、太助の前にちょこんと座るシャオ。
「……私、、ここがどういう所なのか全然知らないから、
太助様に迷惑かけてしまうと思うし…
『寂しさ』から人を守る方法なんてわからないから、
役に立てないかもしれないけど…」
うつむくシャオに、太助は言った。
「…守るなんて、そんな大げさなこと言わなくても、
君がそばにいてくれたら、寂しさなんて…
吹っ飛んじゃうよ…きっと。
よろしくな、シャオ。」
「…………はい。」
ちょっぴり頬を赤らめて、太助の顔に自分の顔を近づけるシャオ。
ボッ!!太助の顔は、まるで火が点いたように真っ赤!
「あっ、そういえばサンディー、帰って来ませんね、
スティーブさんも…どこ行っちゃったのかしら。」
真剣にサンディーの身を案じるシャオ。
やっぱり、汗…の太助。
だが…

(…やっぱり、かわいい…
父さん、父さんがくれた輪っかのおかげで、
なんか幸せになれそうだよ。
確かに、中国四千年の歴史は伊達じゃないかもな、
――はっはっは…
げっ、うつっちまった…)


第1話 おしまい

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