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無敵看板娘N(ナパーム) 第1話「無敵看板娘N(ナパーム)」


「平日でもお客さんで賑わう町の名物 花見町商店街
 その中の安くておいしいラーメン屋 鬼丸飯店
 そして私はここの看板娘 鬼丸美輝!」
「いきなり路上に出たらあぶねーべ」
店から飛び出した美輝が車にはねられた姿を見て、明彦が言った。

「おうコラ ラーメンにゴキブリ入ってンゾコラァ!!」
「ならてめーも入っとけ!!」
「ぶぉ」
美輝は露骨な嫌がらせをかましてきた、いかにも危険そうな男の頭をラーメンの中に押し込んだ。
「待ってました!美輝ちゃんの大立ち回りィ!」
「やったれ――!」
店内の客は歓声をあげた。いつものことのようにこの光景を楽しんでいた。
「あんたウチのラーメンをなめてるね 入れるに事かいてゴキブリだぁ?
 この御時世コーカサスオオカブトだって店で買えるんだぞ
 グレード考慮してやり・直・し!」
美輝は男を店先に蹴りだした。
「やり直させるなアホォ」
美輝の母・真紀子の強力なパンチが美輝の頬に直撃し、すさまじい音をたてた。
「出ました!おカミさんの鉄拳制裁!」
「待ってましたー!!」
客にとっては、これさえも日常なのだ。
「おーす 頼まれたネギもってきたぞ――」
そこにちょうど隣の八百屋の太田明彦が入ってきた。
「ってオイまたやってんのか? 毎度毎度騒がしい店だな」
呆れ顔で言う明彦に美輝がむっとして応えた。
「なんだあ? ウチの接客に口出しする気か? いくらおとなりさんでも許さんぞ!」
「母子の殴り合いのどこが接客だ!!」
「ほら美輝!馬鹿言ってないでテーブルにコレ運んどいで!」
「ヘイ!」
真紀子がカウンターにラーメンを置くと、美輝はびくびくしながら運びだした。

「ほんと手のかかる子だよ」
「でも大分作業着がサマになってきたじゃないですか
 お客さんにも人気あるし…」
真紀子と明彦は、美輝の姿を見ながら話をしていた。
「そりゃ確かにあの子の勢いだけの仕事ぶりは見てる分にも気持ちいいかもしれないけどさ…」
「美輝ちゃーん こっちギョーザ二枚 チャーハン一皿 タンメン一丁」
「あいよっ!」
美輝は注文を受けると、真紀子の方を見て言った。
「母さん! 中華料理数皿!」
「ムカつくだろ?」
「ムカつきますね」
「あ――あの子にこの店潰されないかと今から心配だよ」
「まぁまぁおカミさん やる気満々なだけでもよしとしましょーや」
頭を押さえ、暗い雰囲気の真紀子をたしなめるように明彦が言った。
「そ――そ――長い目でみてやろーよ 最初から完璧だったらキモいだろ?」
「「お前が言うなー!!」」
ぬっと現れた美輝に二人の鋭いツッコミが入った。
「完璧はともかく少しは成長してほしいよ
 お前この仕事についてから何かしら修得したのかい?」
「んんんんんんんん……」
「考え込むなー!!」
「皿を洗えた!」
「子供でもできるよ」
「掃除ができた!」
「小学校でやっただろ」
「ラーメンが作れた!」
「ウソはよくないねぇ」
「んんんんんんんん……」
「以上かよ! 最後ウソだし!」
真剣な表情で考え込む美輝に二人は、またしても鋭くつっこんだ。
「あ そうだ 居眠り運転のトラックを方向転換させて 店を救った事ならあるよ!」
(それはかなりすげえ!!)
「う〜ん 体力だけは問題ないんだよねぇ」
「そんなあの子に任せられる事といったらせいぜい…用心棒ぐらい…うおっと!」
「おうコラァ!先程追ン出された可哀想なチンピラさんだ!また来たぞ!」
美輝が追い返したチンピラだった。
「このままナメられっぱなしにゃいかねーんでよォ オトシマエつけに来てやったぜー!」
「で ご注文は?」
「聞け――っ!」
美輝は愛想良く微笑んでオーダーを受けようとした。
「さっきはよくもあしげにしてくれたよねぇ 嬢ちゃん
 それなりの覚悟はできてるんだろうなぁ?」
チンピラは顔を引きつらせボキボキと手を鳴らして美輝をにらみつけた。
美輝もその目を見据えた。
「おう!お前等!何見てん…」
チンピラはそう言いかけた時、妙なことに気付いた。
客が皆、自分と美輝を見て、目をキラキラと輝かせているのだ。
「何だその期待に満ちた目は―――!?」
「うわーなんだかねぇ あのキラキラした目」
「しょーがないでしょ雑務もロクに出来ない彼女が唯一輝く瞬間ですから…!」
チンピラと美輝、それを取り巻く客達を離れて見ていた真紀子と明彦はそう言った。

やーれ やーれ やーれ やーれ
美輝は戦闘態勢に入り、客は二人のドンパチに油を注いでいた。
ただ一人、チンピラの男だけはこの異常な空気に飲まれていた。
「くっ…!!だーもう どうなっても知らねェぞ!」
チンピラは美輝に殴りかかった。
右の拳が美輝を捉えんとした、その瞬間。
「!?」
ブン、とチンピラの拳は何も存在しない空間を殴りぬけた。
(!? 消え…)
「熱―――――い!!」
美輝はパイ投げの要領で、チンピラの顔面に鬼丸飯店自慢のラーメンを思い切り押し付けた。
そしてそのまま丼で視界を奪われたチンピラの背後に回ると、両手を組み、人差し指を立て……
ズボン、と音がした。
「!!」
チンピラは尻を押さえ、倒れこんだ。
そう、美輝は浣腸を食らわせたのだった。
オオオオオオオオオ
客の歓声は更に大きくなった。
「いや〜大ウケですねぇ」
「何言ってんだい こんな客の喜ばせ方わたしゃ認めないよ!」
感心する明彦を横目に、真紀子は不満そうだった。
「もう許さねェ!こんな店…ブッ潰してやる!」
「!」
ピクリと、その言葉に美輝は反応した。
「今…何つった?小さいながらも母さんがたった一人で子育てと両立で切り盛りしてきたこの店を」
美輝から何かのオーラが出ているような感じがした。
チンピラはゾッとしたようだった。
「軽々しく潰すっていったか今 ああん!?」
チンピラだけでなく、取り巻いていた客にもその雰囲気は伝わったようだった。
「し 知った事かあぁあぁあぁあ」
チンピラは隠し持っていたナイフを構えた。
「鬼丸流葬兵術 撲殺大豚髄!!」
美輝はいつの間にか豚骨を手に持っていた。
刀を振り下ろすように豚骨をチンピラの顔面に直撃させた。
チンピラは吹っ飛び、戸を突き抜けて店の外に倒れこんだ・
ワアアアアアア
歓声があがった。
「なんかさっき…ちょっとうれしい事言ってませんでした?」
明彦がそう言うと、真紀子は無言ですっと立ち上がった。

「てめぇ…一体…何者なんだ?」
地面にへたりこんだまま、チンピラは美輝を見上げつつ聞いた。
「知りたいか!?どっちみち自分から名乗っていた所だ よく覚えておけ」
美輝は親指でビシッと自分を指した。
「私はこの店の看板…」
美輝がそう言いかけたときだった。
「食べ物を粗末にしなーい!!!」
「んぎっ」
真紀子が美輝に後ろから奇襲を仕掛けたのだ。
右手は美輝の鼻の穴を引っ張り、左手は美輝の頬を引っ張っていた。
「そんなんでよく看板娘なんか名乗れるね!!
 一からみっちり仕込んでやるから覚悟しな!!」
「ひ―――――……」
そんな母子のやりとりを見つつ、明彦は微笑んだ。


翌日
「兄キの仇とりにきたぞ!」
鬼丸飯店の前に大勢のチンピラが終結していた。
美輝と真紀子はチンピラたちが店を取り囲んでいるところを、なぜか店の向かいから見ていた。
「ほーら 行列作っちゃった さすが看板娘」
美輝は店を指差しながら真紀子に言った。
「責任持って片付けるんだよ」
真紀子は呆れた、なおかつ怒った様子でそう言った。



無敵看板娘N(ナパーム) 第1話 おわり

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