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無敵看板娘 第1話「無敵看板娘」


「私の家はラーメン屋です
 私は毎日お母さんの背中を見て育ちました
 私もいつかお母さんみたいなるのかと思うと」

元気に作文を読んでいた少女の声がずんと、暗くなった。

「ゾッとします」

「は?」
教師は驚いたようだったが、少女はそのまま続ける。
彼女の周りのクラスメートも異変を感じ取ったようだった。
「朝は早く夜は遅く 大変だからです」
少女は声を明るく戻し、読み続けた。
「将来 家業を継がずに別の仕事につくのが私の夢です♪」

まぁ 素直な子ですこと
教師は思った。


そして10年後
私の夢は―――――

見事に破れた


「いらっしゃいませ―――っ!!」
少女・鬼丸美輝は家業を継ぎ、鬼丸飯店の看板娘となっていた。
客を迎える彼女の笑顔にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「何 泣いてんだい」
美輝の母、真紀子がが言う。

ガラ
「お――す
 頼まれてたネギ持ってきたぜー!!」
そう言って入って来たのはとなりの八百屋・八百黒を営む太田明彦だった。
「お 美輝ちゃん!! 正式におうちで働くことになったのか!」
「ごっつぁんです」
「そうだよな――ピッタリの仕事だもんな―――」
「あたしゃ母として心配だけどね」
真紀子が不安そうな顔で明彦に言う。
「なーに体力勝負でしょこの仕事は
 美輝ちゃんの体力は常人のそれを遥かに上回るしね
 高飛びで2メートルを超える脚力と
 この俺を片手で投げる超腕力」
「投げられたのかい」
真紀子は半ばあきれ声で言う。
「買いかぶるねぇ」
「それだけじゃないですよ
 生来の注意力の無さと店の狭さがなんと…
 時として彼女の性能を恐ろしい凶器に変えるッ!!」
明彦がそう熱弁したときだった。

どがしゃ
美輝がお盆に載せ運んでいたラーメンを、客の顔にぶちまけた。
美輝は転んだのだった。
「うわぢゃぢゃぢゃぢゃ」
熱がっている客に転んだ美輝が勢いあまって蹴りを入れる。
「ぐおおおおお」
蹴られた、正確には足のぶつかった頭を抑えて客がうめく。
「…ほらね」
「「ほらね」じゃないだろ」
「またやっちゃった」
てへ 美輝は笑って見せた。
「「また」やるな!」
「まーやる気はあるから技術が後からついてくると思えば!」
どん、と美輝は胸を叩き、言った。
「それは私がある程度あんたを認めてから言うセリフだ」
「認めてないの?」
美輝はわざとらしく目に涙を浮かべ尋ねた。
「認めてたまるか!」
真紀子はまだうめいている客を指差して即答した。
「認めてほしけりゃそれなりに働きな!!」
「あはは そんじゃこのへんで―――」
明彦はいたたまれなくなったのか、帰ろうと戸を開いた。そのとき、
ドン
「わたたっ!」
何かにぶつかった明彦は再び店内に押し戻された。
店先で、高校生らしい青年がふたり、喧嘩騒ぎをしていたのだった。
「あれあれ―― 力ありあまってんね―― 若者は
 どおりで客足が絶えたと思ったよ」
美輝がそういうと、真紀子は何かをひらめいたらしく、美輝を呼んだ。
「美輝」
「んあ?」
「出前も接客もままならないアンタにひとつ頼んでいいかい?」
「OK! 無益な闘争の愚かさを説くんだね!!」
美輝は手をボキボキとならし、牙をむき出しにして笑っている。
「違うことやろうとしてるだろ」
明彦が言うも聞いてないようである。
「うーん どっちにしろこれじゃ外の人は入れないし 中の客も出られないだろ
 なんとかしてこの状況をおさめてみな…」
「ガッテン」
美輝は喧嘩する二人を店内に引き入れた。
「白黒つけたいんだろおふたりさん ここでやんなよ」
「引っ張りこんでどうすんだ このアホンダラ」
真紀子が美輝の口と鼻を引っ張り叫ぶ。
「いだだだだ」
「んだコラ」
「よくわかんねーけどタイマンの邪魔すんじゃねーよ」
学生達が美輝にガンを飛ばしてくる。
「邪魔するつもりはないけど邪魔なんだよ あんたらが
 だからどうせやるなら」
美輝は「大喰い対決」と書かれた紙を壁に貼って叫んだ。
「店に貢献しろってんの!!」
――なぜだ
青年たちは困惑しているようだ。
「だからわけわかんないっつってんだろ!!」
真紀子は美輝のくるぶしに木製サンダルで蹴りを入れつつ怒鳴った。
「ぐあ」
――うわ 地味だが痛そうだ
青年たちは遠目に見つつ、そう思った。
「どーだい 血も出ないし骨は折れないし平和にタイマンしたら」
明彦は苦笑しながら提言した。
「で 負けたほうがお支払いってか
 そんななまる……」
青年がそう言った時だった。
すとん
美輝が包丁で豚の足を切り、二人を威嚇していた。
「敗者が払うモノは命に決まってんだろ!!」
――平和って言葉が死んでます!! あと何切ってんの
青年たちだけでなく、店内に居た客の全てがそう思っているようだった。
「どーするよ 負けたら死ぬんだと」
「て――か」
ふたりが店内を見回すと客は皆、二人の勝負を期待しているようだった。
「もう出られねーよ」

「しゃ――ねぇ 勝負だぜ!」
「おう!!」
美輝だった。
「ストッ――プ!!」
「おめーが食ってどうすんだよ!」
青年の一人がそう言った。美輝はすでに5,6杯はラーメンを平らげているようだった。
――もうひとつあった
  美輝ちゃんの身体能力を凶器に変える要素
明彦は思った。
「あんたらが戦いに対して消極的だからイライラして見てらんないんだよ!」
――血の気の多さ
「いいから派手に戦え! 食えー 余は退屈しておるぞ!!」
美輝は地団太を踏んで叫ぶ。
「誰だお前!!」
「お前 ひょっとして暴れたいだけじゃ……」
明彦が呆れて尋ねた。
「バカ言うな!!
 すぐゲームやテレビの影響受けて自分の力も測れずにストレスや欲求だけ溜まるから
 目が合っただけですぐケンカ……」
美輝は壁をバンと叩き、続ける。
「そういう軽はずみな暴力行為を戒めるためにこうしてやったんだ!! 文句あるのか!!」
「大いにあるっ!!」

「ぬん」
ズボっと音がし、美輝の腹に真紀子のボディブローが入った。
「いいかげんにしな! 客が困ってるだろ!!」
「喜んでますよ」
真紀子の後方で先ほどのボディブローを賞賛する客達を見つつ、明彦が答えた。

ごええええええ

真紀子のボディブローが効いたらしく、美輝は先ほど食べたラーメンを嘔吐した。
「すげぇ… 第1話でヒロインが吐いた…」
明彦がボソリとつぶやいた。
「あんたどこまで店のイメージ下げりゃ気が済むんだよ」
真紀子が美輝の襟首をぐん、とつかんで怒鳴る。
「やかましゃ――!!」
美輝は真紀子に頭突きを食らわせた。
「モノ喰った奴のボディ打つ方が非常識なんじゃい!!」
「クビだ!勘当だ!! あんたなんか名字捨ててどこにでも行っちまいな!」
「上等だコラ!新しい名字名乗ったる 佐渡川以外
 その前に決着だ オモテ出ろや オウ」

醜い……
あんな大人になったらロクな子が育たない…
真紀子が美輝の顔を店の壁にのめりこませている姿を見て、青年たちはそう思った。
ガラ
「…ケンカはよくねぇな」
「そうだな…どっかで食いなおすか
 そこのつきあたりにいい店があるんだよ」
「へー 行こう行こう」
青年たちは鬼丸飯店を出て行った。

「さーて初日から大快挙! なんと私…
 仕事しながら少年を更正したよー」
目をキラキラさせながら言う美輝であったが、、
嫌がる少年を無理矢理閉じ込めた挙句店の醜態をさらした。
といった方が正しかった。
「な――んだ やり甲斐あるじゃんこの家業!
 子供の頃イヤだったけど頑張るぞ――♪」
真紀子の方を振り返り、美輝は言った。
「どーだい私の仕事ぶりは!」
「いいから仕事しろ!!」




無敵看板娘 第1話 おわり

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