戻る TOPへ

マカロニほうれん荘

― 夢と希望の新学期 ―


時は今 春
彼女の心は海
そして 新一年生にとっては
夢多きシーズン…
物語は 今 始まる


とある高校…
校庭には、たくさんの生徒たち。
沖田 そうじ(15歳)が、希望に胸膨らませ、やってくる。
「ここにいるみんなが、今日から三年間、一緒に勉強する仲間なんだなぁ…
ボクも今日から、晴れて高校一年生!!
一歩大人になった気持ちで、三年間を有意義にすごすぞぉ!」
そこへやってきた、おかしな二人組み…
一人は、ずんぐりむっくり…小さな学帽を、エラの張ったゆで卵みたいな顔にかぶり
なぜか、袴姿で…少女漫画チックなお目々にはブルーのアイシャドー、
ぶあつい唇には真っ赤な口紅…おまけに花柄の日傘をさしている。
もう一人は、スリムで長身…サングラスにひげ…タバコをくわえ、
一見カッコよいが、継ぎはぎだらけの学生服を着ている。
「なんだろ、あの人たちは?OBかな?」
と、そうじが見ていると、女性徒のスカートめくりを始める二人。
「品の悪いOBだナァ!!」 そうじ、目がバッテンになる。
「一年生は、教室に入ってくださーい。」
上級生のお姉さんの声に、教室へ入ってゆく、そうじとみんな。

そうじの教室…
「ウホン!私語は止める、私語は…!!エー、わたくしが、このたび君たちを、
受け持つ事になりました、後藤熊男です。よろしく。」
教団に立つ後藤先生…頭のてっぺんはツルピカなのに、ひげがすごく濃い。
熊男という名前ピッタリの顔だが、ピンクのスーツをきているところが、キュートでもある。
すると、そうじの後ろから、ヤジがとんだ。
「なに気どってんのよ、クマンバチ。いつもの調子でやんなさいよ、熊男ちゃ〜ん。」
「花とミツバチみたいなカオして…」
そうじが振り向くと、ヤジの発信元は、さっきのおかしな二人組みだった。
「あっ、さっきのOB!まさか…同じクラスにって事…!!」
汗を拭き拭き、熊男先生が、「エ〜それでは一人一人自己紹介を…」
と、言いかけると…
「はーい、今日からこのクラスになりました、ひざかたでーす。」
そう言ったのは、二人組みの、サングラスの男の方で、
「はーい、あたしは、きんどーちゃんよ!」
そう言ったのは、お化粧した男(?)の方。
ガクッ!机に思いっきり頭をぶつけるそうじ。
そして二人は、自主的に前へ出て…
「くさいわねー、離れててよクマちゃん。」(お化粧してる方のせりふ)と、先生を追い払い、
まず、サングラスの方が、シャキッとして言った。
「ひざかた!正式に自己紹介します!?本名、ひざかた歳三(としぞう)25歳!
落第十回生であります!!」
次に、少女漫画チックな瞳をキラキラ輝かせて、もう一人の方が言った。
「はぁーい!!みなさーん、あたしは、きんどー日陽(にちよう)ちゃんよー。
あたしは、落第二十四回生、40歳よー、よろしくねーーー!!」
青くなるそうじ… 「すご!十回に、二十四回!!」
「それでは、お近づきのしるしに、あたしたちのかくし芸を、お見せするわねーー」
「ひざかた!かくし芸をやるであります!」
「あ…あの、それだけはやめて!」 なぜか、おびえる熊男先生…
と!いきなり、踊り始める二人!
ひざかたは、「きぇーーっ!」 「やぁ!」 「おう!」 「ちょーーーっ!」と、
奇声を発しながら、怪しい拳法?で、柱などをブッ叩き、
きんどーちゃんは、ばっと着物や袴を脱ぎ捨て、どこに隠してあったのか、
芸者サン風の日本髪のかつらをかぶって、ふんどしいっちょで裸踊り!
「キャーーーーッ!」 逃げ出すみんな。
そうじ、ますます青くなる… 「あ…あくむだ…!!」

その日の帰り…
道を歩いているそうじ。
「はぁ〜あんな人と同じクラスだなんて…!先が思いやられるよ…
それはそうと、このへんのはずだがナァ、下宿先…
菠薐荘(ほうれんそう)なんて、へんてこりんなところだから、
ポパイでも住んでんのかナ…」
路地の一角に、古めかしい「菠薐荘」と書かれた看板を発見!
「おっ、あったあった、ここだ!」
玄関に立つ、そうじ。 「ごめんくださーい(たのもーなんちゃったりして)」
「はぁい!」 中から出てきたのは、若い女の人だった。
「あっ、こんにちは!(わっ、キレイな人!)ボク、昨日お電話した沖田ですけど。」
「あっ、沖田さん!!母から聞いてるわ。お部屋ね、あちらになってるの。」
部屋に案内されるそうじ。
どうやら、そうじの部屋は、そこの二階らしい。
「でも、一人暮しなんて、よくご両親が許してくれたわね!?」
「えへっ、ずいぶん、だだこねたんですよ。」
「絵をやってるんですって?」
ええ。」
「くすっ!」
「い…いや、シャレのつもりじゃなかったんですけど…」
赤くなって、頭をかくそうじ。
そして、部屋の前…カギを開けながら、その女の人が、
ちょっと気になることを言う。
「あっ、一つだけ言っておく事があるわ。ここには、他に二人変なのがいるけど、
そいつらと、付き合っちゃダメよ、絶対に!!」
「はあ…………?」
「ここが、あなたの部屋よ。」 ガチャッ…
と!!部屋の中で、すでにお茶を飲んでいる変な二人!
ひざかたと、きんどーちゃん!!
がくっ…倒れる女の人。
ガーーーーン…(あの二人だ!!) そうじの頭、大爆発!
「い…いったいどこから入り込んだのよっ!?あなたたちはっ!」
怒って、二人を押し出す女の人。
「あの、タタミのすき間から…」
「とにかく、今すぐ、出て行きなさいっ!!」
バタン…ドアを閉めて、女の人は、ホッとため息。
またまた、青くなるそうじ… 「あ…あくむだ……!!」

玄関前…
そうじが、先ほどの女の人と、話をしている。
「…それで、ゴミは月水金の前日にまとめて出しといてね。」
「はい、わかりました…あの、これは、つまんない事なんだけど、
菠薐荘って、誰がつけたんですか?」
「うふっ、おかしいでしょ?あたしもよく知らないけど、
おじいちゃんが、つけたらしいのよ。」
(ホウレン草が好きだったのかナァ…) そうじの頭に浮かぶ、着物を着たポパイ…
そこへ、そうじの荷物を積んだトラックがやって来た。
「あっ、荷物だ!どうも、すいませーん!!」
トラックに駆け寄るそうじ…しかし、背後にいや〜な気配が… 「ムッ、殺気!!」
そうじが、振り返ると、案の定そこに立っていたのは、ひざかたときんどーちゃんだった。
「あたしたちも、手伝いましょーか?そうじちゃん。」 きんどーちゃん、にっこり。
「い…いえあの、一人で大丈夫です…」
「あら、遠慮しなくってもいいのよ。あたしたち、クラスメートになったんじゃない、
水くさいわよ。ね、手伝わせてちょーだい!」 きんどーちゃん、もっとにっこり。
「はぁ……」
「キャーッ、うれしーい!」 そうじに飛びついて、ブチュッ!をするきんどーちゃん。
そうじ、ぞっ〜!
それから、せっせと、荷物を運ぶ、ひざかたときんどーちゃん。
そうじは、ちょっと二人を見直していた。 「わりといいところもあるんだナァ…」
しかし、そうじの左頬には、でっかいきんどーちゃんの唇じるしが…

「さて、これで最後だ!あの二人が手伝ってくれたんで、
わりと早くすんじゃった。」
そうじが、みかん箱を持って、部屋のドアを開けると…
「がーーーーーーーん!!」
部屋には、何もない!!
「ん!?」 窓の外が、なにやら騒がしい…窓を開けるそうじ。すると!
「さあ、買った買った、お安いわよー、奥様。」
にっこりきんどーちゃんと、学生服の上に服巻をつけたひざかたが、
そうじの荷物に、値札をつけて、近所の奥さんたちに売りさばこうとしている。
今で言う、ガレージセール?フリマ?
「な、なんちゅー事をっ!!やめてください!!」
あわてて二人の所へ走るそうじ。
「お安くしとくわよ、学生さん!!」 きんどーちゃんの言葉に…
「あっ、それじゃ、その本くださいっ。」 思わず答えるそうじ。
「はい、十冊百五十円ね、トシさん、三百五十円おつり。」 「はい。」
「わぁ、安いなあ………ん!?」 ハタと気がつくそうじ。
「なにをやらせるんですかっ!!」
何食わぬ顔で、正座して湯呑を持つ二人…
「も…も…もう、たのまない!!ボク一人で運びます!!」

その夜…
そうじが、部屋で、一人寝転んでいる。
「あ〜あ、今日は、さんざんだったなあ…これから、どーなるんだろ?」
コンコン…ドアをノックする音。
「はぁい!」 この家のお姉さんかな?と思いながら、そうじがドアを開けると…
「がーーーーーーん!」
立っていたのは、きんどーちゃんとひざかた…でした。
「ちょっと、おジャマしてもよいかしら?オホホ…」
「はぁ…あの…」 と、言ってるそばから、「ん?」
すでに、部屋の真ん中で、正座して湯呑を持っている二人。
「も…もう入ってる!!」
「昼間は、いろいろと失礼したわね、そうじちゃん。」 「は?」
「偶然とはいえ、クラスも下宿も同じになったんだし、これからも仲良く、
やっていきましょうよ、あらためてお願いするわ。」
瞳を輝かせて、おちゃめなきんどーちゃんが、まじめに言った。
ハッとする、そうじ… (何考えてんのか、わかんない人たちだけど…
むこうがそう言ってくれるんなら、ボクも素直にならなくちゃいけないナァ…)
「あの、ボクの方こそ、よろしくお願いします。」
「わあ!!」 二人は、喜んで拍手!パチパチパチ…
「それじゃ、お近づきのしるしに、愛のくちづけを…」
ぶあつい唇をとがらせて、そうじに迫るきんどーちゃん。
「わっ!それだけは!!」
「ウン!残念だわ。でも、覚えてらっしゃい、いつか、きっと、そのかわいいクチビルを、
あたしの物にしてみせるから!」 着物をはだけて、ウィンク!
きんどーちゃんの二の腕には、ミッキーマウスのタトゥーがあった!!
「や…やっぱりこわいなー、あたし、正常な結婚できるかしら?」
ちょっと、きんどーちゃんに感化されぎみのそうじクン。
「さて…あたしたちは、そろそろおやすみしようかしら。」
立ちあがる二人。
「(ホッ!)あっ、おやすみなさい!」
すると、押入れを開けて、二人は、ガサゴソ布団を敷き始めた。
「あの、そんな事まで、してもらわなくても…」
「いいのよ、気にしなくったって。」
「はあ…変な事するかと思えば、親切なとこもあるし…フッ、わけわかんないや。」
「それじゃ、おやすみなさーい!」
「あらっ!?」 そうじが見ると!
そうじの布団に、二人仲良く、湯呑を持って入ってる!!
なにげに、急須が、枕元にアル。
「あ…あの、そこは、その…」
「どうしたの、そうじちゃんも、早くやすみなさいよ。」
「でも、その、寝るところが…」
「あら!寝るところだったら、いくらでもあるじゃない?」
「えっ!?」
黙って、布団の横の、タタミの部分を指差す二人。
「がーーーーーーん!!」

夜中…
布団では、ひざかたが、サングラスをしたまま…
きんどーちゃんは、そのひざかたの腕枕で…
二人とも、気持ち良さそうに、眠っている。
その横のタタミの上で、折りたたんだ座布団を枕に、
ひざを丸めて寝ているそうじ。
(こ…こんな、こんなバカな話ってあるもんか!!
こんな事なら、一人暮しなんてするんじゃなかった…!!
もうイヤッ、こんな生活…
おかあさん……クスン)


― 夢と希望の新学期 終わり ―

inserted by FC2 system