舞-HiME 小説版
序
■――炎凪
で、
結局、世界は救われちゃったらしい。
――ってのは、おもしろくもなんともない結末だよね。
だけどホントの話なんだ。
竜を倒す英雄、財宝を手に入れる正直者、お姫様と結ばれる勇者。
どこかの昔話や神話、そういう古くさいお話とあんまりかわらないよくある物語。
…………。
なんていうのはウソで、
実は、世界は終わっちゃったんだ。
洪水で沈む世界、崩れる高い塔、落ちてくる空。
そんなどこかで見たものよりも遥かに圧倒的な終わりが、ぼくらを襲った。
ぼくも彼女たちも、もうここには存在していない。
さて、果てにあるおしまいはどっち?
まあいいや。
問題はきっと結末なんかじゃないから。
君が知りたいのはこういうことなんじゃないのかな?
結果じゃなくて――ギリギリでヒリヒリして、楽しいくらい心が痛んで、あたりまえのように病んでいて、そのくせ安全を約束された――そこに至る物語という経緯。
それを見たいんだろ。
君もあいつと同じように悪趣味らしい。
でもそれって人間の本質のたんなる一面だ。それをとやかく言えるほど、ぼくは人間的じゃない。安心していい。
僕は何万年ものあいだ、あの儀式を見守ってきた。
それこそ――無から有が生じ暗闇に光が射し何十次元もの世界が発生し、星が惹かれ合うように集まり、やがてこの惑星に人が湧いたときからあの儀式は始まっていた。
この地球には、ちょうど対照的な軌道をとる双子の惑星が存在する。
中世のオカルティストや占星術師が主張する見えないエーテル性天体――人間は遥か太古にその存在に気づき、いつしかそれを「媛星」と名付けて崇高なものとし、大いなる畏怖と畏敬の念を抱くようになった。
仮想惑星のひとつであるそれは、太陽を中心として地球と対称の楕円軌道を描き、地球の約一〇〇分の一の速度で太陽を一周する。つまり、だいたい三〇〇年周期で地球とちょうど重なる時期が訪れる。
それが見えない衝突「蝕」。
媛星は仮想惑星だから、衝突しても物理的な崩壊はなにも起きないし、普通の人間の眼には見えない。
じゃあ何が起きるのか?
まあ、とくにたいしたことはない。「蝕」が起きると、その巨大な負のエーテルの作用でありとあらゆる生き物のアストラル面ががマイナス方面偏位する。現実世界ではなにが起きるかと言えば、その星の生き物が狂って最後の一匹になるまで殺し合う。ただそれだけ。
こうして、この媛星の厄災を避けるために三〇〇年に一回、楽しいお祭りが行われるようになったとさ。
これはその星、最後のお祭りのお話。