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魔法少女まどか☆マギカの第1話
幕が開く。
少女「はぁ…はぁ…はぁ……」
1人の少女が、奇妙な空間の廊下を走っている。
そして、大きな部屋の中央で足を止めると、目の前の階段の上に非常口がある。
少女「…」
少女はゆっくり階段を上っていき、目の前の扉を開ける。すると…
少女「…!…!?」
異様な光景に驚く少女。目の前に広がる、廃墟と化した街。まるでこの世の終わりを思わせる。
空に浮かぶ、光の輪に包まれた巨大な怪物。その周りには、無数のビルの残骸や瓦礫が宙に浮いている。
少女「…!?」
不気味な赤い光を放つ街灯。その向こうのビルの上に、少女は人影を見る。
その人影…モノトーンの衣装を纏った黒いロングヘアの少女が空を飛び、怪物に向かっていく。
ビルの残骸が黒い髪の少女めがけて飛んできた。残骸が廃ビルにぶつかり、粉塵が巻き上がる。
しかし、彼女はそれをかわしていた。そして、すかさず怪物が放った光線の間をかいくぐり、自身の正面に飛んできた一撃を魔法の盾で防ぐ。
少女「…ひどい!!」
するとどこからともなく声が…
「仕方ないよ。彼女一人では荷が重すぎた。でも彼女も覚悟の上だ」
少女の隣に、赤く丸い瞳、猫の様な体つきに太く長い尻尾、耳から金の輪を飾ったもう1つの長い耳を垂らした白い獣がいる。
光線の衝撃で吹き飛ばされ、瓦礫に叩きつけられる黒い髪の少女。
黒い髪の少女「!!」
少女「そんな…あんまりだよ!! こんなのってないよ!!」
黒い髪の少女が、遠くに少女の姿を見つける。
一方、少女は、自分に気づいた黒い髪の少女が何かを叫んでいるのを見る。
白い獣「諦めたらそれまでだ」
少女「…」
白い獣「でも、君なら運命を変えられる…」
少女「…きゃあぁぁぁっ!!」
少女は突然、街灯がショートする音に驚き、耳を塞ぐ。
白い獣「避け様の無い滅びも、嘆きも、全て君が覆せばいい。その為の力が君には備わってるんだから」
少女はゆっくりと獣に近づき…
少女「……本当なの?」
黒い髪の少女が真っ逆さまに転落していく。
少女「…わたしなんかでも、本当に何か出来るの? こんな結末を変えられるの?!」
白い獣「勿論さ。だから僕と契約して…"魔法少女"になってよ!」
少女「……!」
少女は戸惑いを振り切って、決意の表情を見せる。
・
・
・
少女「…!?」
闇の中で振り返る少女。気がつくとぬいぐるみを抱いたままベッドの中にいる。それまでの出来事は夢だった様だ。
そして体を起こし…
少女「……はうぅ…夢オチ?」
少女の名は鹿目まどか。
市立見滝原中学校2年生。何処にでもいる様な、ごく普通の女の子。
これは、そんな彼女の不思議な運命の物語である──。
魔法少女まどか☆マギカ
第1話 夢の中で会った、ような……
鹿目家、朝。
家庭菜園でプチトマトを摘んでいる父の知久に、起きたばかりのまどかが声をかける。
まどか「おはよう、パパ」
知久「おはよう、まどか」
まどか「ママは?」
知久「タツヤが行ってる。手伝ってやって」
まどか「はーい」
急いで母・詢子を起こしに行ったまどかを笑顔で見送る知久。
一方、詢子の寝床では、まどかの弟・タツヤ(3歳)が布団の上に乗ってポカポカ叩きながら詢子を起こしている。
タツヤ「ママー、ママー、あさー、あーさー」
しかし、一向に起きる気配を見せない。
タツヤ「おきてー、ママー、ママー」
すると、猛烈な勢いでドアを開けてまどかが入って来る。そしてカーテンを開け、布団を掴んで…
まどか「起ーきろー!!」
布団をめくるまどか。
詢子「どぅわあぁぁぁぁ!!?」
驚き、のた打ち回る詢子。起き上がって我に返ると、目の前にまどかの姿が…
詢子「…あれ?」
タツヤ「ママおきたねー」
洗面所前、並んで歯を磨いているまどかと詢子。
詢子「最近どんなよ?」
まどか「仁美ちゃんにまたラブレターが届いたよ。今月になってもう2通目」
詢子「ふん、直にコクるだけの根性もねえ男はダメだ」
まどかと詢子は2人同時にうがいをし、歯ブラシを片付ける。
詢子「和子はどう?」
まどか「先生はまだ続いてるみたい。ホームルームでのろけまくりだよ。今週で3ヶ月目だから記録更新だよね」
詢子はドライヤーで髪をとかしながら…
詢子「さあどうだか? 今が危なっかしい頃合いだよ?」
顔を洗うまどか。
まどか「そうなの?」
手探りでタオルを取ろうとするまどか。それを彼女の方へとずらして取れるようにする詢子。
そして、まどかはすぐさまタオルを手に取り顔を拭く。
詢子「本物じゃなかったら大体この辺でボロが出るモンさ」
机に並んだ化粧品。
詢子「まあ、乗り切ったら1年は保つだろうけど」
まどか「ふーん」
口紅を引き、ファンデーションを塗り、化粧箱のふたを閉じ、鏡の前で決めポーズ。
詢子「…完成!」
まどかは右手に赤の、左手に黄色のリボンを持ち、どちらにしようか迷っている。
まどか「リボンどっちかなぁ?」
赤の方を指差す詢子。
まどか「えー? 派手過ぎない?」
詢子「それ位でいいのさ。女は外見でナメられたら終わりだよ?」
まどかはツインテールの根元に赤いリボンを結びつける。そして制服を着終え、詢子に見てもらっている。
詢子「…うん、いいじゃん。これならまどかの隠れファンもメロメロだ」
まどか「いないよそんなの」
詢子「いると思っておくんだよ。それが、美人のヒ・ケ・ツ」
鞄を手に取り、その場を去る詢子。
まどか「…えへっ」
鏡を見つめ、笑顔を作るまどか。
朝食の時間。オムレツのケチャップで口周りを汚したタツヤがプチトマトにフォークを刺そうとして…
タツヤ「ぁー、あーぅ」
フォークが刺さりきらず、反動でプチトマトが皿から転げ落ちる。
タツヤ「…」
詢子「ぅあぁぁぁっ!…とー!」
詢子は、すかさず落ちたプチトマトをトーストでキャッチする。そしてプチトマトを皿に戻しながら…
詢子「セーフ !はい、残さないで食べてねー」
タツヤ「あーい!」
まどかは、そんな光景を見ながら、ただ黙々と食事をしている。
知久「コーヒー、おかわりは?」
7時44分を指す壁の時計。詢子はそれを見て…
詢子「あー、いいや」
詢子は残りのコーヒーを飲み干し、タツヤにキスをする。
タツヤ「…えへ」
そして詢子は知久にもキスし、まどかにハイタッチすると…
詢子「…ぅおっし、じゃあ行ってくる!」
まどか&タツヤ&知久「いってらっしゃい!」
手を振りながら、3人同時に挨拶する。その後、ロールパンにかぶりつくタツヤ。
知久「さあ、まどかも急がないと」
まどか「え!? わ、うん…」
知久に急かされ、慌てて朝食を進めるまどか。
まどか「いってきまーす!」
知久「いってらっしゃーい!」
タツヤ「いってらっしゃーい!」
トーストを銜えながら玄関を出て、学校へと走るまどか。
それを口に押し込み、クスッと笑う。
彼女が走っている舗道の向こうに、ビル街が見える。
公園の木々。眩しい木漏れ日。
息せき切って走るまどかを道の先で待っている2人の女の子…まどかのクラスメイト、且つ親友の志筑仁美と美樹さやか。
まどか「おーはよー!」
仁美「おはようございます」
さやか「まどか遅ーい! お、可愛いリボン」
まどか「?…そうかな? 派手過ぎない?」
仁美「とても素敵ですわ」
3人ははしゃぎながら、川沿いの道を走る。
公園に響く鳥のさえずり。人工的ながら、まるで自然の中にあるような美しい風景。
まどか「でね、ラブレターでなく直に告白できる様でなきゃダメだって」
さやか「相変わらずまどかのママはかっこいいなー。美人だしバリキャリだし」
方向転換する仁美。
仁美「そんな風にきっぱり割り切れたらいいんだけど…はぁ」
さやか「羨ましい悩みだねぇ」
まどか「…いいなぁ。わたしも1通位貰ってみたいなぁ。ラブレター」
さやか「ほぉー。まどかも仁美みたいなモテモテな美少女に変身したいと。そこでまずはリボンからイメチェンですかな?」
まどか「!? え? 違うよ。これはママが…」
さやか「さては、ママからモテる秘訣を教わったな? けしからん! そんな破廉恥な子は…こうだぁー! あははっ!」
まどかに抱きつこうとするさやか。まどかも一度はすり抜けるものの、結局背後から組み付かれ…
まどか「いやっ…ちょっ…やめて! や…め…あはははっ…」
くすぐられてしまう。
さやか「可愛い奴め。でも男子にモテようなんて許さんぞー! まどかはあたしの嫁になるのだぁー! あははっ!」
まどか「いやぁー!…やー!」
はしゃぐ2人を見つめた後、軽く咳をする仁美。
さやか「…?」
3人の背後にそびえる見滝原中学校。
始業のチャイムが鳴り渡る。
ホームルームの時間。まどかのクラスの担任・早乙女和子が軽い咳の後で一言。
和子「今日は皆さんに大事なお話があります。心して聞く様に」
一歩前に出て…
和子「目玉焼きとは、固焼きですか? それとも半熟ですか? はい中沢くん!」
生徒の一人・中沢に教鞭を向ける和子。
中沢「え!? えっと…ど、どっちでもいいんじゃないかと…」
和子「その通り! どっちでもよろしい! たかが卵の焼き加減なんかで、女の魅力が決まると思ったら大間違いです!!」
力説とともに教鞭をへし折り、さらに話を続ける。
和子「女子の皆さんは、くれぐれも『半熟じゃなきゃ食べられない』とかぬかす男とは交際しない様に!!」
さやか「ダメだったか…」
まどか「ダメだったんだね…」
どうやら和子は、目玉焼きの焼き加減のことで付き合っていた男性と別れてしまったらしい。
和子「そして、男子の皆さんは絶対に卵の焼き加減にケチをつける様な大人にならない事!!」
一呼吸置いて気分転換した後…
和子「はい。後それから、今日は皆さんに転校生を紹介します」
さやか「…そっちが後回しかよ」
まどか達の背後のガラス壁の向こうを、一人の少女が通っていく。そして教室に入ってくると同時に…
和子「じゃあ暁美