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機動戦士クロスボーン・ガンダム 鋼鉄の7人の第1話


木星(ジュピター)──この(ゼウス)の名を持つ世界の住人が──
地球に攻撃を仕掛けてきたのは
もう3年も前のことだ……
だけど

それで全てが終わりじゃなかった
奴らは今も虎視眈々と地球を狙い続けていたんだ
……そして──


宇宙世紀0136──


宇宙空間。

『……だめです! 追いつかれました! 脱出してくださいっ!』『艦長!』
『エウロペ様! 早くっ!』『あなた様だけでも…… 脱……出』

宇宙船が爆発。爆風の中から、女性パイロットを乗せたモビルスーツ(以下、MS)が飛び出す。
そのMSに、何機もの木星軍のMSが群がる。

木星兵「ジークドゥガチ ジークジュピター
女性 (死ねないっ!!)

木星軍MSが、女性のMSのコクピットをこじ開けにかかる。

女性「ああ
木星兵「木星に仇なす者に 裁きの(いかずち)をっ……
女性 (こんなところで死ぬわけには…… このことを…… 誰かに伝えなければっ……)

歪んだハッチから、女性が外へ飛び出す。
しかし、なおも木星軍MSはその女性に追いすがる。

女性 (誰でもいいっ! 誰かっ…… 助けてっ! 誰かっ!)

そのとき。
真っ暗な宇宙空間に浮かび上がる、ドクロマーク。

女性「な……に? ド ク ロ?」

額と胸にドクロマークを頂いたMS、クロスボーン・ガンダムX1スカルハート──


第1話|そして今宵 エウロペはゼウスのもとより降る


女性「クロスボーン・…… ガンダム!
木星兵「うわあ?」「なにい?

X1の振るうビームザンバー(ビーム剣)が、木星軍MSの手足を斬り落とす。

木星兵「うわあぁ?」「クロスボーン・ガンダム? だと? な なんで? ここにいるっ?」「何故 現れるっ!

木星軍MSも応戦するが、X1との戦力差は圧倒的。

木星兵「うわああっ! だめだっ!」「きかねぇっ! 全然……きかねぇっ!」「あああ

木星軍が次々に倒されてゆく。

木星兵「何故だっ? 何故いつもいつもいつもいつも 我らの目の前に現れる? 何故 木星の邪魔をする?

X1のコクピットには、主人公、トビア・アロナクス。

トビア「……知らねぇよ! おまえらの心がけが悪いんだろ!」
木星兵「なにいっ?
トビア「それに濡れ衣だからな! 今回はおまえらの方が……」

最後まで食い下がる木星軍MSの1機を、X1が蹴散らす。

木星兵「がああっ?
トビア「おれたちの仕事場(テリトリー)に割り込んできたんだからな」
木星兵「だめだっ! 退けっ!」「退けーっ……」

木星軍が撤退してゆく。

トビア「さてと…… 残党の小競り合いって感じでもなかったが……」
女性「あ」「あ」

X1のハッチが開き、コクピットからトビアが顔を出す。

トビア「どこのどなたかは知りませんけど ケガはありませんでしたか?」
女性「子ども?」
トビア「子どもはひどいなぁ あ これでも今年で18 トビア・アロナクスです」
通信の声『トビアさん トビアさん 戦闘は…… 終わりましたか? 無事ですか?』
トビア「ああ 今戻るよ みんなに心配ないって言っといて “ブラックロー運送”っていう小さな輸送会社をやってるんですよ もっとも最近の仕事は専ら 宇宙のゴミ(デブリ)拾いばっかりですけどね さあ いきましょう」

母船のリトル・グレイに帰還したトビアたち。
女性がヘルメットを脱ぐと、浅黒い顔が露わになり、美しい髪がなびく。

トビア (うわぁぉ! 美人さんだぁ)

トビアを迎えるクロスボーン・バンガード一同のウモン、ヨナ、ジェラドたち。

ウモン「こりゃ! トビア! おまえ またマントをムダにして もう補給パーツがないんだと あれほど……
トビア「はいはい 小言ならあとで聞くよ じいさん」
女性「うあっ

転びそうになった女性を、トビアがすかさず支える。

トビア「おっとと…… あ…… どうも……」
ジェラド「んん? どうした?」
トビア「大丈夫 木星の人なんです 遠心力ブロックの1Gに慣れてないだけですよ あそこはほとんど無重力で暮らしてるから ゆっくりなら立てます」
女性「…… 詳しいな…… 木星人について……」
トビア「え? ああ いやまぁ…… その それよりあなたは? 何者なんです? なんであんな物騒な連中に追われて? 何か事情があるなら えーと…… 力になれるかも」
女性「ああ…… そうだな だが──」

女性が懐から拳銃を抜き、トビアに突きつける。

女性「そういう…… 貴様らは 何者だっ?」
ジェラド「トビア!
トビア「い いつも明るくニコニコ ブラックロー運送……」
女性「そんな表向きの話はどうだっていいっ! 木星の者がドクロのガンダムを見間違えると思うか!? 貴様ら…… クロスボーン・バンガードなのか? 木星圏の敵! その生き残りか? まだ活動していたのか?」
トビア「……まあ ごまかしきれるとも思ってなかったけど だとしても あなたはどうなんです? 木星軍に追われてたあんたは 奴らの敵じゃないんですか?」
女性「“木星(むこう)”は裏切り者と…… 思っているだろう? だけど…… 貴様らが我らのクロスボーン・バンガードならっ!」
トビア「ええ!? “木星(むこう)”じゃそういうことになっているのか? ちょっ…… ちょっと待って
女性「私にとっては貴様らも仇だっ!」
声「トビアー」
トビア「だめだ! ベルナデット! 来るなっ!

ベルナデットが顔を出す。

ベルナデット「お帰りなさーい 夕ごはん できてるわ…… よっ なっ……」
女性「テ…… テニス? テテニス? 姫様?」
ベルナデット「エ…… エウロペ? なんで? ここに?」
女性「生きて…… 生きておられた? の?」
ベルナデット「エウロペ! あなたも地球圏(こっち)へ来たのね そうなのねっ! よかったわっ! エウロペ! こっちはいいところよ! また一緒に……」
女性「なんで…… なんで生きておられたのなら 木星へお戻りになられなかったのです! 姫っ!
ベルナデット「……え?」
女性「あなた様さえいればっ! こんなことには ならなかったっ させなかったものを 私は……

動揺する女性の隙をつき、トビアがキックを見舞う。

女性「うわあぁっ!
ベルナデット「きゃあぁ エウロペ!
ヨナ「トビア……
トビア「ふぃーっ」
ベルナデット「エウロペっ! エウロペっ! しっかりしてっ! しっかりして っ!
トビア「かっ…… 母様ぁ?


オンモ艦長とトゥインクも混ざり、そのエウロペという女性の調査にかかる。

トゥインク「つまりあのエウロペという女性は 木星の総統クラックス・ドゥガチの後妻にあたる人で クラックス・ドゥガチはベルナデットさん…… つまり本名テテニス・ドゥガチさんのお父さんですから 彼女はベルナデットさんの義理の母ということになりますね」
ヨナ「どう 少しは拳法習っといてよかったでしょう」
トビア「はぁ」
トゥインク「ベルナデットさんと共に過ごされたのは2年程…… 形ばかりの政略結婚であったということですけれども」
ヨナ「そりゃま 総統もお年でしたからねぇ〜」
トゥインク「は?」
ヨナ「いいのよ…… 不思議ちゃんはわかんなくても」
ウモン「うひひひ おヨメにいったの いくつかにゃ〜 それにしても若いのォ〜 22? 23?」
トビア「こーいうヒトもいますから 油断できませんよ」
ヨナ「困ったねー」
トビア「それで今 彼女は?」
ウモン「ベルナデットが身体検査をしておるよ」

別室で、エウロペが全裸になり、ベルナデットの身体検査を受けている。

ベルナデット「ごめんね…… エ エウロペ…… 母様…… こんな恥ずかしいこと……」
エウロペ「昔どおり…… ただのエウロペでいい…… 私は艦内に銃器を隠し持って入ったんだ 当然のことだろ? 一緒にお風呂に入ったこともあるだろう? 気にするほどのこともあるまい」
エウロペ「う うん ……ごめんなさいね エウロペ 私…… あの頃…… いい子じゃなくて まだ子どもだったから…… 今なら…… あなたが…… 好きで父に嫁いだわけじゃないって……」
エウロペ「いいさ…… だがそう思ってくれるなら どうしておまえがここにいるのかは 母にはちゃんと説明してほしいな」

ベルナデットが、今までの経緯を話し始める。



3年前── 父クラックス・ドゥガチが地球への侵攻を計画していた時……
私は── その母の生まれ故郷である地球がどんなところか知りたくて──
宇宙船で密航して そこでクロスボーン・バンガードに出会いました……

宇宙海賊を名乗り 父の計画と戦っていた人たち
艦長ベラさん エースのキンケドゥさん みんなやさしい人たちだったけど
ふふふ 初めはちょっと怖かったな 右も…… 左もわからなかったんだもの

そんな時── 力になってくれたのがトビアでした
彼は木星との交換留学生だったけど 偶然 木星の陰謀を目にして
海賊軍に身を投じていたんです

そして 長い…… 長い戦いの全てが終わった時……
ベラ艦長とキンケドゥさんは 地球の生活を選び 地球へ帰りました
けれど それ以外の多くの人は 再び宇宙へ帰ったわ
“海賊”を名乗っていた彼らに結局 安住の地などないから……

私は彼らと共にゆくことを選びました 私をドゥガチの娘ではなく
“ベルナデット”という“ひと”として受け入れてくれたから



エウロペ「木星では── おまえはMA(モビルアーマー)で襲撃したおりに撃墜されたと教えられていた」
ベルナデット「それも違います…… トビアが助けてくれたもの」
エウロペ「ふうん…… では…… そのトビアというのがいたから生きていて…… 今ここにいるというのか? それが── 今のおまえの恋人なのか?」
ベルナデット「ち…… 違いますっ! 私とトビアは別に…… そんなんじゃ……」


ヨナ「ねーねー ところでさ トビアちゃん キミとベルナデットちゃんの仲はどの辺まで進んだのかニャ?」
トビア「わ! なんですかっ! イキナリっ!」
ヨナ「いやーあんた お母さんの存在すら聞かされてなかったみたいだし…… お姉さん心配かなーって」
トビア「あ〜
オンモ「ベルナデットって なんかもう“手ぇ出しちゃダメ”ってオーラ出てるもんねぇ…… 苦労するよ きっと男で あの子……」
トビア「艦長まで そんなっ…… 失礼なこと言わんでください これだって ぼくらはもう3年もつきあってるんですよっ! この前だって ちゃんとキッ…… キッ……」
トゥインク「ちゃんと キ?」
トビア「キスしちゃいそ──なシチュエーションに はははは いや しません しませんけどね!」
トゥインク (オクテ)
ヨナ (オクテ)


エウロペ「賢いおまえの見てきたことだ 本当なのだろうな── ふふふふ “力になれるかも”…… か! あの子ども!」
ベルナデット「エウロペ?」
エウロペ「テテニス…… 私は…… な 放たれれば再び木星に災いをもたらす…… そんな情報を地球圏に伝えにきたのだ」
ベルナデット「ええ?
エウロペ「相手は誰でもよいと思っていたが── 海賊軍なら…… ふさわしいか── だが…… だが── どうして木星圏に戻らなかった? テテニス?」
ベルナデット「ええ?」

警報音が鳴り響く。

『所属不明機接近! 所属不明機接近!』

トビア「……やっかいなヒトを拾っちゃったみたい……だな 出撃……します」

トビアの乗るクロスボーンガンダムX1スカルハート、ジェラドたちのMSフリントが出撃する。

エウロペ「木星は…… あれから何も変わっていないぞ テテニス」

接近して来る機体は、先ほどX1と交戦していた木星軍のMSたち。
X1に斬り落とされた手足を欠いたままで突撃して来る。

トビア「あれは? さっきと同じ連中?
ジェラド「修理すらされていないぞ? 何のつもりで?
木星兵「ジークドゥガチ! ジークジュピター! 我が命は木星のために!」

エウロペ「上への絶対的な服従 貧困 そして あいも変わらぬ命の軽視」

ジェラド「おおお

フリントの銃撃をわずかに被弾したのみのMSが大爆発。強烈な爆風がフリントを襲う。

ジェラド「うわあああ?
オンモ「なにっ? 爆発したっ?
ジェラド「爆弾を…… 抱えてやがるぞっ! こいつら……
オンモ「核か?
トゥインク「わかりません…… でも…… 直撃されたら……」
トビア「くっ……

エウロペ「地球から最短の時でさえ6億km…… 人類の最も遠い生活圏 地球圏ではほぼ意味をなさぬ“距離”という隔たりは── まだあそこでは生きている」

木星兵「どうせ我らは失敗した 生きては帰れぬ! 生かしておいてはもらえぬっ! ならば死ね! 自ら死を選べっ! 死して功名を挙げよぉ
トビア「特攻だと? 貴様らっ 何だと思って……」

エウロペ「連邦の査察など入っても意味などなさぬ! あそこは 別の……世界なのだ」

木星兵「ジークドゥガチ!

被弾すらしていない木星軍MSの1機が大爆発。爆風がX1を襲う。

トビア「あ? ああっ

オンモ「じ…… 自爆? トビア!

エウロペ「せめて…… おまえがいれば テテニス」
ベルナデット「ええ? で でもっ 私はっ……」
エウロペ「わかっている ──おまえはドゥガチの子として生まれただけで ただの娘だ だがその肩書きだけでもあれば奴らを 止められた── 止められたかもしれぬと思うと すまん…… 未練なのだ……」

木星軍MSたちが次々にX1にしがみつき、動きを封じる。

トビア「うあっ…… あっ…
仲間たち「トビア!」「トビア!

エウロペ「覚悟は決めてきたつもりなのにな」

1機残った木星軍MSが、X1目掛けて特攻する。

木星兵 (そうだ! 押さえつけておけ! 一撃でいい! 母艦とガンダムは俺が落とす!) 俺と共に死ねええっ! スカルハート!
オンモ「トビアっ!

エウロペ「この先 どれほどの木星人の命が失われようと」

トビア「てめらっ! ふざ……けるなよ ふざけるなぁ

X1が渾身の力で、群がるMSたちを引き剥がす。
そして特攻してくるMSに、ザンバスター(銃)を構え、狙いを定める。

オンモ「間に合わないっ 撃て──っ!! トビアーっ!!

エウロペ「その“(ごう)”は全て私が背負うと……」

X1がザンバスターの銃身を下ろし、ビームザンバーを引き抜く。

エウロペ (な……に!?)

オンモ「あっ! ばかっ! トビアっ!

特攻して来るMS目掛け、X1が突進。

トビア「船を下げてっ! 艦長っ!
オンモ「トビア?」
木星兵「ジークドゥガチィ
トビア「好きじゃないんだっ! そういうのっ!」

X1が木星MSとすれ違い様に、木星MSの抱えている爆弾のみを斬り落とす。

彼方へと吹き飛ばされた爆弾が、大爆発。

オンモ「あ あ あ」

爆弾を斬り落とされた木星MSは、すでに動かないものの、中の兵は生存。

木星兵「う う う」
トビア「ふはっ」

トビアがリトル・グレイへ帰還する。

トビア「ふぃ〜 おっかなかったぁ〜」
ヨナ「あい変わらず無茶するわね トビアちゃんは」
ウモン「うわ〜っ! またガンダム こんなにして〜」

エウロペ「……木星の兵士を── 助けたのか?」
トビア「……できる時だけだ いつもじゃない」
エウロペ「そうか…… ──力になってもらうぞ 海賊── クラックス・ドゥガチの計画は── まだ生きているから」
トビア「なに?

エウロペ「彼は自分の寿命が残り少ないのを知っていた── 焦っていた 自らが用意した地球侵攻作戦の最終兵器の完成を待たずに行動を開始した── だが…… その計画は── 彼の死後も勝手に動き続けている……」

トビア「それはっ いったい?

エウロペ「(ゼウス)(いかずち)”計画 木星からのコロニー・レーザーによる超・長距離射撃 地球への── 直接攻撃だ!

トビア「な…… ん だ……っ て?


(続く)
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