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仮面天使ロゼッタの第1話


深夜の住宅街。酔っぱらった男が、時折通りかかる若者たちに悪態を突きつつ歩いている。
ふと見ると、道端に美しい女が佇んでいる。

男「ほぉ〜! お姉ちゃん、こんな夜中にどうしたの? 寂しくなぁい? お姉ちゃんって! えぇなぁ〜、ほんまえぇわ。タイプ!」

女が妖しげな仕草で、男に抱きついてくる。

男「お!? おお!? ほんまやな、ほんまやなぁ?」
女「その代り……」
男「そ、その代り、なんや?」
女「あなたの血をちょうだい」

女が男の首筋に噛みつく。

男「何っ!?」

女の首からは牙が突き出て、血が滴っている。

男「わ、わぁ!?」

そのとき突如、手裏剣が飛来し、女の腕に突き刺さる。

女「うぅっ!?」

暗がりの中から、仮面の戦士が姿を現す。

「月の光を背に受けて、闇に蠢く悪を絶つ── (じん)仮面ファラオン、ここに見参!!」

女「ファラオン……!」


第一話
仮面の天使


朝。主人公、(じん)あすかが自宅で、母・敦子と食卓を囲んでいる。
父・健一郎は居間のソファで、だらしなく背広姿のままで寝ている。

あすか「お父さん、昨日も遅かったの?」
敦子「得意先の接待で、新宿で昨日の3時まで飲んでたらしいの」
あすか「ふぅん。そりゃ毎日、ご苦労様〜。あ、夏美がね、もう1週間も学校来てないの」
敦子「夏美ちゃんって、あの、ご両親が離婚したって子?」
あすか「夏美のお父さんが、外に女作って飛び出しちゃったんだって。それも、離婚する前からずっとその女のとこに入り浸っちゃってて、なかなか家に戻って来なかったみたい。ね、うちのお父さん、大丈夫かな?」
敦子「浮気してるかって? お父さんに浮気ができるくらいなら、もっと出世してるわよ。いつまで経っても万年係長。でもね、仕事仕事って言ってるお父さんよりも、あすかとお父さんのこと、とっても大切にしてくれるお父さんって、素敵じゃない?」
あすか「そうよねぇ…… お母さん、幸せ者だわ」
敦子「なんたって、骨董品集めが生きがいの人だからね」
あすか「それもそうよね。あんまり、モテそうなタイプじゃないもんね。きっとさぁ、会社でも女子社員から相手にされてないんじゃない?」
敦子「それを言ったら、かわいそうでしょ〜!」

朝食を終えたあすかが玄関に出ると、寝ぼけた健一郎が、玄関に座り込んでいる。

あすか「お父さん! 何してんの、こんなとこで?」
敦子「まぁ、お父さん、お行儀が良くって」
あすか「どこがぁ!? ちゃんとベッドで寝ないと、カゼひいちゃうよ?」
健一郎「バァカ! お父さん、これでも会社じゃ女子社員にモテモテなんだぞ」
あすか「アハ! 聞いてた?」
健一郎「あすか! アンクロスはお守りなんだから、大切に胸の中にしまえって、何度言ったらわかるんだ?」

あすかの鞄には、アンクロスと呼ばれる十字架状のアクセサリーが、ストラップのように下げられている。

あすか「もう、いいのいいの、これで。じゃ、行ってきまぁす!」


あすかが親友・藤崎みどりとともに校門をくぐると、朝食時の話に出ていた、友人・工藤夏美も登校中。

みどり「夏美……」
あすか「夏美! 良かったぁ。学校来るようになったんだね!」

夏美は2人を一瞥しただけで、無言で立ち去る。

あすか「夏美……?」
みどり「何よ、やな感じ……」


昼休み。校庭で食事中の生徒たちが、噂話をしている。

「ねぇねぇ、昨日も出たんだって。女吸血鬼。そんでもって、ファラオンが現れて……」
「やっつけたって話でしょ!? でもさぁ、ホントにいるのかな? ファラオンも、吸血鬼も」
「絶対いるよ。この目で見たって人、いるもん」

あすかとみどりも食事中。

みどり「ところでさ、あすかはどう思う?」
あすか「何が?」
みどり「ほら、ファラオンこと。この薄汚い社会の裏で人知れず悪と戦う正義のヒーロー。ホントにいるのかね?」
あすか「さぁ……?」


仕事中の健一郎が、外回り中。
昨晩、謎の女と「ファラオン」が現れた場所へ立ち寄り、地面に落ちている手裏剣を、周囲を気にしつつ拾う。


下校中のあすか。

あすか「あれ? 何やってんの、お父さん……?」

道を行く女の後を、健一郎が様子を窺いつつ歩いている。
女がふと後ろを気にすると、健一郎は足を止めて素知らぬふり。女が歩き出すと、健一郎も歩きだす。

やがて女が、とあるマンションへ帰って行く。健一郎はその玄関に駆け寄り、何やらメモしている。

あすか「そんなぁ…… お父さんが、ストーカー!?」


帰宅後、あすかがぼんやりしていると、健一郎が帰って来る。

健一郎「ただいまぁ。お、あすか、帰ってたか」
あすか「うん……」
健一郎「お母さんは?」
あすか「シャワー浴びてる」
健一郎「どうした?」
あすか「……」

鞄に下げられたままのアンクロスを、健一郎が取る。

健一郎「なぁ、あすか。何度も言うようだが、これはな。超古代の神秘を封じた、大切なお守りなんだ。何かあったとき、きっとお前の力になってくれる。だから鞄になんか巻きつけてないで、こうやって体にだな」

アンクロスをあすかの首にかけようと、健一郎があすかの首に手を回す。

あすか「イヤぁっ!」

あすかが健一郎の手を振りほどき、自室へ駆け込む。


部屋に佇むあすか。ノックの音。

健一郎「あすか、さっきはすまん。何て言ったらいいか…… お前ぐらいの年頃になると、急に父親が汚らしく思えてくるって聞いたことがある」
あすか「……」
健一郎「そりゃ、お父さんだって男だ。だがな、お父さんはお前が考えてるような、やましい男では断じてない。それだけは覚えておいてくれ。あすか、入るぞ」

ドアが開く。身構えるあすかに、健一郎がアンクロスを手渡す。

健一郎「いいか、お前はお父さんの大切な娘だ。わかってるな?」

それだけ言い残し、健一郎が部屋を去る。

あすか「お父さん……」


翌日。下校後のあすかが、昨晩の女のマンションの前を張っている。

あすか「もうこの様子じゃ、来ないよね…… 帰ろ」

帰ろうとしたあすかが、あの女と鉢合せ。

女「私に何のご用かしら? あなた、ずっと私の部屋を覗いてたでしょ?」
あすか「……」
女「泥棒にでも、入るつもり?」
あすか「あ、違うんです。私、そんなつもりじゃ……」

鞄に下げられたアンクロスに、女の目が止まる。

女「そう、そういうことだったの」


地下駐車場に、あすかが連れ込まれる。

あすか「あなたは一体……!?」
女「街で噂の女吸血鬼。聞いたことくらい、あるでしょ? ファラオンのお嬢さん」
あすか「私が…… ファラオンの娘!?」
女「さぁ、あなたのお父さんに連絡して。ただし、神健一郎の姿で来るように」
あすか「……」
女「どうしたの? その顔をメチャクチャにされたいの?」
あすか「ご、誤解です! 私のお父さんは万年係長のサラリーマンで、いつもお父さんに悪口言われて、でも最近お母さんなんかノロけちゃってて……って、だ、だから絶対ファラオンなんかじゃ」
女「さぁ、早くして!」

詰め寄る女の手に、あすかが噛みつく。

女「う!?」

あすかがとっさに逃げ出すが、女に回り込まれてしまう。

女「そう。なら、父親の身代わりになるがいい」
あすか「えぇっ!?」

声「待てぇ!!」

健一郎が現れる。

あすか「お父さん……!」
健一郎「あすか……」
女「待っていたよ、ファラオン」
健一郎「娘に手を出すな、デュアトス」
女「イヤだと言ったら?」
健一郎「何?」
女「フン、伝説のヒーローも、娘の命は惜しいか。その甘さがお前の限界だよ、ファラオン」
健一郎「違うな。それが私の強さだ、デュアトス」

女が健一郎を殴り飛ばし、健一郎はしたたかに床に叩きつけられる。

健一郎「ぐぅっ!」
女「お前の血を一滴残らず吸い取ってやる」

稲妻が飛びかい、女がコウモリを思わせる怪人に変身する。
怪人が襲いかかり、健一郎は必死にかわす。
次々に繰り出される怪人の爪を、健一郎が避け続けるものの、ついに避けきれずシャツが裂け、血が滲む。

健一郎「はぁ、はぁ……」

次第に息を切らす健一郎に、怪人のパンチの連打が浴びせられる。

健一郎「ぐうっ! うぅっ!」
あすか「あぁっ、お父さぁん!」

倒れた健一郎に怪人が馬乗りになり、首をしめる。

あすか「お父さんから離れてぇ!」
怪人「えぇい、うるさぁい!」

怪人を必死に引き剥がそうとするあすかを、怪人が吹き飛ばす。

あすか「うぅっ!」

怪人があすかへ、矛先を変える。

健一郎「やめろ……!」

フラフラの健一郎が怪人を阻もうとするが、怪人の攻撃の連打を浴びる。

あすか「お父さぁん!」「やめてぇ!」

ボロボロになりながらも健一郎があすかを庇い、さらに攻撃を浴び続ける。

あすか「お父さぁん!」
怪人「娘の前ではファラオンになれまい」
健一郎「うぅっ!」
あすか「もうやめてぇ! お父さぁん!」
健一郎「娘に…… 娘に手を出すな!」
あすか「お願ぁい! もうやめてぇぇ!」
怪人「どうした? 立て、ファラオン」
あすか「お父さん!」
健一郎「あすかに…… あすかに、手を出すな……」

息も絶え絶えの健一郎が、立ち上がってあすかを庇う。

あすか「もうやめてぇ!」

怪人の一撃で、健一郎があすか諸共吹っ飛ぶ。

怪人「ここまで痛めつけられては、ハザードフォームできまい」
あすか「お父さぁん!」
怪人「ファラオンになれまい!」
あすか「やめてぇ──っ!」

そのとき。鞄に付けられたアンクロスが、ぼんやりと光を放つ。

(健一郎『これは超古代の神秘を封じた、大切なお守りなんだ。何かあったとき、きっとお前の力になってくれる』)

あすか「お願い。お父さんを…… お父さんを守って!」

健一郎「ハザードフォームだ……」
あすか「ハザード……フォーム?」

その声に反応し、アンクロスの光が次第に強まる。何かに導かれるように、あすかがアンクロスを握りしめて立ち上がる。

あすか「ハザードフォ──ム!!」

アンクロスが仮面に変形してあすかの顔を覆い、全身を白のコスチュームが多い、あすかは白い女戦士・ロゼッタに変身を遂げる。

健一郎「目覚めたか…… あすか!」
怪人「お前は!?」

ロゼッタ「仮面天使ロゼッタ!!」

名乗りを決めるロゼッタ。ロゼッタと怪人の戦いとなる。

ロゼッタ「ガサールシェーント!」

怪人の繰り出す爪を、ロゼッタが円形の剣・ガサールシェーントで防ぎ、連続キック。
だが怪人の強烈なキックが、ロゼッタを吹っ飛ばす。

健一郎「あすか……!?」

反撃に転じたロゼッタの渾身のキックが、怪人へ炸裂する。

ロゼッタ「ロゼッタ・シェ──ント!!」

ロゼッタの放ったガサールシェーントがブーメランのごとく宙を舞い、怪人の体を切り刻む。

怪人「うわぁぁ──っっ!!」

絶叫とともに怪人が大爆発して最期を遂げ、ロゼッタは初勝利をおさめる。
ロゼッタの変身が解け、疲労困憊のあすかが床に崩れ落ちる。

あすか「はぁ、はぁ……」

健一郎「あすか、大丈夫か!?」
あすか「お父さん……」
健一郎「あすか…… よくやった……!」

傷だらけの健一郎が、あすかを抱きしめる。


つづく

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