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仮面ライダーの第1回


仮面ライダー


かいおとこ


花の咲き乱れる草原の中。
クモを思わせる怪人が、何かを狙っている

その視線の先──

草原の中をぬって走るレーシングコース。
主人公であるオートレーサー・本郷 猛がバイクを飛ばす。

やがて、バイクを停め、コース傍らにいるトレーナー・立花藤兵衛がストップウォッチを押す。

立花「うん、なかなかいい調子だ。しかしこの程度のラップタイムじゃ、まだまだグランプリの優勝は難しいぞ、本郷」
猛「はっはっは、かなわないな、立花さんにあっちゃ。よし、もう一度回ってきます。今度は10秒くらいは短縮して見せますからね!」
立花「よぉし!」

再び猛がバイクを出す。
その後姿を見送る立花。

立花 (まったく子供のような奴だ……しかしライダーとしては超一流、しかも城北大学生化学室きっての秀才とは、誰も信じられんだろう)


レーシングコースを疾走する猛。
やがてその猛に、5台のバイクが追いすがってくる。乗っているのは黒服に身を固めた女たち。

猛「見たことのないグループだが……? 俺に挑戦する気だな? よしっ!」

スピードを上げる猛。5台のバイクはなおも追ってくる。
すると今度は、前方からも同様の5台のバイクが。これでは挟み撃ちだ。

猛「明らかに俺を狙っている!? よし!」

挟み撃ちになる瞬間、猛はバイクをジャンプさせ、前のバイクたちを飛び越える。
窮地を脱して後ろを振り向くと、向こうのバイクは敵わないと見えたか、逃げ去ってしまう。

猛「なぜあんな真似をしたのか突き止めてやる!」


バイク群を追う猛。
次第に霧が立ちこめ、バイク群が霧の彼方へと掻き消えてゆく。
そして突然、無数の蜘蛛の糸が飛び出し、猛を絡め取ってしまう。

猛「あ!? うぅっ……!」

そんな猛に、不気味な笑い声を上げつつ、黒服の女性たちが近づいてゆく。
猛の意識が、次第に遠くなっていく……


猛が意識を取り戻す。
そこは円形の手術台の上。顔に奇妙な紋様を施した手術陣が、自分を囲んでいる。
そして猛は鎖と留め金で四肢を固定され、首から下はバッタを模した異形の姿となっている。

猛「ここは一体どこだ? ……俺を自由にしろ!」

どこからともなく、謎の声が響く。

謎の声「本郷猛! ようこそ我がショッカーに来てくれた」
猛「ショッカー……? 一体何のことだ!?」


本郷猛の耳にした ショッカー
それは 世界のあらゆる所に網が張られる
悪の組織なのだ

本郷猛はなぜか 日本の
人里離れた秘密基地に運び込まれた

ショッカーの狙いは 世界各国の人間を改造し
その意のままに動かして 世界制服を計画する
恐るべき団体なのである


謎の声「我々の求めている人間は、知能指数600、スポーツ万能の男! 君は選ばれた栄光の青年だ」
猛「馬鹿な! 俺はショッカーに入ったつもりはない!」
謎の声「フフフ……遅いのだ、本郷。君の意志に関わらず、君は既にショッカーの一員にほぼなってしまっているのだ。君が意識を失って、既に1週間。その間にショッカーの科学グループは、君の肉体に改造を施した。君は今や改造人間なのだ! 改造人間が世界を動かし、その改造人間を支配するのが私だ。世界は私の意のままになる!」
猛「改造人間……? ハッ、信じるものか!」
謎の声「信じざるを得ないように見せてやるがいい」

手術陣が機器のスイッチを入れると、天井の送風口から風が吹き出す。
そして猛の腰にあるベルト・タイフーンの風車が風力で回転し始める。

手術陣「よし」

再びスイッチを押すと、風がやみ、タイフーンの風車も止まる。

手術陣「お前の体に今から、5万ボルトの電流を流す。並みの人間なら一瞬にして黒焦げの死体になる。しかし改造され、お前は風力エネルギーを蓄えた」

手術陣が猛の足に電線を繋ぎ、機器のスイッチを入れる。
電線に電流が流れる。

猛「うわああぁぁ──っっ!?」

手術陣「火傷ひとつ、君の体には残らない。ただ、その苦痛は脳改造が行なわれていないためだ、脳改造が済み、指令のままに動くようになれば、君は完璧なショッカーの改造人間の一員になれる!」

やがて、電流がやむ。

猛「はぁ、はぁ……し、死んでも、貴様らの思い通りの人間になるものか!?」
手術陣「誰しもが初めはそう思う! そしてやがてショッカーの一員であることに感謝するようになる! 本郷猛の脳改造開始だ!」

そのとき、突然照明が落ち、警報が鳴り響く。
扉が開き、戦闘員の1人が現れる。

戦闘員「発電機がやられました!」
手術陣「ただちに探し出すのだ!」

手術陣たちが手術室を駆け去る。あとに残されたのは、張り付けにされた猛のみ……
猛が両手に渾身の力を込める。
手足を繋いでいた縛めが引きちぎれる。たしかに改造により、自身には常人を上回る力が備わっているらしい。

そこへ1人の男が現れる。
それは城北大学での猛の恩師、緑川弘であった。

猛「あなたは……緑川先生! 先生は確か、行方不明に……?」
緑川「すべてはショッカーの……」

そのとき再び、警報が鳴る。

緑川「はっ、いかん! ここから脱出するんだ!」
猛「しかし……どうやって?」
緑川「あの天井を破れば脱出口がある」
猛「……無理です。この高さでは」
緑川「本郷くん、君は鉄の留め金を苦もなく切れた。人間には不可能なことだが、君は改造人間なんだ。皮肉にもショッカーが、実験用に君の体に風圧を与えたために、恐るべきエネルギーが君の体に蓄積されたのだ」
猛「そんなことが……?」
緑川「できる、今の君なら!」
猛「……」
緑川「ぐずぐずしてはおれん。やってみるんだ、本郷くん!」

意を決して猛が大ジャンプ。
緑川の言葉通り、常人を越えたジャンプ力で天井をぶち破る。


やがて、手術陣が戻って来る。

手術陣「あっ、いない!?」「あーっ、天井から逃げた!」


丘を縫って走る道路を、猛がバイクで逃走。後部座席には緑川を乗せている。
遠くからそれを見つめる先のクモの怪人、蜘蛛男……
木々の間には戦闘員たちが潜んでいる。


猛の周辺、いつしか猛がさらわれたときのように、霧が立ち込め始める……
突然、目の前に巨大な蜘蛛の巣。
バイクが転倒し、本郷が丘から滑り落ちて行く。

本郷「わぁぁっ!」
緑川「本郷くん! 本郷くぅん! ……本郷くん!」

道路に残された緑川に、猛をさらった謎の女たち、そして戦闘員たちと蜘蛛男が現れる。

蜘蛛男「ショッカーを裏切れば死だ。たった1人の娘もな」
緑川「娘……ルリ子も!?」
蜘蛛男「死ね、緑川……!」
緑川「娘は殺さんでくれ……!」

そのとき──

丘の上に颯爽と立つ、1人の戦士の姿。
その素顔を覆う仮面は、バッタを思わせる。
彼こそ、たった1人でショッカーに敢然と挑む“仮面ライダー”だ。

蜘蛛男「貴様ぁ……!」

仮面ライダーが丘から飛び降りると、群がる戦闘員を次々になぎ倒す。
そして蜘蛛男のもとから緑川を救い、いずこかへと逃げて行く……


ところ変わって、城北大学文学部の校舎を出る緑川ルリ子。
いきなり目の前に、級友の野原ひろみが顔をだす。

ひろみ「わっ!」
ルリ子「びっくりしたぁ……」

ひろみに構わず、歩き去るルリ子。ひろみが追いすがる。

ひろみ「待ってよ。どうしたの、ルリ子? 元気がないわね。何かあったの?」
ルリ子「……ねぇ、ひろみ。誰か後をつけてない?」

周囲を見回すひろみ。

ひろみ「……別に? 変なルリ子」
ルリ子「この3日ばかり私、誰かにいつも見られてる気がして……」

傍らに停まっている車の中で、1人の男がルリ子に目を光らせ、無線機を手に取る。

男「緑川の娘ルリ子と、友人が通過しました」


ショッカーのアジト。

蜘蛛男「よし。逆に娘を使って博士をおびき出せ」
男「侵入地点は?」
蜘蛛男「るり子のアルバイト先のスナックか、またはその途中」


ルリ子たちが歩いていると、前方から背広姿の男2人が歩いてくる。
後ろを振り向くと、同じく背広姿の男2人。
4人の視線の先はルリ子──

ルリ子「ひろみぃ……」

そこへ1台の車がやって来て、停まる。運転席から顔を出す立花藤兵衛。

立花「よぉ!」
ルリ子「マスター!」

ルリ子とひろみは、立花が営む喫茶店「アミーゴ」のアルバイト店員なのだ。

ひろみ「私、てっきり……」
立花「てっきり何だよ?」
ルリ子「変な男が」
立花「変な男?」

周囲を見回すが、先の4人は既に消えている。

立花「誰もいないじゃないか。はは、大人をからかうもんじゃない。さぁ乗んなさい。店までドライブだ」

ルリ子たちが車に乗り込み、車が走り出す。

立花「お父さんが見つかったらしいよ」
ルリ子「え、お父様が!?」
立花「ここが居場所だ」

立花がルリ子に、居場所を記したらしい紙切れを渡す。


やがて車は喫茶店「アミーゴ」に到着。
立花とルリ子が降りる。

立花「そいじゃ」

車が走り去る。


店内に入るなり、数人のショッカー戦闘員が出現。

立花「何をする!?」

襲い掛かる戦闘員が立花を叩きのめす。
そしてルリ子を捕える
が──店に到着してからは顔が見えなくてわからなかったが、それはルリ子の服を着たひろみであった。

戦闘員「この娘じゃない!」「車で行った方だ!」


一方、ひろみの服に身を包んだルリ子は、車で父の居場所を目指す。

ルリ子「お父様はやっぱり生きてたんだわ。戸浦埠頭50号倉庫……」

その車の窓には、1匹の妖しげな蜘蛛が張り付いていた……


ショッカーのアジト。

蜘蛛男「戸浦埠頭……50号倉庫? フフフ……」


その戸浦埠頭50号倉庫。猛と緑川が身を潜めている。

緑川「はぁ……私はこれで良かったのだろうか? もし、ルリ子の身に万一のことがあったら、私は……」
猛「落ち着いて下さい。先生のとった行動は正しいんです。ショッカーの恐るべき陰謀を全世界に訴える、先生はただ1人の証人ではありませんか!」
緑川「わかっている、わかっている……だが奴らと戦うには、私はあまりにも非力過ぎる……」
猛「及ばずながら……私も全力を尽くして、人間の自由のために戦います! 先生、もっと自信を持って下さい!」


その頃ルリ子はちょうど、埠頭へ到着していた。

そして倉庫の屋根の上には、蜘蛛男が……


猛「先生、間もなくお嬢さんも来られます。元気を出して……」

ひとまず緑川に水を飲ませようと思ったか、猛が流し台を見つけ、コップを手にして水道の蛇口をひねる。
だが取っ手が固く、なかなか回らない。
力任せに猛がひねると、取っ手ごと千切れてしまう。

猛「そうか……普通人の何十倍もの力には俺にはあって、それがコントロールできないのだ……既に、人間でない改造の部分が……」


猛たちの潜んでいる50号倉庫へルリ子がやって来る。
話し声が聞こえ、何気なしにルリ子が中に入らないまま、入口に耳を近づける。

猛「先生、私の体は……私の体は死ぬまで改造人間のままなんですか!?」
緑川「すまん……本郷くん。君は……君を私が協力者に選んだために……」
猛「……先生が私をショッカーに推薦した!?」
緑川「すまん! 許してくれ、本郷くん!」

ルリ子「誰と言い争っているのかしら……?」

猛が緑川に背を向け、壁に掛かった鏡で、自分を見つめる。

猛 (第三者から見れば、俺はまるで遠い宇宙の彼方から来た遊星人と思うかもしれない……だが、先生と立花さんだけは、俺の気持ちがわかってくれる)

緑川のもとへ、無数の蜘蛛の糸が降りてくる……

緑川「う!? うぅっ、うわぁぁ──っ!!」

猛が振り向くと、緑川が蜘蛛の糸で首を締め付けられている。

猛「先生、先生!?」

そのまま倒れた緑川に、猛が駆け寄る。

猛「先生……!」
緑川「うぅ……うぅっ……」
猛「先生!」

猛が糸を引き剥がしにかかる。
そこへやってきたルリ子。

ルリ子「あっ!」

彼女が見た光景は、まるで猛が父の首を絞めているかのようであった。
慌ててルリ子が駆け寄る。

ルリ子「何をするの!?」
緑川「うぅっ……」
猛「先生、先生!」
ルリ子「お父様、お父様!」
猛「先生!」

緑川が息絶える。

猛「先生……」
ルリ子「お父様……」

そのとき、窓から蜘蛛男が覗いていることに猛が気づく。

猛「危ない!」

咄嗟に猛がルリ子を連れて緑川から離れる。
蜘蛛男の放った矢が、緑川に命中。
猛の目の前で、緑川の体が溶け、泡となって消滅してしまう。

猛「危険だ……外に出ましょう!」
ルリ子「お父様の首を絞めて殺し、今度は逆に私を助けるのは何のつもりなの!?」
猛「違う! 先生を殺したのは俺じゃない!」
ルリ子「あなたが父と言い争うのを聞き、そして私は見ました! 私はこの目で、お父様を殺すところを! それでもあなたではないというのですか!?」
猛「俺じゃない! 俺は先生をお救いしようと……」

ルリ子の目は怯えきっている。

猛「信じて下さい! 俺と先生は味方同士なんです」
ルリ子「人殺し……」

そのとき、ルリ子の背後に蜘蛛男が出現。
蜘蛛男が先の矢を放つ。
咄嗟に猛が身をかわした隙に、蜘蛛音はルリ子をさらって姿を消す。

猛がルリ子を探して倉庫の外へ駆け出す。
蜘蛛男はルリ子を抱えたまま、倉庫に到着したトラックの上に飛び乗る。
トラックが走り出す。すかさず猛もバイクで後を追う。

猛がバイクハンドルのスイッチを入れると、バイクのボディが装甲で覆われ、「サイクロン号」に変形。たちまちスピードを増す。
そして猛の腰のベルト「タイフーン」の風車が加速による風力を浴び、回転し出す。
それに伴い、猛の姿があの「仮面ライダー」に変わる──仮面ライダー、それは本郷猛が変身した姿だったのだ。


ダムのそばの道路。
ショッカーのトラックの前に、仮面ライダーが立ち塞がる。
トラックが停まり、ルリ子を抱えたまま蜘蛛男が飛び降りる。
戦闘員もたちまち勢ぞろい。

蜘蛛男「出たな……今度こそ息の根を止めてやる!」

戦闘員たちがライダーを囲み、一斉攻撃。ライダーはそれを大ジャンプで交わす。
そして強力なパンチ、キック、投げ技で次々に戦闘員をなぎ倒してゆく。

蜘蛛男が矢を放つ。
すかさずライダーは、戦闘員を盾にする。
矢を受けた戦闘員が、緑川同様に泡となって溶けてゆく……

戦闘員が一掃され、仮面ライダーと蜘蛛男の一騎打ち。
蜘蛛男の爪がライダーの首を裂く。
ライダーの手刀が蜘蛛男に炸裂。

蜘蛛男が上方に糸を吐き、ダムの上へと逃れる。
ライダーは大ジャンプで、たちまちそれに追いつく。

パンチ、キック、投げ技の応酬。
そしてライダーの渾身のキックが、蜘蛛男に炸裂。

蜘蛛男「う……う……う……うぅっ……」

倒れた蜘蛛男の体が溶け出し、泡となって消滅──

こうして果敢にもたった1人でショッカーに挑む仮面ライダーは、遂に初勝利を遂げた。


やがて、立花の車がやって来る。
変身を解いてルリ子を抱いている猛に、立花は無言で頷く。

立花「大丈夫か?」
猛「気を失っています。お願いします」

立花、自分の車にルリ子を乗せ、走り去る。

それを見送る猛。


やがて猛も、バイクで駆け去ってゆく……


ショッカーと その身を犠牲にして戦う本郷猛

理解者であり 協力者であった緑川博士は
ショッカーの魔の手にかかった

しかも 博士の娘・ルリ子は 猛を犯人と信じている
その潔白が明かされるのは いつの日か

そして ショッカーの恐るべき怪人も
また 待っているのである


つづく
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