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仮面ライダークウガの第1回


この作品を
故・石ノ森章太郎先生に捧ぐ


薄暗い遺跡のような場所。

異形の姿の戦士が、無数の怪人と戦いを繰り広げる。
戦士の姿が、槍を構えた青い姿、弓を持つ緑の姿、剣を振るう紫の姿へと変る。
やがて、怪人たちが全て倒れ、戦士は自ら棺の中へと身を横たえる。

棺の蓋には、奇妙な文字が──


A New Hero. A New Legend
仮面ライダークウガ
A New Hero. A New Legend


中央アルプス 九郎ヶ丘遺跡発掘現場
02:02 p.m.


遺跡調査団の人々が、冒頭で登場した棺を調査している。

「春田、そっち大丈夫か?」「大丈夫だけど、秋山さんこそ大丈夫なの?」
「はぁ、すっごいなぁ……あ、教授、準備できました」「こっちもOKよ」
「さ、開けるぞ〜」

カメラのレンズが捉える中、棺の蓋がゆっくりと開かれる──
1人のミイラ。

「こんな物がまさか日本に出るとはな」
「先生、世界のどの墓とも、全く違う埋葬形態ですね。これ」

古代らしき服装。そして腹には、衣装と不釣合いな金属質のベルトらしき装飾品。

「先生、これ……『勝手に触ったら呪うぞ』とか、書いてないですよね……?」
「もう触っちゃったよ。くだらんこと言ってないで、手ぇ動かせ」「ははっ……」


新東京国際空港
04:05 p.m.


夕暮れの駐車場。バイクの傍らに、主人公の青年・五代雄介。

雄介「いきなりだけど俺さぁ、辛いとき笑顔でいられる男って、格好いいなと思ってる。8歳のときに、ネパールへ行った時にアンナプルって山で遭難しかけたことがあるんだ。もぅ死ぬかもしれなくて、怖くて泣きたくなった。けど、そのとき一緒にいた現地の案内人の子供が、俺と同じくらいの歳なのに『大丈夫だよ』って笑顔なんだよね。なんか格好いいなと思った……!」

そう彼が話しかけている相手は、泣きじゃくっている男の子。

雄介「でも、まぁ……パパやママとはぐれたら心細いか……」

いきなり雄介がいくつかのボールを取り出すと、ジャグリングを始める。
泣き止んで、見事な手つきに見ほれる男の子。
雄介がにっこり笑い、サムズアップを決める。
男の子がくすっと笑ってその仕草を真似、サムズアップを返す。

そこへ、警官に連れられて両親らしき2人が駆けて来る。

警官「お父さん、お母さん!」
両親「タカユキ!」「もう、1人で行っちゃ駄目って行ったろ!」
雄介「良かったな〜」
両親「あ……お世話になりました」「ありがとうございました!」
雄介「あ、いえいえ、何もできなくて」
両親「お兄ちゃんにお礼は?」
男の子「ありがとぉ」
雄介「あぁ、良かったなぁ」
両親「心配したんだぞぉ」「さ、帰ろうね」「どうもありがとうございました!」
雄介「いえいえ、ほんとに」
男の子「ばいばぁい」
雄介「ばいばい、またね」

男の子を連れ、両親が去る。

雄介「さて、俺も行くかな」

バイクに跨り、雄介が走り去る。


東京 城南大学考古学研究室
11:28 p.m.


携帯電話を片手にパソコンに向かっている、大学院生・沢渡桜子。

桜子「もしもし? 何だ、マコトか……今忙しいから後にしてよ。え? ないよ、特ダネなんて。例の九郎ヶ丘遺跡の古代文字を解読する為にさ、世界の色んな文明に似たような文字がないか、探してるとこ」

1人の女性が研究室を去る。

「お先……」

手を振りながら、桜子が電話を続ける。

桜子「はぁ? もう書いてあるわけないでしょ! 呪いの呪文なんてぇ……遺跡の文字なんてね、『誰それの棺にこんな文明品を入れました』っていう目録みたいなもんなんだから。新聞記者なら特ダネは自分の足で探しなさいって。じゃね」

校舎を何者かがよじ登り、窓から研究室に侵入。
書類棚をまさぐっている桜子の背後から、奇怪な顔の何者かが迫る……

桜子「久しぶりで言いたくないけど、窓から来ないで、五代君」
雄介「いや、でもここの校舎『登ってくれ』って感じしない?」
桜子「しないですぅ! 叱られるの私たちなんだから……」

仮面を脱ぐ雄介。

雄介「ごめんごめん。ほら、これインドネシアの魔除けのお土産!」
桜子「ふぅん……まぁった変な物が増えちゃったなぁ〜コーヒー飲む?」
雄介「あ、いぃいぃ。俺すぐ行くから。例の九郎ヶ丘遺跡」
桜子「落ち着かないなぁ、相変らず」

パソコンが「ピー」と音を上げる。
桜子が駆け寄り、画面を覗き込む。

桜子「何これ……どういうこと?」
雄介「どした?」
桜子「ちょっと見て」

古代文字が日本語文字に翻訳され、表示されている。

雄介「『死』……『警告』……?」
桜子「一応教えとこうかな、調査隊の人に。は、話の種にさ」


遺跡発掘現場。

「もしもし、警察ですか? 九郎ヶ丘の、遺跡……発掘現場です。助けて……キャァ──ッ!」


城南大学。

桜子「もしもし? もしもし? どうしよう……」
雄介「俺、確かめて電話入れるよ!」

そういい残して雄介が研究室を駆け出す。


中央高速道 駒ヶ根センター付近
03:07 a.m.


雨の降りしきる中、雄介がバイクを飛ばす。
突如、遺跡跡の方向から巨大な光が立ち昇る。


遺跡発掘現場。

光で照らされた中、異形の怪人が歩いている。

「ジョ・リ・ガ・ゲ・セ……!」

奇妙な言葉を呟くと、怪人が地面目掛けて手をかざす。
光が迸り、地面から無数の手が突き出す。まるで地中に埋められた何者かが、地上に出ようとしているように……


九郎ヶ丘遺跡発掘現場
07:31 a.m.


1台のパトカーが到着する。長野県警の刑事、一条薫。
既に何人もの救助隊員たちが作業に当たっている。その隊長が一条を迎える。

隊長「落雷にしては、被害が大きすぎますね」
一条「何かが爆発した可能性は?」
隊長「いや、気象台に確認しましたが、地震の記録はありません」


そこへ到着した雄介。
遺跡の入口を目にしたとき──目に見えない衝撃に、雄介の体が震える。

雄介「……!?」


隊長「いやぁしかし、調べれば調べるほど謎だらけです。長い間、山岳救助をしてきましたが、こんなことは初めてですね」
雄介「遅れて申し訳ありません、も、すぐに作業にかかります」

遺跡のほうへ駆ける雄介を、一条が腕をつかんで止める。

一条「何だ君は?」
雄介「……やっぱ駄目ですか?」
一条「どういうつもりだ」
雄介「死の警告」
一条「……?」
雄介「城南大学の沢渡さんが、古代文字を解読した結果です」
一条「調査団の関係者の方ですか……?」
雄介「いいえ? ただの通りすがりで、こういう者です」

雄介が名刺を差し出す。駆け寄った警官の亀山も、それを覗き込む。

亀山「夢を追う男……五代雄介?」
雄介「はい!」
一条「亀山、この方をパトカーまで」
亀山「はっ!」
雄介「え……え?」

亀山が雄介を引っ張ってゆく。

雄介「あ──っ!! ちょっと待って! 何だ、あれ!?」

雄介が大声を張り上げて空を指差し、救助隊員や警官たちが一斉にそれに目を奪われる。
その隙に雄介が遺跡入口へ走る──はずが、一条がそれを制止する。

一条「止まれっ!!」
雄介「やるねぇ、刑事さん……」

とぼけた顔でサムズアップを差し出す雄介とは対照的に、一条の顔は険しい。

一条「公務執行妨害で逮捕するぞ!」
雄介「す……すみません。帰ります……」

すごすと雄介が去ろうとしたとき、遺跡入口から救助隊員の1人が駆け出してくる。
その手には、ミイラがつけていたベルト状の装飾品が、ビニールに包まれて握られている。
雄介が何気なくそれを見たとき……

雄介の脳裏に浮かぶ映像。
ベルトをつけた何者かが、異形の戦士へと変身を遂げる──

隊員「隊長!」
隊長「お? 何だ、これは……?」
雄介「何だぁ……今の!?」

ベルトに謎の文字が描かれている……


長野県警察本部
02:13 p.m.


県警の外でバイクを停めている雄介のもとへ、大荷物を抱えた桜子が息を切らしながらやって来る。

桜子「ふぅ、ナビだけじゃ手に負えなさそうだから、色々持ってきちゃったよ……」
雄介「ごめんねぇ……あ、コンビニからFAXしたの、わかった?」
桜子「あ、取りあえず候補はいくつか出た」
雄介「……で、たとえばどんな意味?」

桜子がポケットからFAX紙を取り出す。
雄介が桜子へ宛てたFAX。あのベルトの文字と、「至急解読求ム」のメッセージが書かれている。
誰かが雄介のバイクのヘルメットをポンポンと叩いて合図する。振り返ると、一条刑事。

一条「また会えるとは奇遇だな」
雄介「あ……! 紹介しますよ、例の沢渡桜子さん」
桜子「え?」
一条「あなたが……? いずれ連絡を取るつもりでしたが」


雄介と桜子が、会議室に通される。

一条「これが、問題のビデオです。惨劇の中で生き残ったのは……これだけでした」
桜子「皆さん……亡くなったんですか……?」
一条「調査団全員、ほぼ即死の状態だったそうです」
桜子「……研究室同士の……顔合わせをしたばかりなのに……」
雄介「それで、そのテープには何が?」
一条「コピーしたものを見て下さい。辛ければ、すぐ中止しますので……」

ビデオの上映が始まる。
かなり乱れた映像の中、異形の怪人が遺跡の中で暴れ、調査員たちが悲鳴をあげる。
怪人があのベルトをつかみ、高々と掲げ、地面に叩きつける。

あまりの惨状に、桜子が目をそむけ、雄介もさすがに顔がこわばる。
やがて画面が砂嵐となり、上映が終わる。

一条「あの、謎の影の正体は不明です。しかし、奴は最後にまるで誇示するかのように、ベルト状の装飾品を叩きつけた……それが、私には漠然と気になるんです。本来、証拠品の鑑定依頼には手続きが必要なんですが、それは私の方で何とかしますので」

一条が差し出したアタッシュケースの中には、あのベルトが。雄介が驚き、ベルトに書かれている文字を示す。

雄介「これ! これFAXで送ったやつ!」
亀山「一条さん!」

会議室飛び込んでくる亀山が、一条に何か耳打ちする。

一条「それはお預けしますので、よろしくお願いします。申し訳ないのですが、これで失礼します」

一条が会議室を去る。

雄介「桜子さん、この古代文字の意味は?」
桜子「……力」
雄介「力……?」


長野市 南長野
03:18 p.m.


警官「南長野1532MKビル付近で、謎の生物が巨大な蜘蛛の巣を張っております!」

駆けつけた警官たちが見上げる中、ビルとビルの間に巨大な蜘蛛の巣が張られている。
突如、巣から舞い降りた蜘蛛状の怪人たちが警官たちを襲い始める。

怪人「ザボゾロザァ!」

警官たちが発砲するが、銃弾は怪人の体に軽くめり込んだだけで、コロコロと転がり落ちる。
怪人の吐いた糸が、パトカーの窓ガラスを突き破り、車内の警官に絡みつく。


長野県警。アタッシュを携えた桜子と雄介が玄関に向かう。

雄介「取り敢えず、そのベルトに書かれている文字を全部解読してみようよ」

突然、玄関を突き破って飛び込んでくるパトカー。
事切れている車内の警官を尻目に、車内から怪人が現れ、署内の警官たちを襲い始める。
悲鳴を上げる桜子。アタッシュが床に転がって蓋が開き、ベルトが覗いている。

怪人「ゴセバ・デスドン・クウガ!」

再び、雄介の脳裏に浮かぶ映像。
ベルトを付けた異形の戦士が、今目の前にいるような怪人と戦いを繰り広げる光景──

雄介「また……何なんだ!?」

警官たちが怪人に挑むが、到底通用せず、次々に警官が襲われていく。

雄介「桜子さん、隠れてて!」
桜子「何!?」
雄介「これ、付けてみる!」

雄介がベルトを腹に突けると、光が溢れる──

雄介「くッ……うぅっ……!」
桜子「嘘……!? ベルトが、五代君の体に吸い込まれた……!?」

ベルトは跡形もなく姿が消え、はだけた雄介の腹が赤く腫れ上がっている。

ベルトを得た雄介に、怪人が襲い掛かる。
建物の外へ吹っ飛ぶ雄介。なおも追って来る怪人。

雄介「やられる……? このままじゃ、死ぬ……! やぁぁ──っっ!!」

襲い掛かろうとする怪人目掛け、雄介が拳を突き出す。
パンチが怪人に命中する瞬間──その腕が瞬時に、白い生体甲冑に包まれる。
息を切らしつつ、自分の肉体の変貌に目を見張る雄介。

雄介「ハァ、ハァ……変わった!?」

無我夢中で雄介が、怪人目掛けてパンチやキックを繰り出す。
腕同様に、脚、胴、そして頭と、全身が次々に生体甲冑に覆われる。
黒い体、白い装甲、昆虫のような複眼、頭には黄金色の角。
雄介が変身を遂げたその姿こそ、戦士“クウガ”のグローイング・フォームである。

怪人「ヅボグ・リジバブ・ババダバ」

怪人が襲い掛かる。
クウガが停車している車を全力で押して怪人に叩きつけ、建物の壁との間に挟みこむ。

怪人「ゾンデギゾバ・クウガ」

全く応えていない様子の怪人、口から吐いた糸でクウガを絡め、ビルの壁面へ叩きつける。
とっさにクウガが壁面のパイプを昇り、屋上へと辿り着く。
一跳びで屋上に飛び乗った怪人が、尚もクウガと戦う。
怪人の爪がクウガに迫り、その腕がクウガを屋上から落としにかかる。

そこへ接近するヘリコプター。機内から一条刑事が、クウガと怪人の戦いを目の当たりにする。

一条「2匹!?」

怪人目掛けて一条が発砲。
怪人が獲物を一条に変えたか、ヘリ目掛けて糸を吐きかけ、その糸を伝ってヘリに跳び乗る。

一条が発砲するが、怪人には通用しない。
怪人の爪が一条に迫る。
咄嗟に、ヘリに跳び乗ったクウガが怪人を羽交い絞めにする。

ヘリの中で激しい揉み合いが続く。
怪人の手によってヘリから引きずり落とされそうになる一条を、クウガが必死に抑える。

クウガと怪人が激しく拳を、蹴りを交える。
そしてクウガの渾身の攻撃が、遂に怪人をヘリから突き落とす。

真っ逆さまに落下した怪人が、建物の屋根を突き破り、姿を消す……


一条「俺を……助けた!?」

クウガがサムズアップを決める。
しばし、見詰め合うクウガと一条。

一条「お前は誰だ?」
クウガ「じゃあ!」

クウガが颯爽とヘリから飛び降り、ビルの屋上へと着地。
夕陽の中を走り去ってゆく。

それを見送る一条の脳裏で、クウガのサムズアップと、雄介のサムズアップとが重なる。


一条「まさか……!?」


(続く)
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