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22年前──1986年。 とある教会で、葬儀が行われている。 1人の女性が棺に花を供えようとしたとき──棺の中の亡骸の顔に、黒い血管模様が浮かぶ。 死んでいたはずのその男性の目が開く。 「きゃあっ!」 棺から男性が起き上がり、その背からクモのような脚が伸びて女性を捕える。 「きゃあっ!」「なんだぁ!?」 空中に2本の牙が現れ、女性に突き刺さる。 女性の体がみるみる透明になり、事切れて倒れる。 男性が怪人態、スパイダーファンガイアに変身する。 「逃げろぉ!」「きゃあっ!」「逃げるんだ!」 弔問客たちが大パニックに陥り、教会から逃げ出す。 スパイダーが教会の外に現れ、糸を吐き出し、弔問客の数人を絡め取る。 そしてスパイダーが、捕えた人間たちに襲い掛かろうとしたとき── 教会から現れた弔問姿の女性・麻生ゆりが、スパイダーにキャンドルを投げつける。 スパイダー「貴様、何者だ?」 ゆり「神は過ちを犯した……お前のようなファンガイアをこの世に在らしめた過ち、私が正す!」 スパイダーが糸を放つが、ゆりはそれをかわす。 スパイダーがゆりに襲い掛かり、その爪が服を切り裂いてゆく。 ゆりが弔問服を投げ捨てる。その下は、タイトな戦闘服姿。 ゆりが対ファンガイア用のサーベル、ファンガイアスレイヤーを手にする。 ゆり「来なさい!」 襲い来るスパイダーを、ゆりのスレイヤーが切り裂く。 さらにスレイヤーが鎖状に変化、ゆりはそれを鞭のように巧みに操ってスパイダーを攻撃する。 ゆりがスパイダー目掛けて突進、スレイヤーを振り下ろすが、スパイダーは姿を消してしまう。 残されたのは、スパイダーがドアに残した爪跡のみ…… |
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再び舞台は1986年。 ゆりの普段の職場、喫茶店カフェ・マル・ダムール。 マスターの木戸明が、飼い犬の餌をゆりに託す。 木戸「ゆりちゃーん、ごめんね。これ、ぶるまんにお願い」 ゆりが顔を引きつらせつつ、床に置いた餌を、恐る恐るモップの柄で犬の方へ押す。 木戸「あの……もしもし? ねぇ、ゆりちゃん? 相手は生後2ヶ月の子犬だよ。赤ちゃん。そんなに怖がることないじゃない……」 そこへ来店する男性、嶋 護。 嶋「マスター」 木戸「あぁ、嶋ちゃん」 嶋「今日の体脂肪率は?」 木戸「17.8%」 嶋「フン、甘いな。俺は17.2%だ」 店の片隅で話し込む、嶋とゆり。 嶋「君は、『バブル』という言葉を知っているか?」 ゆり「バブル?」 嶋「今の日本の異常な好景気を、そう言うらしい。今回のターゲットは、そのバブルの追い風に乗って成り上がった不動産会社社長」 嶋が写真を差し出す。 嶋「だがもちろん、それは表の顔だ。彼の秘書が既に5人、行方不明になっている」 ゆり「……ファンガイア」 |
1986年。 嶋が写真で示した男・津上カオルが、女性秘書の運転する車で夜の道を行く。 津上「君、そこを右に曲がってくれ」 秘書「はい」 やがて車は、行き止まりに辿り着く。 秘書「社長? 道が……違うようですが?」 津上「いいんだ。一杯やっていこう」 秘書「……?」 津上「君のような美しい秘書が見つかって、私も嬉しい。乾杯」 津上の顔に、黒い血管模様が浮かぶ。 秘書「え?」 津上が秘書の肩に掴みかかる。 秘書「いやぁ──! やめてぇ──っ!」 そのとき、閃光が津上を照らす。 見ると、外ではゆりがライダースーツに身を包み、バイクに跨っている。 ゆりがバイクを飛ばし、車目掛けて体当たりを食らわす。窓ガラスが砕ける。 津上は不敵な笑みを浮かべ、電話を手にする。 津上「津上だ……」 津上が車から降りる。 ゆりが津上目掛け、バイクで突進。 だが津上は素手でバイクを止め、逆にバイクを投げ飛ばし、ゆりが地面に放り出される。 ゆり「はぁ、はぁ……」 津上が怪人態・ホースファンガイアに変身する。 ゆりがファンガイアスレイヤーで斬りかかるが、ホースはそれをものともせず、ゆりを締め上げる。 その隙に秘書は、車から降りて逃げ去る。 ホースがゆりを放り出し、津上の姿になって秘書を追う。なおも津上を追おうとするゆり。 そこへ車が到着し、男2人が降りて来る。 男たち「社長!」「社長、犯人は!?」 津上「あいつさ」 津上がゆりを指す。慌ててゆりが逃げ去る。 男たち「待てぇ!」 ゆりを追う男たち。だがやがて、ゆりを見失ってしまう。 閑散としたビル街を捜し回る男たち。1人の男が、抱き合っているカップルを見つける。 女性の方は顔が見えず、ゆりとは服装が違うが、男が不審そうに睨む。 もう1人の男「おい」 カップルを見ていた男が、もう1人に呼ばれて駆け去る。 ゆり「ごめんなさい……おかげで助かった」 抱き合っていたのは、ライダースーツを脱ぎ捨てたゆりと、通りすがりの男性・紅 立ち去ろうとするゆりの手を、音也が掴む。 音也「おっと、それはないだろう? 人をその気にさせておいて。人生は短い。けど……夜は長い」 音也がゆりの手にキスをする。 ゆりが音也をひっぱたいて突き飛ばす。音也の手にしていたバイオリンケースが地面に転がる。 その様子をゆりが嘲笑い、きびすを返して走り去る。 津上に追われた秘書が、建物の中を逃げ回る。 目の前のドアが開かない。津上はもうそばまで迫っている。 秘書「誰かぁ! 誰か……開けて!」 津上が秘書の首を掴む。 空中に4本の牙が現れ、秘書に突き刺さる。 秘書の体がみるみる透明になり、事切れて倒れる。 津上が悠々と立ち去ろうとしたとき、ゆりが建物内に現れる。 ゆり「はっ!」 ゆりがスレイヤーを鎖状に変化させ、高所にいる津上目掛けてて投げつけ、その腕を捕える。 力任せにスレイヤーを引っ張り、津上の体を引き摺り下ろす。 さらにスレイヤーをサーベルに変形させ、津上目掛けて突進する。 ゆり「はぁぁぁっ!!」 だが──そのゆりの手を音也が掴み、ゆりを抱きとめる。 音也「寂しかったろう? 1人にさせて、悪かった……」 その隙に津上が逃げ去る。 ゆりがどうにか音也を振りほどくが、既に津上の姿はない。 音也「照れるなって」 ゆりが音也の胸倉をつかむ。 ゆり「あんた、何?」 音也「……?」 ゆり「自分が何したか、わかってる!?」 音也「へ?」 ゆり「こんのぉ〜っ! バカッ!」 音也の顔面に、ゆりの正拳が炸裂。 |