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 きまぐれオレンジロード 1

〜 vol.1 まっ赤な麦わら帽子!の巻 〜


「…じゅういち、はちじゅうに、はちじゅうさん…」
公園の長い階段を、一段一段数えながら
駆け昇ってくる少年。
一番上まで数段残したところで立ち止まり、
「ふう、暑い…」 と、汗を拭う。
「ざっと100段はあるな!」
ビュッ…!突然の強い風が緑の木々を揺らす。
「おーきもちいー」
ふと、少年が空を見上げると、何かが飛んでくる…
形から言って…?
(UFO!?まさか…)
だんだん下に落ちてくるそれは…
(帽子?麦わら帽子か……こっちに落ちてこい!)
少年は、狙いを定めて…「よ!」
まっ赤な麦わら帽子を、ジャンプしてキャッチ!
そして、なにげなく頭にかぶってみる少年。
「ナイスキャッチ。」
声に振り向くと…
アロハシャツの裾を腰のあたりでしばり、ショートパンツに長い足…
美しい少女が、少年の目に飛び込んできた。
「今の風で、飛ばしちゃったの。」
ドキッ!(か…かわいいコ!!)
「よかった。ずっと下まで落っこちていっちゃったかと思ったから。
たいへんなのよね、この階段長いから…」
髪をそっとかき上げる少女。
「う…うん…長いね。」
「なんたって、99段もあるんだから。」
「へえー、98、99…100!」
上りきったところで、思わず顔を見合わせる2人。
「うそ〜99段しかないはずよ!」
「でも…ちゃんと下から数えたよ。」
「そんなはずないわ!あたしが数えた時は99段しかなかったわ。」
「数え間違えたんじゃないの?」
「あら、よく言うわね!あなたこそ間違えたんじゃない?」
「いーえ、ちゃんと100ありました。」
「99よ!」
「100だ!」
「99!!」
「じ…じゃあこーしよう。間をとって99.5段!」
…アハハハ!!笑う二人。
「こんなこと…どーでもいいことなのにね。」
「それもそーだ。」
「あなた…この街の人じゃないでしょ?」
「なんで…わかる?」
「だって、なまってるもの!」
「え…そーかな?」
少年は、思わず口を押さえた。
「もうそろそろ行かなくちゃ、じゃね!」
階段を下りて行く少女。
「バイ!……あ…、おーい、帽子!」
少年は、かぶったまま忘れていた帽子を振ってみせた。
すると、少女は振り向いて…
「あげるわ!」
「え?」
「なかなか似合ってるよ、それ。」
少年は、少女の風になびく黒髪と、
肩越しに見せたその笑顔に、胸がキュッとなるのを覚えた。

― オレ 春日恭介
ある理由で 今日この街に引っ越してきたんだけど…
はっきり言って この街…
気にいっちゃったよ オレ! ―

団地の一室
『春日 隆』の表札
「ただいまー」
恭介が、玄関のドアを開けた瞬間、
「あぶない、おにーちゃん!!」
ブアッ!!いきなり、タンスが恭介に向かって飛んできた!
どんぐわらがしゃ〜ん!! 「ぎゃ〜〜っ!」
パンツを頭にのせ…タンスの下敷きになった恭介。
目の前には、2人の妹…
その回りを、椅子やダンボールがフワフワ飛んでいる。

― 突然で驚かれたでしょうが…
実はうち…
はずかしながら…超能力一家なんです!! ―

「ちょっとーくるみ!あなたのせいよ。」
そう言ったのは、双子の姉、まなみ。
ポニーテールにメガネをかけている。
「だってえー、タンスなんて能力(ちから)使わないと
運べないんだもーん。」
こちらは妹のくるみ。
セミロングの髪で、ちょっと甘えん坊?
似ていないようで、実は一卵性双生児の2人。

― 「それはうらやましい」ですって!?とんでもない! ―

くるみの前に立つ恭介。
「あーっ、もーいやだ、こんな生活は!!くるみ!いいか!
今度の転校だって、おまえが前の学校の体育の時間に
100mを3秒で走ってしまったからなんだぞーっ!
ナナハンじゃないんだぞ人間はっ!!」

― ふつーの男の子になりたい!! ―

「そのとおり。恭介のゆーとおり、わしら一家の持っている能力は、
人前では、絶対使っちゃいけない!!
また奇人変人よばわりされて、引っ越すことのないようにな!」
新聞を広げながら、落ち着いて言うお父さん。
メガネと鼻の下のヒゲが…ダンディっ!
「と、いーつつ、お父さんも
パジャマ着て新聞なんか読んでる時じゃないでしょ。」
まなみに突っ込まれ、慌ててねじり鉢巻で荷物の整理をし出すお父さん。

― あらためて家族を紹介します
…オヤジ ふたごの妹たち まなみ…と くるみ ―

「さあさあ、お兄ちゃんも手伝ってね!さぼってたんでしょーっ!
あしたから学校よ!」
春日家のお母さん代わりのまなみがゲキを飛ばす。

― みなさん 能力(ちから)のことは
くれぐれも内緒に… 恭介 ―

高陵学園中等部 3−A
「転校歴7回の春日恭介くんだ。」
教壇に立つ先生の横で、頭をかく恭介。
「よろしく!」
にわかにザワつく教室…
「すっげーなー」 「あいつ、なにやったんだ?」
「えっと、春日くんの席は…と、しかしすごいね、きみ、
7回ってのは…」
結構余計な事を言う先生をよそに…
「勝手知ったる転校ベテラン!あ、ここですね席は。」
と、前から3番目のあいている席に行く恭介。
「あ!そこじゃない。そこは鮎川の席だ。」
「あー欠席。」
「いや…きてることはきてるんだが…」
言葉を濁す先生。
「先生、ここあいてまーす!」
後ろの方から、一人の男子が手を振った。
恭介がとなりに座ると、
「へへへへ、いらっしゃーい。」
『りぼん』を読みながらその男子は、ニキビの顔でにっこり笑った。
「よろしく、おれ小松ってんだ。あ、そうそう、
こっちのことでわからないことは聞いてくれよ。
たぶん、教えてやれそうだぜっ!」
小松はそう言って、左手の小指を立ててみせる。
「くすっ、ありがと。あの…さっきの席の人は、
えっと、あゆ…」
「あー、あの不良、鮎川まどかだろ!
エスケイプ、つまりサボリ!」
「サボリ!?」

1−C
男子に囲まれているまなみとくるみ。
「2人ともこのクラスってのはラッキーだったよな。」
「オレなんか、あしたから学校くんのに生きがい感じちゃうよー。」
そこへ冷静な女子が…
「まー男子ったら…
でも、あなたたち、どうして7回も転校したわけ?」
その問いに、元気に答えるくるみ。
「ジャーン!にゃんと実は、前の学校で、あたし100mを3秒で…」
慌ててくるみの口をふさぐまなみ。
「な…なに言ってんのよ、ちがうでしょちがうでしょ、ほらぁ!」
「もがもが…」
「趣味なんです、あたしたち…引っ越すの。」
みんなの笑いを誘い、何とかその場を繕うまなみ。

そして、昼休み…
生徒たちでごった返す購買部
「メッ、メロンパンにいもサラダくださーい。」
「おすなっ!」 「あたし、コロッケパン!」
その人混みから出てくる恭介と小松。
小松は、しっかりと手にカツサンドを握っている。
「やったー!今日はついてるぞ。幻のカツサンドが手に入るなんて!」
廊下から階段を歩く2人。
「にぎやかな学校だね。」
「そーだろ、ここは中学、高校、大学とみんなあるからな。
それに、けっこー女の子多いんだぜ〜♪
だからまあ、ここの生徒は、ほとんど温室育ちの
ボッチャンジョーチャンってとこかな!」
カツサンドを丸ごとくわえながら言う小松をじーっと見る恭介。
「…温室育ちねえ…?」 恭介は、タラーッ…
「あれ…やっぱ見えない?」
1−Cの横に差し掛かった時、小松が立ち止まった。
「お!ち、ちょっとあれ見ろよ、春日くん!」
「え?」
「あそこあそこ!ほら、髪の長いちっちゃい子、あの子!
オレごのみ!かっわいいー!!」
恭介が見ると、そこには…にこにこ笑うくるみが!
「なんだ、くるみじゃないか。」
「えっ、な…なんで知ってんの?
春日くんて意外と手ェ早いんだなーっこの!スケベ!」
小松が、ひじで突付こうとしたのを恭介は、
「妹だよ!」
と言って、サッとよけた。
「お兄ちゃん!」
そこへ、教科書を抱えてまなみがやって来た。
「よぉ、まなみ。くるみのやつ大丈夫か?使ってないだろうなぁ。」
「大丈夫!あたしがちゃんと見てるもん、まかせといて。
くるみー、教科書もらってきたよ〜」
教室に入ってゆくまなみの後姿を見ていた小松の目が、
ハートになっている!
「お…おに…おに…おに〜さん!!」
恭介にガバッ!と抱きつく小松。
「うおっとーっ!!」
「いやーぼくはうれしい!お兄さんのよーな人と友だちになれるなんて、
いやーハハハ…なんか他人のような気がしないなー
カツサンド食べます?まっ、これからは兄弟のように
仲よくやりましょーね。ね、おにーさん!」
無理やり握手!
(だれが兄弟だ、だれが!!)
「あ、おにーちゃんだ!」
廊下に出てくる、まなみとくるみ。
「あ、初めまして!おれ…いやぼく3年A組の小松整司どぅえーす。
きみたち名前は?好きな食べ物は?B・W・Hは?
いつもなに着てねてんの?」
メモ帳を出し、矢継ぎ早に質問する小松。
「こやつ…」 あきれる恭介と、びっくり!のまなみとくるみ。

放課後
「じゃあねー、まなみちゃん、さいならーっ、
小松整司をお忘れなくね。」
恭介とまなみに手を振り、帰って行く小松。
「転校一日目は無事終了、さあ帰ろう。」
恭介は、そう言ったあと、周りをきょろきょろ…
「く…くるみは、どーした?」
「どーしたもこーしたも、なんかクラブ入りたいから
見てくるって。」
引きつった笑顔で答えるまなみ。
「え〜っ!!ひ…ひとりでか!?」
恭介は、真っ青!
「うん、すぐ帰るって言ったから…でも、それっきり!」
「が…学校であいつを一人にするなんて、
ネギしょったカモがICBMで飛んでいったよーなもんじゃないか!
さがそう!あいつを一人にしとくと問題おこすに決まってる!」
走り出す恭介。
「けっこー決めつけてるなー…」
あとに続くまなみ。

体育館ウラ
「うまい!」 「先コーこないですかねー?」
「大丈夫だよ。」
そんな、女の子の話し声がする水道横…
通りがかったのは、くるみ。 「!」

学校のあちこちを探し回っている恭介とまなみ。
「きゃーーー」
その声に…
「くるみの声だーっ!!」
体育館の方へ急ぐ二人。

こちらは体育館ウラ。
「たっ、たばこ吸ってるーっ!」
思いっきり大声で叫ぶくるみ。
「ゲホゲホ…あーびっくりした。何だよおまえはっ!
あっちいけ!しっしっ!」
たばこを指に挟んだ手で、くるみを追い払うショートカットの女子。
「ちゅ、ちゅーがくせーは、たばこ吸っちゃだめなんだからー」
くるみは、にらみ付けられても、まったく動じない。
「おまえ、見かけない顔だなーここの生徒か?」
「あたし、今日転校してきたの。」
「…そうか、新入りか。」 ニヤッと笑う少女。
何かが起こりそうな…予感が漂う…しかし!
「いーけないんだ♪いけないんだ♪」
歌いだすくるみ…喫煙少女、がくっ…
「歌うなーっ!小学生かお前はーっ!転校生なら教えてやるよ。
あたしたちにかかわると…こわ〜い目にあうってことをね〜」
くるみの頬に手をあて、そのまま壁にくるみを押し付ける少女。
そこへ駆けつけてきた恭介とまなみ。
「くる…!!」 と、目に飛び込んできたのは…
たばこを吸う、髪の長い少女…?
「み…」 カタまる恭介。
「ひかる〜またお客さんだよー」
髪の長い少女は慌てる訳でもなく、たばこを隠す訳でもない…
目を閉じて、ショートカットのひかるを呼んだ。
「あ…あれえ〜〜!?」
恭介のおかしな声に、思わずたばこを落とすその少女。
「き…きみは、たしか昨日の…」
恭介の頭の中に浮かぶ、昨日の公園での光景…

『うそー99段しかないはずよ…』

「帽子をくれた…」
少女は、一瞬ハッとして恭介を見た…が、
すぐにプイッと目をそむけた。
「…そお、あんた、この学校にきたの…」
「えー、なにー鮎川さんのダチ?」
ひかるの問いに、
「いや…知らないよ…こんなやつ!」
冷たく言い放つ少女。
(!!…鮎川!?鮎川…あ、そうか、鮎川まどか、
あの席、かの女のだったのか!!)
驚いた様子の恭介を、まるでからかうように、
新しいたばこをくわえて火をつける鮎川。
どきっ!とする恭介…

― おれってそんなにまじめ少年じゃないけど…
こーゆーのって やっぱりキライだ!! ―

恭介は、キッ!と鮎川をにらんだ…
ポロッ…
鮎川のくわえたたばこの、火のついたところが落ちる。
驚いてたばこを確認する鮎川。
そしてもう一度それをくわえて、ライターの火をつけようと…
恭介は、またじーっと鮎川を見た。
シューッ…
今度は、ライターの火が消える。
「あれ、また消えた!」 不思議そうなひかる。
恭介は、にっ!と笑って、まなみの方を見た。
「お…お兄ちゃん、だめよ、こんなところで使っちゃ!」
「しーっ…」
そして恭介は、おもむろに鮎川の方を向き直ると、こう言った。
「中学(いま)からタバコなんか吸ってると、
丈夫な赤ちゃん産めなくなるぜっ!!」
それを聞いて、真っ赤になる鮎川…
「あんだとーこのやろー、よーし産んでやろーじゃないか!」
その後ろで、一人怒るひかる。

― 決まったな! ―

恭介は、すっかり自分のセリフに酔っている…と!!
バシッ!!!
恭介の左頬に、鮎川のビンタが炸裂!
「初対面のレディに向かって、ゆー言葉じゃないね、ぼーや!」
鮎川はそう言い捨てると、早足でその場から去って行った。
「あ、待ってよ、まどかさーん。」
あとを追いかけるひかる。
恭介…ショック!! 「ぼ、ぼ〜や!?」
左頬を押さえ、ボー然。

― な…なんちゅー子だ いったい!? ―

恭介の部屋
まだ整理のついていないダンボールに囲まれ…
一人、窓越しに夕日を浴びながら…
公園でのかの女と…タバコをくわえ、ビンタをくれたかの女と…
思い出し、比べてみる恭介。
…頭に、真っ赤な麦わら帽子をのせて。
左の頬には、しっかりかの女の手のあとが…
ヒリヒリと真っ赤に…そして、心にも残っていた。

― あの子…だよな やっぱり…!? ―


〜 vol.1 おわり 〜

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