戻る TOPへ

仮面ライダー響鬼の第1話


石ノ森章太郎先生の
遺志をついで


仮面ライダーヒビキ
響 鬼









朝、東京都内のとあるマンション。

目覚ましの音とともに、中学3年生・安達明日夢が飛び起きる。
学生服に着替え、学校へと自転車を飛ばす。町中を駆け抜け、コンビニへと立ち寄ると、いつものように昼食のおにぎりを買い込む。
途中、級友の持田ひとみと合流。

軽快なBGMに乗せ、ミュージカル仕立てでの台詞のやり取り。

ひとみ「♪ おはよう」
明日夢「♪ おはよう」
ひとみ「♪ 今日は何個?」
明日夢「♪ 全部で10個」
ひとみ「♪ あっそう」

次々に自転車の生徒たちが合流する。

「♪ おはよう」「♪ おはよう」「♪ おはよう──」
「♪ おはよう」「♪ おはよう」「♪ おはよう──」

「♪ Good Morning ──」


いつもの如く学校生活が始まる……。


放課後。
ブラスバンド部の練習を廊下で見つめる明日夢に、担任の綾先生が校庭を眺めながら語りかける。

綾「安達君?」
明日夢「……はい」
綾「やっぱさぁ、こう……担任としてはさ、ちゃんと確認しとかないとと思ってさ」
明日夢「……はい」

明日夢はブラスバンドの練習に目を奪われ、話など上の空のようである。

綾「城南でいいんだよね?」
明日夢「……はい」
綾「ブラバンは、城南にも無いわけじゃないからいいんだよね? ……ごめんね、ちゃんとお母さんに言っといてね。やっぱさぁ……」

パーカッション担当のブラスバンド部員がドジをし、バーン! というけたたましい音が響き渡る。

綾「……ま、いいや。あ、ねぇねぇ、この土日に行ってくるんでしょう?」
明日夢「はい……」
綾「やっぱさぁ、今頃の屋久島って、暖かかったりすんの?」
明日夢「いや……前の法事の時は小二でしたから」
綾「あ、そう……まぁいいや。風邪ひかないようにね」


「ハックシュン! ハックシュン! ハックシュン!」

屋久島へのフェリーの甲板。豪快なくしゃみをしたのは、明日夢の母・安達郁子。

明日夢「風邪ひいた? 母さん」
郁子「……だけど、城南のブラバンてマイナーなんでしょ? あんた、それでもいいのぉ?」
明日夢「あぁもう、いいって言ったじゃん! だってさぁ、城南にしとけって言ったの自分じゃん?」
郁子「しとけなんて言ってないでしょ!? お母さん。人のせいにしないでよ。城南の方が偏差値が高いから、大学にはいいんじゃないのって言っただけでしょう?」
明日夢「同じことだよぉ」
郁子「ハックシュン!」
明日夢「……母さん、イルカ、イルカ! ははっ」
郁子「寒い〜!」

夢中になって海面のイルカを見る明日夢、寒いのはもう沢山とばかりに船室へ駆け込む郁子。
そのとき──

「イルカがいるか♪ たくさんいるぞ♪ ぞ・ぞ・そ・そ♪ そそそそ・そそそそ・曽我入鹿」

“カエルの歌”の替え歌が聞こえてくる。
見ると、明日夢から少し離れたところに、サングラスと黒のコート姿の、30歳ほどの男性。主人公、ヒビキである。

ヒビキ「はぁっくしゅん!」

明日夢と目が合う。

ヒビキ「……シュッ!」

明日夢に挨拶するかのように、右手で敬礼とピースを合わせたような仕草を送る。
当の明日夢は、変な人だな……といった感じで目を逸らす。


「あ! イルカだ、イルカだぁ〜!」

幼い男の子が、甲板の淵に積んであるスーツケースの上によじのぼり、身を乗り出して海を覗く。
今にも海に落ちそう。が、明日夢はそんな予感がしつつも、厄介事を避けるかのように目をそらす。

男の子が海へ──!

慌てて明日夢が駆け出そうとするが、それよりも前に一瞬にしてヒビキの身が躍る。
目にも留まらぬ身のこなしで、ヒビキが船から飛び出す。
驚いた明日夢が見下ろすと、ヒビキは片手で男の子を捕まえ、もう片方の手で船にしがみついている。
男の子はどんな危険に遭っているかも自覚せず、無邪気に彼にじゃれつき、手で彼の耳をつかむ。

ヒビキ「痛痛痛痛痛っ! ……ふぅ、よし……せぇのっ!」

何とヒビキは男の子を抱えたまま、もう1本の腕だけで船の甲板上に無事舞い戻る。

男の子「お兄ちゃん、もう1回〜! ねぇ〜!」
ヒビキ「ははっ……」
男の子「ねぇ〜!」
ヒビキ「はは、ハァックション!」

到底人間技とは思えない、余りの離れ技に、明日夢は呆然と目を奪われる。
船室から男の子と両親とおぼしき男女が現れる。

男女「どこ行ってたの!?」「どこ行ってたんだ、心配してたんだぞ!」


何事もなかったかのように立ち去るヒビキ。
言葉を失う明日夢に、ヒビキがすれ違う。

ヒビキ「結構、鍛えてます。シュッ!」

また先の挨拶ポーズを決めると、ヒビキが甲板を立ち去ってゆく。
無言のままその後姿を見送る明日夢。

ヒビキ「イルカがいるぞ♪ たくさんいるぞ♪ ぞ・ぞ・そ・そ♪ そそそそ・そそそそ・曽我入鹿、っと〜」


屋久島の山中。

怪しげな雰囲気を漂わせた1組の男女が佇む。童子、姫と呼ばれる謎の人物である。

姫「鹿児島県」
童子「屋久島」
姫「曇り」
童子「気温9℃」
姫「湿度70%」
童子「餌は……」

山中を行く旅行者らしき1人の女性に、2人の目が留まる……


屋久島の港。

到着した郁子を、明日夢の従姉妹の千寿が迎える。

郁子「千寿ちゃぁ〜ん!」
千寿「おばさぁ〜ん!」
郁子「千寿ちゃぁ〜ん!」
2人「久しぶり〜!」「元気ぃ?」「元気元気ぃ!」
千寿「わぁ、明日夢君、元気ぃ!?」

旅行客が船から降りてくる中、2人が人目もはばからずにはしゃぎ合う。
周囲を気にしつつ、知り合いと思われなくないかのように距離を置く明日夢。
すると突然、目の前にぬっとを突き出される顔。ヒビキである。

ヒビキ「ボーン・ボヤージュ! 屋久島来たよ♪ フェリーで来たよ♪ ……」※

またヒビキは、おかしな替え歌を歌いつつ立ち去ってゆく……


とある店先の公衆電話で電話をかけるヒビキ。
電話先は東京の「甘味処たちばな」。店の看板娘、立花日菜佳が電話を受けている。

ヒビキ「はぁくしゅん! 今着きました」
日菜佳「あっれぇ〜風邪ですか? も〜うるさい人のいない折角の一人旅ですから、ゆったりのんびり過ごしてきて下さいねぇ〜」

姉の香須実がピクリと反応する。

ヒビキ「そう言ってくれるのは日菜香ちゃんだけだよねぇ」
日菜佳「いえいえいえ! あ、それとですね、すいませんけれどお土産をひとつ欲しいなと思っているんですけど……」

香須実が携帯を奪う。

香須実「もしもし。香須実ですけど」
ヒビキ「なぁに、どしたの? まだねぇ、妹さんのお土産のオーダー聞いてないんだけど」
香須実「また耳掻きでしょ、どうせ」
ヒビキ「屋久杉耳掻きね。それで、お姉さまはどんなお土産をご所望かな?」
香須実「そうじゃなくて、新しいディスクが来たから早めに試した方がいいんじゃないかと思って」
ヒビキ「なるほど」
香須実「現地でバタバタするのが嫌だからさ」
ヒビキ「そりゃそうだ」
香須実「だからぁ、取りあえず代りのいい木が見つかったら、なるべく早めに帰……」

ブーっとブザー音が鳴り、電話が切れる。

香須実「もしもし? もしもーし!」

ため息をつきつつ、受話器を公衆電話に戻すヒビキ。


ザックを背に、ヒビキがバス停の時刻表と腕時計を見比べる。
突然、時刻表の裏から老人がぬっと顔を出す。

ヒビキ「わぁ!?」
老人「山に今から行くとかい?」
ヒビキ「……はい!」
老人「そうかい……そうなら気ぃつけて行うたってこんかい」
ヒビキ「?」
老人「この頃は、山に行たっても、戻って来ん子が増えちょっちょう話や」
ヒビキ「……ありがとうございます」


山中。

先の山中の女性が、川の水を掬って飲む。
突然、霧が漂い始め、不気味な雰囲気を女性が感じ取る。
どこからともなく、童子と姫が現れる。
そして2人の顔が、異形へと変化してゆく──

女性「わああぁぁ──っっ!?」


山中。

ヒビキが屈伸運動と体操で体をほぐしつつ、ベルトの左腰からCDらしき円盤を、右腰から音叉らしき道具を取り出す。
その音叉──“音角”で円盤を叩くと、小気味良い音が響き、銀色の円盤が赤く色を変える。

ヒビキ「よろしくな」

ヒビキがフリスビーのように円盤を放ったかと思うと、たちまち円盤はディスクアニマル“茜鷹”へと変形し、まさに鳥の如く空へ飛び立ってゆく。


明日夢の親戚宅。
大勢の親戚達が、法事の後の宴会を盛大に楽しんでいる。

親戚達「明日夢は相変らず音楽やっちょっとかい?」「そうだよ、ミュージシャンになるんだもんね、明日夢は」
郁子「もう今度は高校生で」
親戚達「「もう高校かい、本当かい」「そうかい」
郁子「だから今は勉強頑張ってるから、最近あんまりやってないんだよね」
明日夢「色々ありまして……」
親戚達「色々あっとか」「色々あっちょよなぁ」

中高年の男女が談笑する中、若者は明日夢のみで、いかにも居心地が悪そう。
やがて、明日夢がそっと宴会の場を後にする。

玄関で靴を履く。
同様に居場所がなく逃げてきたのか、玄関で携帯をいじっていた千寿が明日夢に気づく。

千寿「明日夢くぅ〜ん……どこ行くの?」

明日夢が振り向くと、千寿が車のキーを手にしてニッコリ。
たちまち、明日夢の顔がパッと明るくなる。

家を飛び出し、千寿の車に飛び乗る2人。
千寿のドライブと案内で、屋久島観光が始まる。


とある滝へやって来た2人。

千寿「すっごいでしょ〜?」
明日夢「はい!」
千寿「ここ私も久々なんだけどさ、明日夢君も滅多にこういうとこ、来ないでしょ?」
明日夢「はい」
千寿「じゃあ、次はもっとすっごい大きな木があるとこにご案内致しまぁ〜す」


山中へと入っていく明日夢たち。
疲れた千寿が息を切らす。

千寿「はぁ……ちょ……待って……はぁ、全然駄目!」

2人の足元に蜘蛛の糸が張られていたこと、そして影から童子と姫が2人を見つめていたことに、2人は気づかない……

千寿「はぁ……腹減ってきた……」


木々の立ち並ぶ中に、しばし明日夢と千寿が立ち尽くす。

「よっ!」

突然の声にひっくり返る明日夢たち。振り返ると、ヒビキである。
背にはザック。なぜか1本の木の枝を肩に担いでいる。

ヒビキ「また会ったな」
千寿「……知り合い?」
明日夢「あ……うん……まぁ」
ヒビキ「まぁってお前、島に来る船で一緒だったじゃねぇか」

笑顔で手を差し伸べるヒビキ。明日夢は戸惑いつつ、その手を握り返して起き上がる。


山中を歩くヒビキを、明日夢と千寿が追う。

千寿「は、はぁ……ちょっと待って、はぁ、はぁ」

影から彼らを監視していた童子と姫の目に、ヒビキの姿が映る──


明日夢「ヒビキさんて……上の名前ですか? それとも下の名前ですか?」
ヒビキ「ヒビキです」
千寿「ねぇねぇねぇねぇ、バンド系の人ですかぁ?」
明日夢「あの、フェリーのあの子、大丈夫でした?」
ヒビキ「大丈夫です」
明日夢「あのときのヒビキさん、凄かったですね!」
ヒビキ「鍛えてます!!」
明日夢「ヒビキさんは……あの木のとこで、何してたんですか?」

ヒビキが立ち止まり、明日夢の方を振り向く。

ヒビキ「何ていうのかなぁ。あの木とはね、古い付き合いでさ……ま、ちょっと力を借りに来たって感じかな」
明日夢「力……を?」

鷹のような鳴き声。
ヒビキが上を見上げると、上空を茜鷹が舞っている。

千寿「きゃあっ!」

ヒビキの注意が逸れた一瞬、千寿の足に蜘蛛の糸が絡まり、あっという間にどこかへ引きずられて行く。
明日夢が振り向いたときには、もう千寿の姿はどこにもない。

明日夢「千寿さん?」


山中のどこか。
蜘蛛の糸で全身をがんじ絡めにされ、気を失った千寿のもとへ、童子と姫が現れる。
その手が千寿の顔に伸びる。

姫「本当にいい餌だ……」

そのとき、空から童子と姫目掛け、茜鷹が飛来。
2人が素早く身をかわす。
続いて獣型のディスクアニマル、瑠璃狼も駆けつける。
瑠璃狼の攻撃が姫の顔を裂き、白い体液が滴る。


千寿のもとへ駆けつけたヒビキ。
童子と姫はディスクアニマルに撃退されたか、もう姿はない。

ヒビキ「よし、大丈夫だ……少年、彼女頼む! 何かあったら大声出せよ!」
明日夢「千寿さん!?」

息を切らしつつヒビキを追ってきた明日夢が、千寿の様子に驚く。
ヒビキはどこかへと駆けてゆく。

明日夢「ヒビキさん!?」


山中を走るヒビキが足を止める。
童子と姫が佇んでいる。

童子・姫「鬼さん……こちら……手の鳴る……方へ……」

ヒビキがザックと枝を地面に下ろす。
童子たちの足元には、瑠璃狼と茜鷹が蜘蛛の糸でがんじ絡めにされて捕らえられている。

童子・姫「鬼さん……こちら……手の鳴る……方へ……」

童子たちを睨み付けるヒビキ。
右腰から音角を取り出すと、近くの木に打ちつける。
キィィ──ン……と小気味良い音が響く。
そのままヒビキが音角を額にかざすと、彼の額に鬼のような紋章が浮かび上がる──


一方の明日夢。
汚い物でも触れるように、恐る恐る、千寿を捕らえている糸をどけている。

「たぁっ!」

突然の叫び声に驚く明日夢。


童子と姫を相手に対峙する、異形の戦士。
紫とも濃紺ともつかない色に光り輝く体色。額には2本の角。
その姿はまさに鬼──“響鬼”である。

響鬼を前に、童子と姫も、異形の怪人体である怪童子・妖姫へと姿を変える。
2人が口から糸を吐き出し、響鬼の上半身をからめ取って動きを封じる。
さらに2人は上方の木の枝へと糸を吐きかけ、木の上へと身を躍らせ、駆け去って行く。

体に糸を絡ませたまま、響鬼が怪童子たちのあとを追う。


一方の明日夢は、どうにか千寿の糸をほどき終えると、叫び声の方を追う。


糸でターザンのように木々の間を舞う怪童子たち。
一方の響鬼も、驚異的な跳躍力で木々の間を飛び回り、2人と戦う。
しかし糸に絡まれたままで、左腕の自由が利かない。
さらに怪童子の吐いた糸が響鬼の首を締め上げる。

そのとき、糸の拘束を振りほどいた茜鷹が飛来。
響鬼が指をパチンと鳴らすと、それを合図に茜鷹がディスクに変形、カッターのように響鬼を絡めていた糸を切断、響鬼は自由の身となる。


河原で響鬼と怪童子が対峙する。
そこへ追いついてきた明日夢。草陰から様子を窺うものの、異形の者たちを目にした彼の口からは言葉が出ない。

怪童子が爪を振り上げる。
響鬼がいきなり口を開けると、怪童子に向かって紅蓮の炎を放つ。
怪童子が炎に包まれる。

明日夢「わああぁぁ──っっ!!」


驚きの余り、草むらを滑り落ちる明日夢……




※ ボーン・ボヤージュ : フランス語で「良い旅を」の意
inserted by FC2 system