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機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争の第1話
地球、北極圏。
ジオン軍の軍用潜水艦が深海を行く。
「目標地点まで5海里。サイクロプス隊、発進準備は良いか?」
「発進準備、良し」
「ハッチ内、注水完了。2番、4番、1番、3番、ハッチ開放。サイクロプス隊、発進!」
潜水艦から4機のモビルスーツ(以下、MS)が出撃。
特殊部隊サイクロプス隊のMS・ズゴックEが先頭を行き、3機のMS・ハイゴックが続く。
「全機、深度150を維持して目標地点へ向かう!」
「了解!」
ズゴックのパイロット、隊長のハーディ・シュタイナー大尉が指示を下しつつ煙草を咥える。
シュタイナー「想定時刻より15分遅れている。全機、速度を30に上げる」
ハイゴッグのパイロットの1人、アンディ・ストロース少尉は、密封されたコクピット内でも髪をセットするのに余念が無い。
同じくハイゴッグのパイロット、ミハイル・カミンスキー中尉ことミーシャが酒瓶をあおる。
シュタイナー「上陸時刻、1500に変更なし。海上は霧が発生している。気温マイナス12度との報告だ。ミーシャ、体を温めるのもいいが、ほどほどにしておけ」
ミーシャ「ん? ヘヘッ……」
同じくハイゴッグのパイロット、ガブリエル・ラミレス・ガルシア軍曹は傍らに貼り付けたプレイボーイ誌のピンナップに目をやりつつ、バンダナを締める。
ガルシア「前方の氷山方向に暖流反応、海底通路です。基地に通じていると思われます」
シュタイナー「ガルシア、ミーシャ、お前たちは予定通り行動しろ。俺とアンディはあの中に突っ込む」
一同「了解!」
シュタイナーたちは氷山の中の海底通路へ。
ガルシアたちのゴッグは海上へ飛び出し、氷上の基地を急襲。
ミサイルで格納庫を吹き飛ばす。
「ゴッグタイプ、2機による敵襲! ゴッグタイプ、2機による敵襲! ブラウン隊、防衛ラインを張れ! 輸送班、コンテナ搬入作業を急げ!」
発進準備中のスペースシャトルへコンテナが積み込まれている。
「まだ2つ残ってる。どんなに急いでもあと10分はかかる」
「5分で完了しろ!」
「無茶言うな!」
連邦軍のMSジムが応戦するが、ガルシアたちは数で勝るジムを次々に撃破する。
ガルシア「隊長、輸送機の中には見当たりません」
ミーシャ「格納庫も同じです。地上の奴は全部ダミーだと思われます」
シュタイナーたちは別口から基地内に侵入。ジムが彼らを迎撃する。
シュタイナー「アンディ、そっちの状況を知らせろ」
別ルートで基地内を探っているアンディ。
アンディ「右翼塔の出口に近づいています」
シュタイナー「先を調べろ。警戒を怠るな」
アンディ「了解!」
アンディのハイゴッグが基地外に現れる。目前には発進準備中のシャトルが。
アンディ「隊長、奴らシャトルを用意しています。ブツはコンテナに入っている模様!」
シュタイナー「映像を送信できるか?」
アンディ「静止画像になります」
シュタイナー「構わん!」
シャトルへコンテナが搬入される模様が、シュタイナー機のコクピット内に映し出される。
シュタイナー「発射を阻止しろ! ロケット弾の使用を許可する」
アンディ「了解!」
ロケット弾を撃とうとするアンディ機。しかしジムのライフルの乱射がそれを阻む。
アンディ「ジムが護衛についています! 動けません、このままじゃ逃げられます!」
シュタイナー「俺が援護する、しばらく待て!」
シュタイナー機がアンディのもとへ急ぐが、シャトルの発射準備は着々と進んでいる。
アンディ「奴ら、秒読みに入ってます。間に合いません、強行します!」
シュタイナー「待てぇ! アンディ!」
アンディ機が前進。たちまちジムのライフル弾をボディに浴びる。
アンディ「うわぁ──っ!」
ようやくシュタイナー機が追いついたものの、彼の目の前でアンディ機が倒れてゆく……
シュタイナー「アンディ──!?」
アンディ機が制御を失ってロケット弾が誤射され、爆風でシュタイナー機とアンディ機が吹っ飛ぶ。
シュタイナーがなすすべもないまま、シャトルが空の彼方へ飛び立ってゆく。
戦いは終わった。
あちこちで煙をあげるジムの残骸。
氷上に立ち尽くすシュタイナー。彼の腕には、動かなくなったアンディが抱かれていた。
シュタイナー「う……うぅ……うわああぁぁ──っっ!!」
ところ変わって、宇宙に浮かぶスペースコロニー群のひとつ、サイド6。
中立コロニーであるここでは、一見、戦争とは無縁の平和な日々が続いていた。
ある日の朝。
登校途中の主人公の小学生アルフレッド・イズルハことアル、友人チェイ、テルコット。
見たことのない戦争に憧れる彼らは戦争ごっこを楽しみ、指でピストルを真似て撃ち合い、死んだふりなどをして遊んでいる。
授業中。ヘッドホンで講義を聴きつつ授業を受ける生徒たち。
アルは授業そっちのけで、ノートにせっせとMSの絵を描く。
後ろの席の少女ドロレス・ヘイズことドロシーが小突き、首を横に振る。
悪戯心で、ドロシーのヘッドホンの音量を一気に上げるアル。
たまりかねたドロシーが立ち上がり、教師を呼び、アルの悪戯を指摘する。
教室の前で、教師の傍らの席に移されるアル……。
給食の時間。アルがドロシーに舌を出しつつ、飲み物を自席に運ぶ。
テルコット「アル、早く来いよぉ。今日はハンバーグだぞ」
アル「げぇっ、また合成タンパクかよ」
チェイ「今月3回目だぜ。嫌になるよなぁ」
テルコット「仕方ないよ。給食に文句言ったって」
チェイ「お前はいいよな。好き嫌いないもん」
テルコット「戦争の影響で、物資が不足してるせいだって。ママが言ってた」
アル「戦争してんのはジオンと連邦だぞ? このコロニーに関係ないだろぉ?」
テルコット「輸送船が遅れたりすんだって」
食べ飽きた給食に手をつけずにいるアル、チェイ。食べ盛りのテルコットは平気で平らげている。
テルコット「それ、いらないんだったら俺食うぞ」
2人「あぁ……」
アル「……」
チェイ「凄いもん、見せてやろうか?」
アル「?」
チェイがポケットからバッジを出す。
チェイ「ジャーン、連邦軍の階級章だ! 本物だぜ」
アル「……! 触っていいか?」
チェイ「ちょっとだけだぞ」
アルがその階級章を大事そうにつまみ、羨望の眼差しで見つめる。
チェイ「俺の兄ちゃんさぁ、MSのパイロットなんだ」
アル「貰ったのか?」
チェイ「あぁ。凄く苦労したけどな」
アル「格好いいなぁ……連邦のパイロットかぁ!」
ドロシー「嘘ばっかし! 連邦にMSなんてあるわけないのに」
チェイ「女ってなーんも知らねぇのな」
アル「あいつ、バカじゃないの? ちゃーんとMSあるのに、知ったかぶりすんなっての」
ムッとしたドロシーがアルたちに詰め寄る。
ドロシー「連邦にMSなんかないわよ!」
チェイ「昔はなかったけど、今はあるんだよ」
ドロシー「デタラメばっかり!」
アル「チェイの方が正しい! 俺MS見たことあるもん!」
チェイ「え?」
アル「俺の父さん、運輸会社にいるからさ。前に港で見せてもらったんだぁ。サイド7に運ぶ連邦のMS」
ドロシー「フン。ウソね?」
アル「う……あ、あのMS、黒くてでっかかったなぁ……凄い強そうで」
ドロシー「証拠は?」
アル「証拠? う、う……ん」
ドロシー「あんたたちの話、ぜーんぶウソね! そのバッジもニセ物に決まってるわ!」
チェイ「何を! こいつぅ!」
ドロシー「何すんのよぉ!」
チェイがドロシーの肩に掴みかかるや、ドロシーはチェイの股間を蹴り上げる。
チェイ「う!? ぐぅ……」
アル「このぉ!」
アルがドロシーと取っ組み合いになる。
午後の授業。
ドロシーは教師に泣きつき、チェイとアルは教室の前で机を並べさせられている。
教師の胸に顔を埋めつつ、2人に舌を出すドロシー。
下校途中。
チェイ「嫌な女だよなぁ……」
アル「ほーんと。あんな性格悪いの、いねぇよ」
チェイ「俺、絶対あいつを言い負かしてやる」
テルコット「無理だよ。あいつ異常に口が達者だから」
チェイ「証拠があればいいんだよなぁ。MSの写真とかビデオとかさぁ。あ! アル、今日父さんに会うって言ってたよな?」
アル「あぁ」
チェイ「へへっ……」
アル「……?」
何を言い含められたか、アルは2人と別れた後、笑顔満面で自宅へ帰って来る。
母親のミチコ・イズルハが迎える。
アル「ただいまぁ!」
ミチコ「お帰りなさい」
自室へ駆け込むや、机の中からビデオカメラを探り出し、鞄に詰める。
ミチコ「港へ直接行くんじゃなかったの?」
アル「忘れ物したんだ……行ってきまぁす!」
(チェイ『港で連邦軍のMS、映して来いよ。証拠にするんだ。そしたら、階級章やってもいいぜ』)
アルが宇宙港に着く。
受付「アルフレッド・イズルハ、11歳。コードナンバー・0039295MC……はい、OK。親父さんの船は23番ゲートだ。あと10分くらいで入港するよ」
アル「ありがと!」
アルは順路から外れ、格納庫へ忍び込み、ビデオカメラを構える。
作業員たちがコンテナを囲んで忙しく働きまわっている。
アル「ちぇ……MSなんて、影も形もないでやんの」
そこへ運悪く、作業員の1人がアルを見つける。
作業員「おい、お前。こんなとこで何やってんだ!」
アル「ト、トイレ捜してんだけど……近くにありませんか?」
作業員「リフトの通路に出て、3つ目の入口!」
アル「ありがとうございました!」
作業員「漏らすんじゃねぇぞ!」
アルが退散した後、その作業員に別の作業員が声をかける。
「どうしたんだ?」
「ガキが迷い込んできただけだ。気にするな!」
「早いとこ点検しろ!」
コンテナの扉が開く。中から現れたのは、MSの頭部……。
父親のイームズ・イズルハと面会したアル。
イームズ「どうした? 今日はえらくおとなしいな」
アル「……」
イームズ「母さんは元気か?」
アル「まぁまぁ」
イームズ「まぁまぁ?」
アル「変わんないよ……いつもと同じ」
イームズ「そうか……テストはどうだった? 3日のアチューメントは」
アル「まぁまぁ」
イームズ「総合評価はどのくらいだ?」
アル「Cマイナス」
イームズ「数学と化学は?」
アル「AマイナスとBプラス」
イームズ「理科系は得意だもんな。そうだ、これ母さんに渡してくれないか」
封筒を差し出すイームズ。
イームズ「大事な手紙だ。落とさないようにな」
アル「父さん……お願いがあるんだけど」
出発時とは打って変わって、沈み込んだ面持ちで帰宅するアル。
自宅そば、車から大荷物を抱え出している女性とぶつかる。
「きゃ! ごめんなさい、大丈夫?」
尻もちをついたアルが、痛そうに鼻をおさえる。
「大変、鼻の頭が真っ赤になってる……アル? アルでしょ?」
キョトンと見上げるアル。
「私よ、クリスティーナ・マッケンジー。クリス。忘れちゃった?」
アルが首を横に振り、笑顔を見せる。
アル「忘れてなんかないよ、クリス。地球にいたんでしょ、いつ帰って来たの?」
クリス「今日のお昼。今、部屋に荷物を運んでたとこなの」
雨が降り出す。
クリス「あ……大変! 荷物が濡れちゃうわ」
アル「手伝うよ」
クリス「車の方お願い、助手席のバッグと書類入れ!」
クリスの家。濡れた上着を脱いだアルの頭を、クリスがタオルで拭く。
アル「政府関係の仕事?」
クリス「急にこっちへ転任が決まったの。もう大忙し! 母さんに役所の手続き頼んだり……」
アル「ハクション!」
クリス「ちょっと待って」
クリスが自室に駆け込み、荷物の中から自分の服を出し、アルのもとへ運んでくる。
荷物の中には、連邦軍の制服も……
クリス「母さんがいなくて男物の場所がわからないの。これで我慢してね」
アルは勧められた女物のセーターを着、クリスはお茶の用意を始める。
クリス「アル、ミルクティーでかまわない?」
アル「何だっていいよ」
アルとクリスが、紅茶とビスケットの乗ったテーブルを囲む。
クリス「さぁ、どうぞ。お砂糖が足りなかったらいってね」
アル「美味しい!」
クリス「フフ……」
夜、アルの家の夕食。
ミチコ「遅くなるなら、もっと早く連絡しなきゃダメじゃない! 事故にでも遭ったんじゃないかと、母さん心配してたんだから」
アル「頂きまぁす……」
ミチコ「父さんの様子、変わりなかった?」
食べながら頷くアル。
ミチコ「そ……」
アル「その封筒、母さんに渡してくれって。手紙だそうだよ」
ミチコは封筒を手にし、封を切ることなく、物思いにふける。
アル「ご馳走様……」
ミチコ「まだ残ってるじゃない?」
アル「父さんと食べたから、あまりお腹すいてないんだ」
ミチコ「あとで食べたくなっても、母さん知らないわよ」
アルが自室で、壁面のスクリーンでゲームを始める。
画面の中、ビル街のあちこちにはびこる怪物たちに、アルが銃を向ける。
ノックの音。
ミチコ「アル!」
アル「ちょっと待って! 今開けるから」
慌ててアルがゲームをやめ、ドアを開ける。
ミチコ「明日、スポーツの授業でしょ? 忘れないように、今夜鞄に入れておきなさい」
アル「はい」
ミチコ「宿題済ませたら、すぐに寝るのよ」
アル「はい」
ミチコ「今日は返事がいいのね」
アル「はい」
母が去る。
アル「はい、はい、はい」
生返事を繰り返しつつ、アルがゲームを再開する。
怪物たちはそっちのけで、ビルを次々に銃で破壊する。
点数がどんどんマイナスになり、遂には「GAME OVER」のメッセージが表示される。
翌朝。
目覚ましの音に叩き起こされたアルが、朝陽の眩しさに目を細めつつ窓のカーテンを開ける。
隣家の窓が開いており、クリスが朝の景色を眺めている。
アルがビデオカメラをクリスに向ける。
それに気づいたクリスが、指でピストルを真似る。
クリス「バーン! 盗み撮りカメラマン、お目覚めの気分はどう?」
アル「悪くないよ!」
仕事に出かけるクリスと登校するアルが、共に道を歩く。
クリス「そんなに学校ってつまんない?」
アル「もうサイテー! 担任の先生さぁ、授業はつまんないクセに宿題ばっか出すし、すぐ立たせるし……」
クリス「よく立たされるの?」
アル「たまにだけどね。それに、給食はマズイし、便所掃除は臭いし、すっごく嫌な女はいるし、あんなとこにあと1年も通わなくちゃいけないんだぜ」
クリス「中学や高校だってあるわよ?」
アル「そんな先のことなんてわかんないよ……じゃあね!」
学校の校庭。アルがチェイにビデオの映像を見せている。
アル「父さんに頼んでさ、中に入れてもらったけど……昨日は連邦軍、来てなかったんだ。来てんのは民間の船ばっかでさぁ」
チェイ「ほーんとだぁ、コンテナしか映ってねぇや……これじゃあ、階級章は渡せねぇな」
アル「ダメかぁ……」
そこへドロシーが現れ、チェイの持っていた階級章と同じバッジを見せる。
ドロシー「こんな物がそんなに欲しい?」
さらに同じようなバッジをズラリと並べてみせる。
ドロシー「将軍、元帥、軍曹、伍長、課長、部長! 近所のおもちゃ屋でひとつ1クールで売ってたわ。こんな安物ありがたがって、バッカみたい!」
チェイ「うるせぇ!」
そのとき。
突如、大音響と共に火柱が上がる。
アル「あそこ!」
町中を闊歩する連邦軍MS、ジム。
アル「連邦のMSだ!」
ドロシー「ジオンのよ!」
さらには空からジオン軍MS・ザクが舞い降り、ジムに銃撃を加える。
それまで平和だった街で突如、戦いが繰り広げられる。
街中を行く車がザクに踏み潰され、人々が逃げ惑う。
「逃げろぉ!」
さらにドムも現れ、ジムに砲撃を放つ。
加えてザクの銃撃を全身に浴び、ジムが倒れ、道路が砕ける。
水路を進むザク。そこへ別のジムが銃撃を加える。
流れ弾が近くの燃料タンクに当たり、大爆発が起こる。
チェイ「すっげぇ!」
テルコット「花火よっか綺麗だ……」
チェイ「また降りてくるぞ!」
アル「ザクだ!」
アルがビデオカメラで、空中から降りて来るザクを捉える。
チェイ「被弾してる!」
テルコット「こっちに向かってるよ! ぶつかるぞ」
煙を吹き出しながら学校へ向かってきたザクが、バーニアを吹かし、学校を飛び越える。
アルたちの頭上を飛んでゆくザク。
生まれて初めて目にするMSに、アルは目を奪われる。
彼方へ飛んでいったザクが、バーニアの出力が低下しているらしく、次第に高度が落ちてゆく。
チェイ「落ちてくぞ!」
テルコット「西の方に向かってるよ」
チェイ「森林公園の方に行くなぁ、ありゃ」
突然、アルが駆け出す。
チェイ「おいアル、どうすんだ!?」
テルコット「授業さぼんのか!?」
無我夢中で学校を飛び出したアルが、落ちてゆくザクを追う。
戦場となって大混乱に陥っている街中を、アルが駆け抜ける。
森林公園。
アル「はぁ、はぁ……」
木々に囲まれた草原の上。墜落したザクの残骸が、そこにある。
ザクに近づいていくアル。
機体に触れ、慌てて手を離す。
アル (熱……まだ熱いや)
アルがビデオカメラでザクを捉える。
スクリーンに映し出される、MSの脚……腕……肩……胴……人。
人!?
アルがビデオカメラを下ろして見上げると、パイロットがザクの上に立ち、銃を向けている。
これがアルと、ジオン軍の若き兵士バーナード・ワイズマンことバーニィとの出会いだった。
(続く)