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牙狼〈GARO〉の第1話


光ありところに、漆黒の闇ありき
古の時代により、人類は闇を恐れた
しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって
人類は希望の光を得たのだ


G A R O


闇に潜む魔獣“ホラー”
これはホラーを狩る魔戒騎士の物語だ
決して目を離すな


夜の美術館。

倉庫の中で、館長・谷山太輔が絵画を整理している。
どこからともなく、女の声が響く。

謎の声「うふふふふ……あはははは……」

驚いて谷山が振り向くが、倉庫には自分以外、誰もいない。

谷山「だ、誰だ?」
謎の声「うふふふふ……」
谷山「どこにいるんだ!? 誰だ!?」
謎の声「うふふ……ふふふふ……」

谷山が声の方向を辿って、倉庫を探る。
やがて、片隅に置かれている絵の箱に気付く。

谷山「こんな箱があったか……?」

箱の蓋を開き、中の額縁を持ち上げる。
歓喜の笑顔を浮かべる谷山。

谷山「おぉ……これは美しい」

それは美しい裸婦を描いた絵であった。
しばし、その絵に見入る谷山。
しかし絵の女が突然、絵から飛び出して谷山の顔をつかむ。

謎の声「若い子が好きなの……? 女が好きなの……?」

わけもわからないまま、谷山がガクガクと頷く。

謎の声「じゃあ俺と同じだな!!」

絵の女が砕け散り、無数の黒い破片と化し、谷山の口、鼻、耳、目へと猛烈な勢いで入り込んでいく。
やがてすべてが終わった時、谷山の表情はもはや、常人のそれではなくなっていた……


ところ変わって。
どこかの真っ暗な一室。

主人公・冴島鋼牙(こうが)が真剣な表情で、何者かに向かって気合と共に剣を振るっている。



絵 本



どこかの公園。

幼い少女が絵本を開いている。題名は「黒い炎と黄金の風」。


(物語のヒロイン・御月カオルのナレーション)

最も古い記憶を掘り起こすとき
私の脳裏には決まってその絵本が甦る

黄金の鎧を身に纏った騎士が
おぞましい怪物たちを次々に打ち倒していく

でも 最後のページをめくると……


絵本の中には、戦いを終えた騎士が、戦場である古城の出口へと向かう様が描かれている。
そのページをめくった最後のページは、何も描かれていない白紙であった……

次の瞬間、地面から次々に怪物たちが現れる。
呆然とする少女に、怪物たちが今にも襲い掛かる。
だが黄金の光が一閃。次々に怪物たちを斬り倒す。

まばゆい光と共に少女の前に姿を現したのは、絵本と同じ、黄金の鎧の騎士であった──


自室で目を覚ます、現在23歳の画家の卵、御月カオル。
寝床から身を起こし、体を伸ばしつつ、机の上の画用紙に目をやる。

カオル「……よし!」

気合を入れる様子で髪を結い、早速、画用紙に鉛筆を走らせる。


冒頭の美術館。

館内の壁に、カオルが「御月カオル絵画展」のポスターを貼っている。

カオル「ありがとうございます。たとえ1フラットでも展示して頂けるなんて、感激です」

そう話しかけている相手は、谷山太輔である。
ポスター貼りに夢中のカオルの後ろ姿を眺めつつ、密かに舌なめずりをする谷山。

谷山「そう! 倉庫の片付け物を忘れていた」
カオル「えぇっ?」

倉庫へと向かう谷山の手を、カオルが握る。

谷山「どうしたの?」
カオル「……はっ!?」

彼女の脳裏に一瞬、怪物の姿が浮かぶ。

カオル「……ごめんなさい」


美術館を飛び出すカオル。

カオル「……何だろう……? 今の……」


再び、冴島鋼牙。
暗闇の中、宙を舞う無数の刃物を相手に、剣を振るっている。


心理カウンセラー・龍崎駈音(かるね)のもとをカオルが訪れる。

龍崎「同じ夢をもう何度も見ている?」
カオル「はい……黄金の騎士とか怪物とか、お父さんはどうしてそんな絵本を描いたんだろうって。それに、最後の1ページが白紙だったのも凄く気になって」
龍崎「その絵本は、今でも持っているの?」
カオル「いえ、現物は一冊も残っていなくて……」
龍崎「……どうやらそこに、謎を解く鍵がありそうだね。もしかしたらその絵本の存在自体、君の精神が作り上げた、虚構なのかもしれないな」
カオル「でも……」
龍崎「でも、なんだい?」
カオル「いえ……きっと、龍崎先生の仰る通りだと思います。私、初めてギャラリーで絵を展示してもらえることになったんです。だけど、ちゃんと評価してもらえるかどうか……実は自信がなくって」
龍崎「不安という名の怪物に……苦しんでいるわけだ」


美術館。

谷山のもとへ知人女性が訪れている。

女性「どうせこの変な絵描いてる女にも、手ぇ出してるんでしょ?」
谷山「……よぉし、わかった。そこまで言うんだったら、場所を変えてゆっくり話そう。飯でも、食いながら……」

谷山が女性の手を握り、強引に引っ張って行く。

女性「ちょっと……オーナー?」
谷山「腹が減ったんだよ」

谷山が女性の体をつかむと、その顔が怪物に変貌。
女性の体が谷山の中へと吸い込まれてゆく……


相変わらず剣を振るい続ける鋼牙。

冴島家の、鋼牙専用の闘技場。鋼牙はここで剣の腕を磨いているのだ。
そこへ、家の執事・倉橋ゴンザが現れる。

ゴンザ「鋼牙様、お仕事です」

ゴンザの差し出す赤い封筒を、鋼牙が受取る。

鋼牙「ご無沙汰だな。肩慣らしに丁度いい」

鋼牙がライターを封筒に点すと、緑色の炎──魔界の炎・魔導火により封筒が燃え尽き、魔界文字による指令書が宙に浮かび上がる。

鋼牙「災いの兆しあり、人間の傲慢が生みしホラーの陰我、直ちに断ち切るべし……」


鋼牙が白いコートを羽織って訪れた場所は、あの美術館であった。
鋼牙が指にはめている指輪、彼の相棒である魔導輪ザルバが語りかける。

ザルバ「近いぞ。極めて強い邪気を感じる」


美術館の中。

元気良くカオルが駆け込んで来る。

カオル「おはようございまーす! ……あれ?」

谷山がいない……と思いきや、彼の前にゆっくりと鋼牙が歩み出る。
いきなり鋼牙はカオルの襟首をつかんだかと思うと、ライターを突きつけ、魔導火を点す。

そこへ谷山が現れる。

谷山「御月くん」
カオル「オーナー!」

カオルは鋼牙から逃げ去るように、谷山の後ろに隠れる。

谷山「何か、御用でも?」
鋼牙「人を探してる」
カオル「え……?」
鋼牙「でも人違いだったようだ」
谷山「用が済んだら、お帰り下さい」
鋼牙「……」
谷山「まだ、何か?」
鋼牙「ここにある絵を1枚買わせてもらおうと思ってな」
カオル「本当ですか!?」
谷山「ふむ……展示販売はね、明日からなんだけどね。まぁ……いいでしょう。どちらを?」

カオルの作品群の中から、鋼牙が1枚の風景画を目にする。

鋼牙「これがいい。気に入った。君が届けてくれるか」
カオル「はい! では……っと、こちらにご住所を」

カオルが鞄から手帳とペンを出し、鋼牙に渡す。

鋼牙「できれば今夜中に家に飾りたい。今すぐ行ってくれるか」
カオル「今すぐ……?」

谷山が鋼牙を睨みつけている。

鋼牙「もっと素敵な絵がありそうだな」
谷山「興味が、お有りで?」
鋼牙「とても」


鋼牙が谷山に、倉庫の中に招かれる。

谷山「この中に、あなたのお気に召すものがあるといいんですがねぇ」

室内の片隅に置かれた箱に、鋼牙が目をやる。

鋼牙「それは?」
谷山「あぁ、これはカラですよ。何も入ってない」
鋼牙「中身はどこへ?」
谷山「もともと、箱だけですからね」
鋼牙「あんたが喰っちまったか……」
谷山「……」
鋼牙「それともあんたが喰われたか?」

谷山が鋼牙のほうを振り向く。
鋼牙がライターを突きつけている。
魔導火に照らされた谷山の瞳に、魔導文字が浮かび上がる。

正体を看破された谷山が、一瞬にして鋼牙の目の前から消える。


一方、カオルは鋼牙に注文された絵を壁から外そうとするが、なぜかビクともしない。

カオル「あれ……なんで?」

倉庫への扉に手をかけるが、扉もまったく開かない。

カオル「なんでよ……?」


逃げた谷山を探す鋼牙。周囲の壁には赤く彩られた奇妙な絵画が何枚も貼られている。

ザルバ「奴はホラー、アングレイ」
鋼牙「俺の嫌いな女喰いのホラーか」
ザルバ「邪悪な絵画をゲートに、出現したようだな」
鋼牙「アングレイと言えば……」
ザルバ「そうだ。奴はトラップを使う」

絵の中から実体化した赤い服の怪人が2人飛び出す。
槍を振るって襲い来る怪人たち。鋼牙が常人離れした体術でそれをかわし、自らも剣を抜く。

2対1のハンデをものともせず、鋼牙の攻撃が怪人たちに決まる。
怪人たちが赤い霧となって飛び散り、消滅する。


どうすることもできなくて画廊の片隅でうつむくカオル。
足音を響かせ、谷山がやって来る。

カオル「オーナー! 扉が……」
谷山「あの男は変質者だ」
カオル「え!?」
谷山「今、警察を呼んだ。もう大丈夫だ。私がね、家まで送ろう」

鋼牙「楽しいトラップだったぞ」

鋼牙が現れる。

谷山「貴様……やはり魔戒騎士だな」
カオル「!?」

谷山の表情が次第に変貌する。
驚くカオルを谷山が締め上げる。

カオル「う!? うぅ……」

谷山の口から、鋼牙目掛けて緑色の液体が放たれる。
すばやくかわす鋼牙。壁に貼られた絵に液体が命中し、絵が溶けて穴が開く。

カオル「あ……!?」

再び谷山が吐きかける毒液を、またもや鋼牙がかわす。
谷山がカオルを突き飛ばす。

三たび放たれた毒液をかわしつつ、鋼牙の体が宙を舞い、谷山に蹴りを見舞う。
鋼牙と谷山の拳がぶつかり合う。谷山の吐く毒液を鋼牙は剣で受け止める。

谷山の背が奇妙にふくらみ、肉体が風船の割れる如くはじけ、異形の怪物、ホラー・アングレイが飛び出す。

奇怪な声をあげつつ、アングレイが影と化して床面に溶け込む。
鋼牙の立つ足元の床を高速でアングレイが駆け抜け、絵の架かっている壁へと消える。

アングレイの気配が消え、静まりかえった館内。
鋼牙が魔導火を灯し、壁に向ける。
絵の1枚に魔導火をかざしたとき、炎が大きく揺らめく。
鋼牙が吐息で魔導火を吹き飛ばすと、火が絵に溶け込み、絵が生き物のように脈動し始める。
わけもわからず、おずおずと鋼牙に歩み寄るカオル。

鋼牙「逃げろ」
カオル「え……? だって、絵が」
鋼牙「いいから逃げろ!!」

気迫に押されて玄関に走るカオル。だが一向にドアが開かない。
咄嗟にカオルが館内の柱の陰に隠れる。

絵が奇妙に歪み、変形し、絵に憑依していたアングレイが正体を現す。

鋼牙が剣を抜いて頭上にかざし、剣先で円を描く。
頭上の空間が円形に裂け、まばゆい光が降り注ぐ。

一瞬にして空間から黄金の鎧が出現して鋼牙の身を包み、鋼牙は黄金の騎士・牙狼(ガロ)となる。

思わず目を見張るカオル。
全身を覆う黄金色に輝く鎧、狼を思わせる兜、その奥に光る緑色の瞳。
牙狼の姿はまさしく、幼い頃絵本で見た騎士、そして自分を怪物たちから救った騎士だった。

アングレイが獣のような奇声をあげ、毒液を吐きかける。
だが牙狼の鎧には毒液はまったく通じない。
ひときわ大きい毒液の塊を、牙狼は剣で受け止める。

2人の戦いの振動で、鋼牙が買いたいと言っていた絵が壁から落ちる。
慌ててカオルが駆け出し、毒液の飛び散る中、必死に絵を抱きとめる。

ゆっくりとアングレイに歩み寄る牙狼。一歩歩くごとに、足と床の隙間から炎が吹き出る。

アングレイが翼を広げ、宙を舞う。
牙狼が狼のように咆哮しつつ、剣を抜き、大きく地面を蹴る。
凄まじい衝撃で、床がクレーターのように大きく砕ける。

宙を舞うアングレイと牙狼が激突。
一刀のもとにアングレイが斬り捨てられ、無数の肉片と化して飛散する。

どす黒い返り血が飛び散り、カオルに浴びせられる。
避ける間もなくカオルの顔や手に血が染み込み、一瞬にして跡形もなく消え去る。


絵を抱えて呆然と佇むカオルに、牙狼が歩み寄る。

カオル「あなた一体……?」

牙狼がいきなり、カオルのその喉元に剣を突きつける。

牙狼「なぜ逃げなかった? ホラーの返り血を浴びた者は斬る──それが掟だ」

剣を振り上げる牙狼。
恐怖のあまり、そのまま気を失うカオル……


夜中の路地。
気絶したままのカオルを抱き、鋼牙が歩いている。

ザルバ「何をためらってる?」
鋼牙「この女が浴びた血に誘われて、ホラーが次々と現れるはずだ。つまりこいつを生かしておけば、今後の狩りが楽に進む」
ザルバ「餌として使うということか……」


自室の寝床で目を覚ますカオル。

カオル「……夢?」

いつの間にか、傍らに鋼牙が座り込んでいる。

鋼牙「いや、残念ながらすべて現実だ」

慌ててカオルが身構える。

鋼牙「安心しろ。殺しはしない」
カオル「なんで? ……っていうか、あなた誰? なんで人の家に勝手に上がり込んでんの!?」
鋼牙「助けてやった上、家まで送ってやったのに大層な言い草だな」
カオル「あなたが運んだの?」
鋼牙「あぁ。意外と重くて参ったよ」
カオル「ちょっとぉ!!」
鋼牙「その元気ならもう大丈夫だ。じゃあな」

鋼牙が立ち上がる。

カオル「待ちなさいよ! 明日から絵の展示会だったの……画家として成功するかどうか最初のチャンスだったの! それなのに……それなのに人の人生滅茶苦茶にしといて、何1人で格好つけて帰ろうとしてんのよ!!」

やりきれない思いをぶつけるように、カオルが拳で鋼牙の胸をこづき続ける。

鋼牙「騙したのは悪かった。だけどこれだけは本当だ。お前の絵は気に入った」

鋼牙が、自分が買いたいと言った絵を手にする。

鋼牙「この絵……俺が育った町の風景にどこか似てるんだ。約束通り買わせて貰う」

絵を抱えたまま、鋼牙が部屋を去る。


カオル「あ……あれ? ていうか、お金は?」


想い出の絵本に描かれた黄金騎士が
私の目の前に現れた

しかしそれは
これから始まる新たな騎士伝説の
ほんの幕開けに過ぎなかった


(続く)
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