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学 校 の 怪 談


あにめ 第一怪
『今夜霊達が甦る!!天の邪鬼』



夜中の小学校…
古い木造の校舎に、懐中電灯を持った用務員が入って来る。
「おい、誰かいるのか?」
時刻は零時…大きな振り子時計が、ボーンボーン…
廊下の蛍光灯が点滅を繰り返した後、ひとつひとつ消えてゆく…
「こらぁ!誰のいたずらだ!?」
廊下を進む用務員は、後ろに何かが迫り来る気配を感じ振り返る。
…が、誰もいない。
「…はぁ……」
ホッと胸をなで下ろし、冷や汗を拭ったのもつかの間、
女の子の不気味な声が、旧校舎の廊下いっぱいに響き出した。
それは、笑っているようにも…
はたまた、すすり泣いているようにも聞こえる。
そして、どこからともなくたち込めた冷たい空気に、
恐る恐る振り返った用務員の顔が…
何かを見て、もの凄い形相に変わった!!

「うっ、うわぁーーーーーっ!!」



ある晴れた日、
宮ノ下家の三人を乗せた引越しトラックが、この町にやって来た。
「見えてきた!」
『天の川小学校』の前を通り過ぎるトラック。
しかし、この小学校…
今時、木造でしかもかなり古そうだ。
「…これが、新しく通う学校?」
不安そうにつぶやく、小五のさつき。
「昔、おばあちゃんが校長先生をしていたんだぞ。
パパもママも、ここで勉強したんだ。」
そう言ったパパとさつきの間に座っている小一の敬一郎は、
カーヤという名の黒猫を抱きしめて、うつむいた。
「ボク、前の学校の方がいい…」
「おいおい、あれは旧校舎だ。
おまえたちが通うのはとなりだよ。」
「ええ?」
パパの指差す方を見る、さつきと敬一郎。
「うわぁ、新しいよ!」
「よかった!水洗トイレじゃなかったらどうしようって、
本気で心配しちゃった!」
「な〜んだ、お姉ちゃんも怖かったんだ。」
「怖くなんかないけど…」
ちょっとふくれたさつきの顔に、サッと何かの影が通り過ぎる。
さつきは、それが何の影か確かめようと、
窓から身を乗り出して、後ろを見てみてが…。
「どうしたの?お姉ちゃん。」
「さつき、危ないぞ!」
「あ…、なんでもない!」
それ以上気にすることもなく、前を向くさつき。


トラックが、『宮ノ下』と書かれた表札の家の前に止まっている。
「それは、奥の部屋へ。」
「はい。」
タンスを運び込む引越しやさんに、指示を出すパパ。
玄関には、パパと、
引越しの手伝いに来た、パパの両親がいた。
「父さん、後は大丈夫だよ。引越しやさんがやってくれるから。」
すると、パパのお父さん、つまり、さつき達のおじいちゃんは、
不満そうに言った。
「何も、死んだ嫁の実家に住まなくたって…。
家に来ればいいものを。」
そこへ、奥の部屋から、さつきと敬一郎が走り出て来た。
「お父さーん!やっぱりおばあちゃん家、広いわね!
ニ階も行っていい?」
階段を駆け上がって行くニ人。
「邪魔するなよ!」
二人を見ていたおじいちゃんは、ムスッとして
「どうせ家は、広くないからな。」
と、腕組み。横で、おばあちゃんは笑っている。
ちょっと困って、頭をかくパパ…。

ニ階の部屋に入るさつきと敬一郎、そしてカーヤ。
「うわぁ〜!広〜い!何もないわよ。」
「ここ、子供部屋にしていいかなぁ?」
「後でお父さんに頼んでみよう。」
フローリングの上に、大の字になって寝転ぶニ人。
すると…
「へぇ〜、白パンツか。」
その声に、慌てて起き上がり、スカートを押さえるさつき。
見ると、ベランダのすぐ目の前に、お隣のベランダがあって、
そこに、一人の男の子が立って、こっちを見てるではないか!
「あ〜〜〜〜っ!」
さつきは真っ赤。
「よっ!オレ、青山ハジメ。
家の学校に転校して来るんだろ?」
「…何よ、スケベ!こっち覗かないでよねっ!」
「オレはさっきから、ずっとここにいたんだ!
おまえが勝手にパンツ見せたんだろっ!」
そこへ、パパが階段を上がってきた。
「さつき!敬一郎!ママを部屋に運ぶぞ!」
「は〜い!」
抱えた荷物の上の遺影を、あごで押さえていたパパ。
「写真、取ってくれ…」
「はい。」
さつきは、ママの遺影をそっと取って胸に抱え、
ハジメに向かって、思いっきり
「べーっ!」
っと舌を出し、部屋を出て行った。
「…あいつ、母親いねーのか…」


次の日
学校の前で、パパの車から降りるさつきと敬一郎。
「本当にいいのかい?」
「大丈夫だって!パパこそ転勤早々、遅れないでね!」
「ああ。校長先生にちゃんとあいさつするんだぞ。」
「うん!行ってらっしゃ〜い!」
車を出すパパに手を振るニ人。
その時、
『にゃ〜お』
驚いて、敬一郎のランドセルを見るさつき。
「敬一郎!ちょっと見せてみな。」
ふたを開けると、そこにはカーヤが!
カーヤはさつきの顔を見て、うれしそうにもう一度鳴いた。
右は金色、左は青色…不思議なカーヤのビー玉のような瞳…。
「あ〜ん、何で連れてきたの?」
「だって、まだ友だちいないから…」
「先生に叱られるわよ!戻してらっしゃ…、あ!!」
突然、カーヤがランドセルを飛び出し、
そのまま走って行ってしまった。
「カーヤぁ!」
「大変!」
慌ててカーヤを追いかけるニ人。
カーヤは、何かに導かれるように歩道を走り、階段を駆け上がり、
旧校舎の敷地内へと入って行ってしまった。
朝だというのに、木が生い茂っているせいか、
旧校舎の校庭は薄暗く、
ニ人は辺りをうかがいながら、恐る恐るカーヤを追った。
「カーヤ!カーヤ!」
「あ!カーヤ!」
敬一郎が、旧校舎の入り口を指差した。
観音開きの扉は、もうきちんを閉まらないのか、
左右の扉の間に隙間がある。…が、
ドアノブには、しっかり鎖が巻きつけてあって、
人が出入りできないようになっている。
その扉の前にいたカーヤは、
扉の隙間から、すうっと中へ入ってしまった!
「旧校舎に入っちゃった……、行くよ。」
しがみつく敬一郎と一緒に、旧校舎に近づくさつき。
扉のそばへ行くと、左右のドアノブに巻きつけてある鎖には、
― 立入禁止 ―
と書かれた木の札も下がっていた。
左右のドアの間に隙間があるとはいえ、
猫はともかく、どうやっても人間は通れそうもない。
その時!
校舎横に立つ二宮金次郎の像をも倒さんばかりの、もの凄い突風が、
旧校舎の敷地を吹き抜けた。
「きゃぁ〜!」
ほんの一瞬ではあったものの、立っているのがやっとのほどの強い風だった。
ふと見ると、今の突風でドアノブにかけられていた鎖が切れ、
扉が全開になっているではないか…!
「…風のせいよ。」
さつきは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

その様子を、木の陰からじっと見ている女の子がいる。
長い髪にピンク色の大きなリボン、
後ろ姿だが、セーラー服を着ているのがわかる。

さつきの顔に、昨日、車で感じたのと同じ気配の影が、
またサッとよぎった。
それを振り払うように顔を伏せるさつき…
「お姉ちゃん、怖いよぉ。」
しがみつく敬一郎の体を押さえたまま、
「怖くない、怖くない、怖くない、怖くない…」
いっちにっ、いっちにっ、の要領で口ずさみながら、
さつきは、建物の中に入っていった。その途端、
バターーン!
背中の方で、扉の閉まる音が!
こわごわニ人が振り返ると、
そこに、崩れかけたオバケの顔が二つっ!!
「きゃぁ〜っ!!」
…って、男の子がニ人、手で顔をぐちゃっとして驚かせただけだった。
ビックリして、しりもちをつくさつきと敬一郎。
「驚いてやんの!」
そう言った方の男の子は…?
「あ、昨日のお兄ちゃん!」
昨日、ベランダで遭遇した、隣のハジメだった。
「よっ!今日も白か。」
ハジメの言葉に、慌ててスカートの裾を直すさつき。
「あ、隣のスケベ!」
「おまえが勝手に見せたんだろっ!
あ〜あ、人がせっかく注意しに来てやってんのに。」
「…何をよ。」
「旧校舎は立ち入り禁止だぞ!…入っちまったけど。」
立ち上がる敬一郎。
「カーヤが入り込んじゃったんだ…」
「カーヤ?」
さつきも立ち上がり、おしりに付いたほこりを払う。
「猫の名前。…そうだ、探すの手伝ってよ。」
「ダメだ!入るなって言ってんだろ。」
「何でよぉ、猫を探すだけよ!」
顔を突きつけてきたさつきから視線をそらし、
ハジメは、ちょっと青ざめた。
「…出るんだよ、ここは。」
「ええっ?」
すると、ハジメの隣にいた男の子が、
おもむろに、鼻の上でちょっとメガネを指で押し上げながら言った。
「そのことについては、校内一の心霊研究家である…
この、柿ノ木レオがお話しましょう。」
「ばっ、ばかばかしい!
そうやって私たちを脅かそうとしたってダメよ!」
と、言いながらも、さつきの声は震えている。
「信じないヤツほど、狙われるらしいぜ!
後ろからソイツを見つめているって…!」
ハジメは、手で「うらめしや〜」ポーズを作って見せたが…
「…ふえぇ〜…」
さつきと敬一郎の妙な怖がりように、
「なっ、なんだよ…?」
ハジメ自身もちょっと怖くなって、振り向くと…!!
扉の内側に、いつの間にか女の子が立っているではないか!
「うわぁ〜っ!!」
思わず、さつきたちの後ろに隠れるハジメとレオ。
「ごめんなさい、驚かしちゃったかしら。」
長い髪、ピンクのリボン、セーラー服…
それは、さっきさつきたちを後ろからじっと見ていた、
あの女の子だった。
肌が透き通るように白い、美しい少女だ。
その微笑み混じりのやさしい口調に、ちょっと安心した四人。
その中でも、頬を赤らめたレオが一番に口を開いた。
「六年生ですか?」
すると、そのレオを押しのけるようにして、
ハジメが一歩前に出る。
「う、美しい〜っ!」
「こっちこそごめんなさい。私、この学校今日からだから、
人、わからなくて…。宮ノ下さつきです!」
「宮ノ…下…?」
その少女は、さつきのすぐ近くに歩み寄って、
さつきの苗字を確かめるように繰り返した。
「…何か?」
「ううん…。六年一組の恋ヶ窪桃子よ。」
さつきに握手を求める桃子。
「じゃ、お姉さんだ。よろしくっ!」
「ええ!…でも、困りましたわ。風で帽子が、
旧校舎のニ階の窓に、入ってしまったの。」
それを聞いて、待ってましたとばかりに、
桃子の前に顔を出すハジメとレオ。
「ご心配なく!!」
「それなら、ボクたちが一緒に探しましょう!」
「まぁ!本当ですか?」
にっこり笑う桃子。
「オレ、五年三組の、青山ハジメ!」
「同じく、柿ノ木レオです。」
「よろしくお願いします。」
それを見ていたさつきは、ちょっと不満そうな顔をした。
「ちょっとぉ!態度変わりすぎじゃないっ?」
その時、扉の外側のノブに、さっき切れたはずの鎖が、
ひとりでに巻きつき、錠がかかり…
立入禁止の札までしっかり元通りに下がったことには、
…誰も気づかなかった。

一列に並んでニ階の廊下を歩く五人。
「桃子さん、大丈夫ですよ〜…オ、オレが、ついてますから…」
声を震わせてそう言われても…、なんとなく頼りないハジメ。
「ボ、ボクも…います…」
レオの声も、ちょっと途切れ気味だ。
さつきも、しがみつく敬一郎をしっかり押さえながら歩いているものの、
どっちがしがみついているのやら…といった感じだ。
そんな中、一人桃子だけは怯えた様子もなく、
その顔は、むしろにこやかにさえ見える。
「まぁ、勇敢ですね、皆さん!…あらぁ?何かあそこに…?」
「えっ…!どこ?」
「廊下の曲がり角から、こっちを…」
しかし、廊下の正面は、先のほうは暗くてよく見えない…。
ハジメたちには、曲がり角があることも見えないほどなのに、
桃子にだけは、そこに誰かが立っていることも見えるというのか…?
「そ、それって、オバケですか?」
「さあ…、わたくしにもわかりません。
でも、わたくし、霊感が強いみたいなんです。
ほら、左に…」
廊下の曲がり角に差し掛かり、左に曲がってみると…
「うわぁっっ!!」
叫ぶレオ!、みんな、その声に驚いて一斉に
「わぁ〜〜!!」
!!!廊下の真ん中に、誰か立ってる!!!
…が、よく見ると?
「あれ?二宮金次郎さんの銅像じゃない?」
一番前を歩いていたさつきが言った。
「あらっ?わたくしの帽子をかぶってます。」
確かに、たきぎを背負って、本を開いて…
そして、赤い帽子をかぶった二宮金次郎の像だ…。
「バカやろう!おまえがデカい声出すから
驚いちまったじゃねーかっ!」
レオに向かって怒るハジメ。
「でも、あの銅像、さっき外になかった?」
敬一郎の言うとおり、さっきは確かに外にあったはずだ。
恐る恐る銅像に近づいて、ハジメが帽子を取ると…
ぎょろっ!!
銅像の目が開いた!まん丸に!!
「うわぁ〜っ!」
そして銅像は、胸の前で開いていた本を、
パタンッ!と、閉じた!
「ぎゃぁ〜〜〜〜!!!」
みんなは、一斉に駆け出した。
走って走って、階段を駆け下り一階へ。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「びっくりしました…」
胸を押さえる桃子。
「…ね、う、動いたわよね?」
さつきは、確かめるようにレオの目を見る。
「旧校舎にオバケが出るのは、本当だったんです。」
半泣き状態のレオ…。
ハジメは、持ってきた赤い帽子を桃子に渡し、
「とにかく、ここを早く出ようぜ。」
と言ったが、敬一郎はさつきにしがみつき、
「でも、まだカーヤが…」
そうだ…、それを忘れていた…。
「猫なんて、ほっとけばいいよ。」
「ダメよぉ!!カーヤは特別な猫なの!
…東京で、ママのお葬式があった日に家に来て、
代わりに家族になったんだもん…。」
ハジメは、さつきの話を聞いて、
(悪いこと言っちゃったな…)
そんな感じで、ほっぺたを指でかいた。
「みんなで、探してさし上げましょうよ!」
桃子が提案した。
「で、でも…」
レオが、そう言いかけた時…
『にゃ〜…』
左に延びた廊下の奥から、猫のかすかな鳴き声が!
「あ!カーヤだっ!」
叫ぶ敬一郎。
『にゃ〜にゃ〜』
「行くぞ!」
ハジメを先頭に、声のする方へ走るみんな。
薄暗い廊下は、果てなく続いているかのように長い。
チタン…チタン…
水道の蛇口から水の滴る音が、不気味に廊下にこだまする…。
「カーヤ!どこなの?」
『にゃ〜…』
「あ!いた!!」
敬一郎が、ブリキのバケツの裏側に隠れるカーヤを発見!
しかしカーヤは、さつきたちを見ても飛び出してくるわけでもなく、
怯えたように震えたまま、バケツの裏から出ようとしない。
「どしたの?おいで、カーヤ。」
すると…
『ウ〜〜〜…』
カーヤの反対側から、犬のうなり声が聞こえた。
水道の下から、茶色い足が少し見える。
「あ、犬だ。」
「それで怖がってるんだ。こら、犬!!
家のカーヤがおびえてるじゃない!!ちょっとぉ!!」
さつきが、カーヤに向かってうなる犬を怒鳴りつけると、
その犬は、さつきたちの方を振り向いた…がっ!!
な、なんと…顔が、まるで人間のように変化したではないか!?
そして、しゃ、しゃべった??
『うるせーな、犬、犬って…』
「ひゃぁ〜っ!」
全員、一瞬で三メートル後ろに飛んだ…。
『ふんっ!』
鼻であざ笑った人面犬は、シュン!と、空中に消えてしまった。
『にゃ〜お』
やっとバケツの裏から出て来たカーヤは、
そのまま、廊下のもっと奥へ向かって走って行く。
「カーヤ!!」
「追いましょう!」
「え〜、まだ行くんですかぁ?」
校内一の心理研究家と豪語しているわりに、
一番情けない顔つきのレオ。

ある部屋の戸を開いてみると…
「トイレ?」
左に手洗い場、そして右には木の戸の個室が五つほどある、
そこはトイレだった。
「一応、調べましょうか…」
中へ入る桃子とさつきと、さつきにぺったりくっついたままの敬一郎。
「あれ?何で来ないの?」
廊下に立ったままのハジメとレオに尋ねるさつき。
「女子トイレはちょっと…」
「い、いかにも…出そうな雰囲気ですし…」
「な〜に言ってんのよ!さっぱりわかんないっ!」
さつきにドン!と背中を押され、ハジメとレオも、
結局トイレでカーヤを探すことに…。
「いや…だからぁ!」
「トイレのオバケと言ったら…」
「は〜なこさ〜ん!」
いきなり、ひとつの戸の前で桃子が呼んでるっ?!
「何で呼んじゃうんですかっ!!」
「あ、つい…」
すると…

『はぁい…』

エコーのかかったお返事が…!!
そして、ぎぎぎ……、戸が勝手に開いた!
しかし、中には誰もいない。
「いませんね。」
平然と言う桃子。
「でも、今『は〜い』って…」
敬一郎を抱きしめるさつき。
ハジメとレオは、一歩二歩と後ずさり…
と、ハジメの頭に何かが触れた。
「おっ?」
ニ人が頭の上を見ると、そこには、
天井から逆さまにぶら下がった女の子がっ!!!
『なにしてあそぶ?』
「うわぁぁぁぁぁ!!」
夢中で廊下に駆け出すニ人。
そこに、なんとライトを付けた一台のバイクが!!
「わあああっ!」
しりもちを付いたニ人のすぐ横を通り過ぎるバイク。
見ると…特攻服の襟から上が…つまり頭が…ない!
廊下の突き当たりで、そのバイクは消えた。
「なに?今度は??」
慌てて出てきたさつきたち。
「うう…首がなかったぁ…」
「危険過ぎます!早く逃げましょう!!」
桃子にすがりつくレオ。
すると、ホッとする間もなく、今度は、
ハサミを持った青いてるてる坊主みたいなオバケが飛んできた!
かの有名(?)な「テケテケ」だ!
「まだいるのかよぉ…」
シャキーーン!
ハサミが光る…。
「わああああああ!」
五人は必死に走った。
「助けて〜!」
それでもテケテケは追いかけてくる。
あ!正面に出口が見えた!
「出口ですっ!!!」
ところが、寸前、一番前を走っていたハジメが、
落ちていたバケツにつまづいて転び、全員重ね餅状態に!
もうダメか!…と思ったが、倒れていたのが幸いし、
テケテケは、五人の上すれすれを飛び去っていった。
「…行っちゃいましたね。」
桃子は、あくまで冷静だった。
「あ、思い出しました。テケテケに追われた時は、
地面に伏せるべきだと、本で読んだことがあります。」
レオが、メガネを直しながらそう言うと、
ハジメが、その頭をゴン!!
「知ってんなら、もっと早く思い出せよ!!
…とにかく、一旦こっから出よう。」
ハジメは、扉のノブを回そうとしたが…
「あれ…?」
「どうしたの?」
「開かないんだ。」
何度ガチャガチャやってみても…どうしてもノブが回らない。
「そんな…、誰か!誰かいませんか?」
扉をドンドンたたくさつき。
「おーい!誰かここを開けてくれ!」
「聞こえないのぉ!」
それを見ていたレオと桃子と敬一郎も、ボー然。
「閉じ込められたよ…」
「そんな…」
「ボクたち、どうなっちゃうの…?」

『うっひひひひ…いっひひひひ…』

その時、どこからともなく聞こえてきた不気味な笑い声。
「この視線…?」
あたふたするレオたちとは違って、
さつきは、なぜかどこから見られているかを感じとることができ、
そして、ぱっと天井を見た!…と!!!!!
そこに、真っ赤な光を発しながら高笑いする…
高笑いする…高笑いする……何だ?これ。
小さいじいさん鬼とでも言おうか、
とにかく、あまり怖いとは言えないナニカが、
ふわふわと宙に浮いている。
「なにこれ…」
「これがオバケかよ…」
「さっきのより、ずっと小さいですね。」
レオは思わず、持っていたカメラでパチリ!
するとソイツは、ツーッとさつきの目の前に近づいて言った。
『友だちになろうよ、さつきちゃん。』
「な、なによ、いきなり。」
『お母さんいなくて、寂しいんだろ?』
「いやよ!なんでオバケなんかと…」
『友だちにならないと、ひどい目に遭うよ。』
そう言って、そのオバケが消えたかと思うと、
突然、天井から下がっていた照明器具が
ガッシャーン!!!
みんなの真ん中に落ちてきた!
「うわぁ!!」
『い〜っひっひひひひ…』
すると今度は、大きな木製の下駄箱が
バターン!!!
窓ガラスが
バリーーーン!!
「怖いよ〜!」
桃子にしがみつく敬一郎。
『い〜っひっひっひっひ…』
再びオバケが姿を現した!…ところが、
身体の大きさが倍以上に大きくなっている!
「おい、アイツ、でかくなってるぞ!」
ハジメもびっくり!
よくよく見ると、それはデべそだった…。
『友だちになろうぜ!』
オバケは、人差し指で「おいでおいで」をしながら、
なおもさつきに言った。
「…来いって言うの?」
ゆっくりソイツに近づくさつき。
「おいっ!」
ハジメがさつきを止めようとした途端、
傍らの傘立てが倒れ、そこに刺さっていた三本の傘が、
矢のようにさつきに向かって飛んできた!
「危ないっ!」
桃子の叫び声に、さつきは何とか身をかわしてそれをよけたが、
さつきの頭上を通り過ぎた傘は、そのまま木の壁に突き刺さった!
もし当たっていたら、恐ろしいことになっていたに違いない。
「お姉ちゃん!」
駆け寄る敬一郎。
「なによ、これ…」
さつきは、しばらく立ち上がれない…。
『にっひっひっひ…』
オバケは、ゆらゆらと赤い妖煙を発しながら近づいてくる。
その身体は、笑うたびに大きくなっていくようだ。
『ふんっ、誰が人間などと友だちになるか。
ましてやおまえには、積年の恨みがある。』
さつきの上に覆いかぶさるようにして、
ソイツはさつきを見下ろした。
「なによ、それ!」
「どんどん大きくなるわ。」
「コイツは、ボクたちが怖がれば怖がるほど、
大きくなるのかも。」
レオが、心理研究家の本領を発揮し、
オバケがどんどん大きくなる理由を、そう分析した。
「敬一郎、怖がっちゃダメっ!!」
しかし、さつきがそう言っている間にも、
オバケは、すごい勢いで大きくなって、
とうとう、身をかがめなければ天井までのスペースに
入りきれないくらいにまで大きくなってしまった。
その上、さっきまではちょっぴり愛嬌のあった顔も、
恐ろしい鬼の顔に!!
「うわああああああっ!!」
夢中で逃げ出す五人。
『逃げたな!!』
ソイツは、身をかがめるようにして、ノシノシ追いかけてくる!
走りながら叫ぶさつき。
「怖がっちゃダメだって!」
「おまえだってそうだろ!」
ハジメはそう言い返し、
廊下を曲がってすぐにあった部屋に逃げ込み、急いで扉を閉めた。
『どこだぁ〜』
ソイツは、廊下の窓からその部屋を覗き込んだが、
しゃがみこんでいた五人に気づかずに通り過ぎていった。
「…ふぅ。」
ホッと胸をなで下ろす五人。
良く見てみると、そこは校長室だった。
壁いっぱいに、歴代の校長先生の写真の入った額が並んでいる。
「ここ、校長室だわ。」
写真の方へ近づくさつき。
『にゃ〜…』
…と、その額の中の一つが床に落ちていて、
カーヤが、その写真の頬のあたりをペロペロ舐めている。
とても愛しむように、『ニャオン…ニャオ〜ン…』と鳴きながら。
「あ…、カーヤ!」
さつきはカーヤを抱き上げ、
「こんなところで、何してたの?…あ!」
カーヤが舐めていた写真を見た。
「…ママ?……んなわけないか。」
その写真の女性は、さつきたちのママにそっくりだったのだ。
さつきは、引越しの日にパパがトラックの中で言った言葉を思い出した。
〜『昔、おばあちゃんが校長先生をしていたんだぞ。』〜
その写真を手に取るさつき。
「似ていたって聞いてたけど、こんなにそっくりだったなんて…」
「なんだよ、それ。」
さつきに近づくみんな。
「あ!」
突然、桃子が驚いたような声をあげた。
「どしたの?」
「その写真…、わたくし、去年一年間東京の病院に入院してて、
その時やさしくしてくれた患者さんにそっくりで…」
「も、桃子さん、その患者さんの名前は??」
「かやこさん…」
「ママだよ、それ!」
カーヤを抱いた敬一郎が、桃子を見上げた。
「えっ?…あ、それで、宮ノ下…。
こんな偶然て、あるんですね。」
その写真を、ギュッと抱きしめるさつき。
「私、偶然じゃない気がする…。
ママがひきあわせてくれたんじゃないかしら。」
「ママがぁ?!」
敬一郎がうれしそうに微笑んだ、その時…
『いっひっひっひ…見ぃつけたぁ!!』
いや〜な声が…!
バキッ!!!
突然、校長室の壁をぶち破って、ヤツが顔を出した!
さっきよりもっと巨大化している。
「きゃぁ〜!!」
五人は、反対側の壁に走り、
ハジメは、そこにあった帽子掛けを持ち上げ、
窓を壊そうとガンガン叩いたが…なぜかガラスが割れない!
「何で壊れないのぉ!?」
『おまえたちは、一生ここから…出られないのさあ!』
ヤツは、いつの間にかすぐ後ろに立っていた!
「うわぁ!!!」
見ると、隣の職員室へのドアに少し穴が開いている。
五人は、這ってその穴から職員室へと逃げた。
『友だちだろう?』
校長室から聞こえるヤツの声。
バキッ、ドスッ…
壁を壊そうとしている音もする。
「もうダメだぁ…」
ベソをかくレオ。
その時、敬一郎がちょっとぶつかった拍子に、
さつきが落とした写真の額から、一冊のノートが出てきた。
たまたま開いたページに、子供が描いたらしい絵が…。
「あ、ねぇ、これ、あのオバケだよ!」
「ほんと…!」
「あまのじゃく…??」
その絵は、今、さつきたちを追い回しているオバケにそっくりだった。
そのノートを拾い、絵の横に書いてある文字を読むさつき。
「三月十五日、あまのじゃくが出た。
魔方陣で火を囲んで、『じゃくじゃく眠れ』と、呪文を唱えたら、
裏山の大くすのきの中に入って霊眠してくれ…た…」
「霊眠って?」
桃子の問いに、レオが答えた。
「オバケを浄化して、眠らせることです。」
「じゃ、それと同じことをすれば、
あのオバケは眠らせられるじゃん!」
ハジメがいいところに気が付いた!
『い〜っひっひっひ、楽しいぜ〜』
相変わらず、バリバリ壁を壊す音が響いている。
こちらへ、その「天の邪鬼」がやってくるのも、
もう時間の問題だろう。
「う〜、怖いよぉ…」
泣き出す敬一郎。
「…やってみましょう!ボク、魔方陣は描けます!」
さすがは心霊研究家!、レオも、まさかそんな特技が、
役に立つ時が来るとは、きっと思っていなかったに違いない。
「でも、火は?」
冷静な桃子の言葉に、みんなはしばし沈黙…。
「!!理科室よ!理科室に行けば!!」
さつきが、これもまたいいところに気が付いた。
「そうか、アルコールランプがある!」
その時、天の邪鬼の大きな手が壁を突き抜けて出てきたかと思うと、
あっという間に、その身体全てが、職員室に
にゅるっ!と入ってきてしまった!
怖がっている暇はない、五人は大急ぎで理科室へと向かった。
『逃がすかぁぁぁ!』

何とか理科室を見つけ飛び込むと、
みんなは、机を倒して、床に広い場所を作った。
「これでいいか?」
「はい!スペースは十分です!」
レオは、さっそくチョークで床に魔方陣を描き始める。
ハジメは、棚からアルコールランプを探し出した。
「あったぞ!」
レオは、必死で魔方陣を描き、梵字のようなものを仕上げて
「できました!!」
と、叫んだ。そこへ…!!
『うらぁ〜っ!!!』
バリーン!
窓をぶち破って、天の邪鬼がやって来た!
「みんな!魔方陣の中へ!!」
さつきの言葉に従い、全員が魔方陣の中へ入る。
その真ん中にアルコールランプを置き、
桃子が、見つけたマッチで火を点けようとしたが、
なにせ古いマッチなので、なかなか火が点かない。
「どうして…」
こすってもこすってもダメだ…。焦る桃子。
『ひっひっひっひっひ…』
天の邪鬼は、どんどん近づいてくる。
もうダメか…と思ったその時、ついにマッチに火が!
「点いたわ!!」
いそいでその火をランプに移すと、さつきが言った。
「呪文を始めるわよ!」
立ち上がり、声を合わせるみんな。
「じゃくじゃく眠れ、じゃくじゃく眠れ…」
天の邪鬼は、そんなことにはおかまいなしに、
みんなの頭の上に、大きな手を押し付けようとした。
すると…
魔方陣から、ゆらゆらと不思議な青い炎がたち上がり、
結界らしきものが五人の周りを囲うと、
その上にかざしてあった天の邪鬼の手が溶けるように
指先から崩れ始めたではないか!
『なに…??う、うわぁ〜!!!』
なおも続けるみんな。
「じゃくじゃく眠れ、じゃくじゃく眠れ!!」
天の邪鬼は、崩れゆく身体をくねらせながら、
それでも、恐ろしい顔で五人をにらみつけた。
『うわぁ…!おまえたち、どこでその呪文を…っ。』
さつきが抱えているノートに目をやる天の邪鬼。
『そ、それは……!!!!!
や、やめろ〜〜〜!!』
「じゃくじゃく眠れ!じゃくじゃく眠れ!…」
『うわあああああああ…』
『にゃ〜…』
カーヤが一声鳴いた瞬間、
天の邪鬼は断末魔の叫び声を上げて、
燃え尽きるように完全に消えてしまった。
それと同時に、魔方陣から上がって結界を作っていた炎も消えた。
ボー然と立ち尽くすみんな…。
「き、消えたの…?」
さつきの一言で、腰がくだけたように床にたり込むみんな。
「…呪文が効いたようです。」
レオは、中でも一番ホッとしているように見えた。
「オレたち、オバケを追い払ったのか?」
「そのオバケ日記のおかげね。」
「ええ…、でも、こんな日記がどうして額の中に…」
あらためてその古いノートを見るさつき。
すると、ノートの裏表紙に、消えかかった名前が…
「…ママだ、ママの名前が書いてある!
ここに、五年一組 神山佳耶子って。
パパと結婚する前のママの名前よ!」
「じゃ、これ、ママの日記なの?」
カーヤを抱いた敬一郎が、目に涙をいっぱいためて、
さつきの顔と、そのノートを見つめた。
「そうよ、敬一郎…。
ママは私たちを見守ってくれてるのよ…。」
泣き出した敬一郎の頭を、さつきはやさしく撫ぜた。
ママの日記にほっぺたをすりつける敬一郎。
「うっ、うっ…ママぁ…」


旧校舎の外に出てきた五人。
「やった、外だ〜」
「もぉう、旧校舎には入らねーぞ、オレは!」
レオもハジメも、こりごりだ…っていう顔をしている。
♪キーンコーンカーンコーン…♪
「あら、チャイムが。」
「うえっ…学校!!」
「やべっ!遅刻だ!!行くぞ!」
走り出すハジメとレオ。
「待ってよ!」
さつきたちも、後を追いかけた。

校庭へ行ってみて…五人はがく然となった…。
学校の大時計が、五時を回っていたからだ。
そういえば、空はすっかり夕焼け色に染まっている。
「旧校舎にいたの…私、ニ〜三十分くらいだと…」
「心霊スポットの魔力でしょうか…」
下校を促す放送の流れる中、五人は、
帰って行くみんなを、ただぼんやりながめていた。
「何て言い訳すりゃいいんだ…」
がっくり肩を落とすハジメ。
「私なんて初登校だったのに…」
そうだ…さつきと敬一郎は、今日転校してきたのだ。
「オバケと戦っていたなんて言っても、誰も信じないだろうし…」
「はぁ〜…」
深いため息をつくさつき、敬一郎、ハジメ、レオ。
しかし、桃子だけは、にっこり笑って裏山に目をやった。
「いいじゃないですか、怒られるくらい。
わたくしたちは、天の邪鬼さんを
大くすのきに霊眠させたんですもの。」
「あ〜っ!!」
いきなり大声を上げるハジメ。
「今度は何ぃ?」
「裏山の大くすのきって、この間切り倒されなかったっけ?」
「そうですよ!それに、あのくすのきだけじゃなく、
裏山はそこらじゅう宅地開発されています。」
「うそ〜!じゃあ、天の邪鬼はどこで霊眠してるの?」
「知るかよ〜」
「探さなきゃあ!また暴れだしたら大変よ!」

『うるせえな!ここにいる!』

!?
どこからともなく、聞き覚えのある声が…。
「この声…」
みんなは一斉に… 「天の邪鬼!!」
再び襲ってきた恐怖に、震えるみんな。
「どこだ…?」
「どこにいるのっ…」
「うう…っ」
敬一郎は、カーヤを抱えてベソをかいている。
『へっへっへっへ…ここだ、ここだ…。
どうやらオレを封じ込めるのに失敗したようだな。
こうなったら、学校中の子供たちを恐怖におとしいれて、
失われた妖力を、すぐに手に入れてやるぜ。』
どうやらその声は、敬一郎のお腹のあたり…
つまり、カーヤから聞こえているようだ。
みんなは、不思議そうにカーヤを覗き込んだ。
『おっ、おまえたち、このオレ様が恐ろしくないのか!』
カーヤが、肉球のついた小さな手を、
シュッシュッ!と、動かした。
『なんだ、この手は??』
「…カーヤがしゃべってる!」
びっくりする敬一郎。
『なんだ、なんだなんだ、なんだ!!
この身体は、猫じゃないか!!』
敬一郎の腕の中で、大暴れするカーヤ。
「まさか、カーヤの中に?」
「取り憑いてしまったようですね…」
『なんだと?取り憑いてなんかいるか!とっとと出せ!』
「でも、どうしたらいのかしら…?」
『へっ、簡単だよ。くすのきを切り倒したように、
この猫を殺せばいい!!』
「できないわよ!そんなこと!!」
思いっきり怒鳴りつけるさつき。
『ならオレは、この猫の身体に住みつくしかない…。
きっと後悔させてやる。』
どんな恐ろしいことを言っても、
今の天の邪鬼に説得力はあまりなかった…。
そこへ…
「そこ!なにやってる?もう下校時刻を過ぎてるぞ。」
「せ、先生っ!」
「なんだ猫か。」
『にゃ〜お…』
カーヤは、敬一郎の腕をピョンと飛び出した。
「早く帰れよ〜」
そう言い残し去ってゆく先生。
「あのヤロウ、猫のふりしてっ!!」
今にも殴りかかりそうになって怒るさつき。
「やめろって!…ムダさ。様子をみながら、
猫を元に戻す方法をみつけようせ…」
さつきを説得するハジメ。
「そんな…」
みんなは、校庭の真ん中に座って夕陽を眺めるカーヤの後姿を
じっとみつめた。
夕陽を浴びて砂の上に伸びたその影は、
猫ではなく、…恐ろしい天の邪鬼の形をしていた。


『おもしろいぜ………
裏山には、あの日記に書かれている輩がみんな霊眠している。
親子二代で、オレの自由を奪った恨み…
思い知らせてやる!!!』



第一怪 終

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