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機動戦士クロスボーン・ガンダムの第1話


宇宙空間を行く輸送船。

「か……海賊だーっ 宇宙海賊がせめてきたぞーっ」「全機戦闘態勢! 輸送船に近づけるなーっ」

輸送船に襲い掛かるモビルスーツ。護衛のモビルスーツがそれを迎え撃つ。

「か……海賊どもの小型機にはかまうなっ! つみ荷だけはなんとしても死守しろ!」「や……奴が…… 海賊どものガンダムが出て来るぞ!」

宇宙海賊の母艦からモビルスーツが現れる。
額に骸骨の紋章、背にはX字を描く大型スラスターを持つ、海賊のガンダム──


第1話
宇宙海賊


木星圏 地球・木星間航行船スマシオン


船が木星圏へ近づくにつれ、主人公の少年、トビア・アロナクスが浮かれまくる。

トビア「おおおおおぉ! きた! きたきたきたきたきた! きたぞ! 木星だ! うお〜い!
友人「トビア! まてよー そんなにあわてなくたって 歓迎会には充分まにあうってー!」
トビア「念願の木星圏へついたんだぞ! いっときだってじっとしていられるかってんだ! ほほーい」
友人「──たく こんな僻地に留学にこれたのが なんでそんなにうれしいかね?」

アナウンス「全乗組員につぐ! これより本艦は中継ステーションとのドッキング態勢に入る くり返す!」


人類が…… 新しい開拓地フロンティアとして
宇宙に生活圏をひろげはじめてから
すでに100年以上がすぎていた

その開発の手は ついにこの
太陽系第5惑星 木星にも
宇宙都市 スペース・コロニーを
建造するにいたった


中継ステーション内。
整列したトビアたち木星圏への留学生たちに、木星の代表者が演説を始める。

「ようこそ! 留学生のみなさん! 木星は心からみなさんを歓迎いたします」
「最接近時でも距離にして6億km われら木星人は 母なる大地ガイアからもっとも遠い存在ではありますが 地球を想うわれらの気持ちは いささかもおとるものではありません」


地球のサイドひとつ分にもみたない
まだまだ小さな生活圏

そう ここはさいはて──
そして

人類の最先端なんだ!


トビアたち留学生の隣りには、木星圏から地球圏への留学生たちが整列している。

「地球と木星 若い力と知識を交換しあい 理解しあう これこそが人類永遠のはんえいへの道であり」

トビア (むこうがぼくらのかわりに地球へ行く留学生か 木星にもかわいいこ いるかな?)

「そしてまた それこそが われらの偉大なる指導者 クラックス・ドゥガチ様の御心でもあるのです!」


演説が終わり、トビアのもとに教師・カラスがやって来る。

カラス「アロナクス君」
トビア「カラス先生 地球からの3か月間 色々とありがとうございました!」
カラス「いやいや 私は何も みなさんが何かを学ぶのはこれからですよ 私はその準備をてつだっただけです これからもがんばって下さいよ」
トビア「はいっ! 先生」

握手を交わす2人。なぜかカラスは手袋をしたまま。


自由時間。窓から見える宇宙空間に目を奪われる生徒たち。

「コロニーはみえねぇのか?」「ここからじゃ木星の陰だよ」
「すげーよな! 空中そらじゅう木星だもんな」「おれ達 地球にだってこんな近づいたことないよな」「ばーか! 木星はでけぇんだぞ!」


食事時。

友人たち「これでみんなともお別れかと思うと ちょっとさみしいわよね! トビア」「みんな ついた先では学科が違うからな」
トビア「いやあ── ぼくはこの先のこと考えただけでワクワクしちゃて……」
友人たち「わー!! つめたいんだー!」「あのなー おれ達 地球生まれったって コロニー生まれのコロニー育ち あっちもコロニー こっちもコロニー たいして違わねえよ」

「でも この船のクルーってだいたいみんな木星の人でしょ?」「生活習慣とかって違いあるよね」
「水とか空気 おれ達以上に神経質にたいじにしてるしな」
「そういや全員手ぶくろしてるなー」

女生徒「私知ってるわ! あれは手の甲にナンバーがうってあるのよ」
トビア「ナンバー? 全員?」
女生徒「私のみたところ あれは階級章かなんかね 互いにみせあってあいさつしたりしてたわ 私達の前じゃあまりやらないけど…… すごい厳格な身分の上下があるみたいよ!」
トビア「階級章って……カラス先生 教員だぜ?」
女生徒「だって そうなんだもん 私みたもん!」
男生徒「ま 習慣なんざ どっちでもいいさ 異国の美女とお友達になるのがおれの目的だもの」
トビア「不純だなー おまえって」
男生徒「歓迎会ですでにチェック入れとった奴に言われとぅないわー!」
トビア「どーして そんなとこみてんだよぉ!」

「それよりみてみろよ! また出たらしいぜ! 宇宙海賊!」「ひえー」「これで木星の輸送船ばかり6件めだ!」

ニュースに見入る生徒たち。

「しかもどうやらこの連中……ガンダムタイプのMSモビルスーツをもってるらしいぜ」「ガンダム!?」
「ああ それも最低でも2機以上な」「ひゃーおっかねぇっ!」
「目が2つついててアンテナはえてりゃ マスコミがみんなガンダムにしちまうのさ! バカのひとつおぼえだよ」
「このステーションだいじょうぶかしら?」「へへへ 別にここにゃ とるものなんか……」

突如、警報音が鳴り響く。

生徒たち「う!」「え?」「なに? ま まさか?」

乗組員たち「密航者だ! 密航者だぁぁっ! 密航者だーっ! つかまえろーっ!」

ステーション乗組員たちに追われ、1人の少女が駆けて来る。
無我夢中で、少女がトビアの胸に飛び込む。

トビア「わぁっ!」
生徒「何だって? 密航者?」
トビア「このが?」

追いついてきた乗組員たちが、少女を捕える。

乗組員「さぁ! つかまえたぞ! こいっ!」
少女「いやーっ! やめてっ! たすけて!」
男生徒「お おいおい? ちょっとっ」
少女「ちがいます! 私は密航者なんかじゃありません! たすけて! わたしは……ただっ……ただ! ただ……私は……貨物室で……を」

その言葉に、1人の乗組員の表情がピクリと反応する。

男生徒「まって下さいよ! 何だかしらないけど 女の子ひとりを何もこんな大ぜいで追いまわすことはないでしょう? それもこんな大ゲサにサイレンならして……」

海賊だーっ!

別の乗組員が駆けて来る。

男生徒「……え?」
乗組員「海賊だー! 宇宙海賊がせめてきたぞぉ!」
女生徒「きゃあぁぁ……

窓の向こう。

巨大なビームフラッグを掲げた、宇宙海賊の宇宙戦艦。
それと共に、数機のモビルスーツが次第に迫って来る。

「敵 海賊MS接近! ステーション防衛隊 発進せよ! MS・バタラ発進せよ」

木星軍のモビルスーツ・バタラの部隊が発進し、海賊軍を迎え撃つ。
緊急事態にノーマルスーツを着込む生徒たち。
窓から見える戦いの様子。海賊軍の攻撃に、バタラの部隊が苦戦を強いられている。

生徒たち「うわぁぁぁぁ」「何だってんだ! 敵はたかが海賊だぞ!」「どうみたって旧型だ! 何を手こずってやがる!」
トビア「ち……ちがう ちがうぞ! みろ!」

バタラと海賊軍との戦いの合間を縫って、流星の如く何者かが飛び交い、バタラを攻撃している。

トビア「旧型機はただのけんせいだ 防衛MSを攻撃している敵は別にいる! あれは……」

彼方から飛来する、2機のガンダムタイプのモビルスーツ。その身にマントを纏っている。

トビア「あれは? ガンダム!?」

2機のガンダムが圧倒的な攻撃力で、次々にバタラを撃破してゆく。

「うわあああ ばっ……化物か? こいつわぁ!?」

ガンダムに吹き飛ばされたバタラの1機が、トビアたちのいる区域付近に叩きつけられる。

トビア「あぶなーい

爆発。咄嗟にトビアが、先の追われていた少女を爆風からかばう。

トビア「だ……だいじょうぶか きみ?」
少女「あ…… あ」

傍らの格納庫では、バタラの1機が発進準備を進めている。

「どうしたーっ! 発進できんのかーっ!」「だめです! パイロットがやられました」

男生徒「トビア! 何してる! 早くこい! こっちだ!」
トビア「だめだ……だめだ! 圧倒的すぎる! こ このままじゃ……このままじゃみんな…… みんなのところまではしって!」
少女「う うん!」

トビアは少女を生徒たちのもとへ走らせ、自らはMSバタラのコクピットへ。

乗組員「おい! きさま? 何をしている パイロットじゃないな!」
トビア「機械工学科の生徒です! 作業用MSの免許をもってます! かわりに出ます!」
乗組員「やめろ! ばかもん! そんなことで戦えるか! おりろ!」
トビア「ひきがねをひくぐらいならできるはず! 砲座のかわりぐらいならできます」

バタラが発進する。

トビア「さぁ! こい! どこだ 出てこいっ! 相手になってやるぞ!」

彼方から流星の如く、光が飛来する。

トビア「ガンダムだか何だかしらないが…… こんなところで死んで……」

光が接近し、次第にガンダムの姿があらわになる。

トビア「殺されてたまるかーっ」

トビアのバタラが、無我夢中でライフルを連発する。
無数の銃撃を難なく交わすガンダム。
だが、一発の銃撃がガンダムに命中する。

トビア「やったっ…… あたっ……」

しかしガンダムは、それをものともせずに突撃してくる。

トビア「うわああああ?

ガンダムは身にまとうマントにビームの乱射を浴びつつ、なおも突進してくる。

トビア「あたっている? のに? ビームが命中してるのに? なんで?」

ガンダムが視界から消える。

トビア「はや……」

次の瞬間、ガンダムがバタラの目前に現れ、バタラの両手をふさぐ。

トビア「うわあぁ

咄嗟に拘束を振りほどいたバタラがビームサーベルを抜く。
ガンダムも腰からサーベルを引き抜き、振り下ろす。
バタラのサーベルがそれを受け止めるが、ガンダムのサーベルはバタラのサーベルもろとも、機体を一刀のもとに斬り裂く。

トビア「ああぁ??

バタラのコクピット内に激しい火花が散る。

トビア「うわあぁぁ

そのとき、ガンダムのパイロットからの通信が響く。

パイロット「飛びおりろ!」
トビア「えっ」
パイロット「コクピットをつぶすぞ」
トビア「わあああ

機外へ飛び出すトビア。
バタラがガンダムの一撃を胴に食らい──大爆発。

トビア「なんだ? なぜだ? あ あの海賊? ぼくを……殺さなかった?」

周囲を見渡すと、戦闘不能に陥ったバタラから、パイロットたちが次々に投降している。

トビア「ぼくだけじゃないのか? 他のMSもパイロットはねらっていない? 殺す気はないのか? どういうつもりだ!?」

宇宙を漂っていたトビアが、やがてスマシオン号に辿り着く。

トビア「はあ はあ はあ ここは……スマシオン号の……貨物室か? と とにかく一度みんなのところへもどって……!?」

艦内に入ったトビアが、何気なく傍らに積まれたボンベに目をやる。
そこには「PRUSSIC・GUS」の表示。

トビア「……毒ガス? 毒ガスだって? ど どういうことだ? 何なんだ? これ? どうして? 留学生を運ぶ船に こ……こんなものがつんであるんだ?」

突然、背後から何者かがトビアの口をふさぐ。

トビア「うわっ!

それはトビアの恩師、カラス先生であった。

カラス「……なに 単なる表示ミス……悪い冗談だ……うそだと思うならバルブをひとつひねってみたまえ……」
トビア「カラス先生?」
カラス「天国へのぼる気分が……あじわえるよ」

カラスがトビアの頭に銃を突きつける。

トビア「先生!」

必死にカラスを突き飛ばすトビア。銃が宙に放り出され、2人がもみ合いとなる。

トビア「先生! 先生! どうしたんですか! しっかりして下さい! やめて下さい」
カラス「わたしは正常だよ アロナクス君! きみは みてはいけないものをみてしまったんだ! 死にたまえ!」

カラスの腕がトビアの首を締め付ける。

カラス「10年! 10年かけたんだ! 10年かけて留学生の交換を続け 地球の! 連邦の信用をかちとり 少しずつ少しずつガスを地球圏に運び込む その計画をきみひとりのために……たかがあの海賊ごときにかぎつけられた程度のことで……あきらめるわけにはいかないだろう?」

カラスの腕を振りほどこうとするトビア。カラスの手袋がさけ、手の甲のナンバーが覗く。

トビア「先……生」

拘束から逃れるトビア。

カラス「はははは すべては総統クラックス・ドゥガチの御心のままに! 地球に巣食う連邦という名のウジ虫どもをみな殺しにし! 母なる大地ガイアをわれら……木星帝国ジュピターエンパイアのものとするために!
トビア「木星? 帝国!?」

カラスが銃を手にし、トビアに向ける。

カラス「死・ね!」

そのとき。
ガンダムがスマシオンの外壁をぶち破る。
艦内の空気が外の宇宙空間へとあふれ出す。

カラス「うおおお?
トビア「先生ーっ! うわああ? わあああ──

トビアとカラスが、奔流と共に艦内から宇宙空間へと放出される。
だがガンダムからパイロットが飛び出し、咄嗟にトビアを捕まえる。

トビア「あ…… ああ?」

パイロット「だいじょうぶだな? おれの言うことがわかるな?」
トビア「う…… 何が…… 何がおこってるんですか? いったい! ぼくの ぼく達の知らないところで……いったい……」

ガンダムのパイロットが、彼方を指差す。

パイロット「おまえのとるべき道は2つある ひとつは何も聞かずに地球へ帰り 全てを忘れ 貝のように口をつぐむこと…… そしてもうひとつは われらと共に……真実に立ち向かうことだ!」
トビア「あ……あなたは?」

パイロットがヘルメットの遮光バイザーを上げ、素顔を晒す。


「宇宙海賊 クロスボーンバンガード! おれの名はキンケドゥ キンケドゥ・ナウだ!」


宇宙世紀0133

地球の誰もまだ
この戦いを知らなかった


(続く)
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