戻る TOPへ

仮面ライダーアギトの第1回


「中心気圧が985hPa、中心付近の最大風速が30m以上の大型台風が……」


台風が過ぎ去った後の沖縄の海岸。漁師達が、流れ着いたゴミを拾い集めている。
一緒に海岸に来ている老漁師の孫が何かを見つけ、祖父を呼ぶ。

「爺ちゃん!」
「なんだぁ?」

数m四方の、銀色の輝く巨大なオブジェ。
表面にはいくつかのダイヤルが並んでいる。どう見ても人工物、何かの機械のようだ。

「大吾! ……何だこりゃあ!?」


仮面ライダーアギト
MASKED RIDER AGITΩ


第 1 話


警視庁の未確認生命体対策班G3演習ルーム。
仮面ライダーを思わせる装甲服を装着した“G3”が佇んでいる。
その様子を見守る対策班の班長・小沢澄子、班の一員・尾室隆弘、そして数人の警察官たち。

小沢「用意はいい? 氷川君」
G3「はい」
小沢「G3マヌーバ開始」

壁面から鉄球が次々にG3目掛けて射出される。
G3はそれを次々にかわし、パンチで弾き、胴でガッチリと受け止める。
更にG3がハンドマシンガンGM-01を構え、射出される鉄球を撃ち落としてゆく。
感嘆の声を挙げる警察官たち。

小沢「うん、いい、いい! いい感じよ、氷川君」

鉄球がひとつ残らず撃ち落とされ、ブザーが鳴って鉄球が止む。

小沢「OK、氷川君! 以上で今日のマヌーバは終了よ」
G3「はい」

G3がマスクを外して素顔を晒す。G3装着員・氷川 誠である。


未確認生命体対策班、オーパーツ研究局。
主任の三雲咲子が研究員と会話を交わしている。

研究員「……それでですけど、H07のシンクロ作業できましたけど、どうしましょう?」
三雲「じゃ、もう稼動できるの?」

その研究局を氷川が訪れる。

氷川「三雲さんは?」
研究員「あちらに」

三雲「……ちょっと待って」

氷川の姿を認めた三雲、研究員との会話を打ち切り、彼を案内する。
局内には、冒頭で登場したオブジェが研究対象として据えられ、何人もの人員が研究に当たっている。

氷川「信じられないな……本当に古代に出来た物なんですか? これが」
三雲「様々なテストの結果、ほぼ同じ年代を指してるわ。そう……“古代”っていう表現じゃ足りないくらいの年代ね……始めて」

三雲の合図で、オーパーツにコードで繋がれたコンピューターを研究員が操作すると、いくつものダイヤルが一斉に回り始める。

氷川「動いた……!?」
三雲「超古代のパズル、ってとこね。ダイヤル状の可動部の数から計算すると、天文学的な組合せが可能だけど、それをコンピューターで計算して、効率よくパズルを解いてゆくの」
氷川「誰が……何のためにこんなものを?」
三雲「私も知りたいわね〜それ」


文京区立大場中学校。
校庭で女生徒たちがバレーボールを楽しんでいる。明後日の方へ飛んだボールを、1人の女生徒が追いかける。

「陽子、早く!」
「うん!」

彼女がボールを拾い上げると、校庭脇の木の洞から、何かが突き出ている。
それは──なんと、人間の腕。

「キャ──ッ!?」


城北大学。

大学内の一室で、美杉義彦教授が生徒たちと卒論について話し合っている。

美杉「岡田君、これはどういうことですか? 『緊急時における人間のX機能の発現について』……?」
生徒たち「追い込まれたときの人間のシックスセンスについて書きたいんですけど」「超能力ってこと?」「まずい……ですか?」
美杉「いや……ただ、卒論のテーマとして相応しいかどうか、だな」

ノックの音。

美杉「はい?」

ドアを開けて入ってきた主人公の青年・津上翔一が、鞄から何冊かの本を取り出す。

翔一「失礼します! えっと……これで、いいんですよね?」
美杉「あぁ、すまなかったな。急に必要になったもんだから」
翔一「いえいえ。あ、それから、今日の夕食どうします?」
美杉「また……君が作るのかね?」
翔一「はい!」
美杉「今日は……外で済ませて帰るから」
翔一「そうですか……?」

翔一が去る。

生徒「息子さんですか?」
美杉「いや、ちょっと事情があって、うちで預かってるんだ」


翔一が大学を出る。
入れ替りに、大学へやってくる青年・葦原 涼。
翔一と涼人がすれ違い、何気なく涼が翔一の方を見やる。
2人はまだ、互いの辿る運命など知る由もない──


バイクを押しながら帰途につく翔一。
美杉の姪、風谷真魚が自転車で駆けて来る。

真魚「翔一君!」
翔一「真魚ちゃん」
真魚「どうしたの? バイク」
翔一「ガス欠……それよっかさぁ、『翔一君』って言うの、やめてくれないかなぁ? ほら、一応年上なんだし」
真魚「だって『翔一さん』って感じじゃないでしょ? で、どう? 何か思い出した?」
翔一「それもやめてくれないかなぁ……毎日そんな風に聞かれると、結構プレッシャー感じちゃってさぁ」
真魚「翔一君のためじゃない! 気持ち悪くないの? 記憶喪失のまま生きてくなんて」
翔一「別に今のところ不都合もないしね。それにほら、もし過去を思い出して、俺が凶悪な犯罪者だったりしたら、どうよ?」
真魚「意外と大金持ちのお坊ちゃまだったりして? そしたら、結婚したげる!」

真魚が陽気に自転車で走り去る。

真魚「先、帰ってるね〜」
翔一「やっぱり、思い出さない方がいいかも……」


城北大学のプール。
水泳部のコーチ・両野耕一が涼を探す。

両野「涼! いるのか? 涼!」

水面から涼が顔を出す。

両野「やっぱりお前か……練習時間、とっくに終わってるぞ」
涼「すいません……なんか、体が火照ってしまって」
両野「今度の大会は、お前のカムバック戦だからな。気持ちはわかるが、少し抑えろ。ははっ……それにしても、よくあの事故から立ち直ってくれたな。一時はもう駄目かと思った」

涼の記憶に蘇る光景。バイクに跨っている自分目掛け、トラックが突進してくる──

両野「しかも、事故の前より記録が伸びてる。ビックリだ」

その両野の言葉に涼は一瞬顔を曇らせるが、また笑顔を見せる。

涼「もう一度だけ……泳いできます」


警視庁。
G3の戦闘指揮車・Gトレーラーの中。

小沢「ごめんね〜何度もつき合せちゃって。でもこれが終われば完成だから」

G3の装甲服を脱ぎ捨てて考え込む氷川。

小沢「ふーん……氷川君、何考えてるのか当ててあげましょうか? 例のオーパーツのことでしょ」
氷川「はい、それもあるんですが……文京区の大場中学の事件のこと、ご存じですか?」
小沢「あぁ、木の中に生徒の死体が入ってた、っていう?」
氷川「気になるんです……普通なら、あんなことあり得ない」


朝。とある民家。
会社員・佐伯邦夫が玄関を出、妻の安江が見送る。

安江「あなた……」

安江が夫に靴べらを渡しつつ、外に生えている木を見、複雑な面持ちとなる。

佐伯「おい……?」
安江「あ、はい……行ってらっしゃい」

佐伯が差し出す靴べらを、慌てて安江が受け取る。
携帯が鳴る。

佐伯「もしもし? あぁ……うん、大丈夫だ。時間には間に合う」

そんな佐伯を、木陰から怪しい視線が捉えている。


未確認生命体対策班、オーパーツ研究局。
コンピューター画面に「Analysis complete」の文字が表示される。


水泳大会本番の会場。
プールで順調に泳いでいた涼が、突然苦しみ出し、水の中へと消えてしまう。

両野「涼!? 涼──っ!!」


出社途中の佐伯に突如、謎の豹頭の怪人が襲い掛かる──。


佐伯の家。
机の上に書類が置き忘れていることに気付いた安江が、慌てて家を飛び出す。
佐伯の姿はどこにもない。

安江「あなた……?」

地面に転がっている携帯電話。

「佐伯課長、もしもし、もしもし? 佐伯課長、聞こえますか? もしもーし!」

安江が上を見上げる。
木の洞から突き出ている人間の腕……

安江「キャアアァァ──ッッ!?」


警察による事情徴収が始まっている。
その中には警視庁きってのエリート刑事である北條透、同僚の河野の姿がある。

北條「じゃあ、この前大場中学で発見された中学生の遺体は……?」
河野「あぁ、あの家の1人息子だ。どうなってやがんだかなぁ……親子してこんな殺され方されるなんて」


家の中。茫然自失の安江に、氷川が事情を聞いている。

氷川「何でもいいんです。ご主人と息子さんについて、生前何か変ったことはありませんでしたか? 佐伯さん!?」

突然、安江が泣き崩れる。

妻「すみません……!」
氷川「すみません……何か思い出したら、連絡を下さい」

そこへ北條が現れる。

北條「何をしているんです? あなたは対策班の人間だ……まさかこの事件が、“未確認”の仕業だとでも?」
氷川「はい、それは……」
北條「関係ありませんよ。確かに奇怪な事件だが、何らかのトリックが使われているに過ぎないんだ」
氷川「……どんなトリックですか!?」
北條「それを調べるのが我々の仕事です」
氷川「僕も対策班の人間であると同時に、現職の警察官です。管轄内の事件を調査しても、問題はないと思いますが!?」
北條「……ま、邪魔にならないようにお願いしますよ」


病院。
意識を失った涼が担ぎ込まれている。彼を見守る両野。

両野「それで……どうなんですか? 彼の容態は」
医師「検査の結果が出ないと、詳しいことは解りませんが……ただ、全身の筋肉が発熱し、微かに痙攣を起こしています。何か激しいトレーニングでも?」
両野「いえ、彼は一流の水泳選手です。競技の当日に影響を及ぼすようなトレーニングをする筈がありません」


美杉家。
自家菜園で、翔一が美杉の1人息子の太一と奮闘している。

2人「せーのーでっ!」
太一「もっと力入れて!」
翔一「太一、力入れろって、お前!」
2人「いっせーのーで!」

2人が力を合せ、地面から大根を引き抜く。

太一「すっげー! 翔一が作ると、どうしてこんなにでっかくなるんだ?」
翔一「そりゃあ愛だよ、愛!」

微笑ましく2人を見守る真魚。

真魚「ねぇねぇ、もしかしてさ、翔一君って農家の生まれだったりして?」
翔一「それは……のうかな?」

親父ギャグに1人笑う翔一、閉口する真魚と太一。


警視庁。
氷川の携帯が鳴る。

氷川「はい、氷川ですが」
安江「佐伯です。実は……お見せしたい物があるんです。主人と息子が殺されたことと、関係があるかどうかはわからないんですが……」
氷川「わかりました」


夜の公園。
安江が氷川と待ち合せる。
突如、彼女に襲いかかる豹頭の怪人。


美杉家。
台所で皿洗いをしている翔一が突如、強烈な耳鳴りが響き、苦痛に顔が歪む。
手にしていた皿が床に落ち、砕け散る。


病院。
ベッドの上で意識を失っていた涼の目かカッと開かれ、異様な痙攣に苦しみ始める。
心電図が狂ったように大きな波を描き始める。


安江との待ち合せ場所である公園へ、氷川がやって来る。
安江の姿はなく、女物のバッグが地面に転がっているのみ。
氷川がバッグを拾い、中をまさぐる。
1枚の写真。沼をバックにした少年の姿。右肩に心霊写真の如く、あるはずのない“手”が乗っている。

周囲を見回す氷川。立ち木の中からだらりとぶら下がる腕……

氷川「佐伯さん!?」

咄嗟に氷川が拳銃を構え、辺りを警戒する。
草むらの中から現れたのは、豹頭の怪人。

氷川「き、貴様の仕業かぁ!?」

怪人が氷川の首を締め上げる。
が、殺害することなく氷川を地面に放り投げたかと思うと、なぜか彼に構わず立ち去り始めてしまう。


警視庁、Gトレーラー内の小沢に通信が届く。

小沢「氷川君、どした?」
氷川「現在、謎の生物に遭遇! G3システムの出動をお願いします!」
小沢「来た来た来た来た! いよいよ出番だ!」
尾室「で、でも上の許可とらないと!?」
小沢「愚鈍なこと言ってる場合? 行くよ!」
尾室「は、はい!」
小沢「Gトレーラー出動します!」


謎の怪人目掛け、氷川が拳銃を発砲。
だが銃弾は怪人の目前で静止し、砕け散ってしまう。

氷川「何……!?」

逃走する怪人。
そこへGトレーラーが駆けつける。

Gトレーラー内、小沢と尾室の手により、氷川が強化装甲服を装着する。

尾室「装着完了」
小沢「2123、G3システム戦闘オペレーション開始」
尾室「ガードチェイサー離脱します」

氷川がG3となって専用白バイ・ガードチェイサーに跨り、Gトレーラーから出動、怪人を追う。

G3「目標発見、接近します」
小沢「了解」


怪人を追い、G3が工事資材置場へ辿り着く。
ガードチェイサーのウェポンラックからGM-01を引き抜く。

小沢「GM-01アクティブ、発砲を許可します」

Gトレーラー内で小沢がレーダーに目を光らせる。

小沢「氷川君、近いわよ」

G3が怪人を発見。
GM-01を連射。弾丸が次々に命中するが、怪人は全く意に介していない。

G3「効かない……そんなぁ!?」

怪人がG3に襲い掛かり、G3の手からGM-01が弾き飛ばされる。

尾室「GM-01ロストしました。ステータス、レッドに移行!」

G3が果敢にも肉弾戦で怪人に挑むが、全く通用せず、逆に反撃を食らう。

尾室「バッテリーユニットに強度の衝撃、バッテリー出力80%にダウン」「頭部ユニットにダメージ」

次々に反撃を食らうG3。強烈な怪人の一撃が、停車している車にG3を叩きつける。

尾室「姿勢制御ユニットに損傷! G3システム戦闘不能!!」

Gトレーラー内にブザーが鳴り響き、モニターの画像が消える。

尾室「映像信号ロストしました!」
小沢「オペレーション中止! 氷川君、離脱しなさい! 氷川君!!」

今まさにG3にとどめが刺されんとするとき──
怪人が何かの気配を感じ、振り向く。


彼方からゆっくりと歩いてくる異形の人影。

黒い肢体。金色の筋組織。腰には光り輝くベルト。昆虫を思わせる複眼と、一対の角。
その姿は、かつて“未確認”とたった1人で戦った戦士“4号”を髣髴させる。

謎の戦士に怪人が襲い掛かる。
だがその戦士はその攻撃を交わし、怪人と戦いを繰り広げる。

G3とは対照的に、怪人の攻撃は戦士に全く通用しない。
それどころか、戦士の繰り出すパンチやキックが、圧倒的な攻撃力で次々に怪人に炸裂する。

呆然とその戦いぶりを見つめるG3。

小沢「氷川君、聞こえる? 氷川君!」

謎の戦士の攻撃が次第に怪人を追い詰めてゆく。

戦士の頭部の1対の角が、展開して6本の角となる。
さらに構えをとると、地面に角状の紋章のような光が発生、さらに光が戦士の足へと吸い込まれる。

戦士が怪人目掛けて突進し、その体が宙に舞う。
強烈なキックが怪人に炸裂。

苦痛の声を上げる怪人の頭部に、光の輪が現れる。


大爆発──


怪人を見事撃破した戦士の姿を呆然と見つめるG3。
未知の敵をたった1人で葬ったその勇姿は、まさにあの“4号”の再来である。

物陰から戦いを見つめている、もう2体の豹頭の怪人。
その内の1体が呟く。


「ア……ギ……ト……!!」


(続く)
inserted by FC2 system