戻る TOPへ
仮面ライダー555の第1回
巨大企業・スマートブレイン社の研究所。
研究室で、厳重な防護服に身を包んだ研究員たちが、薬液の満ちた容器を囲んで注意深げに作業を行なっている。
「ゲントキシン溶液、補充完了……」
「アルタード・ステート、基準値に達しました」
「防護服、着装」
突如、警報ブザーが鳴り響く。
監視モニターの中、警備員たちが何者かに襲われる。
一瞬見える、毛に覆われた影。
「何だ? 何が起こってる?」
「侵入者だ!」
「何!?」
分厚そうな扉から、何かが激しくぶつかるような音が響く。
まるで、何者かが怪力で扉を無理矢理ぶち破ろうとしているような……
「退避!! 退避だぁ!!」
遂に扉を破り、毛むくじゃらの怪人が出現する。
「何だ!? どうなってんだ!?」
怪人に襲われた研究員、顔が灰と化して崩れ落ちる。
怪人が容器の中から何かをつかみ上げる。
機械仕掛けの、銀色に光り輝くベルト──
仮面ライダー
|
555
|
MASKED RIDER φ's
|
第 1 話
穏やかな陽射しの降り注ぐ、東京・木場家。
主人公の1人の青年・木場勇治と恋人の知恵が、勇治の幼い頃のアルバムを眺めている。
千恵「可愛い〜! 勇治にもこんな頃があったんだね」
勇治「もうやめようよぉ……なんかちょっと、照れるっていうか」
千恵「いいじゃん。はい、こっち」
そこへ勇治の母が、お茶を運んでくる。
母「随分懐かしいもの見てるわねぇ。はいどうぞ」
千恵「すみません」
勇治「ありがと」
母「わ〜懐かしい。ピースしてる。あ、こっちも」
勇治「平和、平和」
母「平和、平和ね」
写真の子供時代の勇治のピースサインを、一同が真似て笑い合う。
さらにアルバムのページをめくると、千恵の写った写真が。
千恵「あ、ここから私と出会ったんだ。ラッキーだったね、勇治君。こんないい女と知り合えて」
勇治「うん」
母「もう、あんたも素直に『うん』って言うんじゃないの。話がそこで終わっちゃうじゃないの! ごめんなさいねぇ、つまんない男で〜」
千恵「いえ、こんな勇治君だからこそ、私たち丸1年、喧嘩一つしないでやってこれたんだと思います」
母「へぇ〜1年経つんだぁ。早いわねぇ……」
千恵「はい、明日で丁度1年です」
場面が変わって、ドライブ中の勇治。後部座席には両親が乗っている。
父「自転車でデート? なんだ、車を使えばいいじゃないか」
勇治「それがさ、俺、知恵と初めてデートしたとき、まだ免許持ってなかったじゃない。それで自転車であちこち回ってたんだけど、あれと同じデートがしたいって」
目の前の信号が赤に変わり、勇治が車を停める。
父「今時いい子じゃないか。そういう子は大事にした方がいいぞ」
勇治「うん」
母「だからぁ、素直に『うん』って言うのはやめなさいって。あんた千恵ちゃんになめられてんじゃないのぉ?」
父「ははっ、なんだ母さん、焼きもちか?」
母「そんなことないわよ。私だって知恵ちゃんのことはだーい好きだし」
家族が楽しげに笑い合う。
彼方から走ってくるトラック。運転手が盛んに、眠そうに目を擦っている。
信号が青に変わり、勇治が車を出す──。
衝撃音。
トラックと衝突した勇治の車。クラクションが狂ったように鳴り響く。
絵に描いたような幸せな家庭が一転、大惨事に……。
病室。
生命維持装置をつけた勇治が眠り続けている。
看護婦たちが彼のことを話している。
「じゃあこの患者さん、2年間近くずっと寝たままなんですか?」
「そ、ひどい事故に巻き込まれたらしくてね。一緒にいたご両親は即死だったし、助かったのは彼だけなんだけど、最近じゃ見舞いに来る人もいなくなって……以前は毎日のようにガールフレンドが来てたんだけど」
心電図の波がやみ、一直線を為す。
「先生を早く!」
「はい!」
医師が駆けつける。
「死亡を確認。残念だがこれまでだ。死亡時刻は……」
医師が去り、看護婦達が勇治の顔を白い布で覆い、機器類の後片付けを始める。
バサッ、と物音。
看護婦が振り返ると、勇治の腕が布団からはみ出、だらりとぶら下がっている。
その腕を布団の中に入れようとしたとき──勇治の腕が、看護婦の腕をつかむ。
白い布と布団を払いのけ、死んだ筈の勇治が飛び起き、激しく息を切らし、目が怪しく光る。
「キャァ──ッッ!! 誰かぁ──っっ!!」
九
州
九州の地をバイクで旅する少女、園田真理。
彼女を、ナンパ目的の青年、牧野大介がバイクで追う。
大介「おーい! 待てよ、待てったら!」
定食屋に真理が立ち寄る。
真理「おばちゃん、ひや汁定食ね。すり胡麻たっぷり、きゅうり少なめで」
店員「あいよっ!」
大介も彼女を追って定食屋に入り、勝手に真理の向かいの席につく。
店員「ご注文は?」
大介「あぁ、いらない。俺、腹減ってないからさ」
真理「だったら出てけば? 迷惑でしょ」
大介「冷たいなぁ。さっきは見ず知らずの俺のバイク、直してくれたじゃん?」
真理「あのね……道の真ん中で立ち往生してりゃ、放っとくわけにいかないでしょ。ま、今じゃ後悔してるけど」
続いて店に、見るからに無愛想な青年が入ってくる。
主人公の青年、乾 巧である。
店員「いらっしゃい! ご注文は?」
巧、口ひとつ動かさず、壁に貼られた「ひや汁定食」と書かれたメニュー札を指差し、席につく。
大介「俺、礼がしたいんだよ。もうすぐ友達と合流するからさ。だからほら、皆でわいわいやりながら旅しようよ」
店員「お待たせ〜」
真理の分の定食が運ばれてくる。
大介「へぇ、うまそうだなぁ。おばちゃん、俺もやっぱ食うわ。同じやつ頂戴」
店員「はいよっ!」
真理、ひや汁を麦飯にかけ、ズルズルと派手な音を立てつつかき込む。
付け合せの目刺しを手づかみで齧り、また飯をかき込む。
その食べっぷりに、呆気にとられる大介。
食べ終わった真理は、大介を無視して会計を済ませる。
真理「ご馳走様」
店員「ありがと!」
大介「ちょ……!? ちょ、ちょっと、待ってよ!」
店を出る真理、呼び止める大介を、巧が窓から何の気なしに眺める。
大介「待ってよ! ね、もう少しゆっくりしてこうよ」
真理のバイクに積んであるバッグを見、巧の目の色が変わる。
慌てて巧も真理を追い、店を出ようとし、店員に呼び止められる。
店員「ちょっとあんた、ひや汁どうすっと? ちょっとぉ〜!」
テレビでスマートブレイン社のコマーシャルが流れている。
再び東京。
勇治がかつての自宅にやってくる。
玄関で母が彼を迎える。
母「お帰り、勇治! 寒かったでしょ?」
優しい母──の幻影が、消える。
勇治の伯父の家。
伯父「よぉ、すまなかったなぁ。そうか、今日が退院だったのか」
勇治「伯父さん、そんなことより聞きたいことがあるんです。俺、さっき家に帰ったんですけど……」
伯父「あの事故からしばらく経って、弟の会社は倒産したんだ……莫大な借金を残してね。君の家は債権者の手に渡り、処分された。残念だが……」
勇治が去った後、碁の練習をする伯父に、息子の一彰が話しかける。
一彰「これからどうすんのさ。俺、嫌だぜ。奴のこと引き取ったりするのは」
伯父「そんなことはせん……心配するな」
落胆して帰途中の勇治。
その耳に、ピシッという音が響く。
勇治「ん!?」
碁石を打つ音? だが周囲は碁盤などあるわけがない。
一彰「でも、ばれたらヤバいんじゃないのぉ? 会社が倒産したなんて嘘ついてさ……」
伯父と一彰のかわす会話が、勇治の耳に響く。
遠く離れた家の中の声の筈なのに……?
一彰「会社も勇治の家も、勝手に売り飛ばしたんだろ?」
伯父「まさか勇治が、意識を取り戻すとは思わなかったからな……まったく、あのままおとなしく死んでくれれば良かったんだ……」
遠い場所の声が聞こえるという謎の現象、そして伯父達が話している真相。
混乱と絶望で勇治が頭を抱える……
再び舞台は九州。
橋の途中で休憩している真理を、大介が友人2人を連れて追ってくる。
大介「お──い!」
真理「あんたたち本当しつこいよね。ある意味尊敬しちゃう……」
大介「そう言えばまだ自己紹介してなかったよね。俺、牧野大介」
航平「野間航平」
博司「俺、井沢博司。俺らさぁ、お宅を狙ってるなんて全然ないから」
航平「そ。皆でわいわい……」
真理は彼らを完全に無視し、バイクに乗ろうとする。
大介たち「ちょ、ちょっと」「どこ行くんだよ?」
真理「あんたたちのいないとこ!」
大介「待ってよ、一緒に行くから」
そう言って真理を呼び止めようとした大介の手が、真理のバイクに積まれているバッグに触れる。
途端、真理の血相が変わる。
真理「ちょっと、触んないでよぉ!? 二度とこれには触んないで! あなたも、あなたも!!」
大介たち「わ……わかりました」
真理の勢いに圧倒され、頭を下げる大介たち。
その様子を遠くから、巧が見つめている。
峠の中腹。大介たちが真理を無理矢理囲み、記念写真を撮っている。
博司「はい、いくよ。せーのっ! ほい、いいよいいよ! はい次、俺!」
大介「早くしてよ!」
航平「行くよ! 1+1は!」
博司「のー!」
大介「にー、じゃん!」
真理 (もぅ……やめてくれよ。何なんだよ、こいつら……)
キャンプ場の公衆便所で大介が用を済ませ、出てくる。
物音。
大介が周囲を見回す──空から降りてくる異形の怪人。
慌てて逃げ出す大介を、怪人が追い詰める。
怪人の伸びた触手が、大介の口から心臓へと到達。
心臓が青白い炎に包まれる──
真理と博司のもとへ、航平が串焼きを買ってくる。
航平「お待たせ、お待たせ! あっつあつ、これ! しかし遅ぇな、大介の奴」
博司「あいつさぁ、昔っからトイレ長いんだ」
航平「ははっ、そうなの?」
真理が歩き出す。
航平「ちょっと、どこ行くの?」
真理「ト・イ・レ! (な──んてね…… バイバイッ!)」
真理がバイクにまたがる。
ふと、草むらから何かが見えているのに気づく。
あれはまさか──と真理が近づくと、そこには大介の死体。
真理「嘘……? 何よ、これ……!?」
慌てて真理が航平と博司を引っ張ってくる。
真理「早く早く!」
航平「大介が死んでるって、どういうことだよ!?」
真理「いいから!」
しかし草むらには、死体は無い。
航平「どこ……?」
真理「いない……消えてる……!? 確かにここに死体が!」
夜、東京。
千恵がマンションへ帰宅してくる。
チリンチリンという音。
振り向くと、自転車に乗った勇治。
千恵「勇治!?」
勇治「千恵、今日、何の日かおぼえてる?」
千恵「聞いたわ。退院、おめでとう……」
明るく振舞う勇治とは対照的に、千恵は気まずそうに、ぎこちない笑顔を浮かべる。
千恵「勇治、私……」
勇治「違うって。俺たちの1周年記念日じゃん。言ってたじゃない、自転車デートしたいって。乗って!」
千恵「……今日は、1周年記念日なんかじゃないよ。勇治にとってはそうかもしれない……でも……私にとっては違うんだよ」
勇治「何言ってんだよ。ほら、早く乗って」
千恵「勇治……勇治は昔のままかもしれない。でも、私はもう……昔のままの私じゃないの……ごめん」
マンションから出てきた男が、千恵の隣に並ぶ。
勇治の伯父の家にいた、従兄の一彰である。
一彰「どうした、千恵? 勇治、こいつはもうお前の彼女じゃない。来いよ」
千恵の腕をつかんだ一彰がマンションの方へ連れ帰りつつ、勇治に言い放つ。
一彰「色んなことが変わったんだよ。お前が眠ってる間にな」
九州。
焚き火を囲む真理、航平、博司。
真理が何やら考え込んでいる。
航平「何? まだ大介のこと気にしてるわけ? 大丈夫だって、どうせあいつの悪ふざけだよ。バイクも無かったしさ。そのうち戻ってくるよ」」
博司「そうそう!」
バイクの音。
航平「ほら来た」
真理「ちょっと、あんたねぇ……!」
大介がヘルメットのバイザーを上げると、顔が灰となってサラサラと崩れ落ちる。
真理「え……!?」
なぜか、航平が薄ら笑いを浮かべる。
真理「ちょっとぉ……笑ってる場合!?」
航平までもが、灰となって崩れ去ってしまう。
真理「そんなぁ……どういうこと!? 何なのよ、これ!?」
そのとき──
暗がりの中から歩み寄ってくる、巧。
真理「誰、あなた!?」
巧「バッグをよこせ」
真理「……!? まさか……あなたが!?」
巧の視線が真理のバッグを捉える。
咄嗟に真理がバッグをつかみ、逃げ出す。
バンガローの中を逃げ回る真理。が、行き止まりにぶつかってしまう。
巧が追ってくる。
巧「無駄だ。逃げられやしない」
東京。
雨が降りしきる中、一彰が1人、車を走らせている。
前方に人影──
一彰「勇治!?」
車を停め、一彰が車を降りる。
九州。
真理「何なのよ、あなた!? 一体あの2人に何したの!?」
巧から必死に逃げようとする真理。前方に博司が。
真理「逃げて! こいつよ、犯人は!」
博司「いや。違うな」
博司が、大介を殺害した灰色の怪人──スティングフィッシュオルフェノクへと変化する。
東京。
一彰「勇治、何の用だ? 言っとくけどな、お前の恨み言なんか聞きたくないぜ!」
勇治「俺……何をしたんだろ? 教えてよ……何で俺がこんな目に遭うんだ……?」
一彰「お前は一度死んだ人間だ。生き返ったお前が悪いんだよ!」
九州。
オルフェノク「ベルトをよこせ……!」
真理「嫌ぁっ!!」
オルフェノクが怪力でバッグを奪い取る。
巧「返せ! 俺のバッグだぁ!!」
巧がオルフェノクに体当たりし、無理矢理バッグを奪う。
バッグを開くと──中には「SMART BRAIN」のロゴが入ったアタッシュケース。
巧「違う、俺のじゃない……何だこりゃ?」
東京。
勇治「俺が生き返ったから……? 違う……違う!! 俺のせいじゃない!!」
一彰「何だよ……俺が悪いってのか!?」
勇治「うん……きっとそうだよ……」
九州。
真理がバッグの中のアタッシュを開き、何かを取り出す。
一つは携帯電話型ツール、ファイズフォン。
もう一つは冒頭で登場したベルト──ファイズドライバー。
真理がファイズドライバーを自らの胴に巻き、ファイズフォンで「5・5・5」をダイヤルする。
『standing by』と電子音声が流れる。
真理「変身!」
ファイズフォンを高々と掲げる真理、「何だあいつ?」といった表情で見ている巧。
真理がファイズフォンをファイズドライバーのバックルに挿入。
バックルから赤色の光が迸り……『error』の音声と共に真理が吹き飛ばされ、ベルトがはじき飛ぶ。
真理「きゃぁっ! 痛ぁ……っ」
オルフェノク「フン……お前ではベルトの力を引き出せないようだな」
オルフェノクが周囲の壁を破壊しつつ、暴れ回る。
真理が咄嗟に、床に転がったファイズドライバーを巧の胴に巻く。
巧「おい! 何の真似だ!?」
真理「ものは試しよ!」
東京。
勇治「うわああぁぁ──っっ!!」
勇治の絶叫に呼応するかのように、一斉に雨音がやむ。
雨がやんだのではない。
雨粒が降ることなく、まるでスローモーションのように空中に舞っているのだ。
勇治が馬の顔を持つ灰色の怪人──ホースオルフェノクへと変化を遂げる。
恐怖の声をあげる一彰。
再び雨が降り始める。
九州。
真理がファイズフォンに『5・5・5』をダイヤル、無理矢理ファイズドライバーに差し込む。
『complete』
真紅の光が満ち、巧が黒いスーツと銀色の装甲に包まれた戦士──“ファイズ”へと変身を遂げる。
ファイズ「何だこりゃ?」
東京。
ホースオルフェノクが一彰を車に叩きつける。
一彰が車に乗り込み、逃げ去ろうとする。
だがホースはケンタウルス状の姿「疾走態」に変化。
猛スピードで車を追い、ジャンプで車を飛び越え、先回りする。
一彰がやけくそで、ホース目掛けてアクセルを全開にする。
振り上げられたホースの前脚が、突っ込んできた車のボンネットを砕く。
さらに停車した車のフロントガラスを、ホースの鉄拳が叩き割る。
九州。
オルフェノクがファイズ目掛けて襲ってくる。
戸惑いながらもファイズが反射的に拳を繰り出す。
パンチを受けたオルフェノクがひるむ。
変身したこの姿での攻撃は奴に通用する──そう直感したか、ファイズが無我夢中でオルフェノクに攻撃を加える。
東京。
車から引きずり出した一彰の喉を、ホースオルフェノクがつかみ上げる。
その右手から剣が出現。
恐怖に震える一彰の胸を、剣が貫く。
心臓が青白い炎に包まれて消滅し、一彰が崩れ落ちる──
九州。
反撃に転じたファイズの、常人を遥かに超えた攻撃が、次第にオルフェノクを追い詰めてゆく。
ファイズのパンチでオルフェノクとの間合いが開く。
相手目掛けてファイズが突進。
渾身の力を込めたキックが、鳩尾に炸裂。
オルフェノクの動きが止まり──全身が青白い炎に包まれたかと思うと、灰と化してサラサラと崩れ落ちる。
夜の闇の中に佇むファイズの勇姿を、真理が呆然と見つめ、呟く。
真理「これが……ベルトの力……!?」
(続く)