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ボイスラッガーの第1話


惑星ツェドゥアの荒野。
宇宙の侵略者・帝王ゲンバーが、4人の少年少女を集め、悪魔獣ハーデス復活の儀式を行っていた。

ゲンバー「我が前には闇、我が後ろには破壊、我が手には死。汝、闇を司る者、悪魔獣ハーデスよ! 今こそ4つの石揃いしとき、封印を解き、我が前にその姿を見せよ──」

4人の少年少女の体から、神秘の石・ボイストーンが現れ、空間が裂け、悪魔獣ハーデスが出現する。

ゲンバー「悪魔獣ハーデス!」

ハーデスが空に向けて光線を放つと、宇宙に浮かんでいる惑星の一つが粉々に砕け散る。

ゲンバー「さすがは全宇宙を破壊するという悪魔獣、覚醒しなくても、この力か」
声「やめるんだ! 封印を解いてはならん!」
ゲンバー「フフフ、来おったか」

黄金の戦士、ボイスラッガー・ゴールドが駆けつける。

ゴールド「ボイスラッガー・ゴールド!!」
ゲンバー「ここまで来れたことを、褒めてやろう」
ゴールド「帝王ゲンバー! 邪悪な闇に憑りつかれ、自らの野望のためにこの惑星ツェドゥアを滅ぼし、罪もなき命を奪い、さらなる破壊のために悪魔獣ハーデスを甦らせようなど、絶対に許さん!」
ゲンバー「フン、1人でほざいておれ。ハーデスよ、覚醒せよ! 封印を解く鍵・ボイストーンは4つ揃っておる。今や、お前を遮るものは何もないのだ」
ゴールド「やめるんだ、ゲンバー! ハーデスを甦らせたらどうなるのか、わかっているのか!?」
ゲンバー「当然のこと。その強大なパワーを使って、このわしが宇宙を意のままにする。力ある者が力なき者を支配するのは、大自然の摂理なのだ。弱き者は強き者の庇護のもと、その命を捧げるのは、大宇宙の必定!」
ゴールド「あなたの理想は、アガルタを…… この世の楽園を創ることだったはずだ」
ゲンバー「真の平和とは、力の上にこそ成り立つものなのだ」
ゴールド「そんなはずはない!」
ゲンバー「やはり、貴様にはわからぬか……」

ゴールドがゲンバーに挑むが、ゲンバーの強力な攻撃がゴールドに炸裂する。

ゲンバー「愚か者めぇ!」
ゴールド「うわぁぁ──っ!」

反撃しようとするゴールドだが、ゲンバーの力の前にはまったく抵抗できない。

ゲンバー「せめて、わしの手で命の火を消してやろう」
ゴールド「うわぁぁ──っ!」
ゲンバー「ワハハハハ! ワハハハハ!」
ゴールド「くッ…… ボイスランドの、子供たち……」

4人の少年少女は、死んだように身動き一つしない。

ゴールド「私の声が聞こえたなら、目を覚ましてくれ…… 頼む! 目を覚ましてくれ……」
ゲンバー「ムダだ。もう遅い」
ゴールド「君たちが…… 君たちが闇に支配されなければ、ハーデスの封印は解けることはない。目を覚ましてくれぇぇ──っ!!」

その声に応じ、1人の少女が意識を取り戻す。

ゴールド「私に力を貸してくれ。君たちは愛と正義のために、戦わなければならないんだぁ!」
少女「……わぁぁ──っっ!!」

絶叫とともに、ボイストーンの一つが少女の体内に戻る。

ゲンバー「何ぃ!?」

他の3人の少年少女も次々に目覚め、残るボイストーン3つも3人の体内へと戻り、悪魔獣ハーデスが地中へと姿を消す。

ゲンバー「バ、バカな!?」
ゴールド「今だ! シュババババ──ン!!」

ゴールドの絶叫が必殺のソニックウェーブと化し、ゲンバーに炸裂。爆炎が上がる──


──爆炎のイラストと仮面ライダーのフィギュアを、主人公・帆村明子が外国人少年に見せている。
ここは現代の地球、空港の到着ロビー。

明子「──と、まぁ、こんなふうにショッカーをやっつけるの」
少年「……」
明子「やっぱり、知らないか。君はかわいそうですねぇ〜。日本には、こんなにかっちょいいヒーローがたくさんいるんだよぉ?」
少年「……」

明子「いいこと教えてあげよっか? お姉ちゃんもね、実はヒ・ー・ロ・ー・で、『ボイスラッガー』なの!」


第1話

「あたしがヒーロー」


少年の母親が駆けつけ、少年を連れ、逃げるように去って行く。

ため息をつく明子。そこへ、友人の夕樹 遥が、大荷物を抱えて到着する。

明子「……? ……遥!?」
遥「明子!」
明子「い、一瞬わかんなかったよ。変ったね、明子は」
遥「……変らないね」
2人「アハハハ!」「久しぶりぃ!」「逢いたかったよぉ!」「元気だった?」「亜樹子もね!」「嬉しい!」

楽しそうな2人の様子を、物陰から怪しげな男がじっと見ている。


遥「ねぇ、明子。ちょっと聞いていい? なんであんたまで、そんな大きな荷物、持ってるの? 栃木から来るにしては、大げさじゃない?」
明子「だって遥、東京に住むんでしょ? 私も!」
遥「えっ!? アパートは?」
明子「出てきたぁ! だって、あんたが帰って来たってことは、いよいよ私たちが立ち上がるときなわけよ! 第一、田舎じゃヒーローになれないもの」
遥「いや…… だって私、部屋が決まるまで、明子んとこに居ようと思ったんだよ!? 日本では明子しか身寄りがないのに、どうすんの!?」
明子「これだから南米帰りはイヤだなぁ〜。今の日本はバブルが弾けてビッグバンで、それでもって賃貸住宅とかいっぱい余ってて、しかも安いの! だから苦労なく見つかるわけ」


簡単に部屋が見つかるわけもなく、不動産屋を出た明子と遥が、途方に暮れる。

明子「何なの、あのオヤジは! 『保証人は、お勤め先は、年収は』?」
遥「もう…… 家賃払えばいいでしょ!?」
明子「私たちって住所不定で無職で、社会的に無力なのねぇ〜。ヒーローなのに……」

遥「どうしよ、これから……」
明子「住むところがない、か。昔からヒーローってのは、流れ者ってのが定番なんだよねぇ〜。ジローしかり、早川健しかり。でもヒーローって、生活費どうしてたんだろう? 立花のおやっさんみたいな人か……」(※1)
遥「ねぇ、明子? 人の趣味、とやかく言いたくないんだけど、おかしいよ? 女の子で、しかもいい歳してヒーローオタクなんて」
明子「ひどいよ! 南米帰りで時差ボケでもしてんのぉ!? 忘れたの? 私たちボイスラッガーでしょ?」
遥「あのねぇ、どうして私が南米帰りなの!? 私は北米! ロス! ロサンゼルス! なんなの、南米って!?」
明子「ヒーローの2号は南米から帰って来るのよ!」(※2)
遥「2号? 私が? じゃ、あなた1号? もう大丈夫〜っ!?」
明子「やめてよ! 遥だって覚えてるでしょ? 小さい頃、私たちが怪物に捕まっていたところを、ゴールドが助けてくれたの! それで、ゴールドが言ったの。『愛と正義のために戦ってくれ』って!」
遥「それは明子の夢。小さいときからずっと聞いてたけど、まだ信じてたの?」
明子「夢じゃないの! 私たちは愛と正義の戦士、ボイスラッガーなの! ヒーローなの!」

空港で2人を見ていた男が依然、物陰から2人の様子を窺っている。

明子「あのとき、あと2人、男の子がいたのよ。あの子たちもボイスラッガーよ! あの男の子たち、捜さなくちゃ!」
遥「……ごめん! 私、あなたについて行けない」
明子「あ!? 待ってよ、どこ行くの?」
遥「私、もう子供じゃないから、ヒーローじゃない大人の男の人を捜しに行くわ」

明子が遥を追おうとする。

遥「来ないで! 1人にさせて」

立ち去って行く遥を、明子が呆然と見送る。

遥「フフ。あれくらいキツく言っとけば、明子もきっと目が覚めるでしょ」

そんな遥の前に、先の男が姿を現す。

男「フフン。ずっとあなたを見てたんですよ」
遥「……」
男「あなた、いい匂いがする」
遥「……や、やめてよ……」

ムリヤリ、男が遥の手を取る。

遥「イヤ! イヤぁ!」

男が遥の口を、布でふさぐ。


明子「誰もわかってくれない…… 遥も……」

ずっと遠くへ去ってしまい、しかも布で口を塞がれている遥の声が、明子の耳に届く。

遥「明子ぉ──っ! 助けてぇ──っ!」

明子「……遥!?」


近くを、声優プロダクション社長・高畑さくらが、携帯電話を手に歩いている。

高畑「どういうこと、南ちゃん? えっ、カゼひいて声が出ない!? あんた、それじゃプロじゃないよって、島崎さんに言っといてよぉ!」

そのそばを明子が、ぶつかりそうになりながら駆け抜ける。

明子「ご、ごめんなさい!」
高畑「も、申し訳ございません、すぐに別の者を連れて参りますので──」


変態男が次第に遥に迫る。突如、遥が男を睨みつける。思わず、遥の口を塞いでいた男の手が緩む。

遥「きゃああぁぁ──っっ!!」

その悲鳴が、明子や高畑の耳にも届く。

明子「遥!?」

遥の絶叫に、男が耳を押さえて苦しむ。

男「な、なんて声だ……」

遥のもとへ、明子が駆けつける。

明子「待てぇ──っ!」
遥「明子! こいつ、変態よ!」
明子「つまり、悪ね!」
男「……僕の気持ち、わかってくれるだろ? 君も」
明子「これでも食らえぇっ!」

明子の鉄拳を食らい、男があっけなくひっくり返る。

明子「弱い…… 戦闘員並みだ」

2人が呆気にとられている間に、男が逃げ去る。

明子たち「変態──っ!!」「バッカヤロー!!」「二度と来るなよぉ!!」「大っ嫌い!!」」「バッカヤロ──っっ!!」

そこへ、明子を追って来た高畑。

高畑「稲葉ちゃん。見つかったから、いいわ」

電話を切り、高畑が明子たちに声をかける。

高畑「ねぇ、お嬢ちゃんたち」


明子と遥は、高畑により録音スタジオへ招かれる。

高畑「ここはね、声優さんの仕事場なの。あなたたちも小さい頃、アニメとか見てたでしょ? こういうところでセリフを入れてるのよ」
明子「いえいえ。私は特撮ヒーロー一筋だったんで……」
遥「やめてよ、恥かしい」
高畑「フフッ。でも、あなたがたを見つけてラッキーだったわ」
遥「あ、こちらこそ。どっちみち、仕事捜さなきゃいけなかったんです」
明子「私たち、何をすれば…… いいんですか?」
高畑「絶叫」
遥「絶叫?」
高畑「とにかく、叫んでくれればいいの。遊園地のCMなんだけど、絶叫マシンで女の子が叫び声を上げているシーンに入れる声を録音するのよ」
明子「それって……?」
高畑「さっき、あなたたちの叫び声を聞いてたのよ。できるでしょ?」
明子「……」
遥「あ、やります!」
明子「遥ぁ!?」
遥「やってみようよ、遥。面白そうじゃん?」
高畑「じゃ、お願いね」

明子たちを録音ブースのマイクの前に立たせ、高畑はコントロールルームへ。
録音スタッフの大村、マネージャーの弘美が待ち構えている。

大村「もう、遅いよ。高畑さぁん」
高畑「ごめん、大村ちゃん。でもこの新人、すっごくいいから、使ってみて」
大村「本当ぉ?」
弘美「あんなタレント、うちにいましたっけ?」
高畑「シッ!」
大村「じゃあ新人さんたち、テストやってみよっか」
明子「テストって、試験受けるんですか?」
大村「ハイハイ、大人をからかわないでね」
高畑「叫ぶのよ。画面に合せて」
遥「あ…… はい、わかりました」

スクリーンに、遊園地のジェットコースターが映し出される。

大村「じゃあ、まずは、かわいいほうの子から行ってみようかな」
明子たち「きゃああぁぁ──っっ!」「きゃああぁぁ──っっ!」

マイクに向かい、ひたすら絶叫する明子たち。

大村「悪くないよねぇ、確かに」
高畑「でしょ? 期待の新人ですから」
大村「はい、OK、OK!」

叫び疲れ、明子たちがへたり込む。

大村「じゃ、本格的にテスト、行ってみようか!」
明子たち「えぇ〜っ!?」



冒頭、惑星ツェドゥアでのエピソードの続き。

ゴールド「シュババババ──ン!!」
ゲンバー「おのれ、ボイスラッガー!」

爆炎の上がる中、ゴールドが4人の少年少女たちに語りかける。

ゴールド「これから私の話すことを、よく聞いてくれ。君たちは、ボイスランドで産まれた子供たちだ。君たちはボイスラッガーとなって、愛と正義のために戦う使命があるんだ」

最初にゴールドの呼びかけに応じた少女が言う。

少女「私も、ゴールドみたいになれるの?」
ゴールド「あぁ、なれるとも! 私には、時間が必要だ。君たちはこの星で、この星の人間として生きることで、隠された自分の力に気づいていってくれ。信じているぞ!」



夢から目覚める明子。

明子「また、あの夢…… やっぱり、夢なのかな……?」

そこは高畑の事務所。

明子「そっか、事務所に戻ってきて……」

ソファで遥が眠りについており、そばに高畑の置き手紙がある。

「今日はご苦労さま。よっぽど疲れたようね。今夜ここに泊りなさい。あとは明日。高畑」

明子「社長さん……」

そのとき。明子の耳に、どこかの女性の悲鳴が届く。

「助けてぇ──っ!!」

思わず明子が、夜の町へ飛び出す。

明子「なんで、こんな声が聞こえるの!? 方向までわかる。どうして!?」


どこかの屋内。遥に迫っていた変態男が、別の女に迫っている。
背後から、明子が丸太棒で殴りつける。男が頭を押さえて苦しみ、その隙に女は逃げ出す。

明子「また、あんたね!? 変態! 女の敵!」
男「あぁ、昼間の君かぁ〜。僕に会いに来てくれたんだね?」
明子「何言ってんの!? 弱いクセに、戦闘員並みにぃ!」

再び明子が丸太棒で殴りかかるが、男はたやすく棒を受け止め、握りつぶす。

明子「え…… ウソ!?」
男「僕の気持ち、わかってるでしょ?」
明子「え……!? え……!?」

男が次第に、明子に迫る。

明子「イ、イ…… イヤああぁぁ──っっ!!」

悲鳴をあびて男が吹っ飛び、壁に叩きつけられる。

明子「え…… 何……!?」

男が起き上がると、顔面の皮膚が裂け、その下から機械が覗いている。

明子「えぇ〜っ!?」

男が自ら、顔の皮膚をすべて剥ぎ取る。機械の頭部が現れ、男は機械の怪人と化す。

明子「きゃあぁ──っっ!」

本性を現した怪人が、再び明子に迫る。明子はおずおずと逃げ出すが、背後の壁に退路を絶たれる。
恐怖に怯える明子に、怪人がどんどん迫って来る。

思わず目を閉じる明子。その脳裏に、ボイスラッガー・ゴールドの姿がよぎる。

(ゴールド『君たちはボイスラッガーとして、愛と正義のために戦う使命があるんだ』)

明子「私は…… ボイスラッガー。私には愛と正義のために、戦う使命があるの!!」

明子の胸に決意の炎が燃え上がる。

明子「ボイスラッガァ──っっ!!」
怪人「!?」

絶叫とともに、明子の胸に深紅のボイストーンが浮かび上がる。

怪人「ま、まさか、それは!?」

ボイストーンのエネルギーが、光とともに明子の全身を包み込む。

怪人「な、なんだぁ!?」

光に包まれ、明子は深紅の女戦士、ボイストーン・ルビーへと変身を遂げる。

怪人「な、何ぃ!?」


自分の使命に気づくことなく、地球で成長したボイスランドの子供たち。
ついに、目覚めのときが来た!!


(続く)



※1 : 「ジロー」は特撮ヒーロー番組『人造人間キカイダー』の主人公、「早川健」は同じく特撮ヒーロー番組『快傑ズバット』の主人公。「立花のおやっさん」はやはり特撮ヒーロー番組『仮面ライダー』の一連のシリーズにおける主人公たちの協力者。

※2 : 『仮面ライダー』における仮面ライダー2号・一文字隼人が南米から日本へ帰って来たエピソードを指す。
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