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舞勇伝(ぶゆうでん)キタキタの第1話


都からはるか東
コレモ村という小さな村に 奇妙な幻獣の伝説があった

村人たちはそれを「キタキタ」と呼び
起こしてはならない神として恐れ 適当に祀っていた


第1蓑
「旅立ちの踊り」


コレモ村の小学校。歴史の授業中。

「ハイ というわけで 魔王ギリというコワ〜い大魔王が世界を征服しようとしていたわけですね」
「こえ〜」「魔王ギリ こえ〜」
「では次のページ チキ君 読んで」
「はい!」

生徒の1人の少年、チキ。13歳。

チキ「魔王ギリは勇者ニケ様 魔法使いククリ様あとキタキタなどにより封印されました 『勇者の剣』『グルグル(魔法)』あとキタキタなどが戦力となり 平和をもたらしたのです
先生「はい 良いですよ」
チキ「あ 先生! 『あとキタキタなど』ってなんですか?」
先生「えー 今日は時間がないので これまで

チキ「……」
友人たち「「ファ〜」「おいチキ いっしょに帰ろうぜ!」


チキは友人たちとともに、帰途につく。

友人たち「そういえばさー 最近また魔物(モンスター)が出てるんだってね
チキ「えっ ホント!?
友人たち「お城では討伐隊を募集してるらしいよ」

チキ (魔物が出てる!?)


ボクには夢があった 魔王ギリを倒したニケさんのような勇者になる事!
いまこそ勇者になれるチャンスが…!?
でもボクにはまだ 魔物を倒すようなパワーはない…


「あ キタキタ様」

村で祀られる神「キタキタ」の石碑。すっかり苔むして、たくさんのゴミが捨てられている。

「しかし さびれてんなー キタキタゾウ」
「ゾウ? アリクイだろ これは」

石碑に描かれたシンボルは、ゾウの鼻にもアリクイの顔にも見える。

「神様のわりには だれも手入れしてないよね…」
「でも勇者の役に立ったんだよな」
「アシストする妖精みたいなもんか?」

チキ (勇者をアシストする妖精! なるほど! きっとそうだ!! キタキタ様を味方につければ勇者になれる!?)
友人「あっ おい チキ!!」

石碑の上に立つチキ。

チキ「ヘ──イ!! キタキタ!!

チキはふしぎなおどりをおどった!!

友人たち「おっ おい キタキタ様のたたりが!!」「そう 『キタキタ様をバカにすると 夜キタキタ様にさらわれる』って…」
チキ「それを狙ってるんだよ キタキタ様を呼び出すんだ!」
友人たち「狙ってる? ヘンなヤツだな おまえ」「へへへ じゃオレたちもやるか!」「前々から気になってたんだよな」

皆も石碑の上に昇り、踊り始める。

「パオ〜〜ン キタキタゾウだよ〜〜ん」「いや わたしはヘビだニョロ〜」「ちがうよ アリクイですよ〜ん」

村長「こら〜っ!! 何をやっとるら〜っ!!
友人たち「やばい 村長だっ」「またな チキ!!」
村長「おまえか チキ!!」

友人たちは逃げ出し、村長の蹴りがチキに炸裂する。

村長キック

チキ「ぐはっ
村長「キタキタ様のたたりがあるぞ 帰って反省しとれっ」
チキ「ハーイ」
村長「キタキタは本当に恐ろしいのだぞ ウソではない……」


ボクはギリに滅ぼされた村の生き残りで この村の村長さんに引き取られた……
勇者になる事は 村長さんへの恩返しでもあるんだけど…


その夜、チキは村長の家で寝床に就いている。

チキ「しかし冷静になってみると アホな事したかな…… バチなんて そんな簡単に…… ん?」

窓に怪しげな人影。

チキ (即 来たぁ〜〜っ!!)

その何者かの足が、窓から入って来る。

チキ (どわあぁ〜っ!! こ この足とスネ毛は どこかで見たような…!! そうか キタキタ様のシンボルにそっくりだ!! あれはゾウでもアリクイでもない 足とスネ毛だったのか!!)

少年よ!!

前作『魔法陣グルグル』の登場人物、アドバーグ・エルドル、通称キタキタおやじであった。

おやじわたしこそキタキタ踊りの後継者── アドバーグ・エルドルですぞ〜〜っ!!

腰蓑一つの姿で踊り始めるおやじを前に、チキはひきつる。

チキうわぁ〜〜っ とんでもない変態だぁ〜〜っ!!
おやじ「変態ではありませんぞ これぞ キタの町伝統のキタキタ踊り!」
チキ「キ…… キタキタ踊り!?
おやじ「昼間の踊り 見てましたぞ あなたはなかなか筋が良い! わたしとキタキタ踊りを始めませんか?」
チキ「……」

そこへ村人たちが駆けつける。

村人たち「あ あそこだっ 変態がいたぞっ」
おやじ「どうですか キタキタ踊りを……」
チキ「……」
村人たち「こっちだ とっとと歩け!」
チキ「……」

村長「チキ だいじょうぶだったか?」
チキ「う うん…」
村長の妻「真夜中に変態が来るなんて コワイわねぇ」
村長「まったくだ あれほどの変態が世にいようとは 魔物より恐ろしい!」

チキ (変態? いや あれは… あれは……)

腰蓑、すね毛、裸の上半身のおやじ──

チキ (やっぱり変態だ)


そして次の夜──

村長の家。寝床に就いていたチキが、物音で目を覚ます。

チキ「ん……」

窓に怪しげな人影。

チキ「リトライ早いな──っ!!

コブとキズだらけのキタキタおやじ。

おやじ「少年よ! わたしこそキタキタ踊りの…」
チキ「ずいぶんしぼられましたね…」
おやじ「ろうやから脱走してきましたぞ」
チキ「そ そこまでして 僕に会いに?」
おやじ「キタキタ踊りを そなたにさずけたいのです!」
チキ「ん?」

突然、モンスターが現れる。

チキ「モ…… モンスター!? 村の中に魔物が入ってきた!?
モンスター「グエッヘッヘッ オレは魔術師『ガガル様』に呼び出されし魔物『ブナン』だ!!
おやじ「キタキタ踊りというのは……」
モンスター「おい聞けよ〜〜っ!! クソッ バカにしやがって 死ね!!
おやじ「手はこう!」

キタキタおやじが振付をとった拍子に、振り上げた手がモンスターにぶつかる。

モンスター「やりやがったな!! このクソオヤジ
おやじ「こう! こう! こう!」
チキ「ひ ひいい〜〜っ!!
おやじ「どうですか これぞ福を呼ぶキタキタ踊りの……」
チキ「あ あの〜 うしろ…」

キタキタおやじの振付の強烈な連打で、すでにモンスターは死んでいる。

おやじ「なんと! モンスターが死んでいる やはりキタキタ踊りは福を呼びましたぞ!!」

騒ぎを聞きつけ、村人たちが集まって来る。

「なんだ なんの騒ぎだ」「村長の家だっ!!」
「うわ〜〜っ これはモンスター!?」「あっ おまえはきのうの 脱獄した変態!!」

チキ「ち ちがうんです この人がモンスターを倒してくれたんです!!」
村人たち「何っ」「そっそんな 信じられん」
チキ「本当なんだよ ねっおじさん」
おやじ「いえ わたしは何もしていませんぞ キタキタ踊りの力です!」
チキ「ハハハ 何言ってるの おじさん」
村人たち「いや〜〜 あなたは英雄だ」
おやじ「ちがうと言ってますでしょうが〜〜っ!!

踊り始めるキタキタおやじ。

反論のキタキタ踊り

チキ「ええ〜〜っ!!
おやじ「わたしは踊りを見せるために脱獄しました!! さあ わたしをろうやに戻しなされ!!」
村人たち「わ わかったよ」「じゃ… ろうやへ…」

チキ「…… (な…… なんて人だ)」


それは なんかよくわからないけど 感動的な事件だった!!
心の中で何かが動いた!


チキ (信じられるかもしれない──!!)


チキが大急ぎで、牢屋を訪れる。

チキ「はー はー」
牢番「え 面会? もういいから連れてってくれよ! ピーピーうるせぇ!!」

牢から「ピ〜ヒャラ〜」と音楽が聞こえ、キタキタおやじが踊っている。

チキ「おじさん! おじさんは… 『勇者』ニケと旅をしたという── 「キタキタ」ではありませんか?」
おやじ「…… いかにも── わたしが通称『キタキタおやじ』ですぞ! 隠していたつもりですが やはりバレてしまうものですな!」
チキ「全然隠してないですよ… お願いします ボクと旅をしてください!!」
おやじ「なんと!」
チキ「ボクはニケさんのような勇者になりたいんです 勇者にはキタキタが必要と聞きました どうかボクと旅を!!」
おやじ「…… 勇者の道は つらくきびしいですぞ 旅先で起こるどんな試練にも耐える自信があると?」

チキ「ボクの両親は魔物のせいで死にました 両親の魂にかけて ボクはどんなことがあっても絶対あきらめず 勇者になります!!」

力説するチキ。

おやじ「…… わかりました それならばOKでしょう!!」
チキ「おじさん!」
おやじ「まずはキタキタ踊りに入門していただきます」

きらめくような笑顔で、チキが逃げ出す。

チキ勇者はあきらめます!

だが回りこまれてしまった!

おやじ「よし 決まりですな! 今日からビシビシ教えますぞ!」
チキ「イヤだって言ってるのに!」


こうしてボクとキタキタおやじさんの旅が始まったのです
神よ 願わくばボクに良い旅を──!!


(続く)
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