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ピューと吹く!ジャガー

コミック 1  秘密寮「ガリの穴」

― 第1笛 なぜか気になるジャガーさん ―


僕の名前は、酒留 清彦 17歳
大学も就職も蹴って、今まさにガケっぷちの高校3年生だ
もう後戻りはできない…僕はミュージシャンになる!
今日 ここで人生を 変えるんだ!!

大きなビルの前に、「J・M・C 新バンド メンバーオーディション→」と書かれた看板。
たくさんの人達が、ミュージシャンを目指して集まって来ている。
清彦も、胸をドキドキさせながら、ギターケースを背負ってビルに向かって歩いている。

「オ〜〜レの〜〜名前はぁ〜〜♪ジャ〜ガ〜〜♪本名〜〜〜」
妙な歌声に、そちらを見ると、ダブルベースでも入っているのだろうか、
自分の身長より大きなケースを背負った男が、歩いている。
歌からすると、彼の名前はジャガーというらしい。
「患者の〜〜♪『ジャ』〜ぁに〜ガ〜ゼの〜〜♪『ガ〜』〜〜あぁ〜♪」
思わず、足を止めてじっと見てしまう清彦。
「な なんだあの人…オーディションの参加者?」
「ふぅ〜」 その奇妙な男ジャガーさんは、でかいケースをどすんっとおろすと、
「今日も一発歌うか…世界の平和の為に!」
と、ムダにさわやかな笑顔で、そう言った。
「うんふふんふ ふぅ〜〜ん♪」
笑顔を浮かべたまま、ケースを開き始めるジャガーさん。
「路上でやるのか…しかし、デカいケースだな…何の楽器なんだ?」
「むふ〜ん♪」 がぱぁ!
ケースが開くと―――そこには、たて笛が一本…
ガビ―ン! 「笛!!??フエだけ!?ケースでけぇ――!!」
少なからず、ショックを受けた清彦。
「はっ!いかん、こんなとこでモタモタしてたら。早く行かないと、オーディション始まっちゃう!!」
清彦が、慌ててオーディション会場へ向かおうとしたその時、
「ギュイィィィ―ン ピシャ―ン ピロパラピロピュル ジャジャ―ン…」
「ドキン!!?」 清彦は、再び足を止めてジャガーさんを見た。
何かに取り付かれたように、一心不乱に笛を吹きまくっているジャガーさん。
「な…なにィ――!!?この激しいサウンドは、あのたて笛の音かぁ―!!
あ…熱い!!体が熱いぜ!!魂もふるえちゃうしよォ!!すげえビート感だぜぇ―!!?
えっ!?しかも、まさか…」
♪ オレのホクロから 今朝なんか 白いのが出た 詞・曲 ジャガージュン市 ♪
「まさか、そのまま歌を――!?」
「プヒプヒ ピョ フガフガ…ピョヒ!パクパク フガフガフガぁ〜〜〜♪」
再度ガビ―ン! 「フガフガ言ってて、全然歌えてない――!!」
すると、ジャガーさんは、突然、地面にガクッ!と、膝をつき、
「ああ―!!しまった―!!『まみむめも』の発音がぁ――――…!!」
と、荒い息の中、汗をキラキラ輝かせた。
一瞬の静寂…
みたびガビーン! 「『フガ』しか言えてないのに…『ま行』のことを――!?」

――何なんだ あの人は…!?気にしちゃダメだぞ 酒留清彦 17歳!!
フエなんてカッコ悪いものに 興味はないし
早く会場に行かなきゃ 遅刻するぞ!!――

「おや?」 さっきの演奏で、すっかり頬を紅潮させたジャガーさんが、清彦に近づいて来る。
「君…その背中のヤツ 楽器だろ?君も、笛を吹くのかい?」
ドキッ!とする、清彦。
「え!?ふ…吹きませんよ!これはギターです!!
こんなケースに、笛なんか入れないでしょ普通!」
「へぇ〜ギター!………………………………と、笛!!」
またまたガビーン! 「なに、付け足してんスか―!!
もう、何なんですか、あなたは!フエフエ言って…!ぼ…僕は吹く楽器には
興味ないんです!急いでるんで、失礼します!」
清彦は、なぜか必死になって否定し、ジャガーさんに背を向けて歩き出した。
「きょ…興味がないだとぉ…!?」
ジャガーさんの言葉に、ドキッ!として振り向く清彦。
拳を握りしめて、ぶるぶると体を震わせているジャガーさんの目から、
ひとすじの涙が、こぼれ落ちた…。
「!!泣いてる…!」
「……かなきゃ……だろ…」
「え…?か…かなきゃ?」
じゃあ! 吹かなきゃいいだろっ!!?勝手にしろっ!!!
泣きながら絶叫するジャガーさん。しかも、劇画タッチの顔で。
ガガ―ン!!!こちらは、溶けかかった妖怪のような顔で、ショックを受けている清彦。

――な、何だコレ?ボク何か悪い事したっけ!?
…いや、たぶんしてない!してないのになぜ、
こんなこと言われなきゃいけないんだ!?
負けるな!!ボクは、悪くないハズだ!――

清彦は、ドキドキ、ビクビクしながら言った。
「し…しますよ…ボクの勝手に!そりゃするでしょう!?
だってあなた…え?何なんですか!?
あなた、知らない人でしょう!?しますよボク!」
「知らない人…か、フフ…確かにな、君の言う通り、ボクらは赤の他人…しょせん他人さ!!
こんな…こんな事になるんなら…君に…出会わなければ…よ…良かっ…くうっ…!!!」
泣きながら、走り去るジャガーさん。
「えっ!?ちょっと…待ってよ!ねえ!!なんだよ…!
何か変だよコレ…ねぇ!!ああ…あのっ…
ごっ…ごめんね―――っ!!

――なんか、あやまってしまった。


― 第1笛 終わり ―


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