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コミック
鋼 の 錬 金 術 師
FULLMETAL ALCHEMIST


「……ル!アル!アルフォンス!!
くそ!こんな事があってたまるか!
こんな…こんなはずじゃ…
…畜生ォ…
持って行かれた………!!!」
地面に描かれた魔方陣のようなものに手をつく少年。
その左足は血まみれで、…ひざから下は、ない!

〜 痛みを伴わない教訓には意味がない
人は何かの犠牲なしに何も得る事などできないのだから 〜


第1話 二人の錬金術師


『この地上に生ける神の子らよ。祈り信じよ、されば救われん。
太陽の神レトは、汝らの足元を照らす。
見よ、主はその御座から降って来られ、汝らをその諸々の罪から救う。
私は太陽神の代理人にして汝らが父…』
ラジオから町中に流れる男の声。
「神の代理人…って、なんだこりゃ?」
とある店のカウンターで食事中の少年。
「いや、俺にとっちゃあんたらの方が
『なんだこりゃ』なんだが…
あんたら大道芸人かなんかかい?」
ヒゲの店主は、怪訝そうに少年を見ている。
「あのな、おっちゃん、オレ達のどこが大道芸人に見えるってんだよ!」
「いや、どう見てもそうとしか…」
少年の連れは、甲冑に身を包んで並んで座っているのだが、
兜から顔ひとつ見せず、おまけに何も注文していない。
食事をしているのは、少年だけだ。
その甲冑も、実におかしな…鉄人○号とでも名前をつけたくなるような、
そんな、決してスッキリとしているとは言えない大きな甲冑だったし、
この町では常識のラジオ放送を知らないとは、
店主がヘンに思うのも、しかたがないことだった。
「ここいらじゃ見ない顔だな、旅行?」
「うん、ちょっとさがし物をね。ところで、この放送なに?」
「コーネロ様を知らんのかい?」
「…誰?」
「コーネロ教主様さ、太陽神レトの代理人!」
店主が誇らしげにそう答えると、店にいた客達も、
口々にその教主を褒め称え始めた。
「『奇跡の業』のレト教教主様だ。」
「数年前にこの街に現れて、
俺達に神の道を説いてくださったすばらしい方さ!」
「そりゃもう、すごいのなんの!」
「ありゃ本当に奇跡!神の御業さね!」
「…って、聴いてねぇなボウズ。」
少年は、ぐでーっとテーブルに顔を乗せ、
今の話はてんで耳に入っている様子はない。
「うん。宗教興味ないし。
ごちそーさん、んじゃ行くか。」
「うん。」
甲冑は、少年と一緒に立ち上がった拍子に店の上部に頭をぶつけ、
その衝撃で、棚に乗っていたラジオが落ち、粉々に壊れてしまった。
「ちょっとお!!困るなお客さん!だいたいそんなカッコで歩いてるから…」
怒る店主に、少年は言った。
「悪ィ悪ィ、すぐ直すから。」
「『直すから』って…」
「まあ見てなって。」
甲冑は、砕けたラジオを中心に、地面に魔方陣のようなものを描き出し、
「―よし!そんじゃいきまーす!」
と、その上に両手を合わせてかざした。
ボ!!
まるで、魔方陣と甲冑の手との間に化学反応が起きたような、
激しいスパーク!
「うわあ!?」
驚くみんなの目の前で、粉々だったラジオは、
少しの煙をたなびかせて元通りに戻っていた。
「これでいいかな?」
少年は、再び『宗教放送』を流し始めたラジオを指差した。
「…こりゃおどろいた!
あんた、『奇跡の業』がつかえるのかい!?」
「なんだそりゃ。」
がっくりする少年の横で、甲冑は少しこもった声でこう言った。
「ボク達、錬金術師ですよ。」
少年も、ちょっと偉そうに腕を組んで付け足す。
「エルリック兄弟って言やぁ、けっこう名が通ってるんだけどね。」
「エルリック…エルリック兄弟だと?ああ、聞いたことあるぞ!」
「兄の方がたしか、国家錬金術師の…
“鋼の錬金術師”エドワード・エルリック!!」
にわかに騒がしくなる人々。
みんなは、羨望の眼差しで甲冑の周りを取り囲んだ。
「いやぁ、あんたが噂の天才錬金術師!!」
「なるほど!こんな鎧を着てるから、ふたつ名が“鋼”なのか!」
「すげえ!サインくれ!」
すると、甲冑は、
「あの、ボクじゃなくて…」
と、すっかりふてくされた少年の方を見た。
「へ?」
「あっちの、ちっこいの?」
ぼー然と少年を見るみんな。
「誰が豆つぶドちびかーーーーッ!!!」
そんなこと、誰も言ってない…。
甲冑は、自分を指差して言った。
「ボクは、弟のアルフォンス・エルリックでーす。」
少年は、顔中にブチ切れマークを作り言った。
「オレが!“鋼の錬金術師”!!
エドワード・エルリック!!!」
「し…失礼しました…」
みんな、ちょっと怖がっている…。
そこへ、一人の若い女がやって来た。
「こんにちは、おじさん。あら、今日はなんだかにぎやかね。」
「おっ、いらっしゃい、ロゼ。今日も教会に?」
「ええ、お供えものを。いつものお願い。」
店主が頼まれたものを袋に詰め始めると、
ロゼは、エドワード(少年)とアル(甲冑)のいることに気づいた。
「あら、見慣れない方が…」
「錬金術師さんだとよ。さがし物してるそうだ。」
店主はそう言って、袋をロゼに手渡した。
「さがし物、見つかるといいですね。レト神の御加護がありますように!」
ニッコリ笑って去ってゆくロゼ。
「ロゼもすっかり明るくなったなぁ。」
「ああ、これも教主様のおかげだ。」
「へぇ?」 不思議そうなエドワード。
「あの子ね、身寄りもない一人者の上に、
去年、恋人まで事故で亡くしちまってさ…」
「あん時の落ち込み様といったら、かわいそうで見ていられなかったよ。」
「そこを救ったのが、創造主たる太陽神レトの代理人、コーネロ教主の教えだ!」
「生きる者には不滅の魂を、死せる者には復活を与えてくださる、
その証拠が『奇跡の業』さ!」
「お兄さんも一回見に行くといいよ!ありゃまさに神の力だね!」
店主はじめ客達は皆、教主とやらを心から敬っているようだった。
「『死せる者に復活を』ねぇ…、うさん臭ェな。」
ボソッとつぶやくエドワード…。


教会の一室から、その放送は生で流されていた。
マイクの前で、にこやかに本を読み上げている男…
これが、皆の絶賛する教主、コーネロのようだ。
「すべての子らに光の恩寵があらんことを…」
カチッ…、マイクの電源を切るコーネロ。
「おつかれ様です、教主様。」
「教主様、本日もありがたいお言葉、感謝いたします。」
労をねぎらう側近達。
そこへロゼがやって来た。
「教主様!」
「おお、ロゼか。いつも感心だね、えらいぞ。」
やさしく微笑み、ロゼをみつめるコーネロ教主。
「いえ、当然のことです。
それで、あの…、いつになったら…。」
ロゼは、ちょっとうつむきながら何かを尋ねようとした。
「ああ、君の言いたい事はよくわかっているよ。
神は君の善行をよく見ておられるからね。」
「それじゃあ…」
うれしそうにロゼが言いかけたのを、
「だがなロゼ、今はまだその時期ではない、わかるね?…ん?」
と、それを教主が笑顔でさえぎった。
「…そう、そう…ですよね…、まだ…」
「そう、いい子だね、ロゼ。」


礼拝堂
エルリックとアルが来ている。
そこへやって来たロゼ。
「あら、たしかさっきの…レト教に興味がおありで?」
「いや、あいにくと無宗教でね。」
淡々と答えるエドワード。
「いけませんよ、そんな!
神を信じ敬うことで、日々感謝と希望に生きる…
なんとすばらしい事でしょう!
信じればきっと、あなたの身長も伸びます!」
力説するロゼと、噛み付かんばかりのエドワードと、
それを止めるアル。
「…ったく、よくそんなに真正直に信じられるもんだな。
神に祈れば死んだ人間も生き返る…かい?」
あきれたようにそう言ったエドワードに、ロゼはキッパリ答えた。
「ええ、必ず…!」
するとエドワードは、古い手帳を取り出して広げる。
「水35リットル、炭素20キログラム、アンモニア4リットル、
石灰1.5キログラム、リン800グラム、塩分250グラム、
硝石100グラム、イオウ80グラム、フッ素7.5グラム、
鉄5グラム、ケイ素3グラム、その他少量の15の元素…」
「…は?」
「大人一人分として計算した場合の、人体の構成成分だ。
今の科学では、ここまで判ってるのに、
実際に人体練成に成功した例は報告されてない。
“足りない何か”がなんなのか…
何百年も昔から、科学者達が研究を重ねてきて、
それも未だに解明できていない。
不毛の努力って言われてるけど、ただ祈って待ち続けるより、
そっちの方がかなり有意義だと思うけどね。」
エドワードは、付箋や栞のたくさんついた、
かなり使い込まれていると見える皮の手帳を閉じた。
「ちなみにこの成分材料な、市場へ行けば、子供の小遣いでも
全部買えちまうぞ。人間てのはお安くできてんのな。」
ずっと黙って聞いていたロゼが、ここで怒って口を開いた。
「人は物じゃありません!創造主への冒涜です!
天罰がくだりますよ!!」
「あっはっは!錬金術師ってのは科学者だからな、
創造主とか神様とか、あいまいなものは信じちゃいないのさ。
この世のあらゆる物質の創造原理を解き明かし、
真理を追い求める…
神様を信じないオレ達科学者が、
ある意味神に一番近い所にいるってのは皮肉なもんだ。」
「傲慢ですね、ご自分を神と同列とでも?」
「―そういや、どっかの神話にあったっけな、
『太陽に近づきすぎた英雄は、蝋で固めた翼をもがれ、地に墜とされる』
…ってな。」
「?」
エドワードの話に、首をかしげるロゼ。


街の広場
街中のほとんどの人が集まっていると思われるほど、
広場は、たくさんの人々で埋め尽くされている。
ステージには大きな太陽神の像が立っており、
その前で民衆に手を振るコーネロ教主。
紙吹雪のように舞う小さな花をひとつ手に取り、
両手でそっと握ると、
その小さな花が、大輪のひまわりに変わる。
ワアッ!!
コーネロの『奇跡の業』に沸きかえる人々。
その後ろの方で、エドワードとアルが、
はるか遠くのステージの教主を見ていた。
「…どう思う?」
「どうもこうも、あの変成反応は錬金術でしょ。」
「だよなぁ…、それにしては法則が…」
そんな二人に、ロゼが気がついて声をかけた。
「お二人とも来ていらしたのですね。どうです!まさに奇跡の力でしょう。
コーネロ様は太陽神の御子です!」
自信たっぷりに言うロゼを尻目に、エドワードはあっさりこう言った。
「いや、ありゃーどう見ても錬金術だよ。コーネロってのはペテン野郎だ。」
ムカっとするロゼ…。
アルも、相変わらず甲冑の中からこもった声で言った。
「でも、法則無視してんだよねぇ。」
「うーーーーーん、それだよな。」
頭をかくエドワードに、ロゼが尋ねた。
「法則?」
「一般人が見たら、錬金術ってのは、
無制限に何でも出せる便利な術だと思われてるけどね、
実際にはきちんと法則があって―
大雑把に言えば、質量保存の法則と自然摂理の法則かな。
術師の中には、四大元素や三原質を引き合いに出す人もいるけど…」
?マークがロゼの周りをぐるぐる回っている…。
アルがそれを見て、ちっとも大雑把でないエドワードの言葉を、
ちょっとやさしくして補足する。
「えーとね、質量が1の物からは同じく1の物しか、
水の性質の物からは同じく水属性の物しか練成できないってこと。」
「つまり、錬金術の基本は『等価交換』!!
何かを得ようとするなら、それと同等の代価が必要って事だ。
その法則を無視してあのおっさん、練成しちまってんだ。」
「だから、いいかげん『奇跡の業』を信じたらどうですか、お二人とも!」
「兄さん、ひょっとして。」
「ああ、ひょっとすると…ビンゴだぜ!」
厳しい表情になるエドワード。
しかし、すぐににっこり笑ってロゼに向かって言った。
「おねぇさん、ボク、この宗教に興味持っちゃったなぁ!
ぜひ教主様とお話したいんだけど、案内してくれるぅ?」
「まあ!やっと信じてくれたのですね!」
ロゼは喜んだが…。


教会 教主の部屋
「教主、面会を求める者が来ております。」
強面の側近が、くつろいでいるコーネロに告げた。
「子供と鎧を着た二人組みで、エルリック兄弟と名乗っていますが…」
「なんだそれは。私は忙しい、帰ってもらえ。
…!!いや待て、エルリック兄弟だと?
エドワード・エルリックか!?」
にわかに焦り始めるコーネロ教主。
「はぁ、たしか子供の方がそう名乗ってましたな…、お知り合いで?」
「〜〜〜〜ッ、まずい事になった!
“鋼の錬金術師”エドワード・エルリックだ!」
「!!なっ…、こんなちっこいガキでしたよ!?冗談でしょう!?」
強面の側近の顔が、ますます恐ろしい表情に変わる。
「バカ者!錬金術は年齢がどうこういうものではない!
国家錬金術師の称号を得たのが12歳だと聞いてはいたが…
そうか…本当に噂通りガキだったか…」
「その国家錬金術師がなぜここに!?まさか我々の計画が…」
「軍の狗(いぬ)めは、よほど鼻が良いとみえる。」
「追い返しますか?」
「いや、それではかえってあやしまれよう。
追い返したところで、また来るだろうしな。
…奴らは、ここには来なかった―というのはどうか?」
ニヤッと笑うコーネロ…
「!…神の御心のままに…」
ニヤリとうなずく側近。


「さあ、どうぞこちらへ。」
ある部屋に通されるエドワードとアルとロゼ。
「教主様は忙しい身で、なかなか時間がとれないのですが、
あなた方は運がいい。」
「悪いね、なるべく長話しないようにするからさ。」
エドワードの言葉に間髪を要れず、側近は振り向きざま、
「ええ、すぐ終わらせてしまいましょう、このように!」
と、銃を、アルの兜の目にねじ込んで引き金を引いた!
ガン!
兜が吹っ飛び、ドオッと倒れるアル。
同時にエドワードの体は、別の側近により棒で押さえつけられる。
驚くロゼ。
「師兄!何をなさるのですか!!」
「ロゼ、この者達は教主様を陥れようとする異教徒だ、悪なのだよ。」
「そんな!だからと言ってこんな事を教主様がお許しになるはず…」
「教主様が、お許しになられたのだ!
教主様の御言葉は、我らが神の御言葉…
これは、神の意思だ!!」
今度は銃口をエドワードに向ける側近。
しかし…!
「ひどい神もいたもんだ。」
そう言って、銃をぐっと握る頭の部分のない甲冑…アル!!
「んな…!!!!!」
驚きに、今にも飛び出しそうな側近の目玉。
エドワードも、その隙に押さえつけられていた棒で反撃。
逃げようとしたヤツには、アルの兜を投げつけ、命中!
「ストライク!」
「ボクの頭…!」
ロゼはもう、何がなんだか…青くなって震えている。
「どどど、どうなって…」
「どうもこうも、こういう事で。」
おもむろに、何も入っていない甲冑の中を見せるアル。
「なっ、中身が無い…空っぽ…!?」
アルは、兜をもう一度装着しながら、怖がるロゼにこう言った。
「これはね、人として侵してはならない、
神の聖域とやらに踏み込んだ罪とかいうやつさ。
ボクも、兄さんもね。」
「エドワード…も?」
エドワードは後ろ向きのまま、頭をかいた。
「ま、その話は置いといて…、神様の正体見たり、だな。」
ボコボコになって倒れている側近達をながめる三人。
「そんな!何かの間違いよ!!」
ロゼは、それでもなお、
今まで信じてきたものを捨てられない様子だった。
「あーもーこのねぇちゃんは、ここまでされて、
まだペテン教主を信じるかね。
…ロゼ、真実を見る勇気はあるかい?」


教主の部屋の前
「ロゼの言ってた教主の部屋ってのはこれか?」
大きな扉の前に立つエドワードとアル。
「さて…」
扉に手を掛けようとした途端、扉は静かに開き始めた。
「へっ、『いらっしゃい』だとさ。」
二人が部屋へ入ると、扉は勝手に閉じ、
「神聖なる我が教会へようこそ。教義を受けに来たのかね?ん?」
微笑みの下に恐ろしさを隠した教主コーネロが、
二人の前に姿を現した。
「ああ、ぜひとも教えて欲しいもんだ。
せこい錬金術で信者をだます方法とかね!」
壇上のコーネロを、薄笑いまじりに見上げるエドワード。
「…さて、なんの事やら。
私の『奇跡の業』を錬金術と一緒にされては困るね。
一度見てもらえばわかるが…」
「見せてもらったよ。で、どうにも腑におちないのが、
法則を無視した練成が、どういう訳か成されちゃってるって事なんだよね。」
「だから錬金術ではないと…」
コーネロは笑顔を絶やさず、左手の人差し指を、
つるつるの頭にあてて上下に動かした。
「そこで思ったんだけど、“賢者の石”使ってんだろ?」
コーネロの指が、ぴくっとかすかに反応を示す。
「たとえば、その指輪がそうだったりして?」
立てた人差し指の手前、コーネロの中指には、
大きな石の付いた指輪が光っている。
「ふ…、流石は国家錬金術師、すべてお見通しと言う訳か。
ご名答!伝説の中だけの代物とさえ呼ばれる
幻の術法増幅器…、我々錬金術師がこれを使えば、
わずかな代価で莫大な練成を行える!!」
悪びれる様子もなく、あっさり認めたコーネロに、
エドワードは、ぎらぎらと燃える視線を突き刺した。
「ふん!なんだそのもの欲しそうな目は!?
この石を使って何を望む?金か?名誉か?」
バカにしたように、階下のエドワードを見下すコーネロ。
「あんたこそ、ペテンで教祖におさまって何を望む?
金なら、その石を使えばいくらでも手に入るだろ。」
「金ではないのだよ。いや、金は欲しいが、それは黙っていても
私のフトコロに入って来る…信者の寄付という形でな。
むしろ、私のためなら喜んで命も捨てようという信者こそが必要だ。
すばらしいぞぉ!!死をも恐れぬ最強の軍団だ!!!」
コーネロの、虫も殺さぬような善人の笑顔が、
だんだん本性むき出しの笑いに変わる…!
「準備は着々と進みつつある!見ているがいい!
あと数年の後に、私はこの国を切り取りにかかるぞ!!
ははははははははははは!」
勝ち誇ったように高笑いするコーネロだったが、
エドワードはというと…
「いや、そんな事はどーでもいい。」
と、『その話は置いといて〜』ポーズで一蹴。
「どうッ!!?
我が野望を『どーでもいい』の一言で片付けるなぁ!!!
きさま国側の…軍の人間だろが!!」
コーネロは激怒!
「いやー、ぶっちゃけて言うとさ、国とか軍とか、
知ったこっちゃーないんだよねオレ。
単刀直入に言う!賢者の石をよこしな!
そうすれば、街の人間にゃ、あんたのペテンは黙っといてやるよ。」
「はっ!!この私に交換条件とは…
きさまの様なよそ者の話など、信者どもが信じるものか!
奴らはこの私に心酔しておる!忠実なしもべだ!!
きさまがいくら騒ぎ立てても、奴らは耳も貸さん!
そうさ!馬鹿信者どもは、この私に、
だまされきっておるのだからなぁ!!
うははははははは!」
すると、エドワードはパチパチパチ…と拍手。
「いやー、さすが教主様!いい話聴かせてもらったわ。
たしかに信者は、オレの言葉にゃ耳も貸さないだろう。
けど!!
ガシャ!アルが、甲冑の腹の部分をはずすと、中に、
体を折りたたむようにしてロゼが入っていた!
「彼女の言葉はどうだろうね。」
一転、焦るコーネロ。
「!?ロゼ!?いったい何がどういう……」
アルの腹の中から、興奮して飛び出すロゼ。
「教主様!!今おっしゃった事は本当ですか!?
私達をだましていらっしゃったのですか!?
奇跡の業は…神の力は、私の願いをかなえてはくれないのですか?
あの人を甦らせてはくれないのですか!?」
ロゼは、涙を浮かべて叫ぶ。
コーネロはさすがに絶句…
しかし開き直ったのか、すぐにロゼに向かってこう言った。
「ふ…、たしかに神の代理人というのは嘘だ…
だがな、この石があれば、
今まで多数の錬金術師が挑み失敗してきた生体の練成も…
おまえの恋人を甦らせる事も可能かもしれんぞ!!」
コーネロのこの言葉に、ロゼの心が揺れ動いているのが、
エドワードにも、アルにもわかった。
「ロゼ、聞いちゃダメだ!」
アルの言葉にも、ロゼは胸を押さえたままだ。
コーネロは、やさしい教主の顔をつくろい、
「ロゼ、いい子だからこちらにおいで。」
と、手を差し伸べる。
「行ったら戻れなくなるぞ!」
何とか、ロゼの心に訴えようとするエドワード。
「さぁどうした?おまえは教団側(こちらがわ)の人間だ。
おまえの願いをかなえられるのは私だけだ。
そうだろう?最愛の恋人を思い出せ…、さあ!!!」
この一言が、ロゼの足をコーネロの元へと進ませた。
ゆっくりアルの横から歩き出すロゼ…。
思わず頭を抱えるエドワードと、じっと見つめるアル。
「二人とも、ごめんなさい。それでも私にはこれしか…
これにすがるしかないのよ。」
振り返って二人を見るロゼの目には、切ない想いがあふれていた。
コーネロはニヤリと笑い、
「いい子だ…本当に…。
さて、では我が教団の将来をおびやかす異教徒は、
すみやかに粛清するとしよう。」
そう言って、壁のレバーを下げた。
すると、エドワードとアルの後ろに、一体の獣が姿を現した!
それは、今まで見たことの無い恐ろしい容(かたち)をしていて、
ライオンの体に、大鷲の鋭い爪と、恐竜の尾を付けた様な…
そんな獣だった。
「この賢者の石というのは、まったくたいした代物でな、
こういう物を作れるのだよ。
合成獣(キメラ)を見るのは初めてかね?ん?」
自信たっぷりのコーネロだったが、エドワード達は慌てる様子もない。
「こりゃあ丸腰でじゃれあうにはちとキツそうだな、と…」
エドワードは、一度手をパン!と合わせると、
その手を床にペタっとつけた。
一瞬の間…
ゴ!!バシィ!!
突然、床から火柱のような激しいスパークが起こり、
ものすごい噴煙と共に、床からペキペキペキ…と、
エドワードの身長ほどの槍が伸びてきた!
これぞ、練成というわけである。
「うぬ!練成陣(当初、『魔方陣のような物』としていたが、
正確には『練成陣』という)も無しに、
敷石から武器を練成するとは…
国家錬金術師の名は伊達ではないという事か!!
だが甘い!!」
エドワードに襲い掛かる合成獣。
爪の一かきでその槍を砕き、同時にエドワードの左足にも一撃を与えた!
「ぐ…」
左足の、破けたズボンを手で押さえるエドワード。
「うはははは!!どうだ!!鉄をも切断する爪の味は!?」
コーネロは大笑い!
「エドワード!!」
心配そうに叫ぶロゼ。
しかし…??
「…なんちゃって!」
ニヤッと笑うエドワード、同時に合成獣の爪がベキッと折れた!
「!!?」 コーネロは声も出ない。
次の瞬間、傷つけられたはずの左足で、
合成獣の腹に、思い切り蹴りを入れるエドワード。
「あいにくと特別製でね。」
エドワードの破れたズボンの中からのぞいているのは、
血まみれの肉体ではなく…『鋼の足』だった。
「…ッ!!?どうした!!爪が立たぬなら噛み殺せ!!」
コーネロの命令に、今度はエドワードの右腕に噛み付く合成獣。
鋭い牙はギリギリと音を立て、エドワードの腕にくい込んでくい込んで、
くい込んで…いかない??
「どうしたネコ野郎、しっかり味わえよ。」
エドワードは、合成獣を腕に噛み付かせたまま引き上げ、
ギッと睨みつけると、その顔をギゴ!っと蹴り上げた!
吹っ飛んだ合成獣の牙が、粉々に砕け散る。
「ロゼ、よく見ておけ。これが人体練成を…
神様とやらの領域を侵した咎人(とがびと)の姿だ!!」
エドワードの肩から右腕…、破り捨てた服から現れたのは!
「……鋼の義肢“機械鎧(オートメイル)”
ああ、そうか…
鋼の錬金術師!!」
エドワードの鋼の右腕を見て、初めてその意味を解したコーネロは、
思わず息を呑んだ。
鋼の手でこぶしを作り、コーネロを見据えるエドワード。
「降りて来いよ、ド三流、
格の違いってやつを見せてやる!!


第1話 おわり

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