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ふしぎ遊戯 @


― 第一回 伝説の少女 ―


「うっわーっ、おいしそーっ、あたしの好きなものばっかりじゃない!!」
テーブルの上に、たくさんのごちそうが並んでいる。
しかし、少女が箸をのばすと、次々とごちそうが消えてしまう。
「あれ?あれれ?」
そこに聞こえてきた声… 『あきらめろ、夕城 美朱(ゆうき みあか)…受験生に食事はいらない。
お前に必要なのは、勉強だけだ!!』
美朱が振り向くと、何人もの先生達が…!
『さあ、勉強するんだ』 『数学の公式を、みんな挙げろ』 『英語の単語をAから全て並べてみろ』
『答えろ…夕城!!』
「…ご…ゴハン返してよーっ!ピザにラーメンにケーキetc返せ、オバケーッ!!」
「…美朱!それ、先生だよ!」 冷静に声をかける、親友の唯。 その横で、ノビている先生。
教室中の冷たい視線を浴び、机を思いっきり持ち上げている美朱… 「…なんだ、夢かあ」

放課後、マタドナルドハンバーガーの店内
美朱と唯、ほか2人の友人が寄り道している。
「あーあ、しぼられた、しぼられた。」
「ったり前よ、受験生が、授業中、のんきにいねむりしてンだもん。」
「そーだ、美朱も四葉台高校、受けんでしょ?」
「ふふん!ひふはね、ひゃいほにひれらへろね!(ううん、実はナイショにしてたけどね)」
「しゃべるか食べるか、どっちかにしなさい!」
美朱は、ハンバーガーをほおばったまま、向かいの席の女子高生を指差した。
「…ん?あの制服は…城南学院じゃん!!都内一の名門進学校だよ!?」
「あんた、自分のおつむとよく相談した!?」 2人の友人は、びっくり。
「どーして唯ちゃんには、言わないのっ…同じトコ受けるのに…」
「答えは簡単、あたしは天才で、あんたはバカ。」 きっぱり答える唯ちゃん。
「あんた、ホントにあたしの親友!?あっ、唯ちゃん、どっかでいねむりの分のノート写させて!」
「あれェ美朱、もう食べないの?」
「塾があるンだ!それに食欲ないし、残りあげる!じゃーねーっ。」
食欲がないわりに、たっぷりハンバーガーをタイラゲて、慌しく店を出てゆく美朱、そして唯。
「でも、美朱、なんでかなァ、あたしたちと四葉台高校受けたいって言ってたくせに…」

都立中央図書館
唯の隣に座って、ノートを写させてもらっている美朱。
「何10人もの先生に、追いかけられる夢ェ?…なにそれ。」
カリカリカリ… 「最近夜中まで、根詰めてるから…」
「何もそこまでムリすることないじゃん!お母さん思いだなァ、美朱は!」
ふと、手を止める美朱…母の言葉を、思い出す…
―― 「来年の春には、城南学院の制服姿、お母さんに見せてね。」 にっこり笑う美朱の母…
(お母さんの期待に応えたいから、とうとう「四葉台受けたい」って言えなかったけど…
城南受かる自信なんて、ホントはないよのね…)
ぼーっと考えていて、シャープペンシルを、床に落としてしまった。転がるペンを追いかけて行って
なにげに美朱が顔を上げると…『一般者閲覧禁止図書』と書かれた部屋がある。
ドアが、少し開いている…何の気なしに、足を踏み入れる美朱。
「塾、もーすぐ始まるよ、美朱?…何、この部屋…」
唯も、美朱に続いて入って来る。
その時、グラッ!と揺れが…「ひえっ!?」 「なんだ地震か!」
揺れはすぐに収まった…と、美朱のうしろに、ドサッ!と、一冊の本が落ちてくる。
それを拾って、パラパラ中を見る美朱。
「…唯ちゃん、ねェねェ、これおもしろい!」
そう言って、美朱は、その古めかしい『四神天地書』と書かれた本を、唯に見せた。
「…四神天地書?なにそれ…」
「パラパラ見たとこ、昔の中国小説の和訳みたいなんだけど…」 「…どれどれ…」

〜〜 是れは、「朱雀」の七星を手に入れた一人の少女が、あらゆる力を得て、望みをかなへる物語で…
…物語は其れ自体が一つの呪文(まじない)になつており、読み終ゑた者は、主人公と同様の力を得、
望みがかなふ。なぜなら、物語は頁をめくつた時、事実と成つて始まるのだから 〜〜

「唯ちゃん、朱雀ってなに?」 「さあ?孔雀の親類じゃない?なーんだ、おまじないの本か。」 
「よーするに、読めば願いごとかなうんだ!あたし読破したいなあ!」
「信じるなって…んな都合のいい本あるわけない…」
ズズズズズ…!また、揺れが!しかし、今度のは大きい。「きゃあっ!!」
棚から、本がバサバサ落ちてくる!2人は、抱き合ってうずくまった。

―― ほどなくして、その揺れも収まり、ホッとして、顔を上げる2人…すると…
ビョオオオオー… いつの間にか2人は、風の吹き抜ける荒野に座っているではないか!
ただボー然とする2人…「…どこ?…ここ…」 「…美朱…」
突然、美朱の脳天にエルボをくらわす唯、「これ痛い?」
「痛かったわっ!!」 アッパーをお返しする美朱。
「痛い!夢にしては痛い!」
きょろきょろ辺りを見回して…「何?ここどこ!?図書館どころか…ハーゲンダッツも、ミスタードーナツも、
すかいらーくも、どこにもないわ!!」 と、美朱は必死!!
「…おめーは、食いモンの店ばっか言ってンじゃない…」
と、言いかけた唯を、誰かが持ち上げた! 「ひええっ!」
どこからともなく現れた2人組の男。『三国志』みたな装束を身にまとっている。
「こいつ、上玉だぜ!」 「売りとばしゃ、けっこうな金になるな、クックック…」
「(何、こいつら!!) ヘンなカッコー!おどり子さん?」 まじボケする美朱…
「くるるんって、違うだろ、このガキ!!」 「オレ達ゃ、人売りよ!!」 
「えっ!」 美朱は、夢中で、唯を抱えている男に体当たりした! 「唯ちゃん、逃げて!!」
ドサッ!地面に落ちる唯、「美朱!」 そして、もう一人の男を押さえつける。「早く!!」
バシッ!「放せ、このガキ!」 男が、もう一度、美朱を叩こうと手を振りかざしたその時、
その腕をうしろからつかんで、ギリッと絞り上げる青年…「やめな。」
「…るせェ、ひっこんで…うわああっ!」 バキッ!その青年は、つかんだ腕をへし折った。
「う…腕が、折れたア…っ!」 「ず…ずらかれ!!」 2人組の男は、慌てて逃げて行った。
「…血ィ出てるぜ、大丈夫か?」 背の高い、さわやかなその青年は、心配そうに美朱たちを見た。
ふわりと揺れた前髪の間から、おでこに『鬼』という字が見て取れる。
「あ…ありがとうございます!」 ―― 何この人、額に文字がある…
するとその青年、「いやあ、礼なら金のほうがいいなあ〜」 と、にっこり手を出し…って、イメージが…
「はあ?お金なんて持ってない…」 「さ、さっきマッタで使っちゃったし…」 顔を見合わせる美朱と唯。
「なにっ、無一文?!ちっちっちっ…お姉ちゃん方、世の中、金だぜ!!
無一文で、オレに助けられるなんて、ゼータクな!」
「あんたが勝手に、助けたんでしょーが!!」
「金のない奴はキライッ、さらばっ!」 青年は、そう言い残すと、さっさと行ってしまった。
「ハッ!待って、ここはどこ…」 美朱が、追いかけようとしたその時、
「美朱!!また、地震よ!!」 激しい揺れ…2人の目の前の大木が、今にも倒れてきそうだ!
ぐらーっ!メキメキッ!! 「わ〜〜〜〜〜っ!」

―― しーん…
「…ありゃ?」
2人が、顔を上げてみると…まわりには、本棚が…。
「…なんだ…もとの図書館じゃない!」 「気絶してたのかな?」 狐につままれたような2人。
「こらあっ、誰だ、ここに入ってるのは!!」 そこへ、係りのおじさんが怒鳴り込んできた。
「早く出なさい!ここは一般者は入っちゃいかん!!」 「はーい!」
本もそのままに、出てゆく2人。

夜、美朱の家(マンションの一室)
美朱と、美朱の母と兄が、食事をしている。
美朱が、おかわりの茶碗を母に渡しながら言った。
「ねぇ、お兄ちゃん、大学専攻、中国哲学でしょ?『四神天地書』って知ってる?」
「…さあ、聞いたことねぇなぁ…四神はわかるけど…」
「あのね、今日、図書館で…」 美朱がそこまで言った時、母が、口をはさんだ。
「美朱、この間の模擬テストの成績がきてたわよ。」
「ブーーッ!」 味噌汁を、兄の顔に噴出す美朱。
「順位は上がってるわ。でも、城南目指すには、もう少しね。」
「…お母さん、あたしね…ホントは四葉台…」
「でも、美朱なら大丈夫よ!お母さんの期待に応えてくれるわね!」 母は、にっこり!
「そ、そりゃあ、もう!!あは、あははははっ」 美朱は、笑ってごまかすしかなかった。

自分の部屋で、母の言葉を思い出している美朱…
―― 女手一つでも、立派に育ってくれて…母さん、うれしいわ…
「おっと、さっさと日記書いて、勉強しなきゃ…『…図書館で不思議な本を見つけた…』と…」
(それから…あの夢の中の男のコ…額に『鬼』って字があったっけ…
けっこう、カッコ良かったよね、背も高かったし…ちょっとセコかったけど…)
美朱の頭に浮かぶ、助けてくれた青年の姿…
「やめな!」 「うおおおっ腕がっ」 「大丈夫か、美しい人」 「はい!」 ← 美朱の一人芝居…
「美朱…夜食…」 おにぎりを運んできた母が、妙な顔をして見ている…
(いけない、いけない…今は、お母さんのため、受験勉強一筋よ!)
日記に、『それから、セコかったげど、とってもカッコイイ男のコに会っちゃった。は〜と!』と書く美朱。

次の日、学校
帰り支度をしながら、唯が美朱を誘った。
「美朱!今日も図書館行ってみない?あの本といい、夢といい、どーも気になっちゃってさ!」
「ごめん、今日はパス!塾でテストなの。」 
唯の誘いを断って、一人、街の中を塾に向かう美朱。
(いいな、唯ちゃん、余裕あって…あたしだって行きたいけど…街ん中はバラ色のカップルばっかりだし)
ふと、一組のカップルに目をやる美朱。―― お、お母さん…!?
見知らぬ男性と、仲良さそうに寄り添い歩く、母の姿…… 美朱は、その場を夢中で走り去った。
(なんでこんな所に…今は仕事の時間じゃないの?誰?その男の人…恋人?まさかね…)
塾でも、母のことが気になって、テストに集中できない。
(お父さんと別れてから、男の人のことなんて、一度だって…!…信じたくないよ!)

思い気持ちを引きずって、家に帰る美朱…「ただいま…」
ドアを開けると、仁王立ちして母が待っているではないか。すごく怖い顔で…
「美朱!待ってたのよ…あなたって子は!」 「お…お母さん?」
「あなた、男の子と会ってるのね!どうりで最近、様子が変だと思ったら!」
母は、美朱の手を引っ張り、強引に美朱の部屋へ連れて行く。
机の上に、開かれている美朱の日記帳…
「…日記を見たの…?ひどいわ、いくらお母さんでも…」
「どっちがひどいの!中学生が、親の目を盗んで男の子と会って!しかも受験前に!」
「違うわ、これは…」 「今日も、塾へ行かずに、会ってたんじゃないの?」
「お母さん!聞いて…」 美朱の言葉を、聞こうともしない母。
「そんなことで、城南に受かると思ってるの?近所の目もあるのよ。お母さんの立場も考えて…」
「城南なんか、行きたくないもん!!行きたいのはあたしじゃない、お母さんでしょ!!
あたし受かりっこないから、お母さんが受験すれば?お母さんの世間体につき合わされるのは、
もう、まっぴらよーー!!」
パーン!母は、平手て、美朱の頬を殴った。…… 一瞬の静寂…
「…男のコと…会ったのがなんだってのよ…自分はどうなの…自分だって男の人と会ってたくせにー!!」
走って出てゆく美朱。 「美朱!!」
ちょうど帰ってきた兄を、玄関で突き飛ばし、外へ飛び出してゆく。
(何よ、お母さんなんて、ちっともあたしの気持ち、わかってないんだ。毎日毎日、勉強勉強…
遊びたいのも休みたいのもガマンして…いつもいつも、どんな気持ちだったか…
お母さんに、喜んでもらいたかったからなのに!!)
泣きながら、街を走る美朱…と、気づくと、図書館の前に来ている。
(あたし…いつの間に図書館に…)
もう、閉館に近いらしく、数人の学生が帰ってゆくだけで、司書も誰も、中にはいない。
(唯ちゃん、来たのかな…) 美朱は、昨日の『一般者閲覧禁止図書』の部屋に向かった。
今日も、ドアの鍵は開いていて…そおっと中に入ってみると…
通路に『四神天地書』が、落ちている。
「あの本だ…まだ落ちてる。」 その本を拾い上げて、通路に座り込む美朱。
(しばらくここにいて、お母さんを心配させてやろう…)
「読み終わると願いがかなう本…ね…んなワケないだろうけど…最初から読んでみるか。」
(受験もお母さんも、やなこと全部なくなって、唯ちゃんみたいに美人になって、
頭も良くなって、男のコにモテて…ステキな彼氏作って…)
美朱の目に浮かぶ、『鬼』の文字を持つ青年…
「ハッ!なんであのコを思い出すのよ、アレは夢の…」
何気なく見た本の一文に、〜〜 額に『鬼』の証を持つ少年…  〜〜 と、書いてある。
「…え…?」 美朱の鼓動が、高鳴り始める。 ドキン…ドキン…

〜〜 少女、身売りの輩より、友を救わんとする其の時、額に『鬼』の証を持つ少年現れ、是を救ひ… 〜〜

「…なんで?なんでここに、夢と同じことが書いてあるのーっ!?」
すると、突然、まばゆい光が、その本から放たれ、美朱の体を包んだ!
まぶしさに目を覆う美朱!! 「お母…さ…」

『一般者閲覧禁止図書』の部屋の通路に、残されている『四神天地書』…
…美朱は…いない…

パラパラと、本のページがめくれてゆく…

〜〜 …かくして伝説の少女は、異世界の扉を開け放った。
いざ、物語は始まらん。 〜〜


― 第一回 終わり ―


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