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(ブツ)ゾーンの第1話


仏像
それは宇宙が生んだスーパーヒーロー!!

これは 悪を蹴散らし 人間を救うため
さまざまな姿をもって現れた仏像たちの
慈悲と友情の物語である!!


(ブツ)1 仏像を見たら
    ヒーローと思え!!


時は現代──

とある温泉街より この物語ははじまります


温泉街のとある古寺、西岸寺(さいがんじ)

いやよ!! なんなの あんた達は! このお寺はあたしの家なのに どーして出てかなくちゃなんないのよ!?」
「だから何度も言ってんだろ? この土地は もうオレ達 箕浦組のモンなんだよ ここは見はらしがいいからホテルにすんのよ」

黒服の地上げ屋・箕浦組の組員たちを相手に、寺の少女・西岸サチが果敢に怒鳴りつけている。

組員たち「オイ じょーちゃん いつまでこのボロ寺に居座るつもりだ? さっさと出てかねーと痛ぇ目に……」「アニキー」「なんだよ!?」「あ……あれ なんだ?」

無数の腕を備えた仏像・千手観音菩薩(せんじゅかんのんぼさつ)の木像がある。

組員たち「何って…… ただの仏像じゃねーか! てめーアホか!!」「スッ スンマセン! だって手がいっぱいあるから……!!」「オイオイ ンなもんどーだっていーじゃねーか さっさと仕事すませねーとまた組長に……」
サチ「ただの仏像なんかじゃないわ!! 千手観音菩薩よ その無数の手は全ての人間を救う すごい仏像なんだから! 千手観音をバカにしたら あたしが許さないわ」
組員たち「……」「ギャーっはっはっはっ!! オイ きいたかよ!?
サチ「なっ 何よ!!」
組員「……じょーちゃんよ……だったら てめーも救ってもらえよ あんな木に 何ができるってんだよ! オレらをなめんじゃねーぞ!! やれるもんならやってみやがれってんだ!!

組員の1人がサチの襟首をつかみ上げたとき──
なんと寺から千手観音像が飛び出し、数十の拳でその組員を殴り飛ばす。

組員たち「?」「!!」「仏像が!!
サチ「動いた!?

「おい おまえら」

千手観音像に亀裂が入り、砕け散り、中から法衣をまとった少年が現れる。

「女のコに乱暴しちゃだめだろ」

組員たち「なっ! なかからガキが!?」「バケもんだ──!」「おっ 憶えてやがれ!!」
サチ「な……」

あっという間に組員たちが退散して行く。

「やれやれしょうがないやつらだな やあ 無事だったかい? ぼくは千手観音のセンジュ 仏の国からやってきた(ブツ)ゾーンなんだ」

サチ「き きゃ〜〜っ


サチ「ん…… んん……! はっ」

夜の寺の布団の中。サチのそばには、祖父の和尚がいる。

和尚「おおサチ やっと目が覚めたか」
サチ「おじいちゃん!」
和尚「ついさっき托鉢から戻ってのう それにしてもずいぶんうなされとったじゃないか」
サチ「ゆ…… 夢……? そりゃそうよね どうかしてるわ あたしったら お堂の千手観音がとつぜん動き出すなんて……」

和尚の隣に、あのセンジュという少年が、何食わぬ顔で座っている。

サチ「って なんであんたがここにいるのよー!?
センジュ「あっはっはっ おどろいた?」
サチ「おどろいたとか そういう問題じゃないわよ! 何 何なの あなたは!? おじいちゃん! 聞いて!! どうしたか知らないけど こいつ お堂の千手観音を壊しちゃったのよ!!」
センジュ「……」
和尚「これサチ センジュ様に向って こいつ呼ばわりするでない 仏様に対して失礼じゃぞ」
サチ「ホトケ……さま!?」
センジュ「言っただろ? ぼくは千手観音のセンジュ 仏の国からやってきた……」
サチ「どこが!? どー見たって こいつ ヘンで恥ずかしいカッコした ただの人じゃない!! だいたい自分が仏像だなんて言ってんのに どーしておじいちゃん平気なのよ!? まさかボケちゃったんじゃないでしょーね」
和尚「サチ……この日本には仏像が動いた事件は たくさんあるのじゃ 例えば そう…… 『笠子地蔵』とかな」
サチ「ああん それって昔話じゃないですか」
センジュ「あっはっはっ でもそれこそが仏ゾーンの最も有名な伝説なのさ」
サチ「仏……ゾーン?
センジュ「ああ! ぼくら仏は普段 仏の国でくらしてるんだ でも その時は魂の状態だから 地上で活動するには体がいるだろ? そこで仏像の体を借りて 地上での行動を可能とした仏 それが…… 『仏ゾーン』なのさ アメリカ人をアメリカンて言うようにね」
サチ「ふざけんなっ

サチの投げつけた木魚がセンジュに命中。

センジュ「おっ
サチ「何が仏ゾーンよ!? 人をバカにするにもほどがあるわ! あんた何様のつもり!?」
和尚「こっ これ! サチ!」
サチ「あっ 仏様って言うつもりね! もう頭にきたわ! いったい その仏様がなんの用だったのよ!!」
センジュ「それは ぼくら仏の王 大日如来(だいにちにょらい)様の命令なんだよ……」

──仏国土(ぶっこくど) 金剛法界宮(こんごうほうかいきゅう)──

センジュ「ええっ ミロクを守れですって!?」

仏王(ぶつおう)・大日如来の前に呼ばれたセンジュ。
大日如来に仕える不動明王(ふどうみょうおう)フドウ、愛染(あいぜん)明王アイゼンもいる。

フドウ「さよう 大日如来様はこの重大な任務をお前に与えたのだ」
センジュ「……!」
アイゼン「我々 仏が地上へ赴く事はそうめったいない 有難く思えよ 千手観音」
センジュ「あ あの…… ミロクって何?」
フドウ・アイゼン「アホッ
フドウ「ミロクとは シャカ様の死後 五十六億七千万年の後 地上へ生まれかわり 人々を救う仏ではないか!!」
アイゼン「あのシャカ様の後継者 未来の救世主 それこそが弥勒菩薩(みろくぼさつ)なのだ」
センジュ「? ? ? ? えっ でも五十六億年って……まだまだずっと先の話なんじゃ?」
大日如来「センジュ (ねん)とは人の想い つまり“(ねん)”と思いなさい
センジュ「“念”!?
大日如来「そう──今まさに地上の人口は五十六億七千万人に達したということです かつて シャカを人として地上へ送りこんで以来 約二千五百年──人はもはやその教えを忘れ あらゆる欲望に身をこがしています 金欲 物欲 権力欲 食欲 肉欲…… 地上には人の数だけ煩悩が満ちあふれ 悲しい争いがたえません ミロクはすでに地上に現れています ただし今はまだ悟りを開かず 普通の人として暮らしている あなたの役目は人として生まれた弥勒を守り 悟りへと導くこと

センジュ「“そして人々を救いなさい”ってなわけさ」
和尚「なんと……! あのミロク様が復活すると……!?」
サチ「いいかげんにしてよ!! 作り話はそれまでよ あんたが何者かなんてどうでもいいけど 仏様じゃないのは確かね」
和尚「サチ!! やめんか!」
サチ「何よ…… あんたが仏様って言うんだったら なんで…… なんであたしは救ってくれないのよ! なんであたしにはパパもママもいないの? どーして あたしはこんなボロ寺でお金に困りながら生活してなくちゃなんないのよ!! いいもん! あたしだって本当は 仏様なんか信じちゃいないんだから!! もう知らない ねるっ!
和尚「サ……ッ サチ……」

涙を浮かべて激昂するサチが、部屋を飛び出す。

和尚「やれやれ お見苦しい所を見せてしまったのう 聞いてのとおり あの()はみなしごでな…… あれは そう……10年前の 雪の降る正月のことじゃった ゆく年くる年を見たいのをガマンして 除夜の鐘をつきに行ったわしは なんと捨てられとるあの娘を見つけたんじゃ 書き置きの一つも残されてはおらなんだが なぜかわしは この娘が仏様からさずかった娘のような気がして ひきとることにしたんじゃ ただ 男手一つで育てたせいか どうも あの勝気な性格にはまいるわい ほっほっ!」
センジュ「ほっほっほっ ……」


翌朝。サチは早くから、近所の牛乳配達に出かける。

サチ「ふわ…… ねむ…… 昨日はイライラして ちっとも眠れなかったわ」

(センジュ『センジュかんのんさ』)

サチ (何よ 手が二本しかないくせに バカじゃない!?)

近所のおばちゃんが声をかける。

おばちゃん「あらサッちゃん! 今日も牛乳配達かい? 偉いわねー毎日毎日」
サチ「あっ だがしやのおばちゃん おはよーございます」
おばちゃん「ねえねえサッちゃん! あのかわいい男の子 だれなの? お寺から来たっていってたけど もうすごい騒ぎよ ウフッ!!
サチ「まさか……!!」

近所の空き地でセンジュを老人たちが囲み、拝んでいる。

老人たち「ありがたや ありがたや」
センジュ「……」


サチがどうにか、センジュを老人たちのもとから連れ出す。

サチ「もう! 何 有難がられてんのよ! あたし恥かいちゃったじゃない!!」
センジュ「ああ 散歩してたら つかまっちゃったんだよ」
サチ「そんなカッコでブラついてるからよ!! みんなをだましてるみたいで わるいわ!!」
センジュ「…… 別にだましてもいいんじゃない?」
サチ「なっ……何言ってるの あなたやっぱり……」
センジュ「ちがうって あのおばあちゃんたちは 拝むことで幸せな気持ちになれるんだよ だって拝むってのは結局 自分の心にすることだもの わかるか? 要は考え方しだいってことだよ」
サチ「わからないっての! 何それ! あんたやっぱりムカつくわ!!」
センジュ「じゃあムカつかなきゃいいんだよ」

そばを黒い車が走って行く。

サチ「! あの車! 大変! 昨日の連中だわ!! お寺の方へ向かってる! 急がなきゃ!!

怒涛の勢いで、サチが車を追いかける。

センジュ「おお……!!」


サチ「はあ はあ そんな…… お寺が……」

すでに寺は、ショベルカーで完全に壊された後だった。

「フッフッフッ なかなか立ち退いてくれないのでね しかたなしに こうさせてもらったよ!」

そういって現れたのは──

サチ「箕浦組組長! マイク箕浦!
箕浦「フッフッ いかにもこのわしが この町の権力者 マイク箕浦だ ところで……昨日はウチの(わけ)ぇのが世話になったそうじゃねえか」
昨日の組員たち「……」

和尚は組員たちに取り囲まれている。

サチ「!! おじいちゃん!
組員「おおっと!」

組員の1人が、サチを取り押さえる。

箕浦「よう小娘 例の仏像のガキってえのはどこいいる?
昨日の組員たち「組長 オレ達なら 別にもうなんとも……」「ケガだってホラ 傷一つないわけだし……」
箕浦「うるせえ!! 箕浦組が ガキになめられてだまってられっか!!」
サチ「フン なめるなだなんて笑わせるわね 相手はたかが へんなかっこした男の子一人なのに こんなくだらない連中にあたしのお寺 壊されるなんて!!」
箕浦「……この!!

少しも怯まないサチを、箕浦がひっぱたく。

サチ「!
和尚「サッ サチ!」
組員「!」
箕浦「小娘!! 二度と なめた口きくんじゃねえ! 売りとばすぞ!!」
サチ「……くっ」
和尚「サチ!」
組員「ジジイ! 動くんじゃねえ!」

おい

突然、背後に現れたセンジュが、箕浦をひっぱたく。

箕浦「ふごっ」
センジュ「女のコに乱暴しちゃだめだって言っただろ」
サチ「!!
箕浦「……!! な……このガキが……!?」
サチ「センジュ君!!
センジュ「お寺 壊れちゃったな」
サチ「バカッ のんきな事言ってる場合じゃないでしょ! こいつら あんたが狙いで」

組員たちが一斉に、センジュにピストルを向ける。

センジュ「!
サチ「ピストル!?」
箕浦「フフ……いきなりわしを怒らすとは バカなガキだ わしをただの地上げ屋だち思ったら大間違い これでもギャング出身よ この マイク箕浦 ガキ一人殺すぐれえ ちっともわけねえんだぜ 生意気にほりものなんぞしおってからに!」

センジュの背には、花のような模様がある。

センジュ「これかい? これは刺青なんかじゃないよ この左うでについている『天衣(アーマー)』の接続部の目印みたいなものさ」

左腕につけた腕輪がキラリと輝く。

センジュ「そして この『天衣』こそが仏ゾーン最大の特徴なんだ」
箕浦「?

すでにピストルが、センジュのこめかみに突きつけられている。

センジュ「それより これって人を殺す道具なのか? だめじゃないか こんなの持ってちゃ もし なんかしてみろ ぼくの『天衣』がだまっちゃいないぞ」
箕浦「ぬっ いつまでもわけのわからねえこと ぬかしてんじゃねえ!! てめえら!! こいつをブチ殺しちまいな!!

組員たちが一斉に発砲。獣性が響く。

サチ「! セッ……!」
箕浦「イヤッハ──ッ

もうもうと硝煙があがる。

サチ「……!! きゃあああ!! センジュ君!!
箕浦「どーだ!! わしに逆らえばどういう目にあうか!?」

センジュ「どういう目にあうって?」

箕浦「はっ!? んなっ な な な な な な な な な な な な な な な な な な な な な な な な な な な な な ななな なんじゃこら──っ うわっちゃーっ

センジュの左腕の腕輪が無数の腕と化し、背に装着され、すべての銃弾を受け止めていた。

センジュ「千手天衣(せんじゅアーマー) 「印」を組むことであやつる千手観音専用“天衣”
箕浦「な…… アーマーだと……!? こいつぁいったい 何者なんだ……!?」

「千手観音菩薩のセンジュ その無数の手は全ての衆生を救う仏ゾーン!!」

センジュに千手観音菩薩像のイメージが重なり、飄々としていたセンジュの顔つきがガラリと変わる。

サチ (…… あの眼差し あの姿…… まさかセンジュ君は本当に……!?)

箕浦「なんじゃ そりゃ!! ええーい てめえら何してやがる!! 早くこいつを……!」

すでに組員たちは退散し、残るは箕浦ただ1人。

箕浦「うおっ だれもいねぇっつーの
和尚「もうよろしいでしょう 箕浦さん センジュ様はああ見えても 仏の国からやって来た正真正銘の仏様 とうてい人間の適う相手ではないのですぞ」
サチ「おじいちゃん……」
箕浦「ホトケだと……!! んなもん いてたまるか このボケジジイ!!

箕浦がサチを捕え、ピストルを突きつける。

和尚「サチっ!!」
箕浦「ハッハッハッ 動くんじゃねえぞ! この娘とバイバイしたくなきゃな!!」

サチが箕浦の腕に噛みつく。

箕浦「ぐわっ かむんじゃねえ! ちくしょう! どけっ! もうてめえに用はねえ!

箕浦がサチを突き飛ばし、自らショベルカーに乗り込む。

サチ「きゃっ
和尚「サチッ 大丈夫か サチ!!」
サチ「おじいちゃん!」
箕浦「千手天衣だかなんだか知らんが 珍妙なもんをつけおって!! そんなおもちゃにわしがだまされると思うか!? この世にゃ神も仏もいねえんだ! そんなにホトケを名乗りたかったらな…… 死んでホトケにでもなれや! てめえら全員まとめておシャカにしてやるぜ!

ショベルカーがセンジュ目がけて突進。

センジュ「観音菩薩は慈悲の仏像 慈悲とはいつくしみの心──だが…… 仏の顔も三度までだぜ
箕浦「なっ
センジュ「仏の教え“十悪”のひとつ『殺生』!! それは 最も人がしてはならないおこない!」

「南無観世音菩薩 全手一斉射撃 千手パンチ」

センジュの無数の腕のパンチで、ショベルカーが粉砕。あっという間に鉄クズと化す。

箕浦「! …… あい? 鉄のボディがこなごなに……?」

無防備となった箕浦に、さらにセンジュが詰め寄る。

箕浦「! うおっ ままま まってくれ!! お前がホトケなのはよーくわかった!! そのホトケがなぜ老人や子供ばかり助ける!? ホトケが人をえこひいきしていいのか!?」
センジュ「…… かんちがいするなよ これで お前が地獄に墜ちる可能性はへったんだ ぼくはお前を救ったんだぜ」

和尚「うむ……あれぞ「もれなく救う千手観音」じゃ」
サチ「センジュ君……」

木陰で組員たちが、その姿に見惚れている。

組員たち「かっこいいー」


後日。

とある古びた家に、和尚が「西岸寺」の看板を掲げる。

和尚「すまんのう こんな借家暮しで」
サチ「あら あのボロ寺よりはよっぽどましな家じゃない」
和尚「ほう! それは一体どういう心の変化じゃ?」
サチ「あたしね センジュ君の言ってた事が一つわかったのよ あたし みんなと違ってパパもママもいないのが とてもつらかったわ」
和尚「……」
サチ「でも そのおかげで こんなに優しいおじいちゃんに育ててもらえたの! 考え方をちょっと変えるだけで こんなにもうれしくなれるなんて知らなかったわ」
和尚「サ サチ……」
サチ「じゃあ あたしこれから牛乳配達行かなくちゃならないから」

声「はっはっはっ やっとわかってくれたみたいだね」

屋根の上から、センジュが2人を見下ろしている。

サチ「セ! センジュ君! なっ 何してんのよ そんなところで!! あんた そのミロクだかなんだかを探しに行ったんじゃないの!?」
センジュ「あっはっは 大丈夫だよ だって きみこそがミロクになるべき人なんだから」
サチ「は?

相変らず笑みを絶やさないセンジュ。

サチ「ちょっ ? !? ちょっとまってよ! 何言ってんのよ ? ねえおじいちゃん 今のきいた!? あたしが……」

和尚は涙に震え、手を合せている。

センジュ「はっ またボケてる!?」
和尚「な……なんと サチがミロク様だったとは!」

サチたちのもとへ飛び降りるセンジュ。

センジュ「よっと! ぼくが君の前に現れたのは そのためなんだよ まだ悟ってないんだから とまどうのは無理もないけど……」
サチ「!」
センジュ「ぼくの役目は きみが悟りをひらくべき ある場所までお供することなんだ さあ ぼくと旅に出て目覚めるんだよ!」
サチ「旅!? ? ? ? 目覚めるだなんて そんな! あたし起きてるわよ!
センジュ「……」


(続く)
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