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END ZONE

ZONE.1  時間よ止まれ



不思議な空間に立つその男…
弔いかとも思える黒いスーツに身を包み、
形のいいスキンヘッドと不気味なほど整った顔立ちは、
さながら、男装の美しき尼のようでもある。


・・・ END ZOON それは不思議世界
それは どこにでもある
あなたのすぐ隣にも存在します
しかし
それを体験することは難しいでしょう
私は案内人のムーと申します
これから みなさんに3つの不思議世界を体験していただきます

さて みなさんは 超能力を信じますか?
スプーン曲げ 念写 予言 念動力(テレキネシス)
いろいろありますが
もしも時間を自由に操ることができたら
何をしますか?
正しいことに使いますか?
それとも悪事に使いますか?

それでは 最初の不思議世界です ・・・



第1話 時間よ止まれ


マッハの男『ミスターK』
高速イリュージョン会場
「高速で動く男ミスターK!!
今日は、どんなイリュージョンを見せてくれるのか!?」
蝶ネクタイの司会者は、人の良さそうな笑顔でその男を紹介した。
鋭い目つきで、まるで観客を威嚇するように
Kはステージで、両手を挙げた。
― 俺には超能力がある。俺の超能力について知っている人間はいない。
ちょっとわけありで、テレビや雑誌のメディアに出ないようにしている。
それは、自分の超能力を知られないためである。 ―
「瞬間移動、瞬間消失と、すばらしいイリュージョンを見せてくれる
ミスターK、今回彼が挑戦するものは!?」
司会の言葉に合わせ、アーチェリーの名手とコンパニオンが登場。
コンパニオンは、黒い布で、Kに目隠しを施した。
「目隠しをしたミスターKに矢が放たれます!!
ミスターKは、その矢をかわして素手でつかむというのです。」
― 超能力に気がついたのは、人の動きがスローモーに見えることが
あった時だ。それは、実は逆で、自分が高速で動いていたのだ。 ―
「いよいよ、矢が放たれます!!3秒前!」
― 俺は、その能力を磨き、力を増大させ、1秒を10秒に、さらに30秒、
1分と伸ばすことができるようになった。 ―
「2秒前!」
― 人のサイフを盗み、気にくわない奴はボコボコにしてやった。
一般人は俺の早い動きに気付くこともできないのだ。 ―
「1秒前!」
― たいていの悪事に飽きた俺は、有名になろうと
こんなパフォーマンスを思いついたというわけだ。 ―
目隠しをして、的に張り付くK。
観客が固唾を呑んで見つめる中、Kに向かって矢が2本放たれた!!
カッ!!
Kが念を込めたその瞬間、まるで時が止まったかのように、
ゆっくりとその流れを変え始めたのだった。
Kは、目隠しをはずし、自分に向かって跳んできた矢を指で押さえ、
ステージから、客席に降りていった。
― 念じた瞬間から俺の能力が発揮される。
一回念じると、3分間はゆっくり動く。実際は0.5秒だ。
ただし、絶えず動いていないと、人の目には残像として俺の姿が見えてしまう。
気をつけなければ。
会場は撮影禁止にしてはいるが、カメラを隠し持っている奴がいる。
シャッタースピードが早いと写ってしまうことがある。
いざとなれば、カメラは壊す。
金持ちそうな奴からは、金をもらう、いつもの事だ。 ―
Kは、観客の金などを奪いながら、奥へと進んでゆく。
…と、客席の一角に
『世界平和の会 日本支部 神力統一』
と書かれた看板を掲げた一団を見つけた。
着物を着た老人を挟んで、サングラスをかけた若い男と女。
「なんだァ?こいつら。世界平和の会?バッカじゃねーの。」
Kは、思い切りコバカにしながら、その席へと近づいた。
「なんの力もない人間が何人集まろうと、何もできやしねえよ。
じじいがエラソーに、けっ!!
いいか、人生は楽して楽しむものなんだよ。
自分さえよけれりゃそれでいいんだ。
いい女連れてんじゃねーか。じじいの相手はもういやだろう?
まだ時間がある。俺を楽しませてくれよ。」
Kが、サングラスの女の胸に手を伸ばしたその時!!
「全然遅いな。」
着物の老人が、Kの手をつかんで言った。
!!!!!!
「わしは0.1秒の時間を5分に延ばし動けるんじゃが、
全然遅いみたいじゃな。」
がく然とするK。
― 俺は、老人が早口でしゃべる言葉は聞き取れなかったが、
俺よりすごい能力であることはすぐ理解できた。 ―
すると、サングラスの男と女もサッと立ち上がる。
― こいつらも!? ―
老人は、静かに話し始めた。
「あなたの行動・考え、すべて拝見させてもらいました。
すごい能力がありながら、悪事にしか使わないとはなげかわしい。
有益に使う気は、ないようですな。」
― 老人の言葉は聞き取れず、返答する間もなく、女に倒されステージに戻された。
力の問題じゃない。速さが違うのだ。
奴らは、俺の何倍もの速さで動けるのだ!! ―
あっという間に、ステージの先ほどの的に固定されるK。
何の抵抗も出来ないまま…。
「残念ながら、わしらのメンバーに入れることは出来ませんな。
ま、その気もないじゃろう。
万が一、その能力がわしらより強大になってしまったら、
あなたの暴走を止める者がいなくなってしまう…。
残念…まことに残念。」
― 何を言っているのかわからないが、俺を殺すつもりか。
バカめ!まだ間に合う。矢をかわせるし、つかむことも出来る。 ―
Kは、そう自分の力を信じて疑わなかった…が、
宙に浮いていた矢に、老人がスッと手を添えた。
「加速をつけました。よけられますかな。」
― 矢はものすごい速さで…いや、もう俺には、
矢が見えない!! ―
「ギャアアアアア…」



・・・ 上には上がいる
みなさんも気をつけてください

芸能人やプロスポーツ選手 テレビで活躍している人はたくさんいますが
みなさんは それらの人たちが 選ばれた人間だと思いますか?
いいえ 彼らは才能と努力で認められた人たちなのです
あなたには 何か才能がありますか?
特技がありますか?
ひょっとして 何もない?

そんなあなたが 大切なことに選ばれたとしたら
どうします? ・・・



第2話 アダムとイヴ


とある学校
「わっ!!」
教室で目を覚ます少年。
周りには、誰もいない。
「な…なんだ。どーなってるんだ!?
みんないなくなっちゃった。ちょっと居眠りしている間に…
夢なのか?」
窓を開けて校庭を見ても、人影はない。
その時…
『選ばれし者よ』
どこからともなく聞こえる不思議な声。
「へ?だれ?…って、だれもいねーな。」
『選ばれし者よ』
「わあ、オバケか!?」
『オバケではない』
「じゃ、なんだ?姿を見せろ。」
『残念ながら 君らとは次元がちがう存在で 
姿を見せることはできなのだ』
「いったい誰なんだ?」
少年は、その声とじっくり話してみたくなり、椅子に腰掛けた。
『わかりやすく言うと 地球観測係だ』
「なんだよ、それは!」
『地球をモデルケースとして 知的生命体を作り出す実験中なのだ』
「うそだろ〜〜」
『海を作り 気温気圧をコントロールし 最適な条件で私は待った
数十億年も待ったが 知的生物は現れず 私は落胆した
恐竜と呼ばれる生命体に期待はしたが 文明を作ることもせず
弱肉強食の世界が続くだけだった
そこで 恐竜を絶滅させることにしたのだ
たしか6千5百万年前だ』
「うそだろ〜〜!」
頭を抱える少年。
声は続けた。
『そして二足歩行のほ乳類が現れ 道具を使い 規律を決め
文明らしきものが生まれた
彼らの脳は大きく 無限の可能性を感じることができたのだ
私は DNAを操作し ネアンデルタール人 そしてクロマニョン人
いろいろ作ってみた』
「あんたは神様か!?」
『そして今に至るのだが 私は落胆した』
「なんで?どこが?」
少年は、ちょっと投げやりなカンジでその声に尋ね、
机に顔を伏した。
『人間は国境を作り いがみ合い 戦争を好み
自然を破壊しているではないか!』
「オレに言われても…」
『私は 人類も絶滅させることにした』
「へ?」
驚いて、顔を上げる少年。
『数時間後に 地球は大隕石群によって すべて破壊される』
「うそだろ〜〜!」
『しかし人間は まだ希望がある
今一度チャンスを与えようと考えたのだ』
「みんな死ぬんだ。」
『百組のオスメス いや 男女を選び 千年後の世界に送り込もうと思っている
新しい世界を創って欲しい
君は 選ばれたのだ』
「オレが!?」
少年は、思わず立ち上がる。
『自然と動物を愛し 戦争が大キライではないか』
「確かにそうだけど、オレ死なずにすむわけ!?」
あっという間に少年の頭の中に、美しい楽園が広がった。
(…ということは、学校もないんだ。早起きもしなくていいし、
毎日のんびり、かわいい女の子と…)
「…って、ちょっとまった!百組の男女を選んだって…
その中に、オレの結婚相手となる女の子がいるのか?」
『そうだ この地区から一組選ぶことに決めたのだ
廊下に出てみるがいい』
「廊下!?」
少年が、急いで廊下に出てみると、少女が一人、うつ伏せに倒れていた!
「ああっ!!」
『彼女は 現実を理解できずに失神してしまったのだ』
「この子が…オレの相手…」
そっとこの子に近づき、肩に手を掛けて身体を反転させてみると!!
お世辞にもかわいいとは言えないその顔は…
「うそだろ〜〜っ!!となりのクラスの寺嶋!?」
顔を半分崩して叫ぶ少年。
『さわがしい奴だな』
「神様、ちょっと待ってくれー」
『神ではないが』
「他の女の子に代えてくれ。」
『なぜだ DNA検査による最高のパートナーだ』
「DNAなんかどーでもいいんだ!!
同じクラスの沢口由加にしてくれー」
少年は、飛び切りカワイイ憧れのクラスメートの名前を言った。
『それでは遺伝子的に…』
「いや、オレは彼女でなきゃだめなんだ!
人間には相性ってものがあるんだ。
この子とオレは絶対合わない、わかるだろ!?」
気絶したままの寺嶋の顔を、声のする方に向ける少年。
『わからないが
私はDNA遺伝子を優先する
その結果 お前の相手を…』
「うるさーい!!
男なら誰だって沢口由加と仲良くなりたいと思ってるんだよ!!」
『そういうものなのか
わかった お前の意見を 取り入れるとしよう』
「ありがとうございます、神様…」
少年は、ニッコリ笑って両手を合わせた…

「かみ…!」
少年が目を覚ますと、そこは教室…しかも授業中!
「えっ、あれ…」
少年の目の前に立つ先生は、とてもイヤミたらしく言った。
「私の授業は、それほどつまらないかね?」
「あっ、いえ、あの…」
(なんだ、夢だったのか?やけにリアルだったぞ)
少年がそう思った時だった。
「キャ!」
突然、一人の女子が悲鳴をあげた。
「どうした!?」
「沢口さんが!!目の前にいた沢口さんが消えました!」
驚く先生、クラスメートたち。
(沢口由加!?)
少年も、由加の座席を見たが、確かにその椅子には誰も座ってはいない。
「どこへ行った?」
「違うんです。急に消えたんです!!」
先生の質問に、半泣きで答える少女。
(『お前の意見を取り入れるとしよう』…って神様は言ってたっけ。
それじゃあ、夢じゃなかった!オレと彼女と…!?やった!)
少年は、顔を真っ赤にして喜んだのだったが…
「先生、吉田の奴も消えたんスけど。」
いつもボーっとしている吉田の、後ろの席の少年が言った。
「いったいどうしたというんだ?トイレじゃないのか?」
困惑する先生。
(吉田!?…ま、まさか…)
青くなる少年…

『私はDNA遺伝子を優先する…』

少年の頭にこだまする、先ほどのあの声。
(オレの意見を取り入れると言って…たしかに沢口が選ばれ…
そのパートナーとして、オレではなく、
遺伝子的に吉田が選ばれたのか?)
「オレはどうなる。」
教室の真ん中で、立ち上がる少年。
「残されたみんなはどうなる…
うそだろ〜〜!!」

今まさに、地球に向かって隕石群が押し寄せていた…



・・・ もし あなたが選ばれたのなら
わがままを言ってはいけません

さて みなさんは生まれ変わりを信じますか?
前世が気になる人もいるかと思います
前世が人間ならまだしも 動物かもしれません
ましてや ただの物だったらどうします?

では 3つめの不思議世界です ・・・



第3話 再会


『TOY STORE DREAM KIDS』
小さなオモチャ屋のショウウィンドーに並べられた人形たち。
そこへ今日、一体の新しい人形が加わった。
とても可愛らしい、女の子はみんな欲しがるような、そんなお人形…
「やあ、新入りだね。」
昔の貧しいエントツ掃除の少年を思わせる人形、スキップが、
真っ先にその子に声をかけた。
「あ…あの私、メアリーと言います。」
「オイラ、ボロ服のスキップ、よろしくな。」
スキップは、赤いほっぺに継ぎはぎだらけの服が、とてもよく似合っている。
「私、キャイランあるよー」
謎の中国人とでも言おうか、肉まんみたいなまあるい顔の人形、キャイラン。
「モンガーだーョ。」
こちらは、原始人スタイルのちょっと大きな人形、モンガー。
4体の人形たちは、すぐに仲良しになった。
「私、これからどうなるの?」
不安そうなメアリーに、スキップはやさしく言った。
「心配かい?オイラたちは、子供たちの遊び相手になるんだよ。
さんざん遊ばれ、ボロボロにされ、捨てられちゃうのさ。
でも、心配いらないよ。
子供と仲良くなれた人形は、人間に生まれ変わることができるんだよ。」
「ホント?」
「メアリーは、きっとかわいい子になるあるよ。」
と、キャイラン。
「だーョ。」
と、モンガー。
「お互い人間になれたら、オイラとデートしてくれよ。」
スキップは、一目見て、メアリーが大好きになったのだ。
「ええっ!?…私でよければいいけど…」
メアリーは、そう答えながら、ほっぺをピンク色に染めた。
「スキップ、ズルイあるよー」
「だーョ。」
「へへっ、こういうものは、早い者勝ちなんだよ!
じゃあ、会った時の合い言葉を決めようよ!
合い言葉は、この店の名前『ドリームキッズ』だ。」
「わかったわ。」
「あー早くデートしてーなー。」
「ウフフ。」
(メアリー…)
(スキップ…)
メアリーとスキップは、お互いをじっと見つめ、
いつか人間になってデートできる日のことを考えていたのかもしれない。
しかし、幸せな時間は、そう長くは続かなかった。
かわいいメアリーは、すぐに女の子の目に留まり、
買われていった…

それから、何年か後…
ステージで歌い踊るアイドル、メアリー。
今や、大人気のアイドル歌手として活躍していた。
今日もステージを終え、控え室に戻ると、
「メアリー、今日のライヴも大成功あるよ。」
そう声をかけたのは、メアリーのマネージャーをしているキャイランだった。
「今夜もお出かけあるか?」
「モチロン!モンガー、運転お願い。」
「だーョ。」
なんと、モンガーは、メアリーの運転手をしていた。
口調は相変わらずだが、立派なスーツを着ている。
メアリーは目立たない私服に着替えると、
モンガーの運転で、キャイランと共に町へ出かけていった。
「つけられてない?」
「モンガーの運転、心配ないあるよ。」
「あっ、止めて。」
路上に座り込む男を見つけて、メアリーが言った。
ホームレス風のその男は、車からアイドル歌手のメアリーが降りてくるのを見て
目を白黒させて驚いた。
「あんた、メアリーだろ!?知ってるよォ!」
そんな男に、メアリーはやさしく微笑んだ。
「ウフフ、合い言葉は?」
「合い言葉?」
男には、何のことかわからないらしい。
「何でもないの。これで元気出してね!」
メアリーは、そう言って男にお金を渡した。
「ありがてェ!世界中のホームレスに愛の手をさしのべるアイドル、
メアリー!あんた、サイコーだ!!」
メアリーは、夜毎、町を回ってはホームレスの人たちに声をかけ、
合い言葉を尋ねたが…誰一人、答えてくれる人はいなかった。
「メアリー、今夜もスキップは見つからないあるか?」
「ええ…」
「スキップのやつ、合い言葉、忘れたんじゃないあるか?」
「そんなことないわよ!」
(スキップ…あなた、いったいどこにいるの?
ウソだったの?私をからかっていただけなの?)
車の窓から、ぼんやり夜の町を眺めるメアリー。
「あ、止めて、止めて。」
突然、メアリーが叫んだ。
路地の階段に、小さな男の子が座っているのを見つけたのだ。
その姿は…あの人形のスキップにそっくりだった。
(スキップ、あなたまさか…子供に…?)
そっと近づき、メアリーは恐る恐る、その子に尋ねた。
「合い…言葉は?」
「何それ?オイラに何かおくれよ。」
小さな両手を差し出すその子の頭を、メアリーはやさしく撫ぜ、
そして、お金を渡してやった。
「ありがとー!」
うれしそうにお金を持って歩いてゆく男の子の後姿を見ながら、
メアリーは、ポツリとつぶやいた。
「夢だったのかしら?今までが…すべてが…」
それを聞いたキャイランが言った。
「でも私たち、ちゃんと三人こうしてめぐり会うことができたあるよ!」
「三人とも同じ夢を見て、現実と錯覚してしまったのよ。」
「メアリー…。たぶん…スキップは、
人間と仲良くなれなかったんだ。」
キャイランが、そう言ったその時だった。
さっきの男の子が、路地に入るところでこちらを振り向き
「おねーちゃん、さっそく使わせてもらうよ!」
と、にっこり笑ったのだ。
「ぼうや…」
気になったメアリーたちがその子についてゆくと…!!
その子が向かった先には、あの店が…!
『TOY STORE DREAM KIDS』があったのだ。
窓越しに中を覗く男の子。
メアリーが、ウィンドーの中を見てみると…
そこには、あのスキップの人形が!!
メアリーの目から、大粒の涙がこぼれた。
「あの人形、オイラにそっくりだろ?
ずっと欲しかったんだ。」
男の子は嬉しそうに、店に入って行った。
「お人形、ちょーだい!!」
笑顔になるメアリー、キャイラン、モンガー。

スキップ…あたしたち、ずっと…

待ってるからね!!



・・・ END ZONE それは不思議世界
      では また次回 お会いしましょう ・・・


ZONE.1 終わり

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