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し て る ぜ ベ イ ベ ★ ★

〜 第1話 彼女(ゆず)は☆5歳! 〜



女の人に手を引かれ歩いている少女。
手には、しっかりとクマさんのぬいぐるみを抱いて…。
二人は『片倉』という表札のかかった家の前で止まった。
大きな瞳で、表札をじっと見つめる少女。


とある高校の屋上
膝を突き合わせ、向かい合ってしゃがんでいる男子生徒と女子生徒。
「え〜っヤだよ。結平、いっぱい付き合ってる子いんじゃん。」
そう言った女子生徒の髪をそっと撫ぜる男子生徒―片倉 結平(かたくら きっぺい)。
茶髪にピアス…、今どきと言えば今どきの…
が、どう見ても真面目な男子高校生には見えない。
全身で『オレってモテるんだぜっ!』とふれ回っているような、そんなカンジ。
「何で?オレ、誰とも付き合ってねーもん。」
「じゃあ、アタシが一番がいい…。
結平の一番にしてよ…」
「…いいよ。」
見つめあう二人…。
唇を近づけたその瞬間!
そこへやってきた先生に、
バゴーーーン!
結平が、思いっきりオデコにげんこつを食らって吹っ飛んだ。
「痛って〜な、先生!何でこんなトコに?
授業中じゃん!?」
「そうだっ!授業中だっ!!
その授業中に、オマエは何をしている!?」
げんこつを振り上げて怒る先生。
「何って…あ!」
結平の方を見ながら去ってゆく女子生徒。
「あ〜…」
オデコを押さえながらそれをボーっと見ている結平を、
先生は、ものすごい顔で怒鳴りつけた。
「オマエはちょっと目を離すと、あっちでイチャイチャ、こっちでチヤホヤ…
もう学校来んなっ!!!!!」

結平の教室
オデコに真っ赤なタンコブをつくり、ムスッと座っている結平の背中に、
後ろから両腕を巻きつける女子。
「えへっ!どーしたの?結平!オデコすっごいよ。
フハハハ!ヒヒヒヒ…!」
「授業中女の子と戯れてたら、先生に見つかってド突かれたって!
は〜い!バカ!」
手を叩いて、この上なく楽しそうに説明する男子生徒。
「ねぇねぇ、触っていい?」
「ダメっ!」
慌ててオデコを隠す結平。
「学校でバッカじゃないの?な?ココロ?」
ちょっとクールな女子が、後ろ向きに座ったままの女子―徳永 心(とくなが こころ)に
声をかけると…
心は、無表情に振り返り、じっと結平を見たが、
ニコッと笑った結平を無視し、すぐまた向こうを向いてしまった。
長い爪にピアス…心もそんな女子高生だった。
「あら…?」
無視を食らった結平の耳を引っ張りあげる女子。
「誰でもかんでも手ェ出してると、バチ当たんだかんねっ!」
「オレは、手ェ出してないよ。女の子が寄って来んの!」
「うわ〜っ!死ね〜っ!!何でみんな騙されるんだ??
お〜い!!」
男子生徒が、そうふざけて叫んだ時、
心が、かばんを持って椅子を立った。
「あれ?心ぉ、帰んの?」
「ん。」
「まだ2時間目だよ?」
「なんか今日はダルイし…」
髪をかき上げながら教室を出てゆく心。
「…気をつけなよ。」
見送る友だち。
それに混ざって心を見ていた結平に、
心はちょっと足を止めて言った。
「バーカっ。」
「うっ…」
一瞬、言葉を失う結平…。
しかし、ちょっと考えた後、
「なんかオレ、時々…、徳永ってオレのこと好きって思うことがあるよ。」
と、平然と言った。
「気のせいだと思うよ。」
あっさりツッコむクールな女子生徒。


その頃、片倉家では、
結平の母と姉が…
「何ですって?」
母の話に驚く姉。
「だからね。」
「じゃあ…」
「そうなのよ。」
「どうするの?」
姉の視線の先では、冒頭でこの家にやってきた少女が、
クマさんのぬいぐるみを抱えて、テレビを観ている。


高校、放課後…
下駄箱で、突然後ろから女子に飛びつかれる結平。
「き〜っぺ〜っ!!もう帰んの?」
「帰るよ。」
「でぇ〜、暇なん?」
「ド暇!」
すると、横に立っていた別の女子が言った。
「暇なら暇って言えよ!」
「じゃあ、ウチらと遊ぼうよぉ。最近遊んでないじゃん!」
「ああ…いいよ!」
「わぁ〜い!!」
「…どうでもいいけど、重いんだよね。」
結平の背中から降りる女子。
「どこ行く?」
「結平んちっ!!」
「ダメ。」
その時、結平の携帯が鳴った。
「あ、ちょ待って。」
…と、結平が携帯を開いてボタンを押したとたん!
『結平〜っ!!アンタ今日今すぐ帰って来なっ!!!
寄り道したら殺すっ!いいね!!』
辺り一面に響き渡る女の声…一方的に怒鳴り…そして切れた。
・・・・・・・・・・
「な…なに…今の。」
固まる女子…。
「あ、ああ、やっぱ悪い。今日は帰るわ…」
「ああん、何でよ?」
「しょーがないの!急用なんだから。」
そう言い残し、帰って行く結平。
その場に残った女子二人…。
「やっぱあの噂、本当なのかな…?
ほら、結平が年上の女と同棲してるっつーの。」
「え〜っ、や〜だ〜っ!!」
「…そんな、ヤダと言われても…」


「オレ、なんか怒られるようなことしたっけ…??
…ただいまぁ。」
ブツブツ言いながら、結平が玄関のドアを開くと…!!
そこに小さな女の子が!
「…え?」
しばしカタマッた後、
少女の目線までしゃがんでみる結平。
「え…ねーちゃん?」
するとその子は一言…
「ゆずゆ。」
「ゆずゆ…って??」
そこへ現れた年上の女性!?
「バカかオマエは…」
「あ…」
「なぁにが『ねーちゃん』だぁ?」
「ああ、びっくりした!ねーちゃんがちっこくなったのかと…」
「アホっ。」
そして、ねーちゃんは態度をコロッと変え、ニッコリ笑って…
「ゆずゆちゃんは、向こうでテレビ観てこようねー!」
「は〜い!」
部屋に入ってゆく少女―坂下 ゆずゆ。
「…誰?あの子。」
「いいから、おいで。」
ねーちゃんの後について、結平がダイニングに入ると、
そこに、なにやら異様な空気がたち込めている…。
どんより…
「うわぁーーー!」
思わず叫ぶ結平。
重たい雰囲気の中で、父母…祖父祖母…弟、
みんなお葬式みたいな顔で椅子に座っている。
「何?この空気??どうしたの?みんな深刻な顔しちゃって。」
「うるさいっ!!座れっ!」
ねーちゃんの言葉に、おとなしく椅子に座る結平。
「あのう…なんかあったの?っつーか、
さっきのあの子、誰?」
結平の質問に、母が重い口を開いた。
「落ち着いて聞くのよ。私の妹、都おばちゃんいるでしょ?」
「あ、ああ…」
「…大変なの。」
「大変…って?」
「消えたの。」
「はぁ〜??消えたぁ??」
「声がデカいっ!」
「どうやって?いつ?」
「消えたって言っても、手品じゃないんだから。」
冷静に答える弟の皐(さつき)。
「あ、…ああ、そう。」
「旦那さんが亡くなって、一人でゆずゆちゃん育てていく自信がなくて、
蒸発しちゃったんだ。」
「ほう…なるほど…って皐、オメーはホントに12歳か?」
「そうだけど。」
あくまでクールな皐。
「ところで、蒸発ってなに??」
「結平っ!!」
一喝するねーちゃん。
「はいっ。」
「オマエは黙ってろ。」
「…はい。」
「…はぁ〜。」
ため息をつく皐。
「とにかく、いなくなった都おばさんが見つかるまで、
家で面倒みることになったから、みんなそのつもりで。」
父の言葉を聞きながら、ゆずゆの顔を思い浮かべる結平。
(あの子、都おばさんの子か…)
なんともいえない静寂が、ダイニングに広がっていた。
その静けさを突き破ったのは、やはり結平だった。
「なんかドラマみたいだね。」
「結平っ!!」
「…ごめんなさい、もう黙ってます。」
するとねーちゃんは、緑色に染めた爪の人差し指で、
シュッと結平を指してこう言った。
「オマエが面倒みろっ!」
「!!なんで??」
「なんで?だと?こらぁ!!」
結平の首を羽交い絞めにするねーちゃん。
「昨日も見知らぬ女が家に来て、『これ、結平くんにあげてください』って
斧を持ってきたわっ!!」
「え…、そ、それは誰かな…」
「オマエはいったい外で何をしてるんだっ?
子守して、ちったぁー静かに暮らしてろっ!!」
(斧なんて、持ってこられるようなことしたかなぁ…?)
その時、タイミング悪く鳴り出す結平の携帯。
「あ…」
「また女からの電話?こんなもの、ふっ!」
結平より一瞬早く携帯を取り、ねーちゃんは、それを床に投げつけた。
「なにしてんのぉ!マジで。」
慌てて携帯を拾い、壊れていないか確認する結平。
大丈夫、壊れていない。
(ふぅ…、もう、家に女の子呼ぼうもんなら、ねーちゃんに殺されんだよな、オレ…)
「もう、あなたたち、静かになさい。
おじいさんも何か言ってやってくださいよ。」
おばあさんの言葉に、
「…ううん。」
とだけ言う、寡黙なおじいさんだった。
その時、ダイニングのドアが開き、ちょこんとゆずゆが顔を出した。
「あらぁ?どーしたの?ゆずゆちゃん!」
結平に対する態度とは180度変化するねーちゃん。
「おトイレ。」
「おトイレね?そーだ!ゆずゆちゃん!
ママが帰ってくるまで、このおにーちゃんが面倒みてくれるからね!
あのバカっぽい人。」
「おい!」
ねーちゃんが指差した結平をじっと見て、ニッコリ笑うゆずゆ。
その、天使のような笑顔に、結平はちょっとドキッ!
(…あ!うううん、ふざけんなよ…)
自分で自分を否定した結平…その襟首をぐいっとつかみ、
おもいっきりにらみつけてねーちゃんは言った。
「アンタ、わかってるだろーけど、手ェ出したら、その首チョン切るからね!
相手は5歳だよっ!!」
「誰も出さねーし、だいたいそんなに飢えてねーよ。」
「っつーか、飢えろっ!」
「飢えていいのかよ?」
「いや、死んでも飢えるな。」
「んなバカな…」
きょとーん!として2人を見ているゆずゆに、皐が声をかけた。
「ゆずゆちゃん、トイレ連れてってあげる。」
「は〜い!」
笑顔でかわいいお返事をするゆずゆ。
「さ、私たちは引き上げましょう。」
「じゃあ結平、そういうことだから。」
「頼んだぞ。」
部屋を出てゆく父たち。
「え〜〜〜〜っっ!!じゃあ、やっぱりオレが?
ってゆーか、なんで?なんでオレがーーーーっ!!
ヴ〜〜〜〜……」
こうして、結平は意見を述べる機会すら与えられないまま、
ゆずゆの世話係に就任すこととなった。


次の日の朝
「ふわぁ〜…」
あくびをしながらリビングに入ってきた結平に、
一枚の地図を渡すねーちゃん。
「これ!幼稚園までの地図ね。」
「へぇ?」
「迷うなよ。」
見ると、ゆずゆは…
黄色い園児帽をかぶり、白いブラウスに吊りのついた紺のプリーツスカートで、
結平を見上げ、ニコニコ笑っている。
そのつぶらな瞳に、思わず吸い込まれそうになる結平。

「ほんじゃ、行ってらっしゃーい!」
「いってきま〜す!」
ねーちゃんに小さな手をふるゆずゆ。
「行ってきまーす…。そんで?どーやって行くんだ?
…こんな地図じゃわっかんねーよ。」
地図を見ながら結平はブツブツ…。
「ゆず、あたらしいようちえん、たのしみ!」
ちょっぴりほっぺを赤くして、キラキラ輝く瞳で結平をみつめるゆずゆ。
そんなゆずゆを見ながら、結平は、昨日の皐の言葉を思い出した。

『旦那さんが亡くなって、一人でゆずゆちゃん育てていく自信がなくて
蒸発しちゃったんだ…』

「オマエ…」
「ん?」
「さみしくねーの?」
結平の問いかけに、ゆずゆはちょっと間をおいてから答えた。
「ゆず、へいきだよ!」
「…それはいい子だな。(…?いい子なのか…??)」
「いいこ?」
「ふわぁ〜…いい子、いい子。」
結平が、あくび交じりにテキトーに返事をしたその時、
「あれ、まだいたの。」
冷静な皐が出てきた。
「あ?」
「早くしないと、ゆずゆちゃん遅れるよ。」
「え…今何時?」
「8時15分。」
びっくり!慌てだす結平。
「ってゆーか、オレが遅刻じゃん!!
この家のヤツは、ほんっとオレのこと、どーでもいいよなぁ!!」
「ちこく…!はやく!」
小さく飛び跳ねるゆずゆの、赤い幼稚園バックが揺れている。
「よしっ!急げっ!」
「あっ!」
ゆずゆの手を握って、走り出す結平。
「行ってらっしゃい…」
冷静に見送る皐。

「きゃ〜…」
ゆずゆの声を聞いて、初めて速度が早すぎることに気づいた結平。
「おっとっと…、行くぞ。」
「は〜いっ!」
速度を落とし、再び走り出す2人。
すると、ゆずゆが…
「あ!…き、き…」
「あ?なんだ?…き?」
「き、き、き…きっぺいおにーちゃん!
ゆず、おべんとうない!」
「え?」

コンビニに立ち寄る2人。
「今日はこれで勘弁!ほら!おにぎり。」
おにぎりの入った袋を、ゆずゆに渡す結平。
「オレも持ってねーし、家の親、作ってくんねーんだよ。」
するとゆずゆは、その袋を大事そうに両手に抱え、
「ゆず、おにぎりだーいすきだよ!」
と言って、にっこり。
「それはよかった。…はっ!って、今何時??」
コンビニの店先に立ってる時計を見ると、
何と!もうすぐ9時になろうとしている。
「あ〜遅刻っ!!」
ゆずゆを抱いて走り出す結平。
「急げ〜っ!」
ゆずゆの黄色い園児帽がふわり…
「あー、ぼうし〜」
「ああんっ!!」

…で、やっと到着した『あそう幼稚園』
「じゃあ3時にお迎えに来てくださいね。」
ゆずゆを預かって、先生が言った。
「ハァハァハァ…、はい。んじゃあな。頑張れよ。」
「うん。」
汗だくの結平に向かって、小さく手を振るゆずゆ。
幼稚園の門を出て、結平は大きくため息…
(はぁ…、なにやってんの…オレ…)


結平の教室
「あれ?まだ結平来てないの?
どうしたんだろう…ねぇ、心?」
心にそう尋ねる女子。
しかし、心は…
(なんでアタシに聞く…?)
と、無視。
その時、教室のドアが開き…、
そこに立っていたのは結平!…だが、
一言も話さないまま、そのままバッタリ前のめりに倒れてしまった。
「うわっ!どーしたんだ?結平??」
女子が2人駆け寄り、ものさしでツンツン!
「…オレは…一生…子供なんて…いらねーよ…」
倒れたまま、途切れ途切れにつぶやく結平。
「先生!結平が子供なんていらないって言ってま〜す!」
「ついにぃ、子供できちゃったみたで〜す!」
教壇でプリントをくしゃくしゃにしながら嘆く先生。
「先生は…そんな話、聞きたくないっ…」


こちらはゆずゆの幼稚園
お弁当の時間らしい。
「いただきますっ!」
かわいい園児たちの声が響いている。
目の前に、コンビニのおにぎりを2つ置いて、
それをじっと見ているゆずゆ。
「うわ…」
横で、それを驚いたように見ている男の子と先生。
(あたし…お弁当持参って言わなかったっけ…)
男の子は、カラフルで愛情タップリってカンジの自分のお弁当をゆずゆに差し出し、
「ボクのおべんとう、ママがつくったんだよ!」
!!!!!がーーーーーーん!!!!!
それを聞いて先生は大慌て!
「ゆずゆちゃんのママ、おべんとうつくってくれないの?」
…追い討ちをかける男の子。
「あ〜もう健くん!やめて!それ以上…」
ますます慌てる先生。
でも、ゆずゆはちょっと微笑んで言った。
「ゆず、おにぎりすきだから、いいんだもん。」
先生はもう真っ青だった。
(子供って…怖いわ…)


そして結平の高校
帰ろうと、教室を出た結平に先生が声をかけた。
「おい!おまえ今日補習だぞ!」
「えっ!」
「何だ、この前のテストの点数は…。
まあ、ショボいことショボいこと。」
「え〜っ…、あ!!…ってゆーか、オレ今日ムリ!
予定あんだわ。」
「なんだ?予定って?」
「幼稚園のお迎え行くのっ!」
「んたっ…おまえホントに子供いんのかっ??」
「せ、先生っ!!オレをそーゆー目で見てんの?!」
「じーーーーーーー…」
「ひどいや…」
「くだらんウソをつくな!すっぽかしたら、もうおまえのことは知らんっ!
単位やらんからなっ!」
当然信用するわけもなく、先生は行ってしまった。
「なんだと?」


幼稚園
入り口に、一人ポツンと立って、外を見ているゆずゆ。
もう、他の園児の姿はない…。
「ゆずゆちゃん!」
そっと声をかける先生。
「お迎え…もうすぐだから、いい子で待ってようね?」
「ゆず、ちゃんとまってるよ!」
教室に戻ってゆくゆずゆ。

積み木で遊んでいるゆずゆを隠れて見ながら、
先生が2人話をしている。
「どお?」
「うん、遊んでる。」
教室を離れてゆく先生たち。
…と、今度は、その後姿をゆずゆがそっと見ている。
「ねぇねぇ、ゆずゆちゃんって、お母さんいなくなっちゃったんでしょ?」
「お父さんも亡くなったんだって。」
「そうなの…」
「かわいそうに…」
ゆずゆの心の中に、とある日の情景がよみがえる…

〜 眠っているゆずゆのオデコをそっと撫ぜる母―都。
「ゆずゆ…、ママが帰ってくるまでいい子にしててね…」
目を覚ますゆずゆ…でも、母の姿がない。
「ママ…?」
クマさんのぬいぐるみを持って、
ただ玄関に立ち尽くすゆずゆ… 〜

教室の入り口で、ゆずゆは膝を抱えて座っていた。
(ママ…)
そして、下を向いて歩き出す…。


結平が、必死に幼稚園への道を走っている。
「ハァハァハァ…」
(やっべー!遅れたぁ…!!)
閑散とした幼稚園に駆け込む結平。
「先生っ!!家の子、どこですか??」
その時、教室の方から…
「ちゃんと探したの?」
「ちゃんと探しました!!」
「ゆずゆちゃ〜ん!!」
ゆずゆの名前を呼びながら、先生が飛び出してきた!
「先生?!」
「すみません、ゆずゆちゃんが、いなくなってしまったんです!」
「はぁ〜??」

ゆずゆを探して、街の中をひたすら走り回る結平。
(どこ行ったんだよ…、ねーちゃんに殺される…)
交差点、川べり、朝寄ったコンビニの近く…
そして、とある公園の砂場で、
しゃがんでお山を作っているゆずゆを発見!
結平は、そっとゆずゆに近づいた。
「おい、何してんの?」
「わぁ。」
ゆずゆはちょっとビクッとしたが、すぐ立ち上がり、
「ご、ごめんなさい。」
ほっぺを赤らめて、素直に結平に謝った。
「まあいいけど…見つかったし。…帰るよ。」
すると、ゆずゆの瞳がキラッ!と輝いた。
「かえるぅ?おうちにかえるの?!」
「あ、うん…、オレんちにね。」
…ゆずゆの瞳の輝きは、一瞬にして消えてしまった。
何歩か歩き、ふと結平が振り返ると…
着いて来ているはずのゆずゆは、まだ砂場に…。
黄色い園児帽で顔を隠し、
向こうを向いてしゃがんでいる。
「え?なんで??…おいっ!」
しかし、ゆずゆは動く気配がない。
ゆずゆの後ろへ戻って、同じようにしゃがむ結平。
「オレが遅れたことを怒ってるの?
ごめんって!明日はちゃんと時間通りに行くから…なっ。」
「…ゆず、ママがつくった…おにぎり…たべたい。」
「あ…」
この時、ゆずゆがずっとムリしていたことに初めて気づいた結平。
…少なからず衝撃を受けた。
「…クスン、でも…ゆず…、いっつもたべきれなくてのこしちゃうから、
だからママ…ゆずのこと、きらいになっちゃったんだ…
ゆず…ちゃんといいこにするから…
ママのとこ…つれてってぇ…」
ゆずゆの目から、大粒の涙がポロポロこぼれた。
「ゆず…ママのこと…だいすきだもんっ…」

『オマエ、さみしくねーの?』

朝、何気なくした質問が、どれほどゆずゆの心を傷つけたか…
さみしくないわけなど、あるはずがなかったのに…
小さな心に抱えきれないほどのさみしさを、
必死に隠していたに違いないのに…
ゆずゆの涙に、自分の愚かさを思い知った結平だった。
結平は、泣きじゃくるゆずゆの髪をやさしく撫ぜ、
「誰も…嫌いになんねーって。」
そして、ゆずゆをそっと抱きしめた。
「えーーーん…えーーーん…」
こらえきれず、声をあげて泣き出すゆずゆ。
しばらく、ゆずゆの涙を自分の肩で受け止めて…
そして結平は、やさしくゆずゆにささやいた。
「オレが…作るよ。」
泣き止んで顔を上げるゆずゆ。
「作るよ…おにぎり。」
ハンカチでゆずゆの顔を拭いてやる結平…。
そんな2人の様子を、公園の金網越しに見ている心。


その夜
結平が、ベッドでグラビア雑誌を見ていると…
カチャッ…
結平の部屋のドアを開けて、ゆずゆが顔をのぞかせた。
「え??…どうした?」
なぜか赤くなって慌てる結平。
ゆずゆは、ピンク色のパジャマを着て、
ズルズルと大きな黄色い枕を引きずりながら、
ベッドの横へやってきて…
「ろうかに、せんたくバサミがおちてたの。」
と、緑色の洗濯バサミを結平に差し出した。
「…ええ?…あ、ありがと。」
どう対処していいものか…?
一応それを受け取っておく…それしか思いつかなかった。
しかし、洗濯バサミを渡した後も、
じっと結平を見つめていて動かないゆずゆ。
「あ…、じゃあ、おやすみ。」
そう結平が言っても、
ゆずゆは、上目遣いに結平を見つめたままだ。
「もしかして……、一緒に…寝る?」
結平の言葉に、ゆずゆがニッコリ微笑んだ。
「は…あはっ!」
うれしそうに結平のベッドに乗ったゆずゆ…
興味深そうに、グラビア雑誌の表紙のおねえさんを見ている。
結平は、ちょっと自分の気持ちに戸惑っていた。
(どうしよう…かわいいぞっ…)
「このほん、なあに?」
「これか?これは…オレの、絵本だ。見る?」
ベッドにうつぶせになる2人。
「うんっ!」
「ぃや、うそ!だ〜めっ。」
「ふふ…っ!」
微笑むゆずゆと結平。

空には、満天の星が輝いている。

結平に寄り添って眠るゆずゆを、
ふんわり抱きしめるようにして眠っている結平…



〜 してるぜベイベ★★ 第1話 おしまい 〜

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