序章「うしおととら出会うの縁」
仏教寺・芙玄院の境内で少年・蒼月潮が、父・紫暮から説教を食らっている。
紫暮:そもそも、妖怪変化は目に見えんがちゃーんといるもんなんだぞ。
現にうちの寺にまつられとる槍なんぞは、妖怪退治の名人のありがたーい槍なんだからなあ!
が、まったく相手にしない潮。とうとうドつきあいが始まった・・・・。結果は・・・・。
紫暮:お〜ろか者が! ガキがオヤジさまの相手になるか
見事に負けた潮はしぶしぶと倉の古本の虫干しをやることに。
潮:うちの寺はけっこう古くて五〇〇年くらいの歴史があるらしい。だもんだからかこの倉には、
檀家からの寄贈品やらおはらいを頼まれたものでいっぱいだ。オヤジのホラの原因になるわけだ。
まったく、なにが「ヨーカイ」だ、なにが「ヤリ」だ!
ガキのころから、くどくどくどくどきかせやがって・・・・
文句を言いつつ仕事をする潮だったが、その途中、地下へと続く扉を発見する。
潮:こんなのしらんぞ。なんか入っとるのか・・・なっと・・・・
うひゃあ!!
地下室へ転がり落ちた潮が見たものは、槍に刺されて磔になった妖怪!
妖怪:人間か・・・・
潮:うわああああああああ!! なんだおまえはなんだ!?
妖怪:やれやれ・・・五〇〇年ぶりの人間はずいぶんやかましいな。でも、まあいいか・・・・・
この槍をぬけるのは人間だけだからな・・・・
潮:(槍!? ひょっとして・・・・・・・
オヤジの言ってた妖怪退治男の「槍」ってこれのことかよ・・・・!?)
妖怪:どうした、今じゃそんなに妖怪がめずらしいのか?
ならばついでに、自由になった妖怪もみせてやる。
この槍をぬきな・・・小僧!
妖怪は自分が五〇〇年もの間、この「獣の槍」にはりつけられていた事を話す。
潮:そ・・・・それをオレがぬいたら・・・ おまえはどうするつもりだ!?
妖怪:フフン!しれたことよ!!
まずおのれを食らって、昔のようにこの辺の人間どもを地獄へ引きずりこんでくれるわ!!
ガンガン! 思いっきり槍を押し込む潮。
妖怪:うぎゃああああああ いてててててててて〜〜おまえ〜〜〜なにをする〜〜〜〜
潮:「なにをする」だあ〜〜!? そんなこといわれて自由にするかボケなすっ!!
妖怪:イテテイテ!!
妖怪も反撃するが空振りし、逆に槍を押し込められる。
妖怪:くそおお、おぼえとれよ〜〜 うぬはわしが絶対に食ってやるからな。
潮:へーそうかい。そいつは次のヤツにいってやれよ。
階段を上って帰ろうとする潮。
妖怪:あ〜〜〜〜〜〜まてまて!!
あ〜なんだ! わしもちょっといいすぎたよ。 なんせ五〇〇年ぶりの好機だったんでね・・
どうだ、こうしよう!この槍をぬいてくれたら、なんでもいうことをきいてやる。
わしも人間に恐れられた妖怪よ 約束はまもる!
潮:それで自由になったらどうすんのよ?
妖怪:そりゃーまずおまえを食らって・・・
潮:おっおい! 人の命が食いモンにしか見えない妖怪を誰が野放しにするってんだよ!
妖怪:おっ、おいっ、イノチってなんだよ! 動けるってコトだろ?
おまえは動けるように食わないって! ほかの人間はオマエにカンケーないだろっ!!
なんでもしてやるぞ! 気にいらんヤツでもなんでも殺してやるから!!
潮:てめーが自殺しろっ!
扉を閉めた潮が家に戻ると紫暮の置手紙が。
『潮へ
ちょっと日本海の方をプラプラしてくるから一週間ほどまたテキトーにやっとくれ
追伸・・冷蔵庫の中の中華まんじゅうに手をつけたら殺すぞ
パパより』
潮:あのボケオヤジー!! かんじんな時にーっ!
ちょうどその時、芙玄院にやってきた二人の少女。潮の同級生の中村麻子と井上真由子だ。
麻子:やだ、気持ちワルイ雲! はやく帰らなきゃ・・・・まったく!
レポートの提出明日なのよ! あたしだってあのノートつかうんだから。
真由子:なーんていって、日曜日にも蒼月クンとあえるなんていーねえ麻子!
麻子:ちょ、ちょっとまってよ、誰が誰にあえてうれしいだって?真由子。
真由子:あら、うれしくないの?
麻子:あったりまえよ、だ〜れが!
真由子:あたしはうれしいな。じゃ、もらってもいいの。
麻子:どっ、どーぞどーぞゴカッテに!
潮:あれー、どーしたーおまえら?
麻子:どしたーじゃないでしょ! この前貸したノート、あれあたしもつかうのよ!
潮:あ〜〜〜〜わっすれてたあ〜〜
麻子:わっすれてたあ〜じゃなーい!
だいたいいつもあんたはねーーーーー
その時、潮は虫とも魚ともつかないものが大量に見えた!
潮:おまえらっ、うしろっ!
だが、麻子や真由子には見えていない。
二人にまとわりつくヤツラを追い払おうとして、逆に蹴りを食らってしまう。
麻子:なにをトチ狂っておるバカモン!!
潮:(おかしいぜ。なんで、あんなのがオレにだけみえるんだよ!?)
原因が倉の妖怪だと思った潮は、地下室へ直行する。
潮:オイ、バケモン てめーオレの目になんかしたろっ!!
ヘンなマボロシでもみるよーな術でもかけたろ ちくしょうー!
それを聞いた妖怪は笑い出す。
妖怪:くくっ、くくくっ、はっはっはっは、はははははははははは
ばーか、そりゃわしの妖気がよんだ虫怪や魚妖どもよ!!
この地下には、500年間閉じ込められていたわしの妖気やうっぷんがたまってた・・・・・
潮:なに・・・
妖怪:それをおまえが解放した。妖気は流れでて、この辺りの低級な小妖怪どもを引きよせたのさ。
わしに接したおまえは、そいつらをほかの人間よりはやくみれるだろうがな。
みてろよ。やつらは実体化して人を襲うぞ!
その時、外から悲鳴が!!!
潮:くっ!
妖怪:ほう、ほかに人間がいたのか、女か・・・・
ムダだね。おまえにゃ助けられん、魚妖どもはやっかいだからな。
おまえのせいだな! おまえがここをあけなけりゃよかったんだ。
潮:(そうだ、オレのせいだ! オレのせいであいつら・・・・・・!)
妖怪:わかってるな。らしならできるんだぜ!
へへ・・・・そのためにゃこの槍が邪魔だがなあ・・・・・・
潮:・・・・・・・・・・・・
潮はついに決断する。
妖怪:フン。わかったみてえじゃねえか。
潮:・・・・・・やっつけてくれよ・・・・
妖怪:約束は守るさ・・・・・・
槍を掴んだ潮は、それをゆっくりと抜いていく。その槍が完全に抜けたとき、妖怪が襲い掛かってきた!!
妖怪:はあはあ。よくもわしをコケにしてくれたなああ・・・・
潮:約束はどうなる・・・・・・・あいつらは・・・・
妖怪:だれが人間との約束なんてまもるんだよ! けけけ。
潮:きたねえぞ・・・・・
怒りに呼応するが如く、潮の体に異変が!
潮:きさまーッ
妖怪:(しまった! コイツまだ槍をもったままだったんだ・・・・ということは・・・・
あの時と・・・同じだ・・・)
潮の髪が見る見る伸びてゆく。
妖怪:(五〇〇年前わしをここにぬいつけたサムライと・・・同じだああ・・・・・!!)
ああああ
妖怪は恐怖のあまり、倉をぶち破って逃走する。が、槍を持った潮が追ってくる!
妖怪:まいったあっ!まいりましたあっ!! 約束どおり妖怪はやっつけるぜ!
だからカンベンしてくれえっ
一方、虫怪・魚妖の大群に囲まれる麻子と真由子は、
麻子:なにコレ!なんなのよーーっ
真由子:やだーっ やだやだたすけてーーっ
なんと、家よりも大きくなった魚妖に襲われていた!
妖怪:うわ! やってくれるぜ。魚妖どもがあつまってどんどんでかくなっていきやがる。
ひっ!
潮:先におまえがいけ。オレがとどめをさす。
妖怪:はっはいっ
どば!! しゃこん
妖怪が突撃して貫通! さらに潮が槍を振るい、魚妖を全滅させた!
変身が解け、髪が戻る潮。
潮:槍が・・・・・・・・・教えてくれた・・・・・・
この槍は妖怪を退治するためだけに二千年も昔、中国で作られた・・・・・・・「獣の槍」。
人の魂を力に変えて妖怪を討つ・・・ ゆえに使う者は獣と化してゆく。
獣と化し槍と一体となり、その者は妖怪を倒すためだけの生きものになってゆく。
おまえを刺した侍もそうだったんだろ?
妖怪:ああ・・・
じゃあばよ。
逃げようとする妖怪に獣の槍をちらつかせる潮。
潮:まさか、ゆるされると思ってんじゃないよな?
妖怪:だって、サカナやムシはやっつけただろ・・・・・!
潮:ちがうね。おまえの500年分の妖気は、まだ当分の間ほかの妖怪をよぶんだろ?
それもおまえの責任だ!
妖怪:きったねーー。いたたたたたたたた・・・
潮:なにいってんだ、だましたクセに
妖怪:(人間め! こうなったらとりついてやる。スキをみて絶対に食ってやるぞ!)
潮:(こんなヤツを世に放つわけにゃいかねーもんな。いつかゼッタイこの槍でホロボしてやるぞ。)
こうして一人と一匹の奇妙なコンビが誕生した・・・・・
姿を消した妖怪が潮の肩に乗っている・・・・・・。
妖怪:おいクソ人間!
潮:なんだバカ妖怪!
妖怪:さっきいってた「イノチ」ってコトバの意味がわからん。
潮:おまえにゃ一生わかんねーよ! それよりも、名前ねえと不便だな・・・
よし! おまえのコトをとらと呼ぼう。
とら:なっ・・・・やだぞわしはそんなの・・・・
潮:うるせえ!じゃこの態度はなんだ!
とら:いーだろ、どうせほかの人間にゃみえねえから。それよりわしはそんな名はいやだぞ!
潮:やかましいっ。