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宇宙の騎士テッカマンブレードの第1話



連合宇宙暦
192年

地球


地球の大気圏外を取り巻く巨大建造物、オービタルリング。

爆発。

次々に出現する異形の怪物たちを、何者かが切り裂く。
全身を包む白い装甲、手に携えた槍。中世の西洋の甲冑を思わせる姿の、宇宙の騎士。

「たぁっ!!」

自分の何倍もの体躯の怪物を、その騎士はたった1人で、次々に切り裂いていく。
宇宙空間に怪物の体液が飛び散り、爆炎が舞う。

「貴様らの野望は……宇宙で叩き潰す! この俺が必ず!!」



天 駆 け る 超 人



地球上。

荒れ果てた大地。
異様な姿の植物がはびこる中、外宇宙開発機構の探査車の中で、隊員の如月アキが調査にあたっている。

アキ「気圧、大気組成、共に正常。放射能もなし。環境に異常はないわ (これが……地球の風景だなんて…… まるで、別の星みたい……)」

スクリーンの中。
空から飛来した攻撃が都市に命中し、爆煙を上げる。

その傍らで、椅子にふんぞり返ってチョコバーを齧っているノアル・ベルース。

アキ「また一つ、都市が……」
ノアル「やれやれ……この分じゃ、人類も長かぁないよなぁ。どうだい、アキ? 今の内に2人で、火星へでも逃げる方法を考えないか?」
アキ「ノアル!」
ノアル「俺たちだけでも生き延びれば、人類は滅びない。2人で新しいアダムとイヴになるってアイディア、どう? 買いだと思わない?」
アキ「ノアル、勤務中よ! 不謹慎だわ」
ノアル「ま、常に最悪の事態を考えておくのが俺の主義でね。しかも、腹が減っては戦はできない、ってか?」

スクリーンに、外宇宙開発機構チーフ、ハインリッヒ・フォン・フリーマンの姿が映る。

フリーマン「ノアル」
ノアル「チ、チーフ!?」
フリーマン「アダムとイヴも結構だが、おやつ持参は遠足だけにしてもらいたいな」
ノアル「……アキ! お前、通信機のスイッチを!?」
アキ「フフッ」
フリーマン「ノアル。戦いは連合防衛軍に任せておけばいい。我々外宇宙開発機構の使命は、エイリアンの調査分析にある」
ノアル「……」
フリーマン「聞いているのか、ノアル!」
ノアル「はいっ、わかっております! 我が親愛なるフリーマン・チーフ殿」
アキ「プッ……」
フリーマン「心にもないお世辞は言わんでいい」
ノアル「……ラーサ」

フリーマンの横から、オペレーターのミリィがVサインを贈る。

ミリィ「頑張ってね、ノアル! ブイブイ!」
ノアル「はいはい〜」


宇宙空間での、騎士と怪物たちとの戦い。
怪物たちを倒し続ける騎士の肩に、何者かの攻撃が命中する。

「ぐあぁぁっ!?」

塔の上で、黒い装甲を纏ったもう1人の騎士が、白い騎士を見下ろしている。

「あれは……『テッカマンダガー』!?」


地球上。

アキ「データ収集は完了したわ。あとは、生体サンプルを採取するだけよ」
ノアル「ラーサ」
アキ「けど……どうしてあのエイリアン、侵略した土地にこんな植物を植えていくのかしら?」
ノアル「さぁな。地球をジャガイモ畑にでもするつもりかな? ったく、俺たちが手も足も出せないのをいいことに、今頃やつら、お空でジャガイモの夢でも見てるんじゃねぇのか?」

ノアルの言うとおり、地上にはびこる奇怪な植物群は、ジャガイモに見えなくもない。


宇宙空間での戦い。

2人の騎士と一騎打ち。
黒い騎士が弓から放つ光の矢を白い騎士がかわし、両者の槍がぶつかり合う。
白い騎士の槍が床を裂き、黒い騎士が足元をすくわれる。

「しまった! ぐわああぁっ!」

姿勢を崩した黒い騎士目掛け、白い騎士がとどめを刺さんと突進。
だが突如、目の前の床が砕け、巨大な怪物が飛び出す。

「何っ!?」

不意を突かれた白い騎士が、怪物の太い爪に捕われ、装甲が貫かれて血が飛び散る。

「ぐっ、ぐああぁぁ……っ! うっ、うぅぅ……!」
「ハハハ、それまでだなぁ」
「……くそぉ!」
「死ねぇっ!!」

黒い騎士が突進。怪物ごと、白い騎士がオービタルリングの上から吹き飛ばされる。

「うわああぁぁ──っっ!!」
「さらばだ…… 『ブレード』!!」

白い騎士が地球の引力圏に引き込まれ、赤熱化して落下してゆく。
顔面には、無残な亀裂が刻まれている。

「うっ…… 死んでたまるか…… 俺は……俺は、まだ死ねないんだああぁぁ──っっ!!」


地球上のノアルたちのもとに、警報音が響く。

ノアル「何!?」
アキ「あ……!?」

突然の大爆発。
大地に光球が膨れ上がり、強大な衝撃と暴風が巻き起こる。
屋外作業機で調査にあたっていたアキは、必死に衝撃から持ちこたえる。

ノアル「大丈夫か、アキ?」
アキ「え、えぇ。……何なの、一体?」
ノアル「わからない。隕石か、奴らの攻撃か…… とにかく行ってみよう」
アキ「えぇ」


爆発跡にやって来たアキたち。
地面に巨大なクレーターが形成され、もうもうと煙が立ち昇っている。

ノアル「クゥ〜っ、こいつは派手だわ……」
アキ「けど、どうやら隕石みたいね」
ノアル「あぁ、多分な。奴らなら、自分で植えた植物の上に落としたりはしないだろうからな。しかしこの分じゃ、アリ1匹生き残っちゃいないぜ」
アキ「……!?」
ノアル「どうした、アキ?」
アキ「た……確かに……」
ノアル「ん?」

煙の中、うっすらと人影が現れる。

アキ「あ……! ノアル!」」
ノアル「エイリアン……か?」

煙の中から現れた者は、明らかに人間である。

アキ「に……人間……!?」

ふらふらと歩いてきた全裸の若い男性が、そのまま倒れる。
その全身には、惨たらしい傷跡が無数に刻まれている。

ノアル「お、おい、アキ!? こいつ……こいつ、人間か……!?」


外宇宙開発機構の本部。
爆発跡から現れた青年が、気を失ったまま手当てを受けている。

フリーマン「彼か? クレーターで救出した人間というのは」
アキ「はい。でも、信じられません……あの爆発の中にいて無事だなんて」
ノアル「ミリィ、お客さんの具合は?」
ミリィ「大丈夫。傷はひどいけど、命に別状はないわ」
ノアル「そうか……」
ミリィ「あら、目が覚めたわ。良かったぁ……!」

いきなり青年がベッドから飛び出し、傍らのミリィを羽交い絞めにする。

ミリィ「痛ぁい!」
青年「動くな! お前たち『ラダム』か!? それとも地球人か!?」
ノアル「……!?」
青年「答えろ!」
ノアル「ラダムぅ? 何だい、そりゃ?」
青年「エイリアンだ! オービタルリングを占拠してる」
ノアル「おいおい、奴らと名刺交換でもしたのか? お宅、まだ寝てんじゃない?」
青年「そうか、お前らラダムじゃないのか……じゃあここはどこだ!?」
フリーマン「外宇宙開発機構の本部だ」
青年「外宇宙開発機構……? しめた!」
アキ「何が『しめた』よ、君! ミリィを離しなさい!」
青年「う……」

隙をついてミリィが青年に肘打ちを決め、拘束から逃れてノアルの後ろに回る。

ミリィ「べーっだ!」
ノアル「初対面の人には、まず自分から名乗るのが礼儀でない?」
青年「名前……? 名前なんて憶えてない! 忘れちまった!」
ミリィ「えぇっ!?」
青年「ここの責任者は誰だ!」
フリーマン「私だが?」
青年「頼みがあるんだ!」
フリーマン「頼み?」
青年「あぁ。貸して欲しいんだ、俺にスペースシップを!」

突如、警報が響く。

青年「な、何だ!?」
ミリィ「地球のどこかに、宇宙生命体が降下したのよ」
青年「くそぉ……始まっちまったか!」
フリーマン「君、ついてきたまえ」

フリーマンたちが一室に駆け込む。青年も続く。
壁面のスクリーンの映像の中、地上に築かれた基地が、怪物たちの襲撃で次々に炎に包まれてゆく。

青年「あそこは……?」
フリーマン「オーストラリアのジョーンズ連合防衛軍基地だ」

戦闘機群や戦車が怪物たちを迎撃するが、次々に返り討ちに遭う。

フリーマン「やはり、ひとたまりもないか……」
青年「……頼む! 頼む、俺にスペースシップを貸してくれ!」
アキ「スペースシップ?」
ノアル「何言い出すんだ、お前?」
青年「それしか、この危機を救う方法はないんだ!」
フリーマン「待て。君は地球人だな?」
青年「み、見ればわかるだろう?」
フリーマン「ならば知っているはずだ。現在の地球に、スペースシップはない」
青年「け、けど、ここになら1機くらい……」
フリーマン「あったとして、どうするのだ?」
青年「ラダムが……ラダムが大規模な地球降下作戦を開始したんだ! 今の攻撃はその第一波、じきに奴らの本隊が地球に降りてくる。だから、だからその前に、宇宙で叩き潰さなきゃならないんだ!」
フリーマン「出任せを言うな」
青年「嘘じゃない!」
フリーマン「ラダム? なぜ君は敵の名前を知っているのだ? いや、もしも君の言うことが事実だとしても、君が行ってどうなるというのだ?」
青年「今はそんなことを説明してる暇はないんだ!!」
ミリィ「スペースシップ、あるにはあるけど……」
青年「何!? どこだ!? どこだ、どこにあるんだ!? 頼む、教えてくれ!!」
ミリィ「ち、地下8階の第3……格納庫」

青年が部屋を駆け去る。

フリーマン「いかん! ノアル、アキ、彼を止めるんだ!」

本部内に再び警報が響く。

『緊急事態発生! 緊急事態発生! 第3格納庫への侵入者を阻止せよ! 繰り返す、第3格納庫への侵入者を阻止せよ!』

アキとノアルがエレベーターで地下へ急ぐ。

ノアル「あのバカ……!」
アキ「ブルーアース号に武器はないわ。宇宙へ出たら終わりよ!」
ノアル「まったく、とんでもない『Dボゥイ』だぜ」
アキ「ディーボーイ?」
ノアル「デンジャラス・ボゥイ」


一方であの青年、ノアルの名づけたところの「Dボゥイ」は、格納庫を探してメカニックのレビンに詰め寄っていた。

Dボゥイ「第3格納庫はどこだ!?」
レビン「くっ、苦しい……」

脇から、大柄のメカニックチーフ・本田がDボゥイを捕え、締め上げる。

本田「お前か? 侵入者っちゅうのは」
レビン「おやっさん!」
Dボゥイ「ぐぁぁっ! ……こ、この野郎!」

Dボゥイが本田の脳天に頭突きを食らわし、さらに胴に蹴りを見舞う。
本田が伸びてしまい、レビンは恐怖で引きつる。

Dボゥイ「お前もああなりたいか、えぇっ!?」
レビン「嫌ぁ! 嫌よぉ!」
Dボゥイ「第3格納庫はどこだ!?」
レビン「あの、その……そ、そこの突き当りを左に曲がって、み、右に行って、ままま、ま、まっすぐ……」
Dボゥイ「サンキュ! 命は大事にしな!」

格納庫に辿り着くDボゥイ。

Dボゥイ「ここかぁ……!」

扉が開き、唯一の宇宙船・ブルーアース号が姿を現す。
Dボゥイが決意の表情でコクピットに乗り込む。
バーニアが炎を吹かす。 ようやく追いついたノアルとアキが、ブルーアース号機内に駆け込む。

ノアル「あいつ、マジかよ!?」
Dボゥイ「行けぇっ!!」

ブルーアース号が大きく炎を吹かし、カタパルトを蹴り、空へと飛び立つ。

ノアル「やりやがった…… あのバカ!」

ブルーアース号がぐんぐん高度を上げ、大気圏を突きぬけ、宇宙空間へと飛び出す。
やがて、目の前にオービタルリングがそびえ立つ。

Dボゥイ「オービタルリングか……」

コクピットへ乗り込んだノアルが、Dボゥイを締め上げる。

ノアル「この野郎! 何がオービタルリングだ! 勝手な真似しやがって! 早く引き返せ!」
Dボゥイ「……」
ノアル「おい! 聞いてんのか!」

オービタルリングの武装が作動。レーザーが降り注ぐ。

アキ「レーザーガンよ!」
Dボゥイ「何か武器はないのか!?」
ノアル「ふざけやがって…… 磁気シールド・オン!」

ノアルの操作で磁気シールドが作動。ブルーアース号はかろうじてレーザーの雨をかいくぐる。
オービタルリングから次々に、怪物たちが姿を現す。

ノアル「あ、あれは……来ちまったか……!」

Dボゥイが席を立つ。

Dボゥイ「おい、あとは頼む!」
ノアル「何だって? てめぇ、いい加減にしろ! どこまで勝手やりゃ気が済むんだ!?」
Dボゥイ「今さら後戻りはできないだろ? 死にたくなきゃ言うことを聞け!」
アキ「え? ちょ、ちょっと、どこ行くの!?」
ノアル「バカな、外は宇宙だぞ! 出たら即死だ!」
Dボゥイ「死なないさ……いや、死ねないんだ、俺は!」

Dボゥイがコクピットを去る。

アキ「Dボゥイ!!」
ノアル「外部ハッチをロックしろ! 後部ユニットのマスター回路を切れ!」
アキ「ラーサ!」

Dボゥイの手に、クリスタル状の物体が握られる。

Dボゥイ「テックセッタ──ッ!!」

ノアルたちの操作も間に合わず、Dボゥイがブルーアース号の外へと飛び出す。
その姿がクリスタル状の光で包まれ、鳥の如く宙を駆ける。

ノアル「な、何だありゃあ……?」
アキ「Dボゥイ……?」

光の中、Dボゥイの姿がみるみる変化。
肉体が強固な外殻へと変化し、さらに随所が装甲で包まれ、甲冑を纏った騎士の姿へと変わってゆく。

「テッカマンブレード!!」

Dボゥイこそが、宇宙空間で怪物たちと戦っていた白い騎士、テッカマンブレードであった。

アキ「ノアル! ノアル!」
ノアル「あぁ、し、しまった!」

ブルーアース号の目の前に怪物が迫る。
だがそこへ駆けつけたテッカマンブレードが、一瞬にして怪物を撃破する。

アキ「Dボゥイ……!?」
ノアル「変身……!? まさか……!?」

テッカマンブレードが再び宙を駆け、怪物たち目掛けて突進してゆく。


ブレード「行くぞ! ラダム!!」


(続く)
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