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ウルトラマン80(エイティ)の第1話



ウルトラマン先生



爛漫の春でした のんびりと平和な日本でした
けれども この春の中に満ち満ちている危険を
人に先駆けて感じている 1人の青年がいました


桜並木の下を、主人公の青年・矢的(やまと) (たけし)が汗だくになって走っている。

猛 (日本の各地で、まるで怪獣のためとしか思えない様々な異常な現象が次々と起こっている。しかし、人々はそのことに誰も気づいていない。いいのだろうか?)


東京近郊の桜ヶ丘中学校。
入学式が行われており、林校長の挨拶。

校長「新入生諸君、入学おめでとう! 今日から、諸君はもう子供じゃない。中学生なんです。自分に責任を持って、勉強にスポーツに、大いに頑張ってください。それでは、新しい先生を紹介しよう。体操を教えてくれる相原京子先生と、理科の矢的猛先生」

ところが校長の紹介した先には、新任の相原京子先生のほかには、教頭の野崎クミしかいない。

教頭「校長先生、矢的先生はまだ」
校長「え!? 困ったなぁ……」

爆笑する生徒たち。

生徒たち「おい、女の先生だぞ」「女かぁ」「体操できんのかよ?」

ムッとした相原が鉄棒のほうへ駆けより、大車輪を始める。
たちまち、生徒たちから喝采。さらに相原が見事なバック転を決める。

生徒たち「お──っ!!」
校長「やったぁ!」
教頭「校長先生!」
相原「体操を教えます相原京子です。みなさん、よろしく!」
生徒「おい、誰か来るぞ!」

校門から猛が大慌てで駆け込んで来る。生徒たちが大笑い。

猛「遅れてすみません! 理科を担当します、矢的 猛です。よろしくな!」
生徒たち「あははははは!」
相原「プッ……」
教頭「何ということを!」


猛の授業。黒板には「一生懸命 → 一所懸命」と書かれている。

猛「これが、僕のモットーなんだよね。人には一生、命を懸けてやらねばならないことがあるよな。その大きな目的を達するためには、その人が今いるところで、今やっていることに最大の力を尽くす。つまり『一所(ひとところ)』に『命』を『懸』ける。そういうことが必要なんだと、僕は思うんだよね。僕は、ほやほやの先生。君たちも、ほやほやの生徒。お互いこの教室で、命懸けでがんばろう。な!」

突然、教室がゆれ始める。

生徒たち「わぁっ!」「地震よ!」
猛「落ち着け! 机の下に入るんだ!」

生徒たちが机の下に身を潜める。
窓の外を見る猛。空中にぼんやりと、巨大な影が見える。


猛にしか感じられない 怪獣の気配だった


揺れがやむ。

生徒「先生、何見てるんですか?」
猛「いや、実はな…… もし、怪獣が出たとしたら、君たちはどうするのかと思って」
生徒たち「あんな小さな地震で、怪獣だなんて」「そうだよ」「あははは!」
猛「いや、笑い事じゃないんだ」
生徒たち「あはははは!」
猛「よぉし、それなら…… 起立!」
生徒たち「えぇ〜っ」
猛「駆け足! ついて来い!」
生徒たち「何だよぉ」「何よぉ……」


東京近郊にある地球防衛軍 極東エリア基地
この基地の地下に 怪奇現象・怪獣専門のチーム「UGM」はある


UGM基地内のハラダ時彦、タジマ浩、城野エミの3隊員が、レーダーの反応に気づく。

「何だろう?」「小さな地震じゃないかな?」「でも地震にしちゃ、この小さな点滅が変だわ」

隊長のオオヤマ一樹が現れる。

ハラダたち「キャップ!」「小さな地震じゃないかと思うんです」「この点滅はなんですか?」
オオヤマ「怪獣だ……」
タジマ「まさか! だってキャップ、怪獣はこの5年間、一度も出現していないんですよ?」
エミ「キャップだけですものね。実際に怪獣と戦ったことがあるのは」
タジマ「さ、それよりさっきの続き、さっきの続き」
エミ「そうね」
ハラダ「失礼!」


UGMのオオヤマも 怪獣の気配を感じていた
しかし 平和に慣れた隊員たちの士気は オオヤマの焦りをよそに低下しきっていた


オオヤマは1人、UGM戦闘機スカイハイヤーで発進する。

一方、基地に残された隊員たちは、ゲームを楽しんでいる。
レーダーが、スカイハイヤーの発進を示す。

「あれっ? キャップは北へ向かっているな」「さっきの異常な震源も、北だったけど」

オオヤマは空から、地上の異変に目を光らせる。

(草が枯れている地帯がどんどん南下している…… 何も起きなければいいが)


一方で猛は、生徒たちを野原へ連れ出してマラソンをしている。
元気に走る猛とは対照的に、生徒たちはヘトヘト。

猛「なんだなんだ、ちょっと走っただけで! がんばれ!」

数人の生徒が、地面にへたり込む。

生徒たち「先生! 急激に運動して、体内の酸素が欠乏気味なんであります!」「先生、疲れたよぉ!」
猛「どうした、どうした! ちょっと走っただけで! だらしがないぞ、ほら!」
生徒「先生、体育の時間でもないのに、なんで駆けなきゃならないんですか?」「そうだよぉ!」「世の中、省エネ省エネで、やかましいのにさぁ」「腹減ったぁ!」
猛「よし、わかった! じゃ、本当のことを話そう。この野原をじっと見て、いつもと違うところがないか調べてほしいんだ。よぉく観察してみろ!」
生徒たち「……?」「何だろう」「何でしょうねぇ」
猛「君たちはさっき、怪獣は出っこないと言ったな?」
生徒たち「あはははは!」「怪獣かよ!」
猛「しかし、これが怪獣が出る証拠なんだ」
生徒たち「そんなこと、どうしてわかるんですか?」「科学的証拠を提出していただかないと、単なる人騒がせです」
猛「だから、証拠はみんなの目の前にあるんだ!」

周囲は、木や草が枯れている。

猛「春の真っ盛りだというのに、ここら辺りだけ冬のままだ」
生徒たち「そんなのが証拠ですか?」「これはですね、除草剤を撒いたから草が枯れてるだけです」
猛「いや、違う! この辺りをよぉく観察するんだ。動物、植物、鉱物、少しでも変なものが見つかったら、先生のところへ持って来るんだ。さぁみんな、『一所懸命』頼むぞ! これも理科の勉強のひとつなんだからな!」

猛も自ら、付近を調べ始める。

猛 (こんな石まで変色して…… この地下を怪獣が通った証拠だ)

地面に転がっていた石を調べていた猛が、誰かにぶつかる。

猛「どうも、すみません」

ぶつかった相手は、私服姿のオオヤマ。彼の手にも、猛が調べていたものと同じ石が握られている。

オオヤマ「……君もか?」
猛「はい! 僕は今日、学校に来るギリギリまで、日本の各地を見て回りました。僕は、醜い心や悪い心、汚れた気持ち、憎しみ、疑い、そういったものが寄り集まって怪獣が生まれてくるんだと思います。そして、今の世の中には醜い心や悪い心が満ち満ちています。怪獣は出ます! 地球の人は、どうしてこんなにのんびりしてるんですか?」
オオヤマ「ずいぶん熱心なんだね」
猛「え? はぁ……」
オオヤマ「地球の人と言ってたけど、まるで宇宙人みたいだね」
猛「い、いや、僕は中学の教師をしています。見てください、この子供たちを」

猛の指示をよそに、生徒たちは野原で遊びふけっている。

猛「このまま育てば怪獣になってしまうような子供もいるんです。僕は、怪獣の生まれてくる根本を叩き潰したいんです。僕は、怪獣と戦うのと同じような気持ちで先生になったんです。新米の先生だから、まだなっていないんですけど、でも今にきっと、生徒たちから信用され、必要とされる先生になるつもりなんです!」
オオヤマ「そう。がんばってください」
猛「はい!」


職員室。

教頭「矢的先生。あなたは生徒たちから信用されず、必要とされない先生です」
猛「そ、そんなぁ!」
教頭「新学期の第1日目から勝手に学校外に連れ出して、『怪獣が出る証拠を捜せ』? それでも先生ですか!?」
猛「しかし……」
教頭「しかしもカカシもありません! そんなことをしていたら、先生失格です!」
猛「……」
教頭「十分注意して、二度とこんなことをしないように。いいですね?」
相原「あの、矢的先生? 怪獣が出そうだっていうのは、本当なんですか?」
教頭「本当であるわけがないじゃありませんか!」
相原「はぁ……」
教頭「怪獣ごっこがやりたければ、学校を辞めて、遊園地にお勤めなさい!」


UGM基地。

オオヤマ「政府関係者も科学者連中も否定的だ。しかし、今日出逢った1人の青年は、私と同じ考えだった」
タジマ「でも、キャップ?」
オオヤマ「誰かが準備しておかなければ大変なことになる。本日ただ今より、UGMは臨戦体制に入る!」
一同「……はい!」


オオヤマは 孤立無援だった しかし今
自分と同じ憂いを抱く青年を見つけた 不思議な青年だった
彼のような青年がUGMに必要だと オオヤマは痛切に感じていた


学校の帰路の猛と相原。

猛「──つまり、そういうことは怪獣出現の前触れ以外の何物でもないと思うんですよね」
相原「矢的先生」
猛「は、何ですか?」
相原「フフッ、ロマンチックなんですね」
猛「ロマンチック?」
相原「え? だって怪獣って、一種のロマンですよ」
猛「いや、ロマンじゃなくて……」
相原「アハッ、先生の趣味なんでしょ、怪獣って」
猛「いえ、そんな……」
相原「それより先生、ロックがお好き? それともやっぱり、演歌がお好きなのかしら?」
猛「え…… 相原先生、職員室で『本当に怪獣か』って聞いてくれたのは、ただ教頭先生に叱られてるのが可愛そうだったからなんですか?」
相原「あ、いえ、そんな……」
猛「やっぱり怪獣なんか出っこないと思ってるんですか?」
相原「矢的先生、私は……」
猛「失礼します!」

憤慨した猛が、相原のもとを去る。何も言えずに見送る相原。

ふと猛が見ると、UGMの制服姿のオオヤマが周辺を調査している。

猛「オオヤマさん?」
オオヤマ「よぉ」
猛「あなたは、UGMの方だったんですか!」
オオヤマ「うん。5年間力を蓄えてきた怪獣、かなりのヤツに違いない。草木の枯れた状態や石の変色から見て、放射能に似た強烈な熱線が武器だよ。それに、地面の下でさえかなりの速度で移動していることから、地上に現れた際の動きは、かなり素早いはずだ。それをどう封じるかだが…… 実戦を知らない地球防衛軍の戦闘機やUGMは、怪獣の動きについて行けるか……」
猛「オオヤマさん、あなたのお考えはまったく正しいと思います!」


後日、とある山中。山肌が崩れ、大地が大きく裂ける。

UGM基地のレーダーが、それを捉える。

エミ「キャップ、レーダーに凄い反応!」
オオヤマ「よし、出動! 城山隊員は残れ!」
一同「はい!」


桜ヶ丘中学校。

猛が無人の教室で、書類を整理している。
窓の外では、相原先生が体育の授業中。
突然、空中に巨大な影が現れる。

猛「怪獣だ!」

グランドの生徒たちも驚いているところへ、猛が叫ぶ。

猛「怪獣だぁ! 早く、講堂の方に避難しろ! 早く!」

猛が校内を駆け、生徒たちに知らせて回る。

猛「怪獣が出るんだ! 早く講堂の方に避難してくれ。早く!」

事務員のノンちゃんもいる。

猛「あ、ノンちゃん! 怪獣が出るんだ、怪獣が! 早く講堂の方に避難して!」
ノンちゃん「怪獣? 怪獣映画を講堂でやるのかしら? 素敵ぃ!」


職員室。

教頭「もう、まったく…… 漫画の読み過ぎなのよ!」
猛「本当なんです! 早く、生徒たちを一箇所に……」
教頭「黙んなさい!!」
校長「天中殺かね? その、怪獣出現という卦の出た占いは」
教頭「こ、校長先生!?」
校長「ま、当たるも八卦、当たらぬも八卦というからねぇ。ハッハッハ!」

突然、職員室が大きく揺れ始める。
驚いて窓の外を見る一堂。

稲妻のような光が閃き、虚空から怪獣クレッセントが出現する。

校長「あ〜、当たったぁ〜!?」


怪獣の迎撃のため、地球防衛軍の戦闘機の編隊が出動する。
しかし戦闘機の砲撃は通じず、クレッセントの怪力、熱線攻撃で戦闘機が撃ち落されてゆく。


地球防衛軍の戦闘機隊は 次々と撃墜されていった
UGMは その主力戦闘機スカイハイヤーとシルバーガルを投入した


スカイハイヤーとシルバーガルが砲撃を加えるが、やはりクレッセントには通じない。

ハラダ「畜生、ダメだ!」
タジマ「くそぉ、本当に出やがるなんて、もう!」

街中を駆ける猛。パニックに陥った人々が逃げ惑う。
1人の子供が転び、泣き始める。クレッセントが熱線を発射。
咄嗟に猛が子供の上に覆いかぶさり、自分を盾にする。

クレッセントの熱線が、ハラダとタジマの乗ったシルバーガルに命中する。

ハラダ「うわぁ、脱出!」
タジマ「了解!」

ハラダたちがパラシュートで脱出。シルバーガルが墜落、炎上する。

猛が先の子供を母親に預け、逃がす。

猛「気をつけて」

次第に近づいて来るクレッセント。

猛「くそぉ!」

果敢にもクレッセントを睨みつける猛。
彼の足元目掛け、熱線攻撃が炸裂する。

猛が周囲を見回し、すでに皆が避難して誰もいないことを確かめる。
懐から取り出した変身アイテム・ブライトスティックを掲げる。

猛「エイティ!!」

猛が光に包まれ、赤と銀の巨人・ウルトラマンエイティに変身する。

生徒たち「あっ、ウルトラマン!」「ウルトラマンだ!」「頑張れぇ!!」


猛は M78星雲からやって来た ウルトラマンエイティだった
しかし ウルトラマンに変身するところを見られたら 地球にいられないのだった


エイティがクレッセントに挑む。
クレッセントが怪力でエイティを投げ飛ばす。
何度もクレッセントに挑むエイティだが、さらに投げ飛ばされ、大地に叩きつけられる。
さらに熱線攻撃が直撃。エイティが苦悶の声を上げる。

生徒たち「ウルトラマン!」「頑張れ──!」

胸のカラータイマーが点滅を始め、エイティの体内のエネルギーの減少を知らせる。


ウルトラマンエイティが地球上で活躍できる時間は 約3分間だった
ウルトラマンエイティは 子供たちの声援を受けて 最後の力を振り絞った


エイティが反撃に転じる。
大ジャンプからのキック、チョップがクレッセントに炸裂。
クレッセントが熱線攻撃を放つが、エイティはそれを真っ向から受け止める。

エイティが必殺光線、サクシウム光線を発射。
光線を浴びたクレッセントが息絶えて、その巨体が轟音とともに大地に沈む。

生徒たち「わ──っ!!」「やったぁ──っ!!」

怪獣の最期を見届けたエイティが、空の彼方へと飛び去って行く。


後日、桜ヶ丘中学校の職員室。

教頭「ヤマ勘だか何だか知りませんが、怪獣の出現を予告したのは大したものです」
猛「ははっ」
教頭「でも、いざとなったら真っ先に逃げ出してしまうなんて、先生失格です! あなたはクビです! ……と、校長先生が仰ると思うわ。お呼びです!」
猛「……はい」

職員室を出ようとした猛が、相原先生と鉢合せする。

相原「矢的先生。あの…… ごめんなさい」
猛「いいえ!」


校長室。猛が入ると、校長の隣にオオヤマがいる。

猛「あ!?」
オオヤマ「校長先生に頼み込んで、放課後と日曜日、君をUGMに借りる許可をやっと貰えたところだ」
猛「はぁ?」
校長「ただしこのことは、ほかの先生にもね、生徒たちにも内緒だよ」
猛「……はい!」
オオヤマ「これからはね、UGMと学校、二箇所で一所懸命頼むよ!」
猛「はいっ!!」


こうして ウルトラマンエイティ・矢的 猛の物語が始まった


(続く)
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