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お じ ゃ る 丸

第1話 マロがおじゃる丸でおじゃる



川べりを、牛車に揺られ、の〜んびりお散歩中のおじゃる丸。

あ、おじゃる丸っていうのは…
今から約千年前の「ヘイアンチョウ」と呼ばれる妖精の世界の貴族の子供。
だいたい…二頭身くらいのおチビちゃん。
オカッパ頭の前髪から、チョロっとのぞく「マロ眉」が、
なんともかわいらしい男の子。
貴族の子供っていうのは、王子様みたいなもので、
「まったリズム」&「わがまま」だったりする。

「ふぁ〜…、たいくつよのぉ、のぉ、牛よ…」
「そうですかモォ?」
なにげに返事をする牛。
すると、おじゃる丸のエボシ(その頃の貴族の帽子のこと)を持ち上げて、
1匹の虫が顔を出した!…んだけど、この虫、ただの虫じゃない。
『電書ボタル』っていう、おじゃる丸に遣えている有能な虫。
「たいくつじゃございません!おじゃる丸さま!!」
「おじゃ…?電書ボタルの電ボ、そこにおったのか。」
「散歩が終わりましたら、お勉強ですよ!おじゃる丸さま。」
「勉強はヤでおじゃる…。」
「ヤでおじゃる〜じゃありませんよ!
このヘイアンチョウ時代の立派な貴族になるための、
大切なお勉強でございますよ!」
「…でも、ヤーでおじゃる。マロはなんかこぉ〜、
毎日をワクワクドキドキ過ごしてみたいでおじゃる。」
そう言いながら、ふと、おじゃる丸は川の向こう岸に目をやった。
川のこちら側とは違い、どんよりした雲のかかった、薄暗い森がある。
「おじゃ?あの、川の向こうの森はなんじゃ?」
「ああ、エンマの森だモォン!」
…牛は物知りだった。
「あっちは、『エンマ界』といって鬼がいますから、
私たち妖精世界の人間とは馴染まないでございますよ。」
それを聞いたおじゃる丸のまん丸オメメがキラリン☆と輝いた!
「おー!興味深いのぉ!」
「いけませんっ!」
「いけないとぉ〜、電書ボタルに言われるとぉ〜、
よけいに行きたいよその国ぃ…」
おじゃる丸が、まったり一首詠んだその時だった。
ドドドドドドドド…
なぜか冷や汗をびっしょりかき始めたおじゃる丸…。
「おじゃ……背中がゾクゾクするでおじゃる…」
地響きと共に、砂ぼこりを巻き上げながら
牛車を追いかけてきたのは…!!
「おじゃるさま〜〜〜!!!」
重たい十二単もなんのその、
猛スピードで突進してくるお姫さまが一人!
「あ!オカメ姫でございますよ。」
「オ、オカメ姫っ!!!」
まさに、名を体で表したような(し、しつれいっ)オカメ姫が近づきつつあること、
おじゃる丸の体は、それをアンテナばりに察知したというわけだ。
「お〜我が君っ!!愛のせっぷんを!!」
走りながら、画面いっぱいにくちびるをとんがらせるオカメ姫。
おじゃる丸は、青くなってぶっ飛ぶと、
「おじゃじょじょ〜っ!!牛よ!全速力で逃げてたも!!」
牛車の運転席(?)へ乗って、手綱をブルブル。
「モォ?何でだモォ〜?
オカメ姫さまは、おじゃる丸さまのおよめさまになる方じゃないかモォ。」
「マロの好みじゃないでおじゃるっ!」
「はいはい、モォ…、しっかりつかまってるモオゥっ!!」
前足で牛車の手持ち部分をつかみ、2本足で走り出す牛。
「おじゃるさま〜っ!なぜに逃げたもう…??」
オカメ姫は、つまづいてごろんごろん。
タイヤみたいにしばらく転がった後、やっと止まったオカメ姫。
「もう…おじゃるさまったらテレまくりたもうて…、
でもそんなところが…とってもキュート♪」
一方、牛がすっごいスピードなので、
手綱を持ったまま、こいのぼりみたいにフヨフヨ浮いちゃってるおじゃる丸。
目が渦巻きになってる。
「おじゃ〜っ!牛よ!もうちょっと待ってたもっ!!」
その横へ飛んできてツッコむ電ボ。
「早く逃げろとおっしゃったのは、おじゃる丸さまでございますよ。」

牛は、お屋敷の前で急ブレーキをかけて止まった。
「着いたモォ。」
…と、おじゃる丸は座席でノビている。
「気絶しておられます。」

その頃、エンマの森では…
怖い顔をしたエンマ大王が、桃色の『シャク』を片手にお裁きまっ最中。
『シャク』っていうのは…、
ほら!おひな様のお内裏様が持ってる、
バットを薄切りにして、短くしたようなヤツ、あれのこと!
「次の者!」
頭の上に輪っかのついた人(?)が一人、
エンマ大王の前に進み出た。
「スンマセン、スンマセンねぇ、
エンマ大王様、よろしくお願いします!」
「うむ…んにゃ!ハレフッとぉ〜っ!」
エンマ大王が、妙な呪文(?)を唱えながら『シャク』を振ると…?
ブブーッ!
その『シャク』に「×」の表示が!
「う〜ん、おまえは散々下界でうそをついたな。」
「あ、スンマセン、スンマセン!」
両脇を鬼に抱えられても、結構明るいその「×」をくらった人。
「お説教の部屋でお待ちください。」
「後で、エンマ大王様からたっぷりお説教があります。」
「あ、お手数お掛けしますぅ…」
最後まで、反省の色のまったく見えないその人だった。
「次の者!」
「いっへっへっへ…どうもどうも…へっへっへ…」
へらへら笑いながら出てきた次の人(?)。
…こんなんばっか。
「ん〜にゃは〜ハレフッとぉ〜っ!」
ブブーッ!
「お説教の部屋でお待ちください。」
「へへへ、どうもどうも。」
見てるだけで腹が立つような態度を最後まで崩さず、
そいつも鬼に運ばれていった。
「やれやれ…、近頃はめっきり正直者がいなくなった。」
エンマ大王は、『シャク』で自分の肩をポンポン。
「エンマ大王様、少し休まれてはどうです?
おーい!アカネ!アオベエ!キスケ!
エンマ大王様の肩をおモミしろ!」
エンマ大王の側近の鬼は、そう小鬼トリオに声をかけた。
「はーい!」
ギターを弾いていた真っ赤なアカネ。
太鼓をたたいていた青いアオベエ。
笛を吹いていた黄色いキスケ。
エンマ大王に仕えているにしては、愛くるしい3匹の小鬼。
3匹は、エンマ大王に駆け寄ってモミモミ。
「もっと強く頼む…。もっと強く。もっともっと強く。」
3匹は、エンマ大王の肩の上で必死に飛んだり跳ねたり。
でも…
「全然効かないぞ。」

んで、こちらは…
布団の中で、まだオメメグルグル状態のおじゃる丸。
「おじゃ〜……、はっ!」
おじゃる丸が目を覚ますと、そばに父上と母上が、
心配そうに座っていた。
「おお!気がついたでおじゃるや。」
「心配しましたよ、おじゃる丸。」
「父上!母上!」
「気分はどうですか?」
「あ…、もう大丈夫でおじゃる。」
すると、父上と母上はにっこり!
「それはよかった。先生たちがお待ちでおじゃるよ。
さ、勉強におじゃれ。」
あ、もしかして心配って、これっ?
それを聞いて、再びバッタリ倒れるおじゃる丸。
「うっ、まだめまいがするでおじゃる。
今日の勉強は、お休みにしてたも。」
「ほ?」
その時、にわかにふすまが開き…!
「では、姫と遊んでたもれ〜」
現れたのは、オカメ姫!
フラダンスポーズでゆ〜らゆら。
おじゃる丸は、びっくり!布団から飛び起きた!
「おじゃーっ!めまいの元でおじゃる!!
父上、母上!
やっぱりマロは、立派な貴族になるために勉強するでおじゃる!」
「ああ、よかったでおじゃるや。」
安心する父上と母上。
急いで部屋を出てゆくおじゃる丸と、
飛びついたのに、間一髪逃げられて床にどったーん!のオカメ姫。

半紙に墨汁で自分の似顔絵を描くおじゃる丸。
これが、なかなか上手!
「おじゃる様、今は習字の時間でございますから、
字の練習をなさいませ。」
どうでもいいことだが、
お習字の先生は、愛嬌のあるレンコンの切り口みたいな顔だった…。
「おお、ついマロの愛らしい絵を描いてしまったでおじゃる。
ああ、これというのも、マロのあまりの美しさのせいよのぉ…。」
「はぁ?」
「のお、赤紫式部、オカメ姫に嫌われるよい手はないかのぉ?」
すると、レンコンの…じゃなかった、赤紫式部は血相を変えて言った。
「あのようにお美しい方の、どこに不満がおありになるのでしょうか??」
「マロにはそうは思えないでおじゃる…」

今度は、お外で蹴鞠のおじゃる丸。
「毎日こんなことの繰り返しでおじゃる。
どっかに刺激はないものかのぉ。」
時折ヘディングを交えながら…
「マロの心をときめかせる、やんごとなき刺激…」
…と、そこへ、やんごとなきシゲキがっ!
ドドドドドド…
地鳴りと共に、オカメ姫が、
「おじゃるさま〜、パスパースっ!!」
トップスピードで飛び込んできて、キョー烈なヘディングシュート!
「おじゃーっっ!!」
ぼいん!
オカメ姫の「愛の一撃」をくらったおじゃる丸は、
再び目を回しダウン。
「あ〜愛しの我が君、誰がそのようなことを!!」
オカメ姫は、おじゃる丸に向かってダ〜イブっ!!
「おじゃ〜!」
飛び起きてそれをよけ、逃げ回るおじゃる丸。
それを必死に追いかけるオカメ姫。
「おじゃるさま〜!!」
「おじゃ〜っ!!牛ー!うし〜っ!!」
おじゃる丸の叫びを聞きつけ、一陣の風の如く、
牛車を引いて現れた牛!
「モーーーーッと!お呼びかモォ?」
牛車に飛び乗るおじゃる丸。
「はよ、逃げてたも!」
「がってんだモォ!」
ピューーッ!
「あ〜れ〜!おじゃるさまー!」

「おじゃー、もっとはよっ!お、お、おじゃー、もっとゆっくり!」
猛スピードで走る牛車の上で、
くらくら、ほげほげ状態のおじゃる丸。
「どっちでございますか?」
エボシから顔を出す電ボ。
川が近づいてきた。
あ、危ないっ!!
慌てて足ブレーキをかける牛。
「おーっと!いけないモォ!!」
牛車は、川べりギリギリのところで何とか止まった。
額の汗をぬぐう牛。
「ふぅ…、勢いで川を渡って、エンマ界に入っちまうとこだったモォ。」
見ると、おじゃる丸たちの目の前に、
向こう岸に渡れるように飛び石が連なっている。
その時、向こう岸から風に乗って流れてきた音楽♪
まるで、おじゃる丸を誘っているかのよう。
「おじゃー!このやんごとなきゆるやかな音色は…?」
「おじゃる丸さま!帰りましょうよ!」
おじゃる丸は、止める電ボの言葉も聞かず、
「誰が弾いてるのか見てくるでおじゃる。」
と、石を渡り始めてしまった!
「あ〜!おじゃる丸さま!!」
「危険だモォ!!」
「平気じゃ。」

エンマの森では、エンマ大王が、ウクレレみたいな楽器を弾きながら、
「♪あ〜さから晩までぇお〜説教ばかり〜しておるぞぉ〜♪」
と、エンマ大王の切ない気持ちをつづった歌?を、
切り株のような形で、その真ん中に水をたたえた石にもたれて、
弾き語り…。表情も、どこか切ない。
水に映った満月が、歌にあわせるように静かに揺れている。
その様子を、茂みに隠れて見ているおじゃる丸と電ボ。
「あれは誰じゃ?」
「エンマ大王でございますよ。」
「あ、あれは何じゃ?」
「あれって?」
「あれでおじゃる!」
「はて…??」
おじゃる丸の好奇心をくすぐっているのは、
エンマ大王のかたわらに立てかけてある『シャク』。
「桃色でおじゃるな…!愛らしいでおじゃる〜!!
興味深いのぉ…!!」
おじゃる丸のまん丸オメメが、キラリン☆!
「そうですかねぇ…、もう帰りましょうよ。」
エンマ大王は、1曲歌い終えると深くため息をつき、
「ほぉ…、ほぼ落ち着いたわい。
遅くなると妻に叱られるから帰るとするか。」
そう言って、ウクレレ?を肩に担いで歩き出した。
「お!いかん!大事な『シャク』を忘れるところじゃった!!」
エンマ大王が振り返ったとき、
『シャク』はすでに、我慢できずに飛び出してきたおじゃる丸の手に…。
「お、おまえは…何者じゃ?」
「マロは…おじゃる丸でおじゃるっ!!」
シャキーン!と、『シャク』を振りかざすおじゃる丸。
「おじゃる丸?その『シャク』はワシの物じゃ!返せっ!!」
「へ?こ、これは…マロが拾ったものでおじゃる。
マロのもので、おじゃ〜ぁるぅ!!」
またまた『シャク』で見得を切るおじゃる丸。
エンマ大王の顔から汗がダラダラ…。
「なぁにぃ?!そ、その『シャク』がないと、
エンマは仕事が出来なくなる!!返せっ!!」
「やーでおじゃる!」
「返せ〜っ!!」
「や〜〜でおじゃる!」
切り株型の石の周りを、ぐるぐる逃げるおじゃる丸。
すると、長かった『シャク』が、
突然、おじゃる丸のピッタリサイズに短く変形!
「お〜!『シャク』がマロの手にジャストフィットしたでおじゃる!
『シャク』がマロを選んだのでおじゃる!!
ほおほお!見ておじゃれ!
これはやはりマロのものでおじゃる!!」
「勝手なことをぬかすなーーーっ!!」
おじゃる丸に飛びつくエンマ大王。
しかし、おじゃる丸がジャンプしてそれをよけたものだから、
そのまま、切り株型の石にゴチーン!
あっ!おじゃる丸がっ…?
「…っとっとっとっと、おじゃーーーーっ!!」
な、な、なんとっ!
切り株型の石の真ん中に溜まっていた水にどっぼーん!
エンマ大王は、大慌て!
「小僧が『月の穴』にっ!!??待て〜っ!」
急いで自分もその穴に飛び込もうとしたのだが、
「わぁ〜!頭がつっかえよった!!」
逆さまに穴にはまったまんま、足をバタバタさせるエンマ大王。
「わーエンマ様が!」
「大変だぴー!」
「助けるでごんす!」
駆けつけたアカネ、キスケ、アオベエの小鬼トリオ!
必死に引っ張り、エンマ大王はなんとか救出したが…
おじゃる丸は??と思いながら、みんなが水に映った月を見ていると、
その月が、突然まばゆい光を放ち始めた!!
「おじゃる丸さま〜!!」
心配そうな電ボ。
すると、エンマ大王が叫んだ。
「この『月の穴』は『満月ロード』につながっておるのじゃ!
あの妖精の小僧、エンマの『シャク』を持ったまま、
どこかへワープしてしもうた!
アカネ!キスケ!アオベエ!」
「なんでごんす?」
「おじゃる丸を追えっ!!『シャク』を取り返してこい!」
「は、はいっ!」
『月の穴』に飛び込む3匹。
「た、大変なことになったでございますぅ…」
オロオロするばかりの電ボ。

おじゃる丸は、七色に輝く不思議な空間を、
転がりながらどこかに落ちてゆく。
「おじゃーっ!また目が回るでおじゃるーーーっ!!」

いったい、おじゃる丸はどこへ行くのかーっ?!


第1話 終

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