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ウルトラマンネクサスの第1話


夕焼けのように赤い空に照らされたどこかの大地。
奇妙な形の遺跡が立ち並ぶ。

丘の上に立ち、一際高い遺跡を見つめる青年、姫矢 准。

姫矢「目覚めの時は、近い……」


ウルトラマンネクサス


僕たちは生きている 平和な日々を
ごく当たり前のものとして

例えば その日常の裏に
得体の知れぬ何かが存在したとしても
多くの人は 自分とは無縁のものと思うだろう

でも 目の前にある現実が
すべて偽りだったとしたら……?


Episode 01
夜  襲
─ ナイトレイド ─


夜。

とあるガソリンスタンドに、1台のトラックが入ってきて、けたたましくクラクションを鳴らす。
スタンドから眠そうな顔で店員が現れる。

「うっせぇなぁ……わかってるっちゅうの」

運転席から、柄の悪そうな運転手の顔が覗く。

「今なんか言ったか?」
「い、いらっしゃいませ!」


ガソリンを補給しつつ、店員があくびしながらトラックの窓を拭く。
トラックを降りていた運転手が、ちらりと給油機に目をやる。

「兄ちゃん、ふざけてんか?」
「は?」
「は、じゃなくて! 一体いつまで入れてんだ、コラ! とっくに満タン超えてんだろが!」
「いや、そんなはずは……あれ!?」

見ると、給油機のメーターが際限なく回り続けている。


どこかの真っ暗な部屋。

多数の機器に囲まれた人物が、計器類に目を走らせつつ、キーボードを叩く。

「振動波、確認」


ガソリンスタンド。

店員はトラックの下を覗きこみ、懐中電灯で暗がりを照らす。

「どっか漏れてんのかなぁ……?」

車体の裏から、不気味な粘液がポタポタと滴り落ちている。

「あ? 何だ、あれ?」

地面に溜まった粘液がみるみる膨らみ、得体の知れない怪物の姿となる。

「わ? ……おわぁぁっ!? わああぁぁ──っっ!!」

運転席で雑誌をめくっていた運転手が、悲鳴を聞きつけてトラックから降りる。

「うわぁぁぁっ!!?」

慌てて逃げ出す運転手。彼を追う怪物。
触手が伸びて運転手を捕らえ、不気味な口が開く。

「おわぁ!? うわああ──っっ!」


どこかの部屋。スクリーンにガソリンスタンドでの惨状が映し出される。

『こちらナイトレイダー。ターゲット捕捉』
『こちらCIC。攻撃レベルC3、作戦スタート』


今にも怪物に飲み込まれんとする運転手。

銃撃音。何発もの火花が怪物の体表に炸裂する。
たちまち退散する怪物。

運転手が我に返ると、周囲は先ほどまでの異変が嘘のように静まり返っている。

「な、何だぁ……?」


怪物が銃撃を浴びつつ山道を駆け、トンネルの中へと逃げ込む。

『予定通りターゲットをQポイントに誘導』
『エリア内に有人反応無し。第2種警戒解除』
『了解。これより最終行動に入る」

突如として虚空より2機の戦闘機が出現、道路上に着陸。
青い戦闘服に身を固めた人間たち──特殊部隊ナイトレイダーが、そえぞれに手に火器を携えて降り立つ。

ナイトレイダー隊員たちがトンネル内に突入する。
トンネル天井にへばりついていた粘液の塊が地面に落ち、怪物が現れて奇声をあげる。

「掃討せよ!」

合図と共に一斉射撃が怪物に浴びせられる。
たちまち怪物が光と共に砕け散り、周囲に体液と肉片が飛び散る。

「ターゲット消滅」

バイザーをあげて素顔を晒す一同。仲間たちに指示を下しているのは、指揮官の和倉英輔隊長。

和倉「状況終了」

ガソリンスタンドの怪物出現を察知していた少年、吉良沢優がそれに応える。

吉良沢「確認しました。37秒後に処理班が到着します」
和倉「ビーストによる人的被害は?」
吉良沢「ご心配無く。後はM・Pが全て処理しますから」
和倉「撤収」

1台の車が到着。ものものしい防護服に身を固めた者たちが現れ、怪物の残骸を回収にかかる。

ナイトレイダー隊員の1人・石堀光彦が、腕に装着したツールで怪物の残骸を分析にかかる。

石堀「新種の『ビースト』か……ナメクジ同様、体組織の95%が水分。しかもこいつ、エタノールが大好物らしい」

隊員の1人、平木詩織がそれを覗き込む。

詩織「それって、お酒の主成分でしょ? 私、酔っ払い大っ嫌い!」
石堀「ガソリンや軽油にも含まれる。だからスタンドを襲い……」
凪「人間を食べた」

厳しく言い放つ副隊長・西条凪。彼女が怪物の残骸を狙撃すると、光と共に残骸が消滅する。

凪「化け物は化け物。どれも同じよ」

無表情のまま去っていく凪。詩織が駆け寄る。

詩織「副隊長、近く新メンバーの補充があるとかって?」
凪「らしいわね」

ふと見ると、トンネルの入口に立つ姫矢の姿。

凪「……?」

よく見ようと凪が目を凝らすと、既に姫矢の姿は消えている。

詩織「どうかしました?」
凪「……別に」


早朝、とある山中。

霧の立ち込める中を、レスキュー隊のヘリコプターが飛んでいる。
中に乗っているのは、主人公・孤門一輝と、彼の上役である分隊長。

孤門「遭難者発見。これより救助作業に入ります。天候回復は望めません。風が弱まった隙を狙って、降ります!」

山中の遭難者のもとへ、孤門がワイヤーで吊られて降りてゆく。

孤門「もう少しだ……」

辺りを強い風が吹き抜け、孤門の周囲を濃い霧が包む。
強風にあおられながらも、孤門は必死に体制を立て直そうとする。

そのとき……


孤門に脳裏に甦る、かつての忌わしい記憶。

川でおぼれている幼い日の自分。
もがき苦しみ、息ができなくなり、次第に自分の体が水中へと沈んでいく……


孤門「はぁ……はぁ……はぁ……」
分隊長「どうした孤門!? 早く体勢を立て直せ!」
孤門「はぁ……はぁ…… うわああぁぁ──っっ!!」


同僚たち「誰でも避けられないミスはある。そう落ち込むな」「そうだよ。結局、無事に全員救出できたんだろ?」

レスキュー隊の食堂での憩いのひと時。同僚たちが孤門を励ましている。

孤門「深見分隊長が……僕に代わって降りたんです……」
同僚「あ……そう」

慰めの言葉が見つからなくなり、気まずい雰囲気の一同。

孤門「僕はこの仕事が好きです。でも……向いてないのかもしれない……」

そこへもう1人の隊員がやって来る。

隊員「孤門! デスクに届いてたぞ」

彼の差し出す封筒を孤門が受け取る。

同僚たち「それって、まさか……?」「解雇通知……とか?」


リコ「でも結局、違ったんでしょ?」

動物園。スケッチブックを抱えた孤門の恋人・斎田リコが尋ねる。

孤門「身体検査の通知だった」
リコ「なぁんだ」
孤門「定期健診の結果、再検査の必要がある、とかで」
リコ「……再検査?」
孤門「僕らの仕事って、他所より健康管理が厳しいから」
リコ「ならいいけど」

リコが動物たちを描いているスケッチブックを、孤門が覗き込む。

孤門「ところでさぁ」
リコ「ん?」
孤門「ライオンも、象も、キリンも、リコが描く動物っていつも家族ばっかりだよね」
リコ「うん。大学のね、卒論のテーマだから。『家族の肖像』」
孤門「『家族の肖像』か。いつか、君の家族も紹介して欲しいな……」
リコ「え?」
孤門「あ……別に深い意味じゃなくって、ただ、一度くらい挨拶しておいた方がいいかなぁ、なんて……」

慌てて取り繕う孤門の様子に、リコがクスリと笑う。

リコ「うん、考えとく」
孤門「本当、あ、良かったぁ! あ、もうこんな時間だ……僕、これからその検査だから。じゃあ、また」
リコ「気をつけてね」

駆け去る孤門を、リコが笑顔で手を振って見送る。


とある一本道の途中で、タクシーが孤門を降ろして走り去る。
そこは建物も何も無い、ただ一本道と草原だけが続いているだけの閑散とした場所。

孤門「時間も場所も合ってる……でも、いっくら何でもこんな……?」

そこへ1台の車が到着。車中から初老の男性が孤門に視線を向ける。

男性「孤門一輝巡査ですね」
孤門「……? はい」
男性「私、松永といいます。ご一緒にどうぞ」

黒服の男たちが降りてくる。

男たち「こちらへ」「こちらへ」
孤門「こちらへって……あの!?」

強引に車内に乗せられる孤門。

孤門「ちょっとぉ!?」
松永「暫くの間、これをお願いします」
孤門「お願いしますって……あの!?」

松永が孤門にアイマスクをかぶせる。孤門の意識が遠くなる……。


松永「いいですよ。もう目を開いて結構です」

孤門がアイマスクを外される。

そこは手術室を思わせる奇妙な部屋。
孤門はベッドの上にベルトで拘束され、防護服姿の者たちがせわしなく動き回っている。
壁面の機材に映し出されるレントゲン写真や様々な分析資料。

「検査ファイル107。事前調査による数値、プラス73」「検査項目、K02からK55まで各班に」
「R7性因子、免疫判定、プラス87、マイナス0」

孤門「ちょっと? ちょっとぉ……!?」
松永「どうしました? ベルトがきついですか?」
孤門「そういうことじゃなくてぇ! あなたたち、誰なんですか!? ここは一体どこなんですか!?」
松永「ご心配なく。もうすぐ検査は終わります」
孤門「何の検査ですか!?」

防護服姿の1人が、奇妙な機械を構える。

孤門「何するんですか……?」

機械が孤門の首筋に当てられる。

孤門「う!?」

火花が飛び散るような音と共に、再び孤門の意識が消えてゆく。


孤門が車で運ばれた一本道。

松永たちの乗っていた車がやって来て、孤門を残し、走り去る。


テレビでニュースが流れている。

『今から1週間前、このガソリンスタンドで消息を絶った井畑正さんの行方は依然、不明のままです。警察では、井畑さんが何らかの事件に巻き込まれた可能性もあるとして、関係者からさらに詳しい事情を……』


南大野警察署。

孤門「失礼します」

孤門が一室に入ると、彼を待ち受けていたのは、あの松永だった。

孤門「あなたは……!」
松永「先日はどうも。署長に聞いていると思いますが、孤門巡査。あなたは、本日付である組織に異動してもらいます。これが命令書です」

差し出された命令書を受け取る孤門。異動先に「TLT」と記されている。

孤門「ティー・エル・ティー……?」
松永「ティルト。国家レベルを越え設立された、平和維持を目的とした特務機関です。あなたはそこの、実働部隊の一員として選ばれた」
孤門「選ばれたって……?」
松永「警察だけでなく、各方面から有能な人材だけを集めた、最強の組織です。やりがいはありますよ」

事態が把握できず、困惑する様子の孤門。

松永がテーブルの上に置いてあったアタッシュケースを開く。
そこには画面やボタン類を備えた小さな装置が入っており、画面上に地図が表示される。

孤門「何ですか? これ」
松永「パルスブレイガー。優れ物です。取り敢えず、新しい職場へのナビゲーションとして使ってください」
孤門「あ、あの」
松永「それから、今回の異動は極秘事項です。それを忘れずに」


リコ「レスキュー隊辞めるの?」

動物園で孤門からの電話を受けているリコ。

孤門「配属先が変わるんだ。会社の転勤みたいなもん」
リコ「そう……」
孤門「急なんだけど、今日の夕方、行かなくちゃならなくて……だから……」
リコ「デートの約束なら、今度ゆ〜っくり埋め合わせしてもらう。ね、それより新しい仕事場ってどんなとこ?」
孤門「それは……」

(松永『今回の異動は極秘事項です』)

リコ「そこも、人を救う仕事なんでしょ?」
孤門「……多分」
リコ「なら良かった。孤門君、誰かを助けるために、今の仕事選んだもんね」
孤門「あぁ……じゃ、また連絡するから」
リコ「うん。あ、孤門君」
孤門「え?」
リコ「体に気をつけてね」


とある山道。 社員旅行の団体を乗せたバスが走っている。車内は既に飲めや歌えの宴会状態。
酔っ払って上機嫌の乗客の1人が、運転手をからかう。

「おい、運転手さん、あんたも一曲どうかね?」
「いえ、私は……」

その時、バスの前に怪物が飛来。フロントガラス目掛けて粘液を吐きかける。
視界を塞がれ、咄嗟に急ブレーキをかける運転手。

「うわあぁっ!?」


付近の森の中、姫矢が何かを直感し、木々の合間を駆け抜けている。


バスから1人の乗客が逃げ出す。
ガソリンスタンドを襲ったときと同様、ビーストと呼ばれる怪物が触手を伸ばし、乗客を捕まえる。

「うわああぁぁ──っっ!?」


吉良沢「エリア3、ポイント2・4・7にビースト振動波、確認。ナイトレイダーにスクランブル要請」

ナイトレイダーの待機するコマンドルームに、警報が響く。

『第2種警戒発令。ナイトレイダー、スクランブル。ナイトレイダー、スクランブル』

一斉に動き出す隊員たち。ヘルメットを被り、火器を手にし、ビースト殲滅のために出動する。


山道で車を走らす孤門。カーナビ代わりのパルスブレイガーに目を走らせる。

孤門「どんどん寂しくなるけど、本当に行き先合ってんのかなぁ……?」

目の前、何も無い場所でバスが停まってる。
奇異に感じた孤門が、車を降りてバスに向かう。

孤門「あの……?」

孤門がバスの中に入ると、中には誰もいない。
車内は宴会の後のように散らかっており、つい先ほどまで大勢の客がいた様子である。

孤門「こんな状態で、どこ行っちゃったんだ……?」

足元にビールの缶が転がってくる。
孤門が何気なくそれを拾い上げると、中からどろりと粘液があふれる。

孤門「うわ!?」

慌てて缶を手離す孤門。

彼の背後から迫る不気味な声……


森の中。姫矢が懐から神秘の道具・エボルトラスターを取り出す。

姫矢「この俺に……何を望む?」

エボルトラスターが何かに反応を示し、心臓の脈動のように明滅する。


吉良沢のもと、画面に新たな情報が浮かび上がる。

吉良沢「エリア付近に別の振動波? 間違いない。あれが目覚めたのか?」


山道。

孤門が必死にビーストから逃げる。
ビーストの伸ばした触手が、孤門の足に絡みつく。

孤門「うわぁ!?」

触手に引っ張られる孤門が必死にガードレールにしがみつくが、触手は次第に力を増す。
怪物が奇怪な口を開き、今にも孤門を飲み込まんとしている。


再び孤門の脳裏に、かつての記憶がよぎる。

幼少時に溺れたときの、あの記憶。水中に没する自分の体。
どうすることもできず、もはや死を待つばかり。

しかしそのとき、1本の手が差し出され、幼い孤門の腕をつかむ。

『諦めるな』


幼い日に孤門が聞いたその言葉が甦った瞬間。
空の彼方から巨大な火の玉が舞い降り、ビーストに炸裂する。

衝撃で吹っ飛ばされる孤門。
何事かと、ビーストの方を振り返る。

そこにはビーストはおらず、銀と赤に彩られた巨大な物体が地面に突き刺さっている。

孤門「……!?」

呆然とそれを見上げる孤門。

彼が見たものは、身長数十mはあろうかという銀色の巨人の姿だった。
巨人が豪腕を振り下ろし、ビーストを殴りつぶしていたのだ。

常識では到底考えられない光景に、孤門はしばし言葉を失う。

巨人がゆっくりと孤門を見下ろし、2人の目と目が合う。

孤門「これ……夢だろ……?」

巨人の姿がゆらぎ、宙にかき消える。
残されたものは巨人の拳で砕かれた、クレーターのような地面の亀裂のみ。

孤門「こんなの……現実なわけがない……」


やがて、ナイトレイダーの隊員たちが駆けつけてくる。

「振動波レベル低下」「ターゲットは?」「既に消失」「とにかく、生存者の確保だ」「凪!」

クレーターのもとへ急ぐ隊員たち。凪が1人、孤門の前で立ち止まる。

凪「ここで一体何があったの?」
孤門「えっ?」
凪「何があったかって聞いてるのよ!」
孤門「それが……」

非常識な出来事の連続を説明できる言葉が見つからず、言葉を失う孤門。
ふと、凪は孤門の顔に見覚えがある様子で、腕にパルスブレイガーを操作する。
画面に孤門の顔が表示される。

凪「そう、あなたなの」
孤門「はい?」
凪「一つだけ忠告しておくけど」

いきなり銃を撃つ凪。
孤門の脇をかすめて背後に銃撃が炸裂。ビーストの残骸が、奇声をあげて消滅する。

孤門「……」
凪「次から自分の命は自分で守りなさい」

凪が立ち去る。
呆然とそれを見送る孤門。


木陰で姫矢が、その様子を見つめている……


これが僕と彼女の そしてあの銀色の巨人との
初めての出会いだった

でも僕は これから待ち受ける驚くべき現実について
まだ何一つ知らずにいた


To be continued

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