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 犬夜叉 @

― 第1話 封印された少年 ―


戦国の世…
燃える村、逃げ惑う人々。
その上を、美しい玉の付いた首飾りを手に、軽々と宙を舞う白い長髪の男。
その白い髪の間から、頭の上の方にとがった耳がのぞいている。
この男こそ、犬夜叉…。
「ははははははっ。ざまあみやがれ。
もらっていくぜ、四魂の玉。
これさえあれば、おれは本物の妖怪に…」
「犬夜叉!!」 その声と同時に…
ドス!犬夜叉の左胸に、突き刺さる一本の矢。
「き…桔梗…」
弓を引いたのは、桔梗という巫女だった。

てめえ…よくも…

矢は、犬夜叉の体を突き抜け、後ろの大木に到達、
犬夜叉を、大木にはり付けにした。
桔梗は、足元に落ちた首飾りを拾いあげ、
「四魂の玉…こんな物のために…」
それを握りしめて、ひざまづいてしまった。
「桔梗さま…」 「ひでえ傷だ…」
心配してやってきた村人達…
「おねえさま、早く手当てを…」
右目に傷を負った妹の楓が、桔梗の体を支える。
「私はもう助からない。だからよいか、楓…
これを、私の亡骸とともに燃やせ。
二度と再び…悪しき者どもの手に渡らぬように。」

四魂の玉は 私があの世に
持ってゆく。

四魂の玉の首飾りを抱いて、荼毘に付される桔梗。
大木に、矢ではり付けのまま、目を閉じている犬夜叉。


1996年 東京―
「四魂の玉あ?」
「ふむ。これさえあれば、家内安全、商売繁盛。」
神主のじいちゃんは、ビー玉のような物の付いたキーホルダーを、
中学生の孫娘、かごめに渡した。
ペットの猫ブヨを抱いて、しげしげとそのキーホルダーをみつめるかごめ。
「これ、売ろうっての?じいちゃん。このビー玉を。」
「聞きなさい、かごめ。そもそも四魂の玉の由来は…」
「それよりじいちゃん。明日なんの日か覚えてる?」
「ふっ。かわいい孫の誕生日、忘れるわけがなかろう。」
リボンのかかった箱を、かごめに渡すじいちゃん。
「わあっ、プレゼント!?」
「一日早いけどな、ハッピーバースデーかごめ。」
しかし、かごめの喜びもつかの間…
中から出てきたのは、干からびた何かの手…?
「幸福を呼ぶ河童の手のミイラだ。そもそもの由来は…」
「お食べ、ブヨ。」 ブヨに食べさせようとするかごめ。
「あっこら、もったいないっ!」 焦るじいちゃん。

〜 私の家はとっても古い神社で、じいちゃんとママと弟の四人暮らし。
樹齢五百年の御神木だの、いわくありげな隠し井戸だの、
いちいち由来があるらしいけど―
じいちゃんから何度聞かされても、忘れてしまう。
どうして忘れるのかってことすら考えたこともなかった。
十五歳になった今日までは 〜

隠し井戸の祠の前に、弟の草太がいる。
そこへやってきたかごめ。
「あれ?草太。」 「ねーちゃん。」
「祠で遊んじゃダメでしょー。」 「だってブヨが。」
「隠し井戸の中に?」
ブヨを探しに、祠の中へ入る二人。
中には、五段程の階段があり、その下にふたの付いた四角い木の井戸がある。
「ブヨ〜。」 井戸の方を覗き込む草太。
「下にいると思うんだけど…」 「降りれば?」
「だってここ…なんか気持ち悪いじゃん。」
「なーに怖がってんの、男のくせに。」
すると、井戸の中から、カリカリカリ…音が!
さっとかごめの後ろに隠れる草太。「なっなんかいるううっ。」
「だから、ネコでしょ。」
カリカリカリ…
階段を降りて、井戸に近づくかごめ。「ったく…ん?」
カリカリカリ…
(音…井戸の中から…?まさかね…)
その時、かごめの足にブヨがスリスリ…「きゃっ。」
「あ〜びっくりした。大きい声出すなよ。」 と、上から見ている草太。
「あんたねー。」 かごめが、井戸に背を向け、草太を見た時…
「ねっ…ねえちゃ…」 井戸の異変に気づいた草太!
と、井戸のふたを突き破り、六本の腕を持つ女が!!!
かごめは、不意に後ろから首や腕をつかまれ、井戸に引き込まれてしまった。
(なに!?なにこれ…)
見ると、その女は、下半身が蛇のように長く、しかも骨だけだ。
「嬉しや…力がみなぎってくる…」
下に落ちていくにつれ、その骨だけの下半身に、大ムカデのような肉体が
再生され始めた。
「わらわの体が戻ってゆく。おまえ…持っているな。」
長い舌で、かごめの頬をなめる女。
「はっはなしてっ。気持ち悪いっ。」
かごめが、女の顔を突き飛ばすと、ズボッと一本の女の手がちぎれ、
大ムカデのようなその女は、井戸の底深く落ちていった。
かごめの腕をつかんだまま残る、ちぎれた女の一本の腕。
「逃しはせぬ…四…魂の…玉…」
(四…魂…?)
少しして、井戸の底に着くかごめ。
しかし、あんなに下に引き込まれたはずが、見上げると、すぐそこに井戸の上穴が見える。
(井戸の…中…?なんだったの今の…夢…?)
かごめの傍らに落ちている、あの女の腕…(…じゃない)
「四魂の玉…?ってなんだっけ…?」
さっきの女の言葉を思い出すかごめ。
上穴を見上げる… 「出なきゃ…草太いるんでしょっ!じいちゃん呼んできて!」
しかし返事がないので、かごめはツタにつかまり、井戸の壁面を登り始めた。
「ったく、逃げたな、あいつ。」
「よっと。」 ようやく井戸の外に出たかごめ…しかし?
「え…?」 そこは、見たことのない景色だった。
「外…?」(あたし…祠の井戸に落ちたはず…)
「じいちゃん。ママ…」(神社がなくなってる…?)
少し歩くと、大木が見えた。
「あっ…御神木…」(よかった…ここは神社の近く…)
ほっとして、御神木に駆け寄るかごめ。
が…その御神木には、左胸を矢で射抜かれた白い長髪の男が、
幹にはり付けにされ…眠っている。
(!!男の子…?)
「あの…なにしてるの…?あの〜」
そっと近づくかごめ…と、男のとがった動物のような耳に気づいた。
「これ…人間の耳じゃない…」
(さわってみたい!) くいくいくい…男の耳を触ってみるかごめ。
(…こんなことしてる場合じゃないのに…)
その時!
「そこで、なにをしている。」
ヒュンヒュン!!かごめに向かって、矢が飛んできた!
「ここは禁域じゃぞ。」 「他国の者か!?」


「犬夜叉の森にいたと…?」 「奇妙な着物を着た小娘じゃ。」
集まってくる村人達。
かごめが、両手両足を縛られている。「ちょっと、縛ることないでしょーっ。」
「間者じゃねえかな。」 「また戦かのう。」
「キツネが化けたんじゃないかねぇ。」
村人達は、全員着物姿…
(なんなのここは。まるで戦国時代みたいな…)
「道を開けろ。」 「巫女の楓さまがいらしたぞ。」
村人達の間から現れたのは、弓を持った年老いた巫女だった。
右目に、眼帯をしている。
「おぬし何者だ。なぜ犬夜叉の森にいた。」
(ま〜たへんなのが出てきた) ますます困惑するかごめ。
「…ん?顔をよくお見せ。…もっと賢そうな顔をしてごらん。
似ている…桔梗お姉さまに…」
巫女は、かごめの顔をじっと見て、そう言った。
「はあ?」

巫女 楓の家
「わしの姉は桔梗…といってな、村を守る巫女だった。

〜『よいか楓、これを私の亡骸とともに燃やせ』〜

もう、五十年も昔…
わしが、子供の頃に死んでしまったがね。」
楓は、囲炉裏端の鍋から粥をすくって椀に盛り、
かごめの前に置いた。
「どうした、食べんのか?」
「あのっ、ほどいてください。」
後ろ手に縛らせた腕を、ぶんぶん振るかごめ。
「あ。」
「あの、ここ東京じゃないんでしょうか。」
「…聞いたことがないが…それがおぬしの生国か。」
「えーまあ…そろそろ帰りたいかなって…」
(あれ…どうやって帰ればいいんだろ…)
その時、
ワー、バキバキバキ… 外から騒ぐ声とすごい音が!
「なにごとだ!!」
急いで外に出ようとする楓とかごめ。
ドシャッ!突然、かごめの目の前に、脇腹を鋭くえぐられた馬が倒れてきた。
「きゃっ!」 そして、外の様子にもっと驚くかごめ。
「もっ、物の怪じゃああっ。」
慌てふためく村人に襲い掛かっていたのは、馬の脇腹だろうか、
それを口に咥えた、井戸の中にいた、あの半身大ムカデの女だった。
ギロ!かごめに気づく女。
(あ…あいつ!!)
女は、かごめの方へ空中でくるりと向きを変えると、
「四魂の玉をよこせえええ。」
ザザザザザ…かごめに向かってきた!
「し…四魂の玉だと。おぬし…持っているのか!?」 驚く楓。
「わ、わかんないけど…(あいつ…あたしを狙ってるんだ)
村の外に連れ出さなきゃみんなが…」
「槍も弓も効かねえっ。」 傷だらけの村人が叫ぶ。
「これは枯れ井戸に追い落とすしかない。」 楓が言った。
「枯れ井戸!?」
「犬夜叉の森にある…」
「(あたしの出て来た井戸…)森はどっち!?」 「東の…」
かごめの目に、東の森の空がぼんやり光っているのが見えた。
「あの光ってるとこね、わかった。」
そう言うと、かごめは、大ムカデ女の方を振り返りながら、
東の森に向かって駆け出した。
ザザザザ…「お待ちいいい。」 追いかけてくる大ムカデ女。
(あの娘、今なんと…常人には見えぬはずの森の瘴気が…
あの娘に見えるというのか) 何かを感じる楓。

犬夜叉の森
大木にはり付けだった犬夜叉のとがった耳がピリリ…
ドクン!
ゆっくりを目を開ける犬夜叉。
「匂うぜ…おれを殺した女の匂い…近づいてくる…」
その表情は、まさに夜叉そのものだった。

「助かるんでしょーね、あたし…」
必死に森を目指して走るかごめ。


― 第1話 おわり ―

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