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エコエコアザラクの第1回


エコエコアザラク……

エコエコザメラク……

エコエコケルノノス……

エコエコアラディーア……


E K O E K O A Z A R A K


EPISODE I

黒魔術の少女

THE WITCH


私立聖が丘高校。

夜。無人の校舎内を、1人の男子生徒が恐怖の形相を浮かべ、何者かから逃げ惑う。
突然、転倒する生徒。床から腕が突き出し、彼の足をつかんでいる。
何とか振りほどくものの、彼の目の前に不気味な人影が現れる……


翌朝の登校風景。
学校へ続く石段を登る、ブレザー姿の生徒たち。

ふと生徒の1人・棟丘丈人が後ろを振り向く。
ブレザー姿の生徒たちの中、1人だけセーラー服をまとった女生徒、黒井ミサ。
長い黒髪。首に下げたニード(護符のペンダント)。手には女生徒に不似合いな、古ぼけた大きな革鞄。

そんな姿に目を奪われている丈人に、元彼女の待井博美が追いついて声を掛ける。

博美「丈人〜何、見とれてんの?」
丈人「なんだ、博美か」
博美「黒井さんを密かに想ってるとか?」
丈人「バーカ。ねぇ、黒井って、いつからうちのクラスにいるんだっけ?」
博美「えっ? えっと……夏休みの後でしょ?」
丈人「そうだっけ……?」


校庭。片隅がロープで仕切られ、警官や教師たちが物々しい雰囲気を漂わせている。
丈人と博美に、級友の柳郁男が声をかける。

郁男「あっれぇ? 復活したのぉ?」
博美「よしてよぉ。もぅ、こんな奴なんかと付き合わないよーだ! ねぇ、それより、あれ何?」
郁男「あ? あぁ、昨日の夜中、3年生が飛び降りたんだ」
博美「またぁ? これで3人目じゃない」

ミサがロープをくぐって自殺現場に入り込み、地面をまさぐっている。
慌てて警官がミサを制止する。

丈人「何してんだろう、あいつ……?」


丈人たちのクラスでのホームルーム。
担任の富沢尚美先生が、自殺の件について生徒たちに注意を促している。

富沢「自殺って伝染するって、よく言います。もともと自殺願望を持っていた子に、同年輩の自殺の報せって、背中を押すような効果があるみたいなのね。このクラスにはいじめとかはないって信じてるけど、自殺は何の解決にもならないってこと、みんなにわかっててもらいたいの」

生徒たちが静まり返り、話に聞き入っている。

富沢「もし、みんなの中で不安になってる人がいたら、恥ずかしがらずに友達に相談して欲しいし……」

丈人が振り返り、ミサの席を見やる。
生徒たちが聞き入る中、ミサはノートにさかんに何かを書いている。
アルファベットの文字が正方形の形に羅列されている……

丈人「あれって……どっかで?」

富沢「私でよければ力になるから、いつでも来てください」

ミサの様子に見入る丈人を、郁男がからかう。

郁男「なんで黒井ってセーラー服着てるんだろね?」
丈人「……さぁ?」


休憩時間、廊下の壁で何かを探す丈人。

郁男「丈人、何探してんの?」
丈人「……あった」

ミサが書いていたものと同じ、アルファベットの羅列が壁の片隅に書かれている。

S A T O R
A R E P O
T E N E T
O P E R A
R O T A S

博美「何やってんの?」
郁男「丈人がさ、何か探してんだ」
丈人「ここだけじゃないな……」

学校の屋内運動場にやって来た3人。
丈人が舞台の縁に、同じアルファベットの羅列が書かれているのを見つける。

丈人「どっかで見たことあるって思ってたんだ……やっぱり……」

他にも舞台の縁の数ヶ所に、同じアルファベットの羅列が書かれている。

丈人「ここにも……」
郁男「何て読むんだ、これ……サトル?」
博美「おまじない、かなぁ?」
丈人「ひょっとしたら……!」

運動場を駆け去る丈人。

郁男「おい?」
博美「丈人ぉ?」

自殺現場へ走る丈人。ロープをくぐり、地面をさぐる。

郁男「おい、やばいよ! 見つかったらどうすんだよ?」
丈人「あ、やっぱりだ」

地面の石畳に、同じアルファベットの羅列が刻まれている。


放課後の教室。

帰り支度をしてるミサ。机の上には、あの大きな鞄。
丈人が近付き、1枚の紙切れを差し出す。あのアルファベットの羅列が書き写されている。

丈人「これ、何だか知ってるか?」
ミサ「サトールの方陣」

隠し事をする風でもなく、あっさりと当たり前のように答えるミサ。

丈人「サトール……? こいつが学校中に落書きされてるんだ。黒井が書いてるのか?」

一瞬手が止まるミサ。
妖しげな視線で丈人を見上げたかと思うと、席を立ち、窓の外を見つめる。

ミサ「落書きなんて、学校だったら何処にでもあるもんでしょ? どこだって、いつだってそうだったな……」

鞄を手にし、背を向けるミサ。

丈人「やけに大きな鞄だな。毎日重くないの?」

ミサは目を伏せ、答えずに立ち去ってしまう。


夜。

無人の校舎内で、一人の女生徒・加茂美奈子が異様な気配を感じ、恐怖に怯える。

美奈子「何……何なの!? やだ、もう! こんなことになるなんて思ってなかったもん!! 嫌だぁっ!!」

校舎内を逃げ惑う美奈子。だがその目の前に突然、何者かの顔が現れる……

美奈子「きゃああぁぁ──っっ!! 私じゃない! 私じゃない!!」

腰を抜かした美奈子が、目に見えない力で引っ張られているかのように、床を引きずられる。
壁に張り付けにされ、服がひとりでに裂ける。
そして、目の前に現れる血まみれの顔……

「きゃああぁぁ──っっ!!」


夜の無人の教室。
席に座っている美奈子。

全身から血を滴らせ、既に息絶えている……


翌朝の学校。

丈人たちのクラス、黒板には「緊急職員会議の為、自習」の文字。
生徒たちが自習そっちのけで雑談を楽しむ中、博美は頬杖をついて思いつめている。

丈人「どうした?」
博美「昨日死んだの、バスケの先輩だったの……」
丈人「先輩? ……死んだのはみんな3年生か」
博美「絶対自殺なんてする人じゃなかった……」

丈人がミサの方を見やる。生徒が賑やかに話す中、ミサは1人、窓の外を見つめている。

博美「この学校、呪われてるんだよ……」
丈人「呪われてるって、お前……?」
博美「だってこれで4人だよぉ!?」

思わず声を荒げて立ち上がる博美に、教室の生徒たちの視線が集まる。
博美をなだめるように郁男が歩み寄る。

郁男「何だよぉ?」
博美「絶対おかしいよ……」
丈人「……死んだ先輩たち、何かの関係があんのか?」
博美「さぁ……みんなクラブとか、別々だと思うけど」
丈人「話聞けそうな先輩とか、いない?」


丈人と博美が、美奈子の友人である先輩の女生徒に会う。

先輩「美奈子と他の自殺した子たち? はぁ……どうかなぁ。関係って……」
博美「美奈子先輩って、バスケ部ですよね。あの、他の人たちって……」
先輩「部活じゃないなぁ……だめね、全然共通点が思いつかない」
丈人「そうですか……」
博美「……あ、ありがとうございました」

先輩が去る。

丈人「自殺しなきゃいけない理由がない、共通点がない……呪いなんて、そんなもんじゃ……?」
博美「……何か……久しぶりだね」
丈人「え?」
博美「こうして……2人になるの」
丈人「昔のことだろ」
博美「……」
丈人「昔のこと……?」
博美「どうしたの?」
丈人「この学校に入学する前のことかもしれない」


職員室。
丈人と博美が富沢先生に頼み込み、生徒たちの書類を見せてもらっている。

富沢「あんまり大っぴらに見ないでよ、生徒が見ていいものじゃないんだから」
博美「きっと『熱心な生徒たちだな』って思ってるって」

自殺した美奈子先輩のページ、出身校の欄に「堀川第二中学校」。
そして、他の自殺した生徒たちも同じ中学の出身である。

丈人「やっぱりだ」
博美「他の人も?」
丈人「中学のとき、何があったんだろう……?」
富沢「5人、みんな同じ学校なの」
丈人「5人? 4人じゃないんですか?」
富沢「え? あ! いやぁ……」
博美「教えて下さいよぉ」

隠し事をしていると直感した博美が問い詰め、富沢も観念する。

富沢「……夏休みに、先に1人自殺してるの……頼むから、クラスでは言わないでよね」
丈人「最初に……死んでいる人がいた……?」

富沢がページをめくり始める。

富沢「あれぇ……おかしいなぁ……? ない……」
博美「何て言う人だったんですか?」
富沢「高山。高山肇って言ったはずだけど、記録が破れてる……」

富沢が指し示すページは、確かに半分近く破り去られている。 そして破れ目には、明らかに「サトールの方陣」の一部の文字の羅列が。

丈人「あと、この中学から進学してきた3年生は?」
富沢「あと……F組の、田中くんだけかな。でもあの子ずっと休んでるの」


放課後の教室。
ミサの鞄が床に転げ、中身がこぼれる。
こぼれた物を拾ってやる丈人。その中に、1本の短剣が……?

丈人「何だよ、これ?」
ミサ「ロータスの剣」

隠していた物を見られて困った風でもなく、ミサはまた当然のように答える。

丈人「何に使うの?」
ミサ「生け贄の血を捧げる儀式」
丈人「冗談……だよな?」
ミサ「うん、ありがとう」

ミサが丈人の手から短剣を受け取ると、鞄におさめ、教室を去る。
丈人が抱くミサへの疑惑は募る一方。

博美「ねぇ、丈人」
丈人「ん?」
博美「この前言ってたよね。黒井さんがいつこの学校に転校して来たかって」
丈人「あぁ」
博美「あれから私ずっと考えてたんだけど、あの人が来た時の記憶、私も曖昧なんだよね……」
丈人「俺もなんだ……いつの間にか、自然にこのクラスにいた気がする」
博美「まさか、あの人が……?」


下校する丈人、博美、郁男の3人。

郁男「そこまでやるか普通!? 警察とか学校が調べることじゃんよぉ!」
丈人「俺たちの学校で変なことが起こってんだ、知らんぷりできねぇよ」
郁男「けどさぁ……」
博美「嫌なら帰っていいよ〜」
郁男「あ、冷てぇなぁ。俺は博美と丈人だけじゃ気まずいかな、と思って付き合ってやってんのによ、そういうこと言う!?」


堀川第二中出身の最後の生徒、田中の自宅。

丈人「ごめんくださぁい! 僕ら、聖ヶ丘高校の生徒なんですけど」

扉の戸がかすかに開き、無表情な顔が覗く。


田中の自室に、3人が招かれる。
カーテンが締め切られて真っ暗。おまけに部屋は散らかし放題。

田中「そこらの物どけりゃ座れんだろ」
丈人「最初に死んだ、高山さんのことを聞きたいんですけど……」

田中は答えず、無表情のまま、傍らにあった梱包材のプチプチをつぶし始める。

博美「あの……?」
丈人「何があったんですか? 田中先輩は、高山さんとか他の人と同じ中学を出てますよね?」
田中「高山は……死んでないよ……」
丈人「え?」
田中「あいつは……確かに屋上から飛び降りた……でも死んでないんだ……今でもあの学校にいるんだよ……だから俺は行かないんだ……!」
博美「亡霊……?」
田中「畜生……何でこんなことに……!」
郁男「あのぉ、高山さんて人は、何で自殺したんですか?」
田中「いじめられた……同級生たちに……」
丈人「でもわかんない。何で3年にもなって……?」
田中「そうだよ……俺たちは忘れてたよ。あんな奴のこと……でもあいつは忘れてなかった。復讐する方法をずっとずっと考えてた……」
丈人「方法?」
田中「黒魔術……らしい……あいつは、そんなことばっかり興味があったんだ……教室でもよく、召喚儀式ごっことかやってたしなぁ……」
丈人「黒魔術……!」

丈人が「サトールの方陣」を書き写した紙を差し出す。

丈人「これ、サトールの方陣というらしいんですけど、見たことありますか?」
田中「さぁ……高山だったら、そんなやついくらでも知ってただろうけどな……」
丈人「これは……やっぱり黒井か?」


学校の自殺現場に戻った丈人たち3人。

郁男「やっぱ帰ろうよ。何かここ……嫌だよ、俺」
丈人「呪いだの魔術だの、俺は信じたくないんだ。でも……」

地面に刻まれたサトールの方陣を、丈人が足で踏み潰す。

博美「これが……呪い?」


放課後の無人の校舎内。
丈人たちが手分けし、あちこちの「サトールの方陣」を拭き消す。
最後に3人で協力し、屋内運動場の舞台の方陣を消し終わる。

丈人「これで全部か……」
博美「これで……終わるの?」
丈人「だといいけど」
博美「あ……私、ちょっと」

丈人たちに背を向ける博美。

丈人「どこ行くの?」
博美「ト・イ・レ」


女子トイレ。
博美が個室のドアを開けると、そこの壁にもサトールの方陣が。
思わず息を飲む博美だが、気を取り直し、掃除用具室からバケツと雑巾を持ち出し、方陣を拭き消す。

博美「ふぅ……これで、全部消えた」

個室を出、ふと、妙な気配を感じる博美。
後ろを振り向くと、隣の個室の上から、血まみれの何者かの顔がこちらを向いている。

博美「きゃああぁぁ──っっ!!」


腰を抜かした博美が、這うようにして運動場へ戻ってくる。

博美「で、で、出たあぁっ!! はぁ、はぁ、はぁ……!」
丈人「何があったんだよ……?」

郁男がふと気配を感じ、舞台を振り返る。
怪物のような人影が、3人目掛けて襲い掛かる……

郁男「わぁ──っ!!」

次の瞬間、舞台から人影が消える。
無人となった舞台を呆然と見つめる3人。
が、今度は3人の背後にその怪物が現れる。

3人「わぁ──っ!!」「きゃあぁ──っ!!」
丈人「も、もう呪いは全部消したはずだぞ! あんたはもうこの世にはいないんだ! 人を道連れにすんのはやめろ!!」

怪物が唸り声を上げつつ、丈人たちに襲い掛かる。
絶体絶命のその時──

舞台の方向から短剣が飛来、怪物の足元に突き刺さる。ミサの持っていた「ロータスの剣」だ。
丈人たちが声のする舞台を振り返ると、何者かの人影。

何者か「エコエコアザラク……エコエコザメラク……

顔が露になる──黒井ミサである。

ミサ「エコエコケルノノス……

丈人「黒井!? お前がやったのかよ!? 亡霊を呼び出したのは!」
ミサ「亡霊?」
丈人「サトールの方陣で呼び出したんだろ!? 全部消したのに……」
ミサ「ひどい間違いだわ。こいつは亡霊なんかじゃない」
博美「え……? いじめられて死んだ人じゃないの?」

舞台から飛び降りたミサが、丈人たちを守るように怪物に立ち塞がる。

ミサ「半端な知識で魔術を行使して、呼び出してしまった下級の悪魔。お前の名を呼ぼう……“リーツ”!!」

怪物の姿が歪み、黒い影のようになる。

ミサ「名を呼ばれた悪魔は従わねばならない。しかしお前は従う気がなさそうね……そんなにこの学校が気に入った? 地獄へ帰りなさい!! 自分を召喚した人間がすでに死んでいるのに関わらず、現れ出た狡猾なる悪魔よ! 形を持たない影だけの存在!!」

黒い影が再び怪物の姿となり、2本の腕でミサの首を締め上げる。

博美「黒井さんは……私たちを、助けようとしてくれた……?」

咄嗟に博美が、床に刺さったままの短剣を抜く。

博美「黒井さん、これ!!」
ミサ「それだけでは……駄目! サトールの方陣がなくては……追難の……し、式が……!」
郁男「そんなぁ……俺たちが全部消しちまったよぉ……」
丈人「……待て!」

ポケットから何かを探る丈人。
取り出した物は、前にミサに見せた、サトールの方陣を書き写した紙切れ。

丈人「黒井!!」
ミサ「そ……それを……床に置いて!!」

丈人が方陣の記された紙を床に置く。

ミサ「ザーザース・ザーザース・ナーサタナーダ……! ザーザース・ザーザース……ナーサタナーダ!!

床に置かれたサトールの方陣が、ミサの呪文に呼応して大きく光り出す。
化物の手が緩み、苦痛の声が響く。

丈人「黒井!!」

丈人の投げ放った短剣が、ミサの手に。

ミサ「地獄へお帰り!!」
怪物「ギャアアァァ──ッッ!!」

ミサの投げた短剣が、怪物の目に炸裂。
断末魔の叫びの共に、跡形もなく怪物が消滅する。


先ほどまでの惨事が嘘のように静まり返った運動場。
後に残されたのは、床にぶちまけられた不気味な色の体液のみ……


丈人「終わったのか……?」
博美「何なの……?」
郁男「黒井! 君は何なんだ!?」

ミサが3人を振り返り、何事もなかったかのように微笑む。

ミサ「魔女なんかじゃないからね」


踵を返すミサ。

博美「黒井さん……ありがとう」
郁男「もうこの学校……いなくなっちゃうの?」

ミサ「私は……この学校の生徒のひとりよ」


ミサが3人に背を向け、どこかへと立ち去ってゆく……


エコエコアザラク……

エコエコザメラク……

エコエコケルノノス……


(続く)
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